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ルドン展(夢の王子) [☆彡Paris  展覧会]

 オディロン・ルドンの回顧展をパリのグランパレで見た。
前記事の「17世紀風景画展」より、こちらの方がずっと賑わっていた。
「夢の王子」という副題は、ルドンの作品が、漂いつつ、瞑想に耽りつつで、
すべては彼の夢で包まれていたから。

LaCelluied'or.JPGThe Golden Cell(1902)

 ルドンは、1840年ボルドー生まれ。印象派の画家たちとほぼ同世代。
17歳の時、植物学者Clavaudから、目に見えない超自然的なものの存在を
教えられ、ボードレール、ダーウィン、アラン・ポー、ヒンズー教の詩などに
憧れた。ドラクロワのロマン主義的絵画も好みだった。
パリに出て建築を学び、22歳でボーザール(美術学校)を受験するが不合格。
絵に転向しようと、ジェロームの教室に通うが、肌に合わず、すぐに辞める。

ボルドーへ帰ったルドンは、リトグラフを習い、デューラーやレンブラントの
素晴らしさに目覚めた。普仏戦争への従軍もあったため、デビューは遅く、
39歳(1879年)の時に、リトグラフ「夢のなかで」を発表した。
夢のような無意識の世界にのめりこんでいた彼は、「黒」の世界に浸っていた。
「黒は、最も想像力をかきたてられる色」と、彼は述べている。

 2007年夏に、東京Bunkamuraのミュージアムで、「ルドンの黒」という
展覧会があった。よく見ればかわいいけれど、ぱっと見、グロテスクな蜘蛛。
この展覧会に行ったものの、感想記事を書く気にはならなかった。 

Redonsnoir.jpg   

左:ルドン25歳の作品「木の3つの幹」 
右:エドガー・アランポーの作品を意識したアルバム「ポー」の原画、
「無限へと向かう不思議な気球のような眼」(1882)

TroisTroncs d'Arbres.JPG L'oeil comme un ballon.JPG

この時代は、ポーのゴシック文学、ボードレールの「悪の華」、マラルメ「牧神の午後」
のように神秘的なものや象徴的なものに重きがある世紀末文学がはやっていたので、
ルドンは文学者たちから熱烈に支持され、挿絵を描いたりもした。

殉教者(1877)
この絵には、グロテスクさより深い精神性が感じられると思った。

Martyr.JPG

  1890年、50歳のとき、色と結婚したかのように、色彩の世界にのめりこむ。
上の「殉教者」に通じるものがある「眼を閉じて」(1904)は、フランス国家買い上げ
作品となった。
ApreslLeReve.JPG


左:「ゴーギャンへのオマージュ」(1903年)
右:「長い首の花瓶の野の花」(1912年)
豊かな色彩の花。ボルドー郊外の自然の中で育ったルドンは、植物が好きだった。

Hommage a Gauguin.JPG  RedonFleurRouge.jpg

30~40cmと比較的小さい作品が多いルドンだが、後年は、神話を主題とした
大きな作品が多い。
「アポロンの戦車」(1910年) 89×70cm

Le Char D'Apollon.JPG 

「ステンドグラス」(1907年)
左下にキリストの屍を抱くマリアが見える。

LeVitrail.JPG

「ブッダ」(1905年)
この作品の横には、キリストの絵が並べてあったので、西洋対東洋の対比。
関心を持って、じっと眺めている人が多かった。

LeBouddha.JPG

 最後は、ルドンが室内装飾をした部屋。黄色を基調としたステンドグラスのようなパネル。
日本の美術館から借りてきたルドンの屏風も置かれていた。当時がジャポニズムの時代
であったことがわかる。
部屋の様子は、このサイトの動画で見れます。

時代の変遷と共に、ルドンの絵が移り変わっていった様子が、見て取れ、とても面白かった。
(6月20日まで開催)


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Bonheur

ルドンは、花瓶に入ったお花のイメージが強くありました。(最近見たのは、おそらくポーラ美術館にある作品)。宗教的な精神世界の作品が多いのですね。
by Bonheur (2011-05-15 20:37) 

katsura

殉教者は、サロメにでてくるヨハネのことなのでしょううが、ワイルドの戯曲の挿絵のビアズリーとまったく違っているのが興味深いですね。
静謐さが印象的です。
by katsura (2011-05-15 21:10) 

aranjues

ボルドーに生まれてもワインに溺れなくて芸術に自分の才能を
見いだしただけでもすばらしいですね(笑)。
ポスターの蜘蛛、かわいいじゃないですか。
時代と共に変わっていくルドン、動画を見てるかのようです。
この記事もカルチャーセンターで十分通用しますよ(^.^)。
by aranjues (2011-05-15 22:32) 

hatsu

動画でお部屋のようすをみてきました^^
ルドンの色彩の世界、とても深いですね。
色と結婚、その通りですね~。
『眼を閉じて』と『ステンドグラス』、心にじんわりきました。
by hatsu (2011-05-16 06:00) 

ララアント

宗教がかったものは難しくて分りません^^;
でも"長い首の花瓶の野の花"は色彩がきれいで 単純に
「いいなあ~!」と感じました。
今日 横浜美術館で「生誕120年 銅版画家 長谷川潔」展へ
出かけてきました。
小さな作品が多いのですが200点はあり 3時間ばかり 芸術に
触れてきました^^
その作品は 全部 横浜美術館が所蔵しているようでした。
(学芸員の方に聞いてみました)
戦争の折はフランスで収監されながらも 生涯をフランスで暮らしたようでした。。
by ララアント (2011-05-16 21:59) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます
▲Bonheurさん、花瓶にはいったお花の絵、5枚くらいあって、どれもとても色がきれいでした。特に白い背景のパステルが可憐ですてき、と思ったら、「三菱一号館」所蔵でした。ポーラにもあるんですね。
ルドン作品は、その精神性から、文学者に支持されたという特長があるんです。それまでのロマン主義文学を打ち破ろうとする変革の時代だったからでしょうね。私は、
大学2年頃、とってもルドンが好きだったの。絵の中に潜む何か、目に見えないもの、それが真理?とか神秘的なものを感じて、興味があった。でも1年くらいで終。
考えることに飽きたし、見える世界の方が楽しーーい、って、書を捨て街に。

▲katsuraさん、大皿にのってるから、ヨカナーン(ヨハネ)なんでしょうね。
ビアズリーの挿絵は、私もサロメ記事で載せているけれど、(2008.2.7)
アール・ヌーヴォーだから、装飾的。こちらは、目を閉じて、眠っているかのような
穏やかさ。静謐という言葉がぴったりですね。

▲aranjuesさん、<ボルドーに生まれてもワインに溺れなくて、、>→ ワイン入門のaranjuesさんなので、目の付け所が違いますねー(笑)
<ポスターの蜘蛛、かわいいじゃないですか> → この展覧会は夏休みの開催
で、小学生の男の子に、うけていたみたいでした。男の(子)向けなんですね。
カルチャーで、って、aranjuesさんの推薦状つきで、デビューかしら(笑)

▲hatsuさん、動画まで見ていただいてありがとう。たくさん絵があるでしょ。
展示のしかた、空間の使い方も、少し、日本の展覧会と違いますよね。
「目を閉じて」は、瞑想かなと。hatsuさんのヨガに通じるものがあるかしら。
ステンドグラスは、いわゆる赤、黄、青でなく、抑えた色合いで、静かな感じが
私も好きです。

▲ララアントさん、昨日の「日曜美術館」で、長谷川潔展が紹介されてました。
私は、前に、世田谷美術館の小さな企画展で、長谷川潔を知ったんです。
細い線が美しい洗練された穏やかな作品が多かったです。若いうちにフランス
に渡り、ずっとフランスで暮らしたのですね。横浜では200点ですか。3時間、見ごたえがあったとわかります。好きな作品に巡り合うのはうれしいですね。
by TaekoLovesParis (2011-05-17 00:25) 

匁

37歳の時に描いた殉教者が気になりました。
立体彫刻のように思いました。

次の「殉教者」はずっと大きな絵なのかピンときませんでした。
国家買い上げと聞いて
じっと見つめると何かを訴えているような気がします。不思議?!
by (2011-05-17 11:41) 

pistacci

動画の説明、言葉がわかれば~と残念。
子供の頃よんだ、ポーの挿絵はくら~い絵。
内容には合っていましたが、ルドンだったのかしら?
壁に浮き出た黒猫、とかね。挿絵は白黒だから、黒がメインの絵を描いていたのでしょうか。
>色と結婚したかのように  この表現、とっても素敵。
女の子なので(笑)、蜘蛛よりは花の色合いが好きです♪
by pistacci (2011-05-17 12:12) 

baby_pink

私は花瓶に入った七色綿あめのようなお花さんが
とても印象的でした✿
動画も拝見しましたが、彼の幻想的な雰囲気に
つい、吸い込まれてしまいそうになり、
優しく、かつ奥深い何か精神のようなものに
触れた感覚になりました。

すてきですね~。✿。うっとり。です^^
by baby_pink (2011-05-17 13:49) 

Inatimy

動画見ました。 壁に絵がはめ込まれたような展示スペースも、面白いですね。
"L'ART"という雑誌の「ルドン 夢の王子」特集、先日パラパラ見てたんですが、
やっぱりルドンの絵だったら植物のがいいかも。
ナスタチウムを描いた"Capcines ou Nasturtiums"とか。
描かれた「目」に注目して観ると、閉じてるか半目か逆に大きな目で、
目をつぶってても見える夢の中のルドンの世界にどんどん導かれていくようでした。
by Inatimy (2011-05-17 19:36) 

てんとうむし

ふしぎな印象に残る青、という印象を持ちました。
ステンドグラスが光にあふれていて素敵。
王子も殉教者もブッダも瞑想しているような表情ですね。

by てんとうむし (2011-05-17 22:15) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます
▲匁さん、私は「殉教者」、木彫りの仏像に似てるかな、と思ったりもしました。
匁さんのおっしゃる立体彫刻と、共通点がありますね。平面の絵なのに、立体感
があるんですよね。
「目を閉じて」は、44×36だから、大きくないです。
<じっと見つめると何かを訴えているような気がします。>→それこそが、
ルドンの絵の持つ精神性でしょうね。

▲pistaさん、動画の説明、私もそんなにわかってないです。眺めてました。

ポーの本の黒猫の挿絵、思い出しました!少年少女世界文学全集だった?
講談社かな?「モルグ街の殺人・黒猫」で、壁に黒猫の絵があったのを
今、思い出しました。気味悪かったです。。その後、大学の授業で、「アッシャー家の
崩壊」を読んで、探偵小説とは違う怪奇小説という分野があることを知ったんです。
<女の子なので(笑)、蜘蛛よりは花の色合いが好きです♪ >
→ aranjuesさんへのコメントを受けて書いてくださってるウィットに拍手。

▲pinkさん、<七色綿あめのようなお花さん>→ かわいくて、ふんわりした
表現ね。やさしい色合いがpinkさん好みかしら。
動画も見てくださってありがとう。オリジナリティの世界を作り出す、しかも、
静かで詩的な瞑想の世界。そんな雰囲気を感じてくださって、うれしいです。

▲Inatimyさん、誰もいない動画と違って、会場は結構、人がはいってました。
でも、見えにくくないのは、配置がうまく行ってるんでしょうね。
”ARTS”は、いつも展覧会の売店に平積みになってる雑誌ですね。いつも
ALBUM de l'exposition と、どっちを買おうかなと、ぱらぱら~っと見てます。

Nasturtiumsという花も、絵もわからなかったので、調べたら、赤を基調とした
絵ですね。Inatimyさん、記事で、目玉は苦手、と書いてらしたから、お好き
なのは、きっと、お花ね、と思ってました。でも、これは、かなりデザインっぽい
お花で、ユニークですね。

▲てんちゃん、とってもきれいな青ですね。印象に残りますね。
初めはモノトーンだったけど、色を使うようになった後年は、青と赤が多いです。
すみません、最初の絵は、タイトルを書いてなかったので、付け加えました。
「金色の細胞」っていうタイトルです。王子っていうのは、ルドンのことなの。
by TaekoLovesParis (2011-05-18 00:29) 

末尾ルコ(アルベール)

いつ見ても素晴らしいですね。
大好きな画家の一人です。

                 RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2011-05-19 17:17) 

TaekoLovesParis

RUKOさん、ルドンは独特の静かな魅力を持っていますね。
今回は、ルドンの色の美しさに浸れる展覧会でした。
by TaekoLovesParis (2011-05-20 23:00) 

りゅう

ルドンって、なんとな~くドロンとしてますよね。。。(^_^;)
ギュスターヴ・モローやベルギー象徴派は大好きですが、
ルドンの世界にはまだまだ入っていけそうにありません。
ん~、やっぱり象徴主義って難しいです。。。(>_<)
by りゅう (2011-05-21 23:33) 

バニラ

次回の日曜美術館が、たしかルドンですね。
予習が出来ました♪
by バニラ (2011-05-22 21:07) 

TaekoLovesParis

バニラさん、そうなんですか。今朝の「安宅コレクション」は見てたんだけど、
来週の予告の前にTV消しちゃったみたい。早く洗濯しないと天気が崩れる
と急いでたの。実際、3時過ぎから、結構、強い雨でした。
岐阜の美術館がたくさんルドン作品を持ってるって、きいてます。
日曜美術館は、出かけない限り、毎週見てるので、来週ね。
by TaekoLovesParis (2011-05-22 21:30) 

TaekoLovesParis

りゅうさん、ドロンって、それが漂ってるイメージなんだと思います。
モローの神話は、華麗に描かれてるけど、ルドンの神話は、私には仏教っぽい
瞑想の世界。絵のなかの人物、どれもが閉じた目にメッセージを感じます。
ルドン自身も描きながら、いろいろ考えていたのでは、、って思います。
象徴主義って、幅広いですよね。
by TaekoLovesParis (2011-05-22 21:50) 

coco030705

こんばんは。
ルドン展、すばらしいですね。あの幻想的な色彩に魅了されます。
ただし、クモはもっとも苦手な虫なので、私はこの絵は見れません。
ルドン展が関西でもあるようですが、この絵だけは素通りしようと思います。
by coco030705 (2011-05-28 21:24) 

TaekoLovesParis

cocoさん、こちらへのお返事遅くてすみません。
ルドン展、関西でもあるんですか。
今朝のNHK教育の「日曜美術館」は「ルドン」だったんですよ。ルドンの傑作10選に
クモもはいってました。それに水木しげるの「ゲゲゲの鬼太郎」の目玉おやじの
アイディアは、上に写真がある「..気球のような眼」だったんですって。
クモだけでなく、私も虫類は全部苦手です。
by TaekoLovesParis (2011-05-29 22:44) 

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