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ヘレン・シャルフベック展 [展覧会(西洋画)]

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ヘレン・シャルフベック(1862~1946)は、フィンランドの国民的画家。
フィンランドでは、知らぬ人がいないほどの存在。

「行ってみない?」と誘われた時、知らない画家だけど、ハンマース・ホイも
2008年の展覧会で初めて知り、好きになったデンマークの国民的画家。
ヘレン・シャルフベックは女性画家だし、好きな作家がひとりふえるかも、と
期待して出かけた。

行ってみて、フィンランドという国について知ることができた。
フィンランドで思い浮かぶものは、Nokia、Linux,ムーミン、サウナ、マリメッコ、
アラビア社、アキ・カウリマスキ...
とても先進的な国だと思っていたが、それは最近のことで、生誕150年の
ヘレン・シャルフベックが生きた時代は、貧しい混乱の時代だった。長年、ロシアの
占領下にあったが、ロシア革命の混乱に乗じて独立(1917年)を果たした。

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「黒い背景の自画像」(1915年)
凛として美しい。絵筆のはいった容器が後ろに見えるので、画家であることを示す
自画像であり、上の方に自分の名前が描いてある。画家として確立した時期で、
頬の紅色が顔に華やぎを与えている。

シャルフベックは、3歳の時、階段から落ちて、片足が不自由になり、杖をついて
過ごすようになる。そのため、歩いて数キロある小学校に通うことがムリだったので、
家庭教師について勉強をし、絵の才能を見出され、11歳でフィンランド芸術家協会
の素描学校に入学許可をされた。その後、ベッカーの画塾にはいる。ベッカーの師が
トマ・クチュールやコローで、ベッカーはクールベに傾倒していたので、シャルフベック
が展覧会で高い評価を受けた18歳の時の作品「雪の中の負傷兵」(1880年)には、
クールベの影響が見受けられるそうだ。

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18歳の少女が、撃たれて顔に血が滲んでいる若い兵士を描くというのが、私は、
とても不思議で、この時代、戦争が身近だったのだろうか、と気になった。ナショナリズム
台頭の時代で、フィンランド独立運動がおきていた。

この絵が入選して奨学金を得、シャルフベックはパリに留学をする。
パリでは、レオン・ボナやジェロームの指導を受ける。当時、パリでは、レアリズムの
騎手バスティアン・ルパージュやマネ、セザンヌ、シャバンヌらが活躍していた。
シャルフベックは、レアリズム的筆致で、母と子や「炭焼き職人」などを描いた。

この頃、ヨーロッパ全土にナショナリズムが台頭し、国家の独立に関連する歴史画に
需要があった。ロシア・スウェーデン戦争で犠牲となった15歳の国民的英雄戦士
を主題とした「シュヴェリーン公ヴィルヘルムの死」もフィンランド政府から賞金を
得た。

さらに、1888年に描いた「回復期」(下の写真)は、パリ万博で銅メダルを得、
シャルフベックは国際的な名声を得た。印象派の影響がみられる絵である。
これは代表作なので、チラシに使われている。

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シャルフベックはフィンランドに戻り、ヘルシンキ郊外の田舎町で母親と2人、ひっそりと
暮らしながら、パリで出会ったいろいろな画家たちの影響を受けた作品を描いた。
ホイッスラーの「灰色と黒のアレンジメント、画家の母の肖像」を彷彿させる
「お針子(働く女性)」(1905年)

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セザンヌの影響を感じる「赤いりんご」(1915年)
この色彩感覚はボナールかなとも思う。

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ローランサンふうの「諸島から来た女性」(1929年)
こういうモード画的なものは、女性ならではと思う。

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シャヴァンヌふうの自画像やマネの「フォリー・ベルジュールのバー」のモデルの
女性を念頭に置いて描いた作品もあった。

同時代の画家だけでなく、晩年は、エル・グレコの作品を再解釈し描いていた。
「天使断片」(1928年)

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他にも「横顔の聖母」や「慈悲の聖母」など、エルグレコの再解釈模写が
たくさんあった。

「おや?」と驚いたコーナーは、ベラスケスの「王女マルガリータ」、
ホルバインの肖像画、デル・ホルフの風俗画、フランツ・ハルスの肖像画などが
展示された壁面。「なぜ、この絵がここに?」
全部、シャルフベックによる模写なのである。
当時、フィンランド素描学校には、お手本となるヨーロッパ絵画がなく美術館も
なかったので、国の依頼で、有名なヨーロッパ絵画をルーヴルで模写したのだった。

84才と長生きだったシャルフベックは自画像をたくさん残している。
失恋の痛手の時期の自画像はかなり悲痛な面持ちで、晩年は老醜をみごとに
さらけ出している。最後の最後まで画家であったのだろう。

「自画像 光と影」(1945年)

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moz

シャルフベック展、美術館でチラシを見て気になっていました。
なるほど、フィンランドでは知らない人がいないほどの有名な画家なんですね。フィンランド色々と有名なものがありますが、自分だとちょうど生誕150年のシベリウスでしょうか。今年はコンサートでも取り上げられることが多いです。それとやはり、北欧のフェルメール、ハンマースホイですよね ^^
シャルフベック、色々な画家の影響を受けて色んな感じの作品を画いているんですね。ほんとうにホイッスラーやボナールがいると思います。
最初の方に乗せて頂いているのが、シャルフベックらしい作品なのでしょうか?
お針子や、雪の中の負傷兵、内面ないあふれていて趣きがあって、良い感じですよね。 ^^

by moz (2015-07-10 07:43) 

gillman

ぼくも行きました。彼女の絵の変容そのものが彼女の人生であり、作品なんだと思いました。
by gillman (2015-07-10 14:44) 

coco030705

こんばんは。
とてもいい展覧会ですね。この画家は知りませんでしたが、「雪の中の負傷兵」は印象的です。Taekoさんがおっしゃっているように、18歳の少女が描いた絵とは思えませんね。才能があるのが見て取れる作品ですね。色々な画家の絵を彷彿とさせる絵が並び、とても面白いと思いました。解説有難うございます。
東京在住だったら明日にも行きたいくらいですが、ちょっと無理かもしれません。残念です。


by coco030705 (2015-07-10 17:55) 

nicolas

わー、すてきーー自画像の色合いいいなぁ♡
でも、ヘレン・シャルフベックさん、まったく知りませんでした。
軽いタッチはアニメ調にも見えそうですが、ちゃんと重さが見えますね。
撃たれて倒れておる兵士、なんだろう、すごく惹かれてしまいます。
時代が背景にあったとしても、彼女の何か見る目が違っていたんでしょうね。

by nicolas (2015-07-10 18:16) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます
▲mozさん、フィンランドといえば、「フィンランディア」の作曲者、シベリウスでしたね。忘れてました(-_-;)。生誕150年、シャルフベックより3歳下ですね。音楽家を思い出してくださるのは、さすがmozさんです。フィンランドは林業と農業の国だったのに、いち早く携帯電話でITの国になったんですよね。
最初の方、初期の作品の「回復期」が代表作と言われてます。「黒い背景の自画像」はチラシの背表紙に使われていたから、やはり、シャルフベックらしい作品なんでしょうね。晩年は、キュビズムっぽくなって、さらにそれがデフォルメされ、形がはっきりしなくなって、、私はあまり好みではありませんでした。

▲gillmanさん、初期のリアリズムから、パリへ出ていろいろな作品に触れ、吸収して、画風が変わっていくのが、年代順の展示なので、見て取れましたね。失恋があれば、それを絵にぶつけ、だったので、絵から人生がわかりますね。女性ならではの感受性が表れている作品も多いと思いました。

▲cocoさん、18歳でこれだけの絵が描けるのは、すごいですよね。当時、求められている絵が、ロシア・スウェーデン戦争での逸話だったから描いたのでしょうけど、並々ならぬ絵への情熱が伝わってきますね。
誰々ふう、が、続々、現れて面白かったです。真似ることで、さらに腕を磨いていったのでしょうね。
<東京在住だったら明日にも行きたいくらいですが> → そんな熱い思いがうれしいです。女流画家は、応援したくなります。晩年の柔らかいトーンの色彩は、女流画家ならでは、かなと思いました。芸大美術館はこじんまりしていて、見やすいです。

▲にこちゃん、「黒い背景の自画像」、シンプルな三角形構図で、黒にドレスの白が洗練された感じで、いいですよね。モデルを雇えなかったから、という理由で、自画像がたくさんありましたが、これが群を抜いて良いです。
アニメとかイラストっぽく見えるのは、キャンバス地が所々見える薄塗りだから、っていうのもあるかしら。顎にひかれた輪郭線で、凛とした強さを感じさせました。
撃たれて倒れてる兵士、眼を開いてるんですよ。画面を横断しそうな木が彼を支えてくれてるような。遠くに撤退する兵士たちが見える雪景色は、寂しさを感じさせます。たしかに、にこちゃんの言うとおり、シャルフベックの見る目は普通の人とは違ってますね。
by TaekoLovesParis (2015-07-10 23:41) 

コザック

すごく気になっている展覧会!
一度観たら目に焼き付く画ですよね☆
観に行きたいなぁ~と思っていました。
が、東京藝術大学大学美術館...
というのがどこからどう入っていいのか。。
「~ふう」という解説がとてもわかりやすかったです(^^)/

by コザック (2015-07-10 23:41) 

ひこうき雲

ヘレン・シャルフベックさんは初めて知りましたが、「雪の中の負傷兵」当時のフィンランドの時代背景を考えると、とてもひしひしと伝ってきます。
彼女にとって、とても近い世界の出来事。
きっと両親やお爺さん、お婆さんからも語り継がれたんでしょう。
彼女の生きた時代にも、ロシア、ソヴィエトとの暴動、戦争が起きています。
シベリウスの「フィンランディア」の当初の名前は「フィンランドは目覚める」、帝政ロシア政府がフィンランドへの愛国心を沸き起こすとして演奏禁止処分になったそうです。
他にも叙事詩「カレワラ」、幾多の戦争で割譲された国土が白く塗りつぶされた地図(僕の小学校の頃の日本地図は、北方四島が白く塗りつぶされていました)。
其の度に、何万人もの命が失われてきました。
背筋が凍るような、ソヴィエトとの国境線、オマケは不審者と思われ国境警備隊の追跡を受けた思い出。

とても多彩なタッチに驚きです。
観に行けなくて残念です。

by ひこうき雲 (2015-07-11 21:07) 

yk2

ヘレン・シャルフベックの名前は知りませんでしたが、『雪の中の負傷兵』って絵で影響を受けたと思われるクールベ作品は、おそらくオルセーにある『傷ついた男』と云う絵のことでしょうね・・・なーんて、何の資料も見ずにサラサラと口に出せたら格好良いんでしょうねぇ(^^;。僕はやっぱりオルセーにある、カロリュス=デュランの『恢復期の病人(傷ついた男)』とイメージがごちゃ混ぜになってました(苦笑)。修行が足りない?(^^ゞ。

シャルフベックの『回復期』、とてもいい絵ですね。ぼかすことなく籐椅子の編み込みも描いているので、ストレートに印象派の影響云々ってよりも、アカデミックな風合いちゃんと見て取れる気がします。折衷派的って云えばいいのかな。だからか僕にはこの絵がルパージュに近く思えるみたい。それが気に入る理由かもしれません。taekoねーさんのお好きなルパージュ『干し草』とは、ちょっとイメージが違いますけど(笑)、描かれているのが子供だから、『お手上げだ!』に通じる様な親近感があるのかも。
by yk2 (2015-07-12 13:21) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます
▲コザックさん、芸大は上野公園、東京都美術館のさきです。博物館の通りに面してて、道路の左側が美術学部、右側が音楽学部になっています。美術学部の門を入ってすぐが、美術館です。お金をとるから、わかりやすい場所にあるんですよ。この辺りの雰囲気、上島珈琲のカフェも出来て、秋にはちょっといいです。

▲ひこうき雲さん、フィンランドの歴史を知らなかったけど、長い間、スウェーデンの一部だったんですね。そして、長く続いたロシアの支配下への反発が国民的運動になっていったんですね。
フィンランディアには、そういう意味があるとは知りませんでした。讃美歌の「安かれ、我が心よ~」の元になった曲として知ってただけでした。国境問題、領土問題はいつの時代にも起きてますね。竹島の問題も北方領土も。
国境警備隊の追跡を受けたのは、ひこうき雲さんだったのかしら。

▲yk2さん、『雪の中の負傷兵』からクールベの『傷ついた男』を探してくださったとは、さすが、絵画知識が豊富なyk2さんですねー。『恢復期の病人』もみてみました。ベッドに横たわるようすが、『雪の中の負傷兵』につながる気がします。
少女が無垢でかわいい「回復期」、籐椅子に当たった光と白い寝具で絵全体が明るくなっていますね。シャルフベックの制作はレアリズム的な絵から始まっているので、印象派の要素を取り入れてもレアリズムは残って、だから、折衷でしょうね。
絵を載せてなくて、タイトルだけの「シュヴェリーン公ヴィルヘルムの死」の中にルパージュの「干し草」の少女と同じポーズの呆然とする老兵士がいるんですよ。
『お手上げだ!』、瞳のかわいい坊やでしたね。忘れられない絵です。

by TaekoLovesParis (2015-07-13 00:48) 

Inatimy

私も初めて名前を聞いた画家さんです。
「雪の中の負傷兵」を見て、ふと思い浮かんだのは、
ジェロームの「仮面舞踊会の後の決闘」でした。
「赤いりんご」は、オディロン・ルドンっぽいなと^^;。
一生の中で描いた絵、どんどん雰囲気が異なっていきますね。
いろんな人、様々な物事から影響を受けて、それを絵に反映させることができるのって、
ただただ、すごいなぁと思います。
by Inatimy (2015-07-13 06:57) 

匁

今日は Lions秋山祥吾がパリーグ新の32試合連続安打達成なるか注目です。 BS12 で放送されます。
楽しみです。

「諸島から来た女性」北欧らしい顔立ちですね。
「赤いりんご」も好きです。
by (2015-07-14 09:07) 

カエル

チケットがお財布にはいったままで、それで行けるのか??私!
さらーっとだけにしておきます。
行ったらじっくり読むので戻ってきます!
by カエル (2015-07-14 15:51) 

ナツパパ

あ、行ってみたい。
...いつまでだろう、調べなくちゃ。
by ナツパパ (2015-07-14 16:04) 

TaekoLovesParis

匁さん、秋山、残念だったけど、チームのためには良い選択だったのでしょうね。
ファールに持ち込んで、粘る可能性もあったのに、四球を選びましたね。その結果、おかわりくんの3ランで、西武は連敗から脱しましたね。秋山ならまたの機会をねらえますね。
by TaekoLovesParis (2015-07-15 00:51) 

TaekoLovesParis

カエルちゃん、チケット持ってるんだったら、見逃さないようにしないと。
でも、芸大美術館、駅から歩くとちょっとあるし、暑いから。。、私は上野駅公園口にタクシーがいたので、迷わず乗りました。いつもは、歩いてるけど、夏はきついわね。
by TaekoLovesParis (2015-07-15 12:49) 

TaekoLovesParis

ナツパパさん、いつまでか書いてなくてすみません。このチラシ写真じゃ見にくかったですね。26日までです。駅から暑いので、木陰を歩いてくださいね。
by TaekoLovesParis (2015-07-15 12:52) 

TaekoLovesParis

再び、匁さん、「諸島から来た女性」は、ほんと、北欧ふうの顔立ちですね。黒い背景が薄いピンクの帽子と服、白い肌を浮かび上がらせてますね。匁さんの「天秤座の女」にも通じる眼遣いと思いました。
赤いリンゴは若い頃の作品で、リンゴが元気ですが、最晩年には、「黒いりんご」があって、ちょっと痛ましいです。
by TaekoLovesParis (2015-07-15 12:58) 

TaekoLovesParis

Inatimyさん、<ジェロームの「仮面舞踊会の後の決闘」>は、Inatimyさんのジェローム展記事で見せていただいて、印象に残ってます。やはり雪の中、決闘で血が滲み、、。ドラマティックな場面は、絵画にふさわしいテーマなんでしょうね。
「赤いりんご」、そうね、このブルーがルドンが使うブルーっぽいし、赤との対比も、ね。はっきりしない輪郭に幻想的な感じがするから、いっそうルドンかもね。
情報の少ない昔のフィンランドで、絵に関して、貪欲にいろいろ情報収集し、マネてみてたようです。どれが自分らしいか考えてたのかしら。長生きしたので作品もたくさんあります。
by TaekoLovesParis (2015-07-15 13:04) 

コザック

こんばんは
行ってきちゃいました。
この美術館自体も素敵でしたが、ヘレン・シャルフベック自身の作品をたくさん生に触れることができ有意義な時間を過ごすことができました。
Taekoさん記事で予習していったのですんなり理解できたしココロのうちが作品にとても表れているなぁと感じちゃいました(^^)
行ってよかったデス(^_-)-☆
by コザック (2015-07-18 19:31) 

TaekoLovesParis

コザックさん、お出かけくださったんですね。うれしいです。
芸大の赤レンガの門は、昔の美大のなごりです。建物を改築した時に美術館を作ったので、芸大美術館は、まだ、それほど歴史がないから知らない人も多いと思います。きょうは時々雨模様だったけど、涼しかったから、上野の森も気持ちよかったことでしょう。
フィンランドという国が身近になった気がしませんか?
その時代に評判の画家のテクニックを取り入れて、研究していますね。
<ココロのうちが作品にとても表れているなぁと感じちゃいました(^^)>→ わかりすぎて、見ているこちらが辛くなったりしますね。感受性が強いからこそ、失恋は大きな痛手だったんでしょうね。
by TaekoLovesParis (2015-07-18 23:16) 

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