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ジャクソン・ポロック展 [展覧会(西洋画)]

 国立近代美術館に、始まったばかりの「ジャクソン・ポロック展」を見に行った。
ポロック(1912~1956)は、アメリカの画家、といっても、ふつうの絵画ではなく、
アクション・ペインティングという床に広げたカンヴァスの上に塗料をたらしていく
(ドリッピング)技法で有名な人。

PollockTicket.JPG

 私は、20年くらい前、印象派に飽きて、20世紀の作家に興味があった。
中でもわかりやすいポロックが好きだった。アメリカに行ったとき、「画家は誰が好き?」
と、きかれ「ポロック」と答えると、必ず「彼は、若くして(44歳)で交通事故で亡くなったんだ」
という答が返ってきた。
98年末から99年春に、ニューヨークの近代美術館(MOMA)で、回顧展が開かれた。
そのときのポスターを99年夏にMOMAで買って、10年も部屋に貼っていた。
これは、黒と白、グレーだけの作品で、墨絵に近い感じ。

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 今回のポロック展は、生誕100年記念、日本初の回顧展。
初期の作品から、展示されているので、ポロックがどのようにして、ドリッピングに
辿り着いたのか、彼の絵の軌跡がわかって、得るものが大きかった。

ポロックは、ワイオミング州のあまり豊かでない家の生まれ。18歳でニューヨークに
出て、アート・スチューデンツ・リーグでアメリカ地方主義作家のベントンに絵を習った。
その後、メキシコの壁画やピカノ絵画の影響を受ける。

1番目の展示作品は、20歳頃の「自画像」
目がぎょろっとした暗い色調の小さい絵。自信のなさ、不安さを持った表情。
ニューヨークの恐慌の時代を反映しているのだろうか。
2番目は「女」、母を描いたと言われている。周りの人物が子供たちらしい。
よく見ると、不気味。

「誕生」(1941年)テート美術館蔵
メキシコやネイティブ・アメリカンの影響が強い作品。
黒く太い輪郭線はピカソの影響もあるのだろうか。まだ具象の世界。

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 富豪グッゲンハイムの画廊と契約をし、モダンアートの世界にすすんだポロックは、
当時注目されていたミロの影響も受ける。ミロにそっくりの作品もあった。
「ブルー白鯨」(1943年) 大原美術館蔵
大好きな小説、メルヴィルの「白鯨」をイメージして描かれた。
ミロふうの線。海の青がきれい。白は波?黄色は?

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同じくミロふうの「Cut Out」(1948年) 大原美術館蔵
ジグソーパズルのような人物。背景の線の交錯にポロックの独自性が見られる。
赤がアクセントになっている。

Pollock1.JPG

「トーテムレッスン2」(1945年) オーストラリア国立美術館蔵
「これ何に見える?」「女の人が横向きに立ってる」「正面向きの顔が一番上に見える」
影絵のロールシャッハテストを思い出してしまった。左右対称ではないけれど。
タイトルから察すると、ネイティブ・アメリカンのトーテムポールに影響を受けた作品なのだろう。

Pollock4.JPG

 

 このあと、ポロックは、キャンバスを床に置いて、筆で絵具をまきちらす方法を編みだす。
「ナンバー7」(1950年) ニューヨーク近代美術館蔵
これらは主題のない抽象表現であり、キャンバスをイーゼルに置いて描くという従来の
方法と異なるので、「アクション・ペインティング」と呼ばれるようになった。

Pollock3.JPG


「インディアンレッドの地の壁画」(1950年)テヘラン美術館蔵
ポロック最高の傑作とも言われているが、イラン革命後は国外不出だった。
上からかけた黒が画面全体をひきしめている。

Pollock7.JPG

 「アクション・ペインティング」は、世界中から注目を集め、アメリカの絵画は、
ヨーロッパを超えたとまでいわれるほどになった。

この後のポロック作品には、月が多く登場する。きっと何か意味があったのだろう。

ポロックの作品制作過程のフィルムも上映されていた。
くわえタバコで、キャンバスのまわりをパワフルに動きまわりながら、ドリッピングして
いく様子は、新しい芸術を生み出す使命感を持っているかのように見えた。

***ポロック展は、5月6日まで、です。

<追記>コメントで、yk2さんが教えてくださった映画「ポロック、2人だけのアトリエ」
DVDになっていますが、ポロックの作品がどのようにして生まれたのかよくわかる
映画です。展覧会をご覧になって、ポロックってどういう人だったのだろうと、お思いに
なったら、ぜひ、ご覧ください。終始ポロックを支えた妻リー、ポロック作品を気に入り、
支援してくれたペギー・グッゲンハイム、家族たちとのドラマ、、、心に残る映画です。


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julliez

定かではありませんが、こういう画風のジャケット、モダンジャズの一時代を築いた巨匠たちのアルバムでちょいちょい見た記憶があります。
年代的にも、当時勢いががあったアーティスト同士の融合の可能性を考えてみると、無きにしもあらず?
ポロックなのか調べてませんが、繋がりがあるかも。
by julliez (2012-02-15 16:06) 

TaekoLovesParis

julliezさん、お父様のジャズ・コレクションにポロック柄があったのかもしれませんね。ジャズとモダンアートは代表的アメリカ文化。私は見た記憶がないけど、スティーブ・カーンのCDジャケがフォロンという記事を書いてらしたyk2さんなら、わかるかもしれませんね。
by TaekoLovesParis (2012-02-15 23:36) 

yk2

どうせねーさんはご自分じゃ調べないだろうから(笑)、Jたろうの書いてる↑アルバムはどんなのだろうと、ちょびっと検索掛けてみました。すぐ出て来たのはモダンじゃなくって、フリー・ジャズの大家オーネット・コールマンのアルバム、その名も『FREE JAZZ』で、ポロックがアルバム・ジャケットの一部に使われてますね。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/images/B0010OH7TC/ref=dp_image_0?ie=UTF8&n=561956&s=music

僕はと云えば、オーネットはパット・メセニーの『SONG X』くらいしか聴いたコトがなくって、守備範囲外。ポロックはさらに大気圏からはみ出しちゃうくらいに大~きく守備範囲外です(お好きな方ごめんなさい・・・^^ゞ)。かつて、『二人だけのアトリエ』ってポロックの伝記的映画を観ましたが、それも、うむむ~~~・・・・・・って感じでした。
by yk2 (2012-02-15 23:47) 

Inatimy

塗料をたらしただけの作品、昔、たぶんデュッセルドルフのミュージアムで、
ちらっと見たことがある画家さんかも。
私もよく分からなくって、キャンバスを一色に塗ってを切っただけのフォンタナ同様、
こんな作品もあるんだねぇ・・・って通り過ぎたような・・・(すみません)。
by Inatimy (2012-02-16 07:26) 

バニラ

いろいろと話題になるポロックの絵画、わたしも観に行きたいと思っています。
こちらの想像を引き出すポロックの絵、好きなんです。
by バニラ (2012-02-16 12:41) 

匁

先日、テレビの絵画解説に出て来られた
山田五郎さんは
一番下の、ポロックの代表作は
動きが有るにも関わらず、
この絵の前に立つと、安らぎを感じる
と言われていましたが
どうでしたか?

by (2012-02-16 20:41) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます
▲匁さん、山田五郎さん、番組の名前忘れましたが、美術解説をなさってますね。
実際にこの絵を見ると、一番上に黒が乗っていると、はっきり立体的にわかるんですよ。そして黒が動きを誘発すると同時に画面全体をひきしめてます。
私は、安らぎを感じるまでは、いかないけれど、画面全体に安定性は感じます。

▲バニラさん、ロスコがお好きなバニラさんだから、ポロックもお好きなはず、
って思ってました。ひとつひとつ具体的に形があるわけでないから、見る人に
よって、いかようにも、ですよね。無機質な壁面になじむから、インテリアにも
いいと思います。
若い頃からの絵の変遷も、おもしろかったです。

▲Inatimyさん、私もポンピドーで、フォンタナのこげ茶色のフェルト布にナイフの
切れ目を入れた作品を見るたび、これがアート?って思っていました。完成品を見るとそう思うけれど、制作過程では、きっといろいろな思想もあったのでしょう、って、最近は思うようになりました。
私は20世紀ものは結構好きなので、アムステルダムの近代美術館、とってもよかったです。

▲yk2さん、ありがとう!
ポロックの伝記映画があったとは知りませんでした。検索で見たら、ポロック役のエド・ハリスが、会場で見た実写にそっくりで驚き!奥さんの貢献度が大きかったことは、解説にも書いてありました。「20世紀の美術には興味ない」って、おっしゃってるのに、ポロックの映画をごらんになったんですね(笑)

パット・メセニーの『SONG X』、視聴したけど、「えっ、これ、何?」。
オーネットは挑戦的にどんどん走る。メセニーが追いかける、これがヒステリックな
演奏に聞こえてしまう。ドラムもあってないし、全体がばらばらの印象。デュオの
方がまだましだったけど、、にしても。。 当時、聞いたら斬新でよかったんでしょうかね。私には、ポロックの絵とのつながりは感じられず、、ポロックより、デ・クーニングな気がしました。
by TaekoLovesParis (2012-02-18 16:26) 

ぶんじん

作品そのものもさることながら、制作している姿それ自体が表現の一部なのでしょうね。
by ぶんじん (2012-02-19 11:44) 

yk2

『SONG X』、やっぱりダメでしたか(笑)。
僕はパット作品への入り口が“Are You Going With Me?”の収録されてるアルバムの『OFFRAMP』だったから、そのタイトル・チューン(かなりオーネット的なアプローチの曲です)のお陰で、高校生くらいからフリー・インプロヴィゼイション的なものにもある程度の「免疫」(^^;が出来てるんですよ。

ねーさんが繋がりを感じられないと仰るので、今、何十年かぶりで『SONG X』を聴きながらこのコメント書いてますが、この手の演奏を聴きつつポロック作品を眺めると、不調和と不調和がぶつかって、僕にとっては面白い効果がある様に思えます。なんとなくですが、理解不能だったポロックも、悪くないかもって思えて来たから不思議。自分の中での抽象絵画鑑賞法の新発見かもしれません(笑)。
by yk2 (2012-02-19 13:35) 

TaekoLovesParis

yk2さん、メセニーの「Are You Going With Me?」は、わかるけど、『OFFRAMPは知らなかったから、YouTubeで聴きました。ライブだったので、「オーネット・コールマンからinspireされた曲」って紹介してましたよ。これは抵抗感ありませんでした。終盤のフリー・インプロヴィゼイションの盛り上がりもよかったです。

でも、『SONG X』は、競争むき出しで美しくないです。メセニーらしいさわやかさが感じられないし~。でも、この競争むき出し感は、ポロックの絵で各色部がはじけ、混じりあいながら作品を作っていくのと同様に、不協和音を交えながらも、明確にリズムを刻みつつ演奏を作ってる気がしてきました。何よりも、yk2さんがポロックに親しみを感じてくださったのがうれしいです。
by TaekoLovesParis (2012-02-19 22:36) 

TaekoLovesParis

ぶんじんさん、そうですね。制作している姿も動きがダンスのようでした。
アートしてるわけですね。今まで誰も考えつかなかったものを造り出すって、
大変なことですよね。
by TaekoLovesParis (2012-02-19 23:35) 

nyonyo

私もいってきました。とてもよかったです。このページで、復習♪常設展でフォンタナの作品みられるかなあとおもったけれど、展示していませんでした。
by nyonyo (2012-02-26 03:04) 

TaekoLovesParis

nyonyoさん、nyonyoさんのポロック展記事読みました。
いつも簡潔にまとめていらっしゃっるので、要点がわかり読みやすいです。
ポロック自身が苦悩しているのに、作品を見ても、どっしり重くならないのは、
絵画そのものではないからなんでしょうね。色遣いがきれいですね。
近代美術館は、フォンタナを所蔵しているんですね。今度、私も注目して
常設をみてみます。

by TaekoLovesParis (2012-02-26 11:31) 

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