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2012年秋の展覧会(1) [展覧会(西洋画)]

最終日に出かけ、記事にしないうちに終わってしまった展覧会シリーズ。

1、イジス展
写真家イジス、初めて聞く名前だった。チケットをいただかなかったら知らないまま
だった。調べてみたら、フランスを代表する写真家として、ロベール・ドアノー、
ブラッサイ、アンリ・カルティエ=ブレッソンらと並び称されているとのこと。
2010年1月~5月までパリの市庁舎で開催された「パリに見た夢」写真展の
日本巡回。

IzisPanf.jpg 

最初のコーナーは、第二次世界大戦下、フランス解放軍レジスタンスの戦士たち。
制服に身をつつみ銃を抱え、くわえタバコ。鋭い目つき、こけた頬と無精ひげの人。
イジスの写真家人生はここがスタート。リトアニアに生まれ画家を夢見てパリに
来たが、第二次大戦がはじまったため、リモージュへ移住。写真の仕事をしたことが
あったので、持っていたカメラで、リモージュの戦士たちを撮った。

次のコーナーは平和が戻ってきた戦後のパリ。
セーヌ河畔でぼんやりエッフェル塔を眺め座る男にも、メリーゴーランドに乗る
女の子にも夢があった時代。
Izis7.jpg

写真には地名が添えられていたので、知っている場所だと、「あそこ、1950年はこんな
だったのね」と眺めた。Pont des arts(芸術家たちの橋)の下で抱き合う恋人たち。
チュルリーのセーヌ河岸で釣り糸を垂れる人、枯葉に埋もれて寝ている人、どれも
貧しいが夢のあった戦後を映し出している写真。

すずらんの日(5月1日)に広場ですずらんを売る親子。生憎、強い雨。
2人の間に会話はなく、人通りもなく、車が過ぎ去る。
ベレー帽が流行っていたんですね。
IzisMuget.jpg

この展覧会のチラシ、下の方はオペラ座の天井画を制作中のシャガールの写真。
この時代カラー写真は珍しかった。椅子に座って白い作業着で絵筆を握るシャガール。
絵の大きさがわかる。
イジスはシャガールから特別に制作中の撮影を許可されたのだった。シャガールも
イジスも同じロシア語圏出身のユダヤ人。共感するところも多かったのだろう*
実際に見ると、赤がまばゆく、とてもいい雰囲気の写真だった。
   *りゅうさんの記事参照してください。
 

[ハートたち(複数ハート)]パリマッチ誌依頼の取材写真コーナーは、昔の有名人がずらっと勢ぞろい。
ダダの詩人ポール・エリュアールは顔が2つだぶっていて、ダダっぽい写真。
作家ルイ・アラゴンはパートナーのエルザといっしょの写真。
「枯葉」で有名な歌手ジュリエット・グレコは、「枯葉」の作曲家コスマと一緒の写真。
足を組んで椅子に座り、じっとこちらを見る画家ピエール・スーラージュ。どこかで見た、、
と思ったら、ブリヂストン美術館の「アンフォルメルとは何か」展で、インタビュー動画が
流れていた人。
ピカソの愛人の1人で「泣く女」のモデルだった写真家ドラ・マールの写真もあった。

[カメラ]「サーカスの夢」コーナーは、昔のサーカスの写真。フランスではサーカスは見世物と
いうより芸術で、今も昔も人々に人気がある。
「約束の地の夢」コーナーは、約束の地イスラエルに入植してみたものの、厳しい
自然が待っていた。「殉教者の森への植林」、「エルサレムの谷」、ユダヤ人イジス
だからの報道写真。キャパが写したらまた違うのだろう。

2、ルオー「I LOVE CIRCUS」展

イジスの写真にもあったし、ロートレック、ピカソ、スーラ、シャガールも描いているサーカス。
中でもルオーは、全作品の3分の1がサーカスというほど、1900年から1950年まで、
サーカスを描き続けた。
ルオーのサーカスの絵だけを取り上げた展覧会。

Rouault.jpg

ルオーは貧しい少年時代、きらびやかなサーカスに夢中だった。特に道化師に
夢中だった。初期のパステル画も展示されていたが、華やかな道化師たちなのに
全体の色合いが暗い。

下の絵は、タピストリーのための絵なので、大きな絵。
「小さな家族」(1933年)。道化師の家族が一日の仕事を終えたところだろう。
失敗したのか、沈んだ顔のお父さんに「ねぇ、ねぇ」」と目を輝かせて無邪気に
話しかける子供。「お父さんをそっとしておいてあげなさい」と諭す母親。
後ろにサーカス小屋と対照的な明るい海の絵がかかっている。
この絵にルオーは豪華な額縁部分まで描きこんでいる。

「傷ついた道化師」(1929年) 白い三日月が寂しさを添える。
ステンドグラスのような色だが、ピエロたちは暗くさみしい。。

RouaultFamille.jpg   3piero.jpg

さらに年齢を重ね、上のチラシにある「貴族的なピエロ」(1942年)
太陽に照らされ、色合いも明るくなったピエロ。私はこれが一番好き。

この後、ルオーの描くピエロは、色が輝きキリストのようになっていく。
Rouault1.jpg  

当時のサーカスのポスター、写真など、資料も展示されていた。
同行の友達が、「シルクってサーカスなんだ」と驚きの声。フランス語でサーカスは
Cirque(シルク)。シルク・ドゥ・ソレイユは太陽のサーカスという意味ね。


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coco030705

こんばんは。
イジスはこのブログを拝見するまで知りませんでした。アンリ・カルティエ=ブレッソンは好きな写真家です。でもイジスもいいですね。私はすずらんを売る親子の写真が好きです。映画の一場面としても使えそうな、いい雰囲気ですね。

ルオーってキリストの肖像画というイメージなんですが、サーカスがすきだったんですね。私もシルク=サーカスとは知りませんでした。シルク・ドゥ・ソレイユは響きのいい言葉だなというくらいの認識しかなかったので、ひとつ賢く(?)なりました。
by coco030705 (2013-01-22 23:07) 

バニラ

イジスの写真、初めて見ましたが物語を感じる写真がすてきですね。
ルオーは、すべてがルオー?って感じ。

by バニラ (2013-01-23 21:36) 

ムーミン

イジスの写真は始めてですが、白黒の写真がいいですね。
ほんとに、物語が感じられます。
シャガールはカラーじゃないと伝わらない、ですよね。
いい写真があったんでしょうね。
ルオーは道化、サーカス芸人など、社会の底辺にいる人々を描いたものが
多いんですよね。
ピエロはなんか物悲しいですよね。
by ムーミン (2013-01-23 22:38) 

りゅう

お、イジス♪
見に行きたかったなぁ。
07年に上野の森美術館で開催されたシャガール展の時に初めて知りました。
シャガールの制作風景の写真が印象に残っています。
「生誕120年記念 色彩のファンタジー シャガール展 ~写真家イジスの撮ったシャガール~」
http://ryuu.blog.so-net.ne.jp/2007-12-30
by りゅう (2013-01-23 22:38) 

TaekoLovesParis

cocoさん、こんばんは。
「決定的瞬間」のアンリ・カルティエ=ブレッソン。インタビュー映画があることをcocoさんの記事で知って、見に行ったのは、もう何年も前。
http://april2605.blog.so-net.ne.jp/2006-07-15
モノクロの写真は余韻があって、何かを語りますね。すずらんの日は、街頭で誰でもすずらんを売っていいんですって。だから、この親子も、郊外からここに花を売るために出てきたんでしょうね。でも生憎の雨。やみそうもない雨。映画のストーリーができそうですよね。

ルオーは、私も太い輪郭線のキリストの肖像画が浮かびます。サーカスでも、ピエロの寂しげな苦悩の表情が多かったです。悩むのは人間に与えられた特権と言うけれど。。

きょう、2館で「レミゼ」が満員。代わりにミニシアターで「希望の王国」という映画を見ました。園子温(その・しおん)という監督です。
by TaekoLovesParis (2013-01-24 01:36) 

kazu-m

イジス、人の哀愁に溢れた作品ですね。
TVで、道化師の中でも目の下に涙をつけているのがピエロで、それは人の悲しみを表しているというのを見た覚えがあります。
若い頃のルオーは、自分の姿もそこに見ていたのでしょうか・・・

「随分目立たない車ね」ですか。僕も思わずあそこは(笑)
DB5から、V12ヴァンキッシュ迄、随分アストン・マーチンは登場しましたが、DB5はもはやオークションでしか出てこないようなので、目立ち度はピカ一じゃないでしょうか(笑)
P・マッカートニーのDB5には、4000万円のお値段がついたそうです。

一昨日は、アイスバーンの上に雨水が溜まりダイ・アナザー・デイの、V12ヴァンキッシュとジャガーXKRの派手な氷上のカーチェイス状態。
ハンドル握りながら、思わずオットット~(笑)
アストン・マーチンにしろジャガーにしろ、イギリスならではの重厚さ、高嶺の花ですね。
ブリティッシュレーシンググリーンを身にまとっていたら、イギリスの熱い魂かな~(笑)
そういえば、イギリス製の愛用品多いです(笑)
by kazu-m (2013-01-24 22:35) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲バニラさん、バニラさんもイジスは、初めてでしたか。日本橋三越は時々、
いい展覧会をやりますね。これは、フランス展といっしょの催事だったので、
出た所で、ワインやチーズ、オリーブ、チョコなどを売っていて、実演販売の
ガーリック系の匂いが充満していました。服やバッグも所狭しと置いてあり、
縁日の雰囲気があり、ついつい長居しちゃいました。

バニラさんが持ってらしたルオーのイメージと違う絵ばかりだったのかしら。
サーカスに特化していたからでしょうね。最終日だったので、混雑していました。

▲ムーミンさん、白黒の世界はレトロなだけでなく、想像させる部分が多いですね。じっと見てるうちに写真の中にひきこまれ、物語が浮かんできますよね。
シャガールの絵は、色が豊富だから、白黒じゃ、良さをだしきれませんね。

ルオーの描く人物の顔は、見る人に何かを語ってくれますね。社会の底辺に
いて、苦労を知っている顔さからこそ、メッセージがあるんでしょうね。

▲りゅうさん、記事へのリンクをありがとう。くわしく書いてあるから、本文に、
リンクさせてくださいね。今、読むと、一行、一行がはっきりわかります。
イジスとシャガールは、似たようなバックグラウンドで強い絆だったんですね。だから「サーカス」と「イスラエル」、2つの写真集の挿絵と表紙をシャガールが描いたんですね。メトの大壁画もシャガール。この制作の様子もイジスが写真に記録して
いるんですね。あれだけ大きいから制作も大変だったと思います。
りゅうさんはイジスの写真を御存じだから、この展覧会をご覧になったら、面白かったでしょうね。
by TaekoLovesParis (2013-01-25 00:17) 

yk2

某所でチケットを貰った(笑)ので、リヒテンシュタイン展を友人たちと観に行く前に、1人でふらり見てきましたが、今じゃすっかり忘却の彼方・・・でした。記事にしないと忘れちゃいますね(^^;。
でも、ねーさんの「フランス物産展と一緒にやってた」で思い出しましたよ~。何がって、パリじゃちょっとウルサイ人たちに人気のハズだったヴィクトワールのヴィクトワール(笑)が、あの日、まるで巣鴨のおばーちゃんブランドの様に催事場で吊されてたのを・・・(苦笑)。

肝心のイジスは、『グルネル橋』の構図(特に男性のポーズは)が、どこか北斎の様だなぁ・・・と感じて気に入りました。エッフェル塔が写っているから、リヴィエール経由で富岳三十六景を連想したせいかもしれませんけどね、僕の場合(^^ゞ。
by yk2 (2013-01-25 00:37) 

coco030705

再度お邪魔します。
私の過去のブログ記事の、リンクを貼ってくださいましてありがとうございます♪
昔はまじめに書いていたんだなあって、反省しました。(^^)また近いうちに
新しい記事をアップ致します。
by coco030705 (2013-01-25 22:39) 

TaekoLovesParis

cocoさん、アンリ・カルティエ=ブレッソンの「こころの眼」という写真展を東京、銀座のシャネルビルでやっているので、見に行こうと思っています。シャネルビルでは、フランス関係の写真展が時々開催されていて、入場無料なんですよ。メセナなんでしょうね。
新しい記事は映画「さよならドビュッシー」と、予想してます。
by TaekoLovesParis (2013-01-27 10:02) 

TaekoLovesParis

kazu-mさん、<イジス、人の哀愁に溢れた作品ですね。> → そうですね。だから、何年たっても見る人をひきつけるんでしょうね。
ルオーは、自分の悲しみをピエロに重ね合せていたのでしょうね。人一倍感受性が強く、絵に探究心が強いから、自分の心に映るピエロを通して、感情表現の先にある美の本質をも探ろうとしていたのでしょう。

007、DB5はスカイフォールの荒野でも目立っていましたよね。炎上した瞬間、
もったいない、って思いました。ポールは英国人だからやはり。ジャガーXKは、
フォルムが優雅で素敵。英国紳士のkazu-mさんですね。
by TaekoLovesParis (2013-01-27 10:24) 

TaekoLovesParis

yk2さん、デパートの催事場での展覧会は一歩外へ出ると、現実の世界。それも全く夢のないセール状態ですものね。パリの店の残り物を集めた感じでした。そういうときこそ、掘り出し物が、と真剣に見たので、時間がかかりました(苦笑)。ヴィクトワールはちょっと良さげなのがあったので、今度パリに行ったとき見に行こうかなと思いました。

「グルネル橋」は、映画のシーンのよう。橋の向こうにもうひとつ橋が見えて、電車が鉄橋を通り、隅田川にも似てると思いました。今はエッフェル塔代わりにスカイツリーがあるし、屋形船も時々通ります。
by TaekoLovesParis (2013-01-27 11:03) 

moz

写真展、行ったことがありません。でも、イジス、見せていただいて、とても興味がわきました。いい写真ですね。特に、すずらんを売る親子の写真、とっても惹かれます。行けばよかったです ^^;
ルオー、汐留の美術館でまとめて見たことがあります。ピカソほどではないけれど、時代によって作風がずいぶん変わっていると思います。色合いも、書き方も。
みんな良い絵だと思いますが、やはり、ぼくにはブリヂストンの2枚です。あの絵がもう概念として定着してしまっています 笑
ルオー、ブリヂストン、みたいな ^^;
お忙しくて記事にならなかったもの、記事にしていただいてよかったです。
特にイジス、覚えておきます。
by moz (2013-01-30 18:34) 

TaekoLovesParis

mozさん、イジス、今、思い出してもよかったです。写真が何かを語る、という感じでした。もちろんプロですから鮮明さは極め付け。ドキュメンタリーではないけれど、人々の人生を写し出しています。特にそう感じたのは、イスラエルでの人々や第二次大戦のレジスタンスの兵士たちといった辛く悲しい側面の写真でした。
瞬間を捉えても、そこから人生がわかる、写真の素晴らしさを感じました。

ルオーをまとめて汐留の美術館って、この展覧会だったかもしれませんね。日曜日、ブリヂストン美に私も行きました。2枚のルオーと佐伯の前で、mozさん、これね、って思いましたよ。mozさんの記事で予習して行ったようなものでした。ありがとう。
by TaekoLovesParis (2013-01-31 22:55) 

Inatimy

どうしても気にかかるのが『グルネル橋』の写真。
写真に写ってるのは、どうみてもビル・アケム橋(ビラケム橋)なんですよねぇ・・・。
グルネル橋はもっと下流にあるので、ここまで大きくエッフェル塔は見えないし。
イジスさん、タイトル誤った・・・?
by Inatimy (2013-02-02 00:21) 

TaekoLovesParis

Inatimyさん、「現代版エッフェル塔36景写真」を依頼されたInatimy特派員としては、橋とエッフェル塔の位置関係が気になりますよね。「ビル・アケム橋」というタイトルのもありました。どんな写真だったか、、、男の人が大の字になって寝ていた
ぶんだったような、、、肝心の所が記憶定かでなくて。
by TaekoLovesParis (2013-02-03 09:50) 

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