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アンドレアス・グルスキー展 [展覧会(絵以外)]

 国立新美術館に「アンドレアス・グルスキー展」を見に行った。
グルスキーは58歳、いま作品に最も高い値段がつくドイツの写真家で、
「ライン川Ⅱ」がニューヨークで433万ドルで落札され評判になった。

Gursky1.jpg

この展覧会には、グルスキー自身が選んだ代表作65点が展示されていた。
チラシの金色は、「カミオカンデ」(2007年)
巨大な円筒形のタンクの中に光電子増倍管がたくさんはめ込まれている。
鉱山の地下1000mにある素粒子の観測装置。

右下に小さく人間が配置され、金色の光が上に行くほど輝きを増しながら、
広がっていくさまは、コンピュータの内部のようだ。
写真に面白味がなかったので、CGで水を加えたそうだが、たぶん上の方
のことだろう。
つまり、グルスキーの写真は、写真をベースにしたアート作品なのである。

グルスキーは1935年ドイツ生まれ、祖父も父も写真家。デュッセルドルフ
の芸術アカデミーで、写真界の巨匠ベッヒャーに師事した。
初期の作品「ガスレンジ」、「クラウゼン峠」は、すっきりと洗練されているが、
加工をしていない写真である。
「釣り人」の写真も川、橋という景色に比して人間がとても小さいという
大きな自然の中にぽつんといる人間を撮っている。

作品はパノラマ写真で、大きいものが多い。色合いがとてもきれいだ。

gursky3.jpg

これは、チラシの裏。上の左が、「ライン川Ⅱ」(1999)
大きい作品ではない。グルスキーがいつもランニングをしている時見る光景
の写真。美しい画面にするために対岸の建物をディジタル技術で消し、限られた
色彩の水平線にし、シンプルさを追求した構成。

上の右は、「バンコック」(2011)
タイのチャオプラヤー川と撮った大きな写真。遠くから見ると抽象画のようだが、
近くで見ると、汚い川の水面、油が浮いていたり、花、段ボールのごみなど、
現実的。ゴミ部分は後から貼り付けているのだろう。
シリーズでいくつかあったので、「あ、また、ゴミ、汚いし時間ないからとばそう」

簡単に見れると思っていたけれど、どうやって作っているのか解明しようと、
じっくり眺め、2時間かかった。また作品は制作年代順に番号がついて
目録に簡単な説明があるが、作品のそばには説明がない。「今度何番?」
と目録を探し、読む、見るので思った以上に時間がかかった。

左下は「ピョンヤン」(2007)
大勢の人で形を作るマスゲーム。大きな写真なので、近づいて見ると、
ひとりひとりの顔、体型、ポーズがわかる。

右下は「99セント」(1999年)
ロスアンゼルスの99セントショップ。

この他に、私が好きだったのは、「ツール・ド・フランス」(2007)
つづら折りの山道を車が何台も連なり、あり得ないでしょう、の光景。
山の随所に置かれている木は全部同じ形。貼っている、とわかる。
画面全体に活気があり、ジオラマを写真にしたかのようだった。

「F1ビットストップ」(2007)は横長、実際の光景に近い。
「モナコ」(2006)は、半分から上は海、モナコグランプリのようすを上から
見たような作品。
「大聖堂」(2007)は、ステンドグラスだけがモノクロ。
「プラダⅠ(1996)」は、プラダの靴が横長画面に並ぶ。淡いピンクとグリーン
の額縁入りで絵のよう。
「プラダⅡ」(1997)は、プラダⅠの額縁部分だけ。あれっ?靴がない(笑)
「シカゴ商品取引所Ⅲ」(1999)、大勢の人の活気。
「福山」(2004)は、山を切り崩した下に牛舎が並ぶ。いくつもの正方形の
牛舎がアパートのように4階だて。「パリ・モンパルナス」(1993)の手法の
応用。
「これ!」って思わず笑ったのは、MoMAのポロック作品を撮っただけのもの。
しかもタイトルは「無題」

どの作品にも、グルスキーの工夫、メッセージ性があり、とても面白かった。
9月16日まで。おすすめです。


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コメント 11

coco030705

こんばんは。
おもしろい作品群ですね。カミオカンデはあの、ノーベル賞受賞の教授がつくられた装置ですよね。とてもきれいです。
「ピョンヤン」も美しいです。これが人がつくっているとはおもえないです。
「ライン川Ⅱ」がデジタル処理で対岸の建物を消した作品とは、おもしろいですね。
大阪に来たらいけるんですが、残念です。

by coco030705 (2013-09-06 18:55) 

ムーミン

メッセージが込められていて工夫がいっぱいの写真展、面白そうですね。あまり写真展は行く機会がないんですが、観てみたいですね。

by ムーミン (2013-09-07 06:31) 

ぶんじん

コンビニ(99セントショップ)の店内を写しただけなのに、アート作品に仕上げちゃうところが面白い。これは観に行かないといけないかな。
by ぶんじん (2013-09-08 08:34) 

moz

アンドレアス・グルスキー展、おもしろそうですね。
そうなんですね、最近のものはそのままではなくて、デジタル処理などを施したアート作品なんですね。なるほど、写真家? アーティースト?
厳密な区分はなさそうですけれど、深くておもしろそうです。
TaekoLovesParisさんが2時間かかったのも分かる気がします。
みんなよいけれど、最初のがやはりインパクトあるかもしれません。
あと少しの会期になってしまってますね、何とか時間を作っていってみたいです。
by moz (2013-09-09 05:58) 

匁

写真というより 写画 ですか?
このような分野も挑戦してみたいです。
特に工業技術と美術の融合は興味深いです。
by (2013-09-09 08:40) 

Inatimy

ちらっと検索してみました。 どれかもらえるとしたら「大聖堂」かな~。 
カラフルなステンドグラスをあえて白黒で見るのも静寂そのものでいいかも。 部屋に飾りたい。
「99セント」は、雨の休日にじーっくり何があるの隅から隅まで見てみたい作品ですね♪
by Inatimy (2013-09-09 20:23) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます
▲cocoさん、そうなの、カミオカンデは小柴先生の考案。グルスキーは写真を
見て興味を持ち、日本に来たとき、岐阜県まで行ったのだそうです。CGの力で宇宙空間のような仕上がりですよね。作品のそばへ近寄りすぎないよう、床にここまで、というテープが貼ってあり、踏むと警告音がなるそうです。でも、ちょっと踏んだくらいは大丈夫でした(苦笑)。
ピョンヤンは遠くから見たとき、垂れ幕のように見えました。織物っぽかったので。
近づいてみると、韓国人の女の子たちってはっきりわかります。

▲ムーミンさん、写真展なんだけど、映像美というより、作り出した面白さでした。
まさにアートですね。

▲ぶんじんさん、99セントショップは、横にとっても広いので、同じものがあるのでは(コピー部分があるのでは)と、目を皿のようにして見ましたが、同じ商品はありませんでした。奥行きが不自然に縮まっているし、、やはり、不思議な写真でした。
理屈で計れない、アート作品なんですね。

▲mozさん、グルスキーは写真家として出発したアーティストです。単に撮っただけのものはなくて、何らかの処理をしてアート作品にしています。写真を手段としてのアート表現なんでしょう。mozさんのように純粋にファインダーを通して被写体と向きあう人にも、刺激があると思います。立体を平面に置き換えたら、という試行とも思えました。

▲匁さん、対象物がカミオカンデやマスゲームというスポーツだから、匁さんにとっても面白いと思います。写真のように真実を写さず、画くから、写画、なるほど~
うまい言葉ですね。

▲Inatimyさん、大聖堂、面白いでしょ。この間、Inatimyさんが、「レッド」で、遺す色を赤にして、モノクロ写真を撮ったのに発想が似てますよね。
「99セント」、商品を見てみたんですよ。どこかがコピーに違いない、見つけようって思ったけど、結局、同じものはなく、降参しました。雨の日に、うん、いいかも。
by TaekoLovesParis (2013-09-09 22:15) 

カエル

わー、写真に手をくわえているアートって好きですね〜。
ゴミシリーズは、気になるなぁ。
タイのこの川、知ってるだけにね。
近くに寄ってじっくり見てみたいです!
by カエル (2013-09-12 12:52) 

TaekoLovesParis

カエルちゃん、チャオプラヤー川、知ってるんだったら、よけい、面白いわね。
この写真は、飛行機に乗ってる時、見えた地上の景色がヒントになったんですって。そういう感じあるでしょ。
by TaekoLovesParis (2013-09-14 01:22) 

りゅう

なるほど~、写真に一手間加えたものがメインなのですね♪
Taekoさんがご紹介されている作品からすると、ここ10年、20年位の作品が多いようですが、PCによる画像編集が容易になったことも制作活動に大きく影響しているのでしょうか。写真家としての経験と創作が融合された表現なのかな?
7月に貴婦人と一角獣展を見に行った時、この展覧会も開催されていました。
チラシを見て、おっ、これはカミオカンデ?スーパーカミオカンデ?!って思いつつも、それ以外のもには興味も無く時間も無かったので、おもいっきりスルーしました。(^_^;)
by りゅう (2013-09-16 03:39) 

TaekoLovesParis

りゅうさん、おはよう。
関東地方に台風上陸はお昼頃かなぁ。。
風の音を聞きながら、寝てました。
グルスキーは、予想外の面白さでした。おっしゃる通りですよ。写真加工ソフトが一般に使えるようになった1990年代から、作品が加工物に変わります。初期のものは、不要なものを消したり、色を置き変えたり、コピペ、どうやって作ったのか解明する楽しさがありました。親子三代の写真家という下地があってこそ、ですね。りゅうさん、貴婦人と、、の感動のあとじゃ、ご覧になっても、頭の切り替えが大変だったかも。私は、アメリカン・ポップ・アートをついでに見ました。
by TaekoLovesParis (2013-09-16 11:04) 

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