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マグリット展 [展覧会(西洋画)]

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私のまわりで「マグリット、知ってる?」ときいてみると、80%の人が「知らない」という答。
↓ を見せて、「この絵を描いた人」というと、「あー、これ、見たことある」という人、数名。

MG3.jpg 白紙委任状(1966年)

「それより、同じ国立新美のルーヴル展に行きましょ」と、思わぬ答がかえってきたり。。

で、行ってみたら、予想よりずっと面白かった!
展示作品が125点と、かなり多いし、それらが、年代順になっているので、見やすく、
絵の解説に、時折、添えられているマグリットの言葉から、彼がとても思索的な人だと
わかり、よく知ってる絵に対しても見る目が変わった。今までは、感じていただけだけど、
少し理解できるようになったのかと思う。

では、生い立ちから。
マグリット(1898~1967)ベルギー生まれ。ブリュッセルの美術学校で未来派、
フォーブ、キュビスムなどを学ぶ。卒業後は広告などグラフィックデザインの仕事を
していた。

●初期
27歳の作品「水浴の女」(1925年)
幾何学的形態にアールデコの影響もみられる都会的なデザイン。
後の作品に登場する球体、窓、海が描かれている。

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●シュルレアリズムの時代
シュルレアリズムのデ・キリコの影響を受け、作風が一変する。
「困難な航海」(1926年)は、演劇の舞台装置のような構成。窓の外には嵐の海。
船室内の机の上に置かれた暗示的な義手。画面ほぼ中央に置かれた西洋けん玉。
眼が描かれているから人間に見立ててるらしい。
この絵から何を読み取ったらよいのだろうか?

マグリットはパリに転居し、シュルレアリストたちのグループに加わった。

恋人たち(1928年)
デ・キリコふうの恋人たちに甘い雰囲気はない。なぜ、顔を覆ってるのだろうか?
「ふたりで名前消して、その時心は何かを 話すだろう 、、」とも違うし。。

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若い頃、広告の仕事をしていたので、彼が描く絵は、明快で印象に残る。

●最初の達成(1930~39年)
達成って、今、私たちが認識しているマグリットらしさが確立された時代。
「野の鍵」(1936年)
割れて落ちたガラスの破片に、割れる前の外の景色が転写されている。
摩訶不思議な光景だが、時間の差、目に焼き付いていた景色と今の景色。
現実と虚構がひとつの画面に表されている、と解釈した。

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●第二次世界大戦時と戦後(1939~1950年)
マグリットの作風はガラリと変わる。ルノワールのような明るく華やかな色遣いは、
ナチスへの恐怖の暗い時代の裏返しだった。「炎の帰還」は怪傑ゾロのような大男
が街を踏みつぶし、「どうだ」というポーズ。街は赤く燃え上がっている。
「不思議の国のアリス」というシュールな絵や、けばけばしい色合いで粗いタッチの「雄牛」、
共感できないが、そうせざるを得なかった時代なのだとわかる。

シェヘラザード(1948年)
シェヘラザードは、アラビアンナイト(千夜一夜物語)の語り手である。
真珠で顔を飾ったシェヘラザードが、「夜が明けて来たので、続きは明晩」
と言ってるところだろうか。得意のモチーフ青空と雲が登場。

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●回帰の時代(1948~67年)
50代を過ぎ、30代の頃に確立した様式へ回帰。
「光の帝国Ⅱ」(1950年)
ぽっかり雲の青空。空は昼間なのに、街は灯りをともした夜。

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「ゴルゴンダ」(1953年)
チラシに使われている絵。山高帽をかぶった紳士がビルの間に浮かんでいる。
観察すると、人の大きさは3通りあり、規則正しく配置されている。


「現実の感覚」(1963年)
重力から解放され空に浮かぶ大きな岩。空には月も出ている。
地上の山並みが清々しく美しい。

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「ガラスの鍵」(1959年)
モンブランのような雪をかぶった白い山の後ろに浮かぶ白い岩。手前には
岩肌が黒っぽい山。白と黒の対比も美しく、清々しい空気感。

「空の鳥」(1966年)
雲がぽっかり浮かぶ青い空と同化した鳥が海の上を飛んでいる。
マグリットの代表作と言われる時もある。

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125点の作品は、ブリュッセルのマグリット美術館を始め、世界各国から集めて
きたもの。マグリット展は、20年前に新宿の三越美術館で見たのが初めてで、
その後、パリでの展覧会を見たが、今回のが一番見応えのあるものだった。
終了後は京都に巡回するとのこと。

mozさんのマグリット展記事はこちら   私の所にない絵がいくつも紹介されています。

コザックさんのマグリット展記事はこちら  簡潔で文章が楽しいです。

*cocoさんのマグリット展の記事はこちら  京都への巡回でご覧になってます。ここも、私のところとは違う絵が

                            紹介されています。


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コメント 14

コザック

こんばんは
この展覧会見ごたえありましたね。
初期のころからの作品の変遷を見やすく解説されていたりして
順を追って鑑賞するだけで、とても勉強にもなってしまうお得な感じでした。
後半になるにしたがって、有名な作品が出てきてちょっと安心感もありました。
よくぞここまで集めてくれたと、観て回るとワクワク感の尽きない企画展でしたネ(^^)v

by コザック (2015-06-25 00:38) 

moz

マグリット展、見応えのある展覧会でしたね。TaekoLovesParisさんが書かれているように、マグリットって思索の人なんだ、哲学的ともいえる考えや思いをキャンバスの上でパフォーマンスした画家なんだと、この展覧会を見て、じぶんも気づきました。また、じぶんの知らないマグリットの作品達(マグリットのイメージとかけ離れている作品達)にも会うことができて、マグリットの多様性、時代による変遷も知ることができました。とても充実した展覧会だったと思います。
あとモチーフもお気に入りのものがあって、キャンパスと言う舞台で俳優たちが演じさせているようにも思えて面白かったです。 ^^
by moz (2015-06-25 05:29) 

coco030705

こんばんは。
年代別の解説、わかりやすく興味深かったです。楽しい絵が多いですね。有難うございました。今度京都に巡回するはずですので、ぜひ行ってみますね。

by coco030705 (2015-06-25 21:10) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます
▲コザックさん、いらしたのは、桜の季節だったんですね。3か月間やってるとは、結構、長いですね。私は8時までやってる日曜日の遅い午後に行ったので、そんなに混んでませんでした。順を追って、解説を読みながら、見て、時々、友達に「これの意味わかる?」って話しかけたりで、時間がかかり、マグリットの世界に浸ったという充足感がありました。もちろん理解できないものもありましたけどね。
時代の影響がそのまま絵に現れていて興味深かったです。

▲mozさん、もう一度、mozさんの記事を読みました。
<一人で展覧会に行くのも好きですが、気の置けない友達と一緒に行くのはやはり楽しいです。>→ 特にマグリットはそうですね。ひとりで行くより、違う感じ方を聞くことで、新しい見方を教わりました。

形而上学とか弁証法とかメタモルフォーゼ(変身、変容)、など、哲学的な言葉。「ヘーゲルの休日」という傘の上にに水のはいったコップがのっている作品。
コップのデッサンを100回したら、水位の線が持ち上がって傘になった、、。卵を見ながら写生してると、だんだん卵が鳥に見えてきた「洞察力」、という絵。マグリットは、対象物を観察してると、それが〇〇に見えてくる、対象物の中に潜んでるものが見えてくる、それが、彼の絵の特徴なんだと私なりに理解しました。
mozさんのご指摘どおり、お気に入りモチーフは、使いまわしてて、「またあった」と親しみを感じて楽しかったです。モチーフは俳優ね、なるほど。
広告で鍛えた腕での明快な描き方、一つ一つの絵が心に残りました。

▲cocoさん、以前の展覧会では、明るく楽しく不思議な絵、という印象だったのですが、今回、年代順での展示で、彼の言葉も添えてあるので、どう考えて、この絵が生まれたのか、がわかって(60%くらいね)、ちょっと勉強したな、って感じがあります。ぜひぜひ、ご覧になってくださいね。
by TaekoLovesParis (2015-06-26 23:34) 

yk2

僕には難しかったなぁ、すご~~~く。
横浜美術館の常設でいつも彼の絵を見てるし、大好きなフォロンが少年時代、初めて芸術に触れたと感じたのがマグリットであって、そんなことから勝手に近しい感覚を持っていたんですが、全く的外れの独りよがりでした。絵に添えられた彼自身の言葉に困惑して、彼の意図が理解出来ずに作品の前で腕組みして立ちすくんでしまう事しばしば。一切の解釈を受け付けない画家が何を思って、これらの絵を描いたのか。絵は何を表しているのか。それを少しでも読み解くために、かつて手に取って何がなんだか理解出来なかったマラルメの詩集やボードレールに、今更初めてフロイト読んでみようかなぁだなんて考えちゃいましたよ。それ以前に、図録に載ってる学芸員さんの文章でさえ、なかなかに難解で困ってますけど(^^;。
by yk2 (2015-06-27 04:12) 

コザック

おはようございます。
ご紹介ありがとです(^^)/
こういった作品は「Don't think, feel!」が私のなかで基本なんですが
今回のような鑑賞しながらいろんな知識を植えられて観る「feel!」は
格別にたのしい気分に浸らせてくれますね(^_-)-☆
by コザック (2015-06-27 08:10) 

TaekoLovesParis

yk2さん、今までのマグリットの展覧会では、彼の言葉は添えられてなかったけど、今回、それがあることで、読むと、眼の前の絵と文章がすぐに結びつかず、難しかったですね。弁証法って定義なんだったけ?って、うちに帰って調べたけど、窓の内側に建物が見える絵は、説明つかず、でした。

横浜美術館常設の「青春の泉」、最後の方に展示されてましたね。OISEAU=鳥でなく、ROSEAU =葦、パスカルの「人間は考える葦である」の葦。葉っぱは、「オリーブの葉」、鳥は鳩。聖書で、洪水の後、オリーブをくわえて帰って来た鳩を見て、ノアは、洪水が終わった、地面が乾いたと知る、、図録を読んで、そうだったのか、とようやく少し謎が解けました。でも、まだ、完全にわかってません。

yk2さんは、「スティーブ・カーンのCDジャケがフォロンの絵」という記事を書いてらっしゃいましたね。フォロンもマグリットと同じベルギー人なんですね。二人とも絵が広告に使われる、イラスト的なシンプルさ、綺麗な色づかいという共通点がありますね。
<マラルメの詩集やボードレールに、今更初めてフロイト>→ 美術から詩、心理学(哲学)と、yk2さんの得意分野は芸術全体になってきますね。
by TaekoLovesParis (2015-06-28 01:08) 

TaekoLovesParis

コザックさん、たとえば、ピカソの作品もひとつひとつ制作意図があるのだから、それを知ってる、知らないで、絵への理解度が違ってくるな、って思いました。
あれ?これはコメントへの返事になってない?
by TaekoLovesParis (2015-06-28 01:14) 

staka

私も、ルーヴル展には入らずに、マグリット展を見てきました。以前の展覧会から数十年ぶりの再会でしたね。記憶にない絵もたくさんありました。
by staka (2015-06-28 14:18) 

Inatimy

パリからブリュッセルに所用で出かけた時に、空き時間を使ってマグリット美術館に行ったことが。
(以前のブログのほうに、ポストカード載っけてます)
あの時、意外にも明るい色使いの絵があって驚いた覚えが。
どうしてなんだろうな、と思いつつも、解説はオランダ語とフランス語だけしかなかったし、
帰りの列車の時間まで1時間しかなく、駆け足気味に見たもので^^;。
Taekoさんの記事の<第二次世界大戦時と戦後>というので、数年を経て納得です^^。
空は曇ってるけど、初期の作品も、なかなかいいですね〜。
by Inatimy (2015-06-28 17:33) 

TaekoLovesParis

stakaさん、今回のマグリット展は、回顧展ということで、年代順展示だったから、私が知っているマグリット作品にどのようして辿りついたのかがわかって面白かったです。
by TaekoLovesParis (2015-06-29 00:30) 

TaekoLovesParis

Inatimyさん、ブリュッセルに行ったときの記事にマグリットの絵、8枚も出てたんですね。。Inatimyさん、マグリットらしくない明るい色づかいの絵たちと4枚も紹介してくださって、画風の変化に気づいてらしたんですね。記事では抜かしたけれど、1947~1948年、短い期間だけど、「ヴァーシュ(雄牛)の時代」、荒いタッチで表現主義的な技法。ちょっとグロテスクな「飢饉」が展示されてました。Inatimyさんの記事の「ポンポ ポンポ ポン ポ ポン ポン」がまさに、この時代の作品です。
「石ころ」も、ね。見応えのある充実した展覧会でした。
私も初期の作品、かわいくて、明快で、都会的で好きです。
by TaekoLovesParis (2015-06-29 00:59) 

匁

匁も80%のうちですね。
青い空に白い雲、参考になるかも?。
イラスト風で好感持てます。

首位奪取おめでとうございます。
今週末はいよいよ首位攻防戦です。
それまで借金にならないよう頑張りましょう。
by (2015-07-08 08:16) 

TaekoLovesParis

匁さん、おはようございます。
「光の帝国Ⅱ」の雲が、匁さんの絵に合うんじゃないかと思いますが。

交流戦で、セ・リーグは借金チームばかり、といういびつな形になってしまいましたね。でも、G軍はようやく打線復活。T軍は昨日はちょっと休憩だったけど好調。明日からの1位、2位対決の巨人阪神戦、楽しみですね。
by TaekoLovesParis (2015-07-09 08:38) 

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