SSブログ

フリック・コレクション(2) [外国の美術館、博物館]

 2月19日のNHK「日曜美術館」で、ニューヨークのフリック美術館がとりあげられていた。
紹介されていたのは、私が前回、フリック・コレクションの記事でのせなかったものばかり。
力強い作品が中心。

 まずは、レンブラントの「自画像」(1658年)が紹介された。
王侯貴族の衣装をまとったレンブラント52歳。表情は寂しげ。
財産、家を失い、苦難を耐え忍びながらも威厳を失うまいという表情、と解説
されていたが、私には、「しかたないんだよ」というあきらめ顔に見える。

Rembrant.JPG

 次は、ヴェラスケスの「フェリペ4世」。1644年
フランスとの戦いに勝利した時の記念の肖像画。戦いに同行したヴェラスケスは、
戦地に作った仮設スタジオで、王にポーズをとってもらって描いた。豪華な軍服の
描写に比べて、袖の描き方は、のちの印象派に影響を与えるざくっとした描き方。
Philip4Velazquez.JPG

 客間のマントルピースの上にかかっているのが、エル・グレコの「聖ヒエロニムス」1600年
ヒエロニムス(英語Jerome)は、ギリシア語聖書をラテン語に翻訳した人なので、聖書を
広げ指さしているポーズ。枢機卿の赤い衣装をまとっている。知性と威厳にみちた表情。

                      St.Jerome.JPG

 マントルピースの左にかかってるのは、ヘンリー8世の宮廷画家ホルバインの
「Sir トマス・モア」1527年。
右は同じくホルバインの「トマス・クロムウェル」制作年不詳。
トマス・モアは、「ユートピア」の著作で有名な思想家だが、ヘンリー8世の離婚に
反対し、処刑された。一方のクロムウェルは権力志向で狡猾。ヘンリー8世が離婚し再婚
できるよう英国国教会を作る宗教改革を推し進めた。
敵対する二人のトマスの肖像画をマントルピースの左右に置き、中央に聖ヒエロニムスを
配置するとは、なんとも心憎い。  

ThomasMore.JPG       ThomasCromwell.JPG


 ゴヤの「鍛冶屋」1820年。
暗い背景でダイナミックな構図。素早く的確な表現。
迫力ある仕事ぶりに目をひかれる。職人の背中、腕、足も力強いが、火の赤も
大きなアクセントになっている。

Goyat.JPG

 フリック氏は、製鉄に使うコークス業で財をなし、30歳で絵画蒐集を始めた。
風景画、肖像画など、見て落ち着く絵を好んで買った。普段、感情を露わにしないフリック氏
が、購入の知らせを聞いて、Enchanted (魅了された)と、返信をしたのは、この作品、
レンブラントの「ポーランドの旗手」1655年
騎馬姿の若者。背景が幻想的で見る者にいろいろな想像をさせる。

RembrandtThePolishRider.JPG


以上、力強い絵が続いたが、フェルメールが3点、さらに印象派の絵もある。
ルノアール「母と娘たち」1876年
衣装がすばらしいので、特に優雅な雰囲気がでている。

 Renoir.JPG

 以上が、TV番組で紹介された絵。

フリック美術館は撮影禁止だが、売店で、ハンドブックを売っていた。
表紙を飾るのは、アングルの「ドーソンヴィル伯爵夫人」1845年
気品ある美しい人。名門の出身。18歳で結婚。「詩人バイロンの生涯」という本も
書いたほどの才女。この絵の時は24歳。

Engrret.JPG     

他には、マネの「闘牛士」1864年
異様に細長い絵。下に死んだ牛が少しだけ見えている。
実は、この絵は、最初、この下に、死んだ闘牛士が描かれていた。
しかし、サロン(官展)で、「死人を描くなんて」と、不評だったことから、マネは、
下半分を切り取ってしまった。その下半分に手を加え、「死せる闘牛士」とした。
「死せる闘牛士」は、ワシントンのナショナル・ギャラリーの所蔵。三菱一号館の
「マネ展」に来たので、ご覧になったかたもいらっしゃるでしょう。

Manet.JPG



ターナー、コンスタブルなど英国風景画の良いものが多く、魅了された。
特に気に入ったのが、コンスタブル「司教邸の庭から見たソールズベリー大聖堂」
雲のようす、大聖堂、大きな木。手前にいる人物で、絵が生き生きとする。
OIP (2).jpg

ふと、目に留まったのが、日本画風の作品。
ホイッスラーの「The Ocean」1866年。ジャポニズムの影響を受けている。
各々シンフォニー、ハーモニー、アレンジメントというタイトルの肖像画を見ながら、
ホイッスラーはアメリカ出身であったことを思い出した。

Whistler.JPG


どの絵も見応えのあるものばかり。
ニューヨークにいらっしゃるかたには、ぜひ!とおすすめしたい美術館です。

疲れたら、こんな素敵な中庭で休めます。
Flick中庭.jpg


nice!(40)  コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート

nice! 40

コメント 8

よしあき・ギャラリー

裸婦、戦争ものといった、感情の高まる傾向の絵はコレクションの対象外とした、フリックの見識も立派なものと感心しました。
by よしあき・ギャラリー (2012-02-26 06:07) 

バニラ

「ドーソンヴィル伯爵夫人」は、美しい~  ルノアールの「母と娘たち」もかわいらしいし、やはり女性がモデルの方が見応えが…。 マネの「闘牛士」好きだなぁ。
by バニラ (2012-02-26 14:35) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます
▲よしあきさん、裸婦、戦争ものを避けるという明確なポリシーはいいですね。
さらに、どの作家の作品も上等のものばかり。個人美術館の良さの極みです。

▲バニラさん、前回のフリックコレクションの記事を見たら、私、バニラさんに
お返事してなくて、すみません。ロココがお好きになったと書いてくださったけど、
ロココも必ず女性が登場しますね。美しい人が素敵な衣装で、というのが、
私も好みです。アングルの描く女性は、品があって美しいですね。少し背中を
丸く描くのも女性らしさの追究かしら。
家具、調度品の落ち着いた素晴らしさは、王侯貴族のお屋敷より、現代にマッチ
していて、素晴らしいです。中国の花瓶なども上手に使われています。バニラさんの
お屋敷好きは、よ~く存じておりますよ。
by TaekoLovesParis (2012-02-26 23:37) 

匁

ニューヨークのフリック美術館ですか?!。
匁も
「その美術館に行きました」と
言ってみたいですね。

肖像画は衣装の しわ 難しいですね。
by (2012-02-27 09:39) 

Inatimy

「ドーソンヴィル伯爵夫人」の絵、いいですね~。
髪の毛がつややかだし、ブルーグレーのようなシンプルな衣装だけど、
その背後に花瓶やお花やこまごまとしたものが描きこまれてて、
ふふ、何をおいても私が一番よ、みたいな自信にあふれた、これも一種の力強さの作品ですね♪
by Inatimy (2012-02-27 17:10) 

yk2

『ドーソンヴィル伯爵夫人』を持ってるのがフリック・コレクションなんですね。
バニラさんやいなちゃんにはなかなかの評判のようですが(笑)、この絵ってまじまじ観ると肩、肘を楕円の曲線バランス内に無理矢理ぴったり収めて描く、アングル独特の非解剖学的なデフォルメのお陰で、みょ~に右腕がたくましい、不思議なバランスなんですよねぇ・・・(^^;。アングル大好きなワタクシと致しましては、是非一度、実物をこの目で拝んでみたい作品の1つでございます。

by yk2 (2012-02-28 00:46) 

Inatimy

↑ 確かに、右腕が妙な角度で体から出てるなぁ・・・とは思ったんですが、
描いたのがアングルだからと妙に納得してたり。 美しいから、いいんですよ。
アンバランスの点で言うと、先に登場したエル・グレコの絵も、
顔は縦長、肩から肘までが長過ぎで、二人羽織りじゃないかしら、って感じですよね~♪
by Inatimy (2012-02-28 17:09) 

moz

いいなぁーー、これらの絵画の実物をその美術館と言う家でご覧になられたんですよね。レンブラントもグレコもみんな優れた選りすぐりのものばかりですよね。
死ぬまでに一度は行ってみたい、会ってみたいです。
何よりもやはりフェルメールの3点、中断されたレッスン、兵士と笑う娘、婦人と召使があるのですから、これらは60年代の一番素敵なときの作品。
やはり死ぬまでには・・・(笑)
by moz (2012-03-02 05:45) 

コメントを書く

お名前:
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0