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逆境の絵師「久隅守景」展 [展覧会(日本の絵)]

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サントリー美術館の会員の友達が、「久隅守景展、明日、行こうと思うけれど、
よかったら、一緒に」と、誘ってくださった。
「久隅守景」、知らない絵師だったので、どんな絵だろう?とHPで調べたら、
狩野探幽に師事、探幽の姪と結婚。娘も画家となるが、狩野派の弟子と駆け落ち、
息子は不祥事で佐渡へ流されたため、狩野派を破門された。

守景の年表を展覧会場で見たら、本人も不倫、結局、その女性と結婚し、
金沢で前田家の庇護を受けながら絵を描いた。かなり奔放。タイトルの「逆境の絵師」
は、合ってないと思う。

1、四季山水図襖 富山県高岡市・瑞龍寺
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八面のうち四面の展示。
瑞龍寺は、加賀藩二代藩主前田利長の菩提を弔うため三代藩主前田利常により
高岡に建立された寺。襖絵は狩野派の特徴で大きく余白を持って描かれているが、
建物は緻密な線で、うっすらとした山陰に木々がくっきりと浮かび上がる。

次の四幅の「十六羅漢図」は、山水画とがらりと変わり、力強く男性的。
衣服のうねうねっとした曲線が印象に残った。

四季耕作図屏風 旧小坂家本 個人蔵
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実に細かい描写
一番右側では、田植えをしている。季節は春。右方向に夏秋冬と景色が移る。
左側では闘鶏をしている。山水画のような背景で、のどかさが伝わってきた。

もうひとつ、「旧浅野家本」の四季耕作図屏風もあった。
牛を使った田おこしや脱穀など、農家の作業が細かく描かれていて面白い。
夕立に雨宿りの場面は、横殴りの驟雨がさささっと墨で描かれていた。
守景といえば、農耕図と言われるほどなのだそう。

チラシにある「納涼図屏風」は国宝。前期の展示作品で、見れなかったから、
わからないが、「これが国宝?」と思うようなのんびり具合。
国立東京博物館の所蔵品なので、いつか見る機会があるだろう。

後期の重要作品は、「鷹狩図屏風」八曲一双 日東紡績株式会社蔵
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これも農耕図に同じく、細かく情景が描写されているので、ストーリーを考えながら
見ると楽しい。鶴や白鳥の鷹狩りなので大名クラスの鷹狩りで、大規模。
白鳥を襲う鷹、追う鷹匠、遊ぶ子供たちなどが細かく描かれていた。
金屏風に木の緑、鶴の白が映えて美しい。

チラシの拡大
鶴を捕えてる鷹。それを追う人々。ほのぼーの。
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「賀茂競馬屛風」 大倉集古館所蔵
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賀茂競馬は、平安時代から5月5日に京都の上賀茂神社で行われている競馬。
白い馬と黒い馬の競争。柵の外には見物人がたくさん集まっている。
声援を送ってる人、大きな口を開けて楽しそうな人、馬に驚いては座り込む人、
いろいろな人のようすが描かれていた。



農耕図、鷹狩図、競馬図、どれも大きな自然の風景の中での人間の振る舞いが
描かれている。どの人物も、ほのぼのとした雰囲気があるので、見ていると和む。
守景は、人を観察して描くのが好きだったのだろうな、と思った。
守景が狩野派を破門にならず、探幽様式を受け継ぐ絵師になっていたら、こういう
ほのぼのとした庶民の視点での作品は生まれなかっただろう。

最後のコーナーは、「守景の子供たち」と題して、娘、清原雪信の「花鳥図屏風」、
や花の絵。当時、狩野派随一の女性絵師として、人気があったのは尤もと思える
繊細で美しい花や鳥の絵だった。
息子の久隅彦十郎の絵の展示は、一枚だけだった。

久隅守景を知れてよかった、と思いながら、会場を後にした。
会期は、明日まで、です。


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コメント 13

nicolas

なんかいいですねー
自然と動物と人間と、和やかで平和な田園風景が落ち着きます。
確かに「逆境」とは違いますが、人生が「奔放」な割に画面は穏やかでのびのびしてる気がします。
Taekoさん、ご心配ありがとうございました。
場所によっては大丈夫だと思うのですが、どう情勢が変わるかでまた違ってきそうです。お出かけ、お気をつけてくださいね。私も近いうちにリベンジしたいので、同じく、様子を見守っていきます。

by nicolas (2015-11-28 18:36) 

yk2

『納涼図屏風』について「国立東京博物館の所蔵品なので、いつか見る機会があるだろう」なんてtaekoねーさん書かれてますが、これまでさんざんトーハクの常設観てらっしゃるワケで、もしかしたら一度くらいは既に目にしてるのかもしれませんよ~。それなのに、さらっとスルーしちゃってたりして。・・・と云っても、僕も全く同じだったりするかもしれず、なんですが(^^;。

ところで、守景の作風が「ほのぼの」見えても、鶴の狩りが許される様なハイクラスな大名家の鷹狩りで現場にいる家臣達はそれこそ必死だったと思いますよ~。もしも失敗をやらかして、鷹が仕留めた大事な鶴を獲り逃がしてしてしまい、結果殿の御前に差し出せなかったとしたら、それはもう一大事です。イメージは風流であっても、鷹狩りには軍事訓練の側面もアリ、ですからね(^^。
by yk2 (2015-11-28 18:47) 

coco030705

こんにちは。
人生が奔放なわりには、とても美しい田園風景や山水画なんかを描いていて、面白い人ですね。Taekoさんの解説で、狩野派を破門になったので題材がこういう風景などになったのだとわかってなるほどと思いました。
ポスターの狩りの絵が好きです。絵と関係ないのですが、鷹って鶴のような大きな鳥もねらうんですね。すごいハンターだと思いました。
いい絵と詳しい解説をありがとうございました。
by coco030705 (2015-11-29 12:02) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲にこちゃん、展覧会のサブタイトルのつけ方って、難しいですよね。
人生が奔放なのは、人間が好きだからで、そのぶん、人間観察が鋭かったんでしょうね。あまり出世とか考えない人だったんでしょうね。狩野探幽の姪と結婚したのに、それをメリットと考えず、別の女性と暮らしてしまうのだから。

にこちゃんのお気に入り「真っ黒チーズケーキ」、食べたことあるけど、味を覚えてないから、今度行ったら、買ってみますね。スーパーは楽しいですよね。TVでシャンゼリゼのクリスマスマーケットが始まったけど、人出が少ない、ってやってました。もう少し、クリスマスが近くなれば、活気が、、今年はムリでしょうね。

▲yk2さん、『納涼図屏風』、トーハクでも、簡単に見れないんですね。調べてみたら、2015年は夏の一か月だけでした。来年、国宝展示予定表で調べてから、行くことにします。
鷹狩は、浜離宮公園に徳川将軍家の「鷹狩」の「鴨場」を復元させてあるのを見たことがあります。起伏のあるかなり広い土地で木々に囲まれた林で、鷹匠が隠れて餌をまくための立派な土塁や小屋がありました。
鶴はお正月に将軍家でお雑煮に使ったんですってね。チラシ拡大図は、まさに、鷹が鶴にガブリの場面だけど、仕留められるかどうか、ですね。走ってる人の足の開き具合から見ると、全速力ですね。ヘマしてクビになったら大変ですものね。軍事訓練、なるほど。教えて頂いて、鷹狩について、もっと知りたくなりました。

▲cocoさん、「人生が奔放」、何事にも熱心だったのかもしれませんね。絵にも恋にも。狩野派の跡を継ぐかと思われるほどの腕前だったらしいです。「カラバッジョ」の映画もあったから、久隅守景も、映画にできそうな人生ドラマですね。
鷹匠に飼いならされた鷹のジャンプ力、急降下は比類なくて、木の枝から獲物めがけて、突進するんですって。今でも毎年お正月に、浜離宮恩賜公園で「鷹狩」の実演を観光で見せているそうです。浜離宮恩賜公園は新橋から徒歩10分くらいで、鴨場(鷹場)、汐入りの池(海とつながってるから)があり、梅、桜、の季節が特におすすめです。
by TaekoLovesParis (2015-11-30 01:08) 

moz

久隅守景、もちろん? 知りませんでした。
そうなんですか、すごく奔放な方、不倫とかも経験して、やはりアーティスト、情熱家だったのかな? 笑
そんなことも頭に入れて展覧会に行くと一層楽しめますね。
屏風のせいもあるのでしょうが、俯瞰した、またはパノラマ的な風景を描く人なんですね。田園風景、競馬の模様・・・すごく広がりを感じます。
フランドルとかの田園風景とかの感じもするな ^^ 一度実物を見たい画家になりました。 ^^
by moz (2015-11-30 06:51) 

Inatimy

逆境の絵師の割には、チラシのその文言の下の名前が、
丸みのある何とも可愛いフォント^^。
逆境に陥ってもなんとか根性と逞しさで乗り切って、先を切り開いていく、
・・・って感じではないですよね。
描かれてる絵も線が細くて細やかでソフトな感じ。
大変なことがあっても、飄々とした素振りしか見せずに生きていきそう。
描くことでいろんなことを紛らわしていたのかもしれませんねぇ。
何かに集中してると、忘れられるし。
by Inatimy (2015-11-30 21:28) 

yk2

taekoねーさんったら、本日27回目※のお誕生日じゃないですか。
おめでとうございます~~~。

(※但し、昭和期を含めず・・・・・・って、以前にも同じ様に書きましたっけね^^ゞ)
by yk2 (2015-12-02 18:12) 

Inatimy

少々遅れましたが、♪ Taekoさん、お誕生日おめでとうございます ♪
たくさんいいことがありますように。
美味しいもの、キレイなものの出会いがいっぱいありますように^^。
by Inatimy (2015-12-03 00:28) 

水郷楽人

『納涼図屏風』は、前天皇の在位60周年記念展示会で京都国立博物館に出品されていた記憶があります。ほのぼのとした感じの絵でいいですね。
by 水郷楽人 (2015-12-04 06:36) 

TaekoLovesParis

水郷楽人さん、昭和天皇の在位60周年記念は、昭和60年ですね。その頃、私は、まだ日本画に興味がなくて。。西洋画ばかり見ていました。でも、最近は、日本画もいいなーって思ってます。水郷楽人さん、よく覚えてらしてすごいですね。
by TaekoLovesParis (2015-12-04 23:34) 

TaekoLovesParis

yk2さん、Inatimyさん、ありがとうございます。いくつになっても誕生日は、特別の日でうれしいです。まして、おめでとうを言っていただくと、試験にうかったような気分(笑)。きれいなもの、おいしいものに出会う感動は、晴れやかでいいですね。
そういう感動を上手く言葉で表現できたらいいけど、、、。
by TaekoLovesParis (2015-12-04 23:42) 

TaekoLovesParis

mozさん、久隅守景、もう、今は知ってる画家になったでしょ(笑)
そう、俯瞰図で、丘の立体感が出ていますね。絵を見ながら、ストーリーを考えていくのも楽しいですね。フランドル、ブリューゲルを連想なさったんでしょう。農民の生活がいきいきと楽しげに描かれている所が共通ですね。
いつのまにか、街はクリスマスの飾り付けですね。ライトアップがきれいで、うきうきします。
by TaekoLovesParis (2015-12-04 23:51) 

TaekoLovesParis

Inatimyさん、私もこのフォントはポップ体に近いので、チラシを見た時は異色の取り合わせと思ったけど、「納涼図屏風」の力の抜け具合からすると、合ってるって思えてきました。逆境っていう言葉が適切でないから、このポップ体に、ん?と思ってしまいます。
たぶん、守景は絵を描くのが好きで好きで、他のことは2の次だったんでしょう。不倫も綺麗なもの(人)に心が動いた、ってことでしょうか。
by TaekoLovesParis (2015-12-04 23:58) 

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