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「美術にぶるっ!」展・東京国立近代美術館 [展覧会(日本の絵)]

 1月14日までと、会期が残り少なくなった国立近代美術館の「美術にぶるっ」
という展覧会を見に行った。
近代美術館は開館60年。それを機に展示室を見やすくリニューアルし、所蔵品
の重要文化財13点を全部公開するという見逃せない展覧会。さらに主な所蔵
作品が一挙に年代順に見れる。

 
 空間をたくさん取ったゆったり展示の「日本画・屏風や掛け軸」の部屋。
左から加山又造の屏風「春秋波濤」(1966)
鏑木清方「三遊亭円朝像」(1930)は重要文化財。文字によらない伝記とまで
言われた人間描写がすばらしい肖像画。速水御舟作品が2点。


近美.jpg

 友達から写真撮影可能と聞いていたので、デジカメを持って行ったが、絵の前
に人がいなくなるタイミングが難しく、数枚しか写せなかった。

川端龍子「草炎」(1930) 大きな屏風。濃紺地に金色の濃淡で描き分けた草村。
大胆さがある。右手前の八つ手の葉は迫力があり、奥の方のススキは繊細。
大田区大森の自宅(今は龍子記念館)付近の様子だそう。

近美川端.jpg

下村観山「木の間の秋」(1907)
琳派に例がある構図。抱一の「夏秋草図屏風」のようなススキに隠れた
百合の花もある。この絵では金色が差し込む光として使われていて、
森に迷い込んだような奥行感がある。英国留学の後なので、西洋画の
遠近法の技法を取り入れ、葉にも写実的な描写がある。西洋画+琳派
、観山の試みが伺える。
*近代美術館のサイトで絵の拡大図が見れます

近美下村.jpg

 この美術館は、まずエレベーターで4Fに上がる。
最初の展示室に、いきなり重要文化財の絵がずらっと並ぶ。壮観。
川井玉堂の「行く春」、大観、崋岳、萬鉄五郎、原田直次郎、菱田春草。

 絵画では、土田麦僊「湯女」(1918)  
大きな絵。色も鮮やか。ルノアールの絵を思わせるような西洋画の香りfが
する豊満な女性。松の木、藤の花がデフォルメされ模様を形作っているか
のようだ。左にいる雉のつがいが藤の花に比べて小さいのもデフォルメ?
絵全体で楽園を表しているのだろうか。

近美土田.jpg

小林古径「機織」(1926)
京都の西陣織を描いたもの。糸の部分は西洋絵の具を用いた色彩。
最後に細い薄墨で輪郭をとるという大和絵の技法も取りれている。
私は古径の線の美しさが好きだ。

近美古径M.jpg



この間シャルダン展を見たばかりなので、「木苺に似てる!」
東山魁夷「秋翳」(1958)
単純な中に複雑なものを表したいという制作意図。
実際に見ると、一本一本の木の紅葉がオレンジ色~赤~ピンクと違って
いる。この赤で背景の空が薄いピンク色に染まっている。

近美秋翳s.jpg 


これも好きな絵だけど、人がいて写真が撮れなかったのでパンフから。

近美岸田.jpg


以後、有名な画家の作品がずらっと並んでいる。
写真が撮れたのは、たまたま人がいなかったところだけ。
松本竣介「並木道」(1943)

近美松本.jpg

 戦争画の展示部屋があった。
藤田嗣治の大きな絵「アッツ島玉砕」と「サイパン島同胞臣節を全うす」が
壁面に並んでいた。圧倒的な存在感の2枚。特にサイパン島の絵では、
兵隊でない島の住人一人一人の決死の表情が目をそむけたくなるほどリアル。

当時戦争画で人気があった御厨純一の「ニューギニア沖東方敵機動部隊強襲」

近美戦争御厨.jpg

戦争画は大半がアメリカからの無期限貸与。敗戦時に没収されたのだろう。
国立美術館だから戦争画を展示することは、事実を知るためにも良いと思う。

 彫刻もあった。
柳原義達の「犬の唄」(1961)  作者寄贈。
犬の唄とは、普仏戦争に敗れたフランス人の抵抗精神を表したシャンソンで、
歌う歌手が犬のような手の仕草(ドガの絵:カフェ・コンソール)をしている。
戦争体験のある柳原だから、レジスタンスの意味を込めて作った彫刻。

近美犬.jpg

  この展覧会のタイトルは「美術にぶるっ!」。ぶるっという言葉は私にはお化けが
出たり、ぞっとするときのイメージなので、ピンと来ない。でも、日本画の名品揃いだし、
「海外作品の部屋」は、アンリ・ルソー、ピカソ、ブラック、どれも良い。
ココシュカの「アルマ・マーラーの肖像」はココシュカらしい緑の色合いで、アルマの
強さと美しさが出ている肖像画。
20世紀の有名な作家の作品が1点づつ展示されていた中、次回の展覧会の
「フランシス・ベーコン」の大きな作品が目を引いた。


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mayu

Taekoさん、おはよーございます(*^_^*)

ゆったりと拝見出来る展示になってるんですね~!
隣に人がいても気にならない程では?
京都の美術館は狭いから羨ましいです。
やっぱり東京は素敵なミュージアム多いですもんね♪
by mayu (2013-01-11 05:57) 

よしあき・ギャラリー

この美術館はゆったりしていて好きです。
しかし、よくこれだけ撮れましたね。
by よしあき・ギャラリー (2013-01-11 06:26) 

ムーミン

娘が退院した次の週から、週に1度上の子を一時保育に預けてました。1カ月過ぎてから私が週に一度出かける事にして、最初にスカイツリーに登って・・・その次の週にこの展覧会行こうと思ってたんですが、上の子が胃腸炎になって預けられず出かけられませんでした。帰る数日前まで迷ったんですが、結局出そびれてしまって行けませんでした。
そんな訳で、TaekoLovesParisさんのブログで観られて嬉しかったです^^
先にこっちへ行ってたら、じっくり観られたのにと残念な気もしています。
by ムーミン (2013-01-11 23:00) 

TaekoLovesParis

mayuさん、こんばんは。
ずっと改装していたんですよ。ゆったり展示になっていました。しかもすわって観賞できるように椅子が中央にいくつもありました。レストランはフレンチのミクニがはいりました。ランチでも4200円、5800円といい値段ですが、予約でいっぱいでした。国立京都博物館、京都市美術館、2つともはいったことがないのですが、
重厚な建物ですてきですね。いつかゆっくりと京都に行きたいです。
by TaekoLovesParis (2013-01-11 23:51) 

TaekoLovesParis

よしあきさん、写真を撮りたい絵は、絵の前に見ている人が大勢いる場合が
多いんです。少し待ってみたのですが、人がいなくなることはあり得なく。。
展覧会は、会期の早いうちに行くべきですね。
by TaekoLovesParis (2013-01-11 23:57) 

TaekoLovesParis

ムーミンさん、保育園は病気だとあずかってくれないんですね。
同僚でも、子供が熱があるので休む、ケースがあります。
計画なさっていたのに、行かれない展覧会があると残念ですね。
でも、読んでいただいてうれしかったです。
by TaekoLovesParis (2013-01-12 00:04) 

yk2

そうなんですよね~、人出が多いと美術館での写真は撮りづらい。絵の前を独占しちゃう様で、気が引けちゃう(^^;。

観山の『木の間の秋』は、青味が効いた草木が美しいんだけど、どこか常軌を外れてしまっている、この世のものでない様なたような妖しさがあって、眺めている内、何かが狂気めいている様にも思えて来る不思議な感覚を覚えました。

麦僊の『湯女』も、すごい絵。テーマと藤の花が相まって、なんとも艶っぽい、幻想的な湯女。松がまるで雲の様な効果で、俗っぽいんだけど、天女の様にも思えちゃう。三味線を弾く男の顔が御簾で隠れてるのもワケ有りふうで面白かったですね。

ねーさんが撮ってこられた写真に、いちいちそれぞれコメントしちゃいたいけど、それならいっそ記事が1つ書けてしまうだろうから、この辺で止めときます(笑)。

by yk2 (2013-01-12 00:09) 

りんこう

この展覧会は去年行きました。
オールスターの展覧会で、3時間でも足りないくらいでした。
ミュージアム・ショップでカエルのTシャツを売っていましたよね。
スタッフもそのTシャツを着て販売をしていました。
僕はやはりそのカエルに反応してしまいまして、やっぱり買ってしまいましたよ…。
by りんこう (2013-01-12 00:14) 

Inatimy

この中で気に入ったのは、下村観山「木の間の秋」かな。
木々の皮の色の濃淡、葉っぱの裏と表で色が違ってたり、
明るいのにぼんやりとして見えない奥は霧がかってるようで幻想的♪
川端龍子「草炎」はホントは濃紺な色が画面では黒に見えるので、
こんな重箱があったら美しいだろうなぁ・・・なんてパッと見で思いました。
松本竣介「並木道」もアンリ・ルソーっぽくっていいですね。
「美術に〇〇っ!」の中に擬態語を入れるとしたら・・・と半日ほど考えちゃって、
コメント書くのが遅れました・・・。
「美術にぞくっ!」、「美術にじわっ!」、「美術にうるっ!」・・・何がいいかなぁ、とまだ迷ってます(笑)。
by Inatimy (2013-01-12 08:12) 

nicolas

松本竣介もあったんですねー。
孤独を匂わせる独特な世界観ありますよね。
ちょっと暗いんですが、繊細さもあってなんとなくスキです。
藤田嗣治、観たいです~
by nicolas (2013-01-12 15:28) 

coco030705

こんばんは。
面白い題名の展覧会ですね。でもやはり「ぶるっ!」は、現代絵画の展覧会に合いそうな感じがします。

川端龍子「草炎」、すばらしい絵ですね。今工事中の歌舞伎座にも龍子の絵が飾ってあって、玉三郎がその絵をお気に入りだといっていたのを思い出します。
下村観山「木の間の秋」もいいですね。拡大版でみたらとても細かく描いてあるのがわかりました。
東山魁夷「秋翳」はほんとうにシャルダンの木苺の絵ににてますね!色彩の細やかさのゆえに、これほど美しい絵になっているのですね。
藤田嗣治の戦争画は、大阪であった藤田嗣治展でみたことがあります。あんな絵を描かなくてはならなかったとは、藤田も内心じくじたるものがあったでしょうね。
すばらしい展覧会のご紹介、ありがとうございました。



by coco030705 (2013-01-13 00:55) 

チョコローズ

今年はいくつの展覧会に行けるだろうか?
Taekoさんのところでお勉強しつつ、なるべく見る機会があれば行きたいです。
それにしても最後の写真、いけませんね。
ルネッサンスの裸婦画といい、ぽっちゃり系のものを観てしまいますと、つい自分と見比べて、
まだ大丈夫、と安心してしまいますね。いけないいけない。
といいつつ、ランチ情報に反応してしまいました。
by チョコローズ (2013-01-14 00:23) 

バニラ

観るものがたくさんありすぎて、お腹いっぱい?になりそうな気もして、ずるずるしてたらもう今日でおしまいでしたね~  そして今日はまさかの大雪!
by バニラ (2013-01-14 11:26) 

TaekoLovesParis

バニラさん、<今日はまさかの大雪!>→ どんどん降り積もるので、用事で出かけたけど、電車がとまるのがこわいので、さ、さっと帰ってきました。

「いつか陽の当たる場所で」、みました。続きが気になるので明日もみます。
原作を読んでないから、わからないけど、バニラさん的には綾香のイメージが
違うのね。「博士の、、」は、友達から読むように言われて、読んでから映画を
見ました。映画の方が桜がいっぱいの散歩道、イチョウ並木など、景色が綺麗
で、個性的な俳優揃いだったので、映像の良さを感じました。

雪はやんだけど、明日の通勤が心配です。
by TaekoLovesParis (2013-01-14 21:34) 

TaekoLovesParis

▲yk2さん、西洋美術館の常設も撮影OKだそうですが、やはり絵の前に人がいないベストな状態はなかなかないですね。この日も重文がたくさん展示されている最初の展示室が、特に混んでいました。萬鉄五郎の「裸体美人」の前も二重の人だかり。近くに寄って見たい絵ではなかったから問題なし、だったのですが。
屏風が好きなので、屏風の部屋がすいていたのは幸いでした。あれだけ大きなものをゆったり見れるのは至福です。特に観山の屏風は、立ち位置を変えてみると、また違った見方ができました。そぅ、森の奥から何か出てきそうな、幻覚を見る
ような感じがありますね。さらに、琳派に似てる所を探すのも楽しかったです。

麦僊の「湯女」は、ヤマタネの「大原女」と同じ鮮やかな草緑色。湯上りだから、
髷を結っていた髪をばらり、で手は胸元。しどけない姿なのに平安貴族を思わせる品がある。yk2さんは天女と思ったのね。来世の楽園のようかも。三味線弾きの顔が見えないのは黒子的存在かと、上手い演出ですよね。

私に遠慮などなさらず(笑)、記事を書いてくださいまし。(←催促)
by TaekoLovesParis (2013-01-14 23:22) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます
▲りんこうさん、ちゃんと早い時期にいらしたんですね。ほんと、オールスター
という言葉がぴったり。有名な画家のものが一点ずつ(複数点の人もいたけど)でしたね。ミュージアムショップのカエル、私は気づかなかったけど、やっぱり、
りんこうさんはお買い上げですか。コレクションがふえましたね(笑)

▲Inatimyさん、展覧会のキャッチコピーを考えてくださってありがとう(笑)。
うるっ、いいと思うわ。私も、何が適当なんだろう、って考えたんですよー。
「美術に感動」が平凡だけどいいかな、いや、それ古いでしょ、とか自問自答してました。
屏風って、引っ込む部分と飛び出す部分、行く部分&来る部分という奥行きがあるから立体的で面白いです。しかも照明が当たっているから余計に見え方がいろいろなんですよ。はい、とっても幻想的で、森の奥へ、あの光は何だろうと、ひきこまれそうな感じもありました。

龍子の屏風は黒に金、しかも草花模様、重箱、なるほど、当然ね、これは写真で小さいから、そう思えますね!実際に見るとかなり大きな屏風なので、、黒塗りのお重とは思えないかなと。でも、Inatimyさんは、結構何でも食べ物に見立てちゃうから、やっぱりお重よ、って実物を見ても答えるかも(ゴメンナサイ)
by TaekoLovesParis (2013-01-14 23:55) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。遅い返事ですみません。
▲にこちゃん、松本竣介の生誕100年という展覧会が、世田谷美術館で昨年
あったんですよ。行きそびれちゃったんだけど。。オリーブグリーンのような背景色の作品、多いですね。暗いのは時代のせいなのかしら。この作品の他に最後の作品という「建物」、聖堂を描いたものがありました。そっちの方が素敵でしたが、人が多くて写真は撮れませんでした。

▲cocoさん、やっぱり「ぶるっ」はピンとこないですか。戦前の大御所の作品がずらり、という展覧会のタイトルには、あんまり、ですよね。たしかに、現代のほうが合う言葉ですね。
歌舞伎座の龍子の絵、階段の途中にありましたね。青獅子でしたっけ?
観山の絵、拡大で見てくださると、細かい所までわかるでしょ。それでも実際は
屏風だから、もっと大きい。しかも自分より高い位置だから、絵に、森の中に吸い込まれる感じがするの。

東山魁夷は、青緑色のイメージだけど、この赤の色の多彩さも良いです。豊かな
感じがする赤でした。
藤田嗣治は、「五人の裸婦」という乳白色で白磁のような美しい肌の裸婦5人の絵、フジタらしくて良かったです。こういうロマンのある絵を得意とする人が戦争画を描かされた、そのことが、戦争と言う時代の抵抗できない権力を感じました。そして戦争画にも手を抜かず、あんなにリアルな大作を描いてしまうところにフジタの真面目さがありますね。

▲チョコロさん、いいコメントですね~。笑っちゃいました。その通りですよ、ね。
私も、この犬の唄の人になら勝てるな、って(笑)
これ、本当は何か意味ありの像らしいのですが、ついつい。。
by TaekoLovesParis (2013-01-15 23:49) 

moz

結局いけませんでした・・・ ^^;
ぼくは佐伯祐三が見たかったんですが、次のブリヂストンの企画展に期待です。
本当だ 笑 シャルダンのに似ていますね ^^
面白い。
次はフランシス・ベーコンなんですね。人間が流れていく~みたいな・・・、一度展覧会見たことありますが、忘れられません。もう一度みたい画家です。
by moz (2013-01-17 05:52) 

TaekoLovesParis

mozさん、佐伯祐三がお目当てだったんですね。「ガス灯と広告」という
私は初めて見る作品でした。石壁に幾重にも貼られた広告。石壁のくすみ色が全体のトーン。左端にいる親子がパリっぽくてすてきでした。そういえば、ブリヂストンの3月からの展覧会の広告は佐伯祐三の絵でしたね。
シャルダンの木苺タルト(笑)
フランシス・ベーコンは、私は3枚の連作絵で人間が流れ、じゃなくて、溶けて
いくようなのを見たので、う~ん、あんまり、、ですが、今回近美に展示してあったのは、きれいなオレンジ色の背景、、、せっかく日本で展覧会が開かれるのだから
行ってみようかなと思ってます。
by TaekoLovesParis (2013-01-18 23:02) 

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