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ベルリン国立美術館展 [展覧会(西洋画)]

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 「ねぇ、西洋美術400年のお勉強しに行きましょう」と、美術好きの同僚が
言ってきた。「えっ、どこに?」「上野よ~」「西洋美術館の展覧会のこと?」
話題の「フェルメールの真珠の首飾りの少女」がある展覧会は、正式名称が、
”ベルリン国立美術館展、学べるヨーロッパ美術の400年” なのだ。

行ってみたら、タイトル通り、15世紀~18世紀まで各世紀の部屋別
展示だった。「これを順に見て行くと学べて、フェルメールもあるのね」

地味ながら、良い展覧会だった。
木彫をこんなにたくさん見たのは、初めて。

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●リーメンシュナイダーの「龍を退治する馬上の聖ゲオルギウス」1490年頃。
倒されている龍の顔がユーモラス。一方、ゲオルギウスは苦悩の表情。
菩提樹の木に彫られているが、実に細かい。

木彫のほとんどは菩提樹だった。菩提樹という歌があるように、ドイツでは代表的な
木なのだろう。クルミ材も1つか2つあった。これは硬く、赤茶色。
ツゲ材の木彫の●エルハーフェン作の「シカ狩り」「イノシシ狩り」(1690年頃)は、
非常に細かく精巧な木彫レリーフ。ツゲは櫛で有名だけど、木彫に適している。
着色してある木像もあり、日本の仏像を思い起こすものもあった。

イタリアの彫刻は、大理石が多い。
●「聖母子とふたりのケルビム」 ドナテッロの工房 1460年頃
ケルビムとは智天使。ルネッサンス期の作品なので、古代回帰で、マリアが
それまでのキリスト教風でなく、ギリシア彫刻風。

DonateroKerbim.jpg  

●バルトロメオ・ピントリッキオ「聖母子と聖ヒエロニムス」 テンペラ1500年頃
ヒエロニムスは、聖書のラテン語訳を完成させた人なので、ここでは、赤い枢機卿
の服装。ヒエロニムスの助言に従い、幼子イエスは、聖書に何かを書きこんでいる。
背景は、大気を感じさせる広大な風景。

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15,6世紀は宗教的な彫刻や絵が多いが、肖像画も描かれていた。

硬質で細密なデューラーの ●「ヤーコブ・ムッフェルの肖像」(1526年)
デューラーの友人で、ニュルンベルグ市長をつとめた人。
青筋の見える顔、白い襟の立ち具合、毛皮の上等な毛並みが正確に描かれて
いて、ひきつけられた。ドイツを代表する画家、デューラーならではの作品。

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もうひとり、ドイツを代表する画家クラーナハによる
●「マルティン・ルターの肖像」(1533年)
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宗教改革で有名なルター。クラーナハの筆になると、一見、柔和に見えるが、
目つきの険しさ、きりっと結んだ唇から、意志の強さが伺える。
●クラーナハの「ルクレティア」も展示されていた。
下半身が大きいクラナーハ体型。
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17世紀前半は、スペインが最も輝いていた時代だった。
ベラスケスは宮廷画家として活躍したが、初期には、こんな作品があった。
●3人の音楽家(1620年)
カラヴァッジョふうのドラマティックな絵。3人の楽師の視線はばらばら。こちらを
見ている少年と眼が合い、画面にひきこまれた。「少年の後ろに、交易でもたら
されたマダガスカル原産のキツネ猿がパンを持っている」と説明書きがあったので、
暗い画面を見つめて、特徴あるサルを確かめた。

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●ジョルダーノの「アルキメデス」(1650年)は、アルキメデスが金色の球体を
手に上方を見上げている比較的大きな絵。「なんで、この時代にアルキメデス?
ギリシア時代の人よね」 17世紀は、天文学や地誌学が発展した時代だったので、
アルキメデスが見直されていたらしい。

スペインに続き、世界の覇者となったのは、オランダ。
しかし、この間には、30年続いた戦争の時代があり、傭兵が大勢いた。
●レンブラント派の「黄金の兜の男」(1655年)
黄金の兜の輝きに対し、この苦渋に満ちた顔。時代の悲惨さを表しているとのこと。
以前は、レンブラントの傑作と言われていたのだが、研究の結果、本人ではなく、
弟子の作品とわかった。

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●レンブラント「ミネルヴァ」(1631年)
闇の中にぱっと浮かび上がる金髪、赤い服。裾の宝石と刺繍。
光と闇の対比がすばらしい。
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●ヤン・ステーンの「喧嘩するカードプレーヤー」(1664年)
オランダでは、市民生活を描いた絵が多いが、まさに、これはそのもの。
怒って立ち上がった2人のプレーヤーの後ろにけしかける連中、犬が手前で吠えている。

そして、お待ちかねの●フェルメール「真珠の首飾りの少女」(1665年)
順番に入れ替わって、前で見るようになっていた。
写真ではよく見えなかった少女のうっとりする表情、窓枠、鏡、ハタキ、中国の花瓶、
窓に光が差し込んで明るい。カーテンの黄色と少女の服の黄色が呼応している。

見ながら、勝手にドラマを作ってみた。彼女はお手伝いさん。無造作にハタキが
置かれ、掛け布がめくれているから、掃除を中断して、奥様の上着を着て、真珠の
首飾りをつけ、鏡を見て、「わぁ、きれい」とうっとりしている。

フェルメールで、終わりかと思ったら、まだ、18世紀の部屋があった。
秋に三菱一号館で展覧会が開かれる●「シャルダン」の「死んだ雉と獲物袋」

●ジョゼフ・シナール「レカミエ夫人の胸像」(1803年) テラコッタ
ダビッドが描いた長椅子に白い古代衣装で横たわる「レカミエ夫人」と同じ人物。
銀行家の奥様で、当時のサロンで有名な人だった。
この胸像からも気品が伝わってくる。
MmeRecamie.jpg

イタリアのデッサン画の部屋もあり、ミケランジェロの習作、ボッティチェリの「神曲」の
挿絵など、そうそうたるものが展示されていた。

暑い日が続いているけれど、美術館の中にいると暑さを忘れます。
おすすめの展覧会です。

追記:この展覧会で、たくさんの木彫を見ながら、思い出したのは、「バルラハ展」のことでした。
ドイツにこういう木彫の歴史があるから、バルラハのような作品が生まれたのだな、と思いました。


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チョコローズ

ベルリン展、私も行ってきました。フェルメール・イヤーなので制覇するつもりで。
素敵、且つ保存状態の良い絵がたくさん。彫刻にタペストリーといろいろ楽しく観ました。
そうそう、木彫りの「龍を退治する・・・」は一瞬「ドン・キホーテ」かと思いました。
激安の店じゃないです。
従者セバスチャンがいないから違うけど、龍にも見えないし。
わかりやすい綺麗な作品が多くて私でも楽しめました。
by チョコローズ (2012-08-04 23:45) 

baby_pink

聖母子とふたりのケルビム..素適です.。
ギリシア彫刻風で奥深さの中にも
清らかさな兼ね備えていてとても
見ていて、心休まりますね^^
真夏の暑い日には、美術館でしっとり
お勉強するのもいい時間の過ごし方ですね♪
早速、美術館へいきたくなっちゃいました^^
by baby_pink (2012-08-05 08:46) 

yk2

レカミエ夫人はダヴィッドの絵に描かれたのとまるで同じ様なヘア・バンド(と云うかターバン?)に薄薄なギリシャ風衣裳。菩薩の様に慈悲深そうな穏やかな顔立ちに出来てはいるけど、その実、自分の美貌には溢れんばかりに自信満々。ダヴィッドの絵がどうにも気に入らなかったからか、意地でも、この“お気に入りの格好をしたキレイなワタシ”を形にして残したかったみたいですねぇ(笑)。だからマグリットに皮肉られて棺桶(横浜美術館にいつも展示してある“あれ”ですね)に入れられちゃった?(^^;。
by yk2 (2012-08-05 08:54) 

匁

名画のかもし出す幻想?!の世界に身を置きながら
この猛暑に、ゆっくり涼めるって最高ですね。
でも、実際、美術館に行ってみると、
意外と監視員が目を光らせていて、
椅子に座って休んでもおれません。
名画と静かに対面は夢のまた、夢です。

by (2012-08-05 14:05) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます
▲チョコロさん、制覇っていう言葉に(笑)。東京の高級チョコレートブティック
制覇のチョコロさんならではのお言葉。タピストリーは、圧倒される大きさでしたね。しかもすごく細かい。
ドンキホーテ、安売りの店とまちがえないから大丈夫よ(笑)。絵の主題にも時々登場するから。ピカソ、ダリ、ドーミエなどが「ドンキホーテ」という絵を描いてるし。
そぅ、この木彫は、剣をふりかざしてても強そうに見えないから、ドンキホーテって、
イメージが、ぴったりね。

▲pinkさん、素朴な木彫を見たあと、大理石を見ると、高級で上品に感じました。
その上、pinkさんがおっしゃるように、清らかさもありますね。
美術館でお勉強もいいし、昼間からビールもいいなぁ(某記事で読みました・笑)

▲yk2さん、木彫のせいもあって、このレカミエ夫人の表情はたしかに菩薩のように見えますね。レカミエ夫人は、ダビッドの絵が気にらなかったのですか。きりっとして勝気に見えるから?目が魅力的だと思うけど。で、マグリットの彫刻、ここまでやる?って、驚きますね。yk2さんの横浜美術館の記事に「レカミエ夫人」のシュールな彫刻写真ありましたね。URLつけておきます。
http://blog.so-net.ne.jp/ilsale-diary/2009-08-15

▲匁さん、美術館は疲れるから、椅子にすわって休むの当然だと思うけど、だめな
所もあるんですか。座って絵を見ると、目線が違って、面白いときもあるので、大きい絵の時は、座ったりしますよ。
by TaekoLovesParis (2012-08-06 01:19) 

Inatimy

レンブラントの傑作と言われてた「黄金の兜の男」・・・
描いたお弟子さんがそれを聞いたら、涙して喜んだかもしれませんね~。
師匠の絵にそこまで近づけたなんて♪
ヤン・ステーンの絵は、いつも面白いシーンをとらえてますよね。
マウリッツ・ハイスの『牡蠣を食べる娘』とか
アムステルダム国立ミュージアムの『聖二クラウスの祭り』とか好きでした。
by Inatimy (2012-08-06 05:39) 

hatsu

「3人の音楽家」、お猿さんがいますねー。
見つけたとき、嬉しくなりました^^
「レカミエ夫人の胸像」、ステキ♪
暑い日が続いていますが、
Taekoさんのお芝居や芸術のお話で、心が涼やかになりました。
ありがとうございまーす。
by hatsu (2012-08-07 06:57) 

TaekoLovesParis

hatsuさん、暗い絵では、目を凝らしてみないと、何が描いてあるのかわからないこと、多いですね。レンブラントの「ミネルヴァ」も背後の壁に、メドゥーサの頭が
表された盾がかかている、と説明に書いてあったので、「えっ、どこ?」と一生懸命、探しました。見つかるとうれしいですよね。
レカミエ夫人の静けさがいいですね。
ほんと、毎日暑いですね。オリンピックも熱いですね。
サッカー、勝ってほしいなぁ。応援中です。
by TaekoLovesParis (2012-08-08 02:14) 

moz

ベルリン、行かれたんですね。 ^^
良い展覧会ですよね。フェルメールが目玉ですけれど、良質な作品がたくさん来ていて見所いっぱいの展覧会だと思います。
デューラーもクラーナハもすごいと思いました。あっ、レンブラントも。
でも、ミネルバは見ていて美輪明宏さんを思い出してしまいました(笑)
そして、フェルメール。ぼくは、この作品、マイベストになるかもしれないと思ってみてきました。光のフェルメールの面目躍如って感じの、素晴らしい絵でした。
もう一度、会いに行くつもりです。今までは、ミルクを注ぐ女でしたけれど、この絵、すごいなって思っています。
by moz (2012-08-08 20:19) 

TaekoLovesParis

Inatimyさん、「黄金の兜の男」は、レンブラント作品と言われていた頃なら、
これが展覧会の目玉になるほどだったんですって。弟子の作品とわかっても
絵そのものの輝きは変わらないはずだから、ブランド信仰があるんでしょうね。
実際、近くで見ると、兜が立派です。それに対し兵士の表情が冴えないのです。
こういう表情にさせてしまうことが30年も続いた戦争の結果なのだ、と説明に
書いてありました。
ヤン・ステーンの「牡蠣を食べる娘」と「聖ニクラウスの祭り」、ネットで探して
見てみました。牡蠣を、、は、こちらを見つめる娘の表情が何ともいえず、でした。
机の上にのっているもの=小道具が、いろいろ暗示しているとは。。
聖ニクラウスの祭りって、クリスマスなんですね。プレゼントをもらえる子ともらえない子、表情の対称が面白かたtです。
by TaekoLovesParis (2012-08-09 01:28) 

TaekoLovesParis

mozさん、お返事遅くてすみません。
ベルリン展、mozさんもよかったってきいてうれしいです。
「ミルク、、」、「真珠の首飾り、、」、「真珠の耳飾り、、」どれも画面に一人だけ
の絵ですね。一人だけなのに、十分、ドラマを感じさせるのは、すごいと思います。光の使い方で、ドラマは盛り上がりますね。都美術館のフェルメールを早く
見に行かないと。。
ミネルヴァ→美輪明宏は、髪の毛も目鼻立ちもたしかに似てます(笑)
by TaekoLovesParis (2012-08-11 01:24) 

りゅう

私もお勉強しに行きます♪
フェルメールはもちろんですが、
レンブラント、ボッティチェリの素描に期待大、
とっても楽しみです♪((o(^-^)o))ワクワク
当日券鑑賞の予定ですが、
暑い中チケット売り場に並ぶのは嫌だなぁなんて、
ヘンな心配をしています。。。
by りゅう (2012-08-12 02:04) 

TaekoLovesParis

りゅうさん、都美術館は、かなりの混雑ときいていますが、こちらは並ばずに
チケット、買えました。庭の「むくげ」が満開で、白と緑の対比がきれいです。
ボッティチェリ、ミケランジェロは、デッサン力も素晴らしいです。ギルランダイオの
デッサンもありました。ぜひ、お勉強にお出かけくださいませ。
by TaekoLovesParis (2012-08-13 02:07) 

職務履歴書

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
by 職務履歴書 (2012-10-18 03:34) 

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