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ポンピドゥー・センターの作品1920年~抽象へ [外国の美術館、博物館]

前回の1906年から1914年は、フォービスムからキュビスムへの時代だった。
1914年に第一次世界大戦が始まり、画家たちの中には徴兵される者もいたが、
大戦は1919年に終わった。モダニズムの時代が始まる。

大戦後、ドイツのオットー・ディクスは辛辣な風刺で戦後の社会を描いた。
「ブリュッセルの飾り窓の思い出」1920年
ドイツの将校が敵国フランスのシャンパンを飲み、酔って赤い顔で金髪の
売春婦と一緒にいる。キュビズム技法でガラスに映る様子も描いている。

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フェルナン・レジェの「立っているふたりの女性」1922年
幾何学的に描かれた人体だが、大らかで明るく、素朴なイメージ。
「ふたりの女性」というタイトルだから、母と子ではないのだろう。
黒髪の対称性、スカートの色の対比が背景の事物と違和感なく、戦後の
明るい雰囲気を出している。

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ホアン・ミロ「室内(農婦)」1922~23年
ミロの具象最後の作品。この後、私達に馴染みのあるミロスタイルになる。
農婦の足の大きいこと!お座り猫の威嚇っぽい表情が何とも。。
農婦がぶら下げているのはウサギ。漫画っぽい表情のウサギ。

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パブロ・ピカソ「アルルカン(アルルカンに扮する画家サルバード)」 1923年
ピカソは、生涯アルルカン(ピエロ)の絵を何枚も描いている。
喜劇を演じるアルルカンの裏にある孤独、憂欝、脆さをアーティストの自分に
重ねて、年代ごとに描いた。
ピカソはアルルカンの衣装を持ってて、それをサルバードに着せて描いた。
同じこの衣装で、サルバードはアンドレ・ドランのモデルにもなった。
この絵は、非常に丁寧なデッサンで、ダビッド、アングル風の古典的技法で
描かれている。

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ポンピドーセンターには、絵画だけでなく、デザインされた椅子や小さな彫刻
も展示されている。
下の写真の椅子は、ドイツで始まった近代的デザイン運動「バウハウス」の作品。
バウハウスのデザインポリシーは合理主義。簡潔で幾何学的なデザインは、
装飾が多いアール・ヌーヴォーへの反発でもある。
手前2つは、ミース・ファン・デル・ローエの椅子 1927年
籐とパイプを組み合わせた軽い機能的な椅子。
奥の木製学校椅子タイプは、マルセル・ブロイヤーの椅子 1922年

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奥の方の机の上に乗っているのが、小さな彫刻たち。
グレーの椅子の前、綺麗な色の幾何学的作品2つは、ドローネーだと思う。

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絵画を幾何学的な方向に進めた作品。
ロシアン・アヴァンギャルドのアントワーヌ・ペヴスナー「コンポジション(構成)」1923年
後にペヴスナーは、幾何学的な彫刻で有名になった。「平和の柱」1954年

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フランティシェク・クプカのこの大きな作品にも目を引きつけられた。
「点のまわり」Autour d'un point 

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イヴ・タンギー
「夏の4時に、希望」1929年
砂漠のような空間に骨や石が落ちている絵、という印象のタンギー。
ここでも何かが陸に落ちていて、海の上を不思議な鳥が飛ぶ。
タンギーは、見えるものではなく、無意識に感じるものを描くシュルレアリスム。
絵はストーリーが読めないが、色合いはパステル調でふんわりしていることが多い。

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ジャン・デビュッフェ
「幸せな田園風景」1944年
児童画とよばれる領域である。のどかさは伝わるが。。。

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ジャクソン・ポロック「深淵」1953年
絵筆を持って絵を描くのでなく、刷毛で空中から絵の具を流し込むドリッピング
という技法も出て来た。めちゃめちゃに流すのではなく、計算して流しているのだそう。
ポロックの作品には、数学的なフラクタクル効果が表れているので、天才的な勘で、
作品構成をわかっていたといえよう。

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セザール「圧縮」1958年
セザールはフランスの彫刻家で、このプレス機で圧縮した自動車の作品で
有名になった。これは、1960~70年の大量生産・消費社会に対するアンチテーゼ。
単なるスクラップと思う人もいるだろう。

GP37CeserS.jpg

アルマンワーテルローのショパン」1962年
アルマンは何でも箱に閉じ込めてしまう作品で有名になった。

GP38AllmanS.jpg

最後は、ルチオ・フォンタナ「La Fine di Dio」1963年
画布に穴を開けただけの作品だが、空間を開けることによって芸術に新しい次元を
見出し、宇宙に結び付くことを願ってるのだそう。
真っ赤に塗られた画布の縦方向に、3本のかぎ裂きのような裂け目を入れた
作品も有名。

GP39FontanaS.jpg

過去のポンピドゥーセンター作品記事は、2014年春の展示、 2008年冬の展示

                 2008年冬の展示のキュビスム  2008年春の展示 


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コメント 10

coco030705

こんにちは。
抽象画もすばらしい作品ばかりですね。もともと私はピカソ、クレー、
カンデンスキーは好きだったんですけれど、ここにあるのもいい絵ばかりだなあと
思います。
フェルナン・レジェの「ふたりの女性」などは、もはやクラシックな抽象画?という感じがします。ホアン・ミロ「室内(農婦)」も素敵な作品です。具象に少し抽象が混じっているような絵ですね。猫ちゃんがちょっとお顔が緊張気味なのがおもしろいです。パブロ・ピカソ「アルルカン」本当に美しくすばらしい作品で、大好きです。
椅子もいいデザインですね。足が曲線の椅子は、同じようなデザインのが、既製品で出てますよね。たぶんデザインを真似たものでしょうね。
アントワーヌ・ペヴスナー「コンポジション」色が好きです。イヴ・タンギー「夏の4時に、希望」いいですね、フワッとした感じが。
ジャクソン・ポロック「深淵」はこんなデザインのお洋服があったら、着てみたいなとおもいます。お洒落ですもの。
他のものもいい作品ばかりで、楽しませていただき、感謝です☆


by coco030705 (2016-02-22 16:33) 

moz

そして、抽象画へ・・・なのですね。
こうやって時代別にみるのも絵画の歴史を学ぶようで楽しいです。
抽象画、デザインも ^^v
バウハウス、そういえば、ぼくが使っている万年筆のラミーのデザイナーもバウハウスと関係していたと思います。機能的なデザインですね。 ^^
紹介していただいた中では、前から気になっている画家ですが、イヴ・タンギーが好きかな? 横浜美術館とかブリヂストンの絵が割と気に入ってます。 b^^
by moz (2016-02-23 06:03) 

TaekoLovesParis

cocoさん、私も最近の抽象画には、ついていけないのですが、ピカソ、クレー、カンディンスキー辺りは、色合いに優しさがあって、形に可愛さがありますね。夢もあるし。cocoさんのおっしゃる通り、<クラシックな抽象画>だから、レジェやミロはわかりやすいですね。
ミロのネコは「りーちゃん」のタイプでしょ。これだと小さくて見えないけど、眉間に皺寄せてるんですよ。だから、威嚇っぽく見えたけど、そうね、緊張してるんだわね。合点がいきました。
ピカソは、どんなふうにでも描ける、新古典主義っぽく、ぴしっと描いたアルルカンですものね。ちょっと思いつめた表情からあまり売れない画家なのかしら、と推し測ってしまいます。
絵画をずっと見て来て、こういう椅子のコーナーがあると(座れるわけじゃないけど・笑)ほっとします。この椅子からもうすぐ100年。今でも似たようなデザインがある、ってことは、100年も古びず、使えるってすごいですね。
ポロック柄の服、斬新だけど、無彩色だから結構いけそうですね。
by TaekoLovesParis (2016-02-24 00:36) 

TaekoLovesParis

mozさん、「抽象画の始まりは1900年、カンディンスキーって習った」と芸大卒の人が言ってましたが、それからもう100年以上が経ってるんですね。20世紀の美術には、いろいろな試みがあって、はっきり形のないもの、具象でなく抽象が生まれたのでしょうね。
「ラミー」って知らなかったので、調べました。LAMY、バウハウスの遺伝子を持った万年筆っていうキャッチコピーなんですね。メタリックで機能的みたいですね。良いデザインは長持ちしますねー。
イヴ・タンギーの絵を見たとたん、私も、横浜美術館のタンギーの絵が浮かびました。他の美術館であまり見かけないから。横浜美は新しい美術館だからか、20世紀作品が多いですね。
by TaekoLovesParis (2016-02-24 00:49) 

yk2

ポンピドーの過去記事4つとリンクのあった2006年のシャルロット・ペリアン展と、ついでに神奈川近代美術館鎌倉でやった時のペリアン展の記事を検索して、ねーさんのblog過去記事を6つも続けて読んじゃいましたよ(^^。

>バウハウスのデザインポリシーは合理主義。簡潔で幾何学的なデザインは、装飾が多いアール・ヌーヴォーへの反発でもある。

アールヌーヴォーの家具デザインの象徴をマジョレルやギマールなどと見れば両者は対極ですよね~(^^;。でも、バウハウスの創設がベルギーから招かれたアンリ・ヴァン・デ・ヴェルデの教えに依るところが多大であったことを考えると、アールヌーヴォーもバウハウスの合理主義も、源泉にジャポニスムの影響が少なからず有った点で両者は繋がりますよね。マッキントッシュの白い家具シリーズやペリアンが日本の民芸運動に共感してデザインした家具が直線的でシンプルなフォルムだったように、ジャポニスム=浮世絵ではない日本趣味が。

・・・なーんてことを真夜中に考えちゃったのは、やっぱり6つも立て続けにポンピドー過去記事を読んだせい?(苦笑)。
by yk2 (2016-02-24 02:25) 

Inatimy

ピカソのアルルカンは覚えがあります、確か立膝した女性像と一緒に撮った覚えが。
あとは、ほとんど観たことのない作品。展示替えされてて、また行きたくなりました^^。
ピンク色のフォンタナの作品を見て、ふと頭に浮かんだのが、ジャン・アルプの「女性」。
ちょうどリンクをつけてくださってたので見直してみると、顔に見えてたあの作品、
ひょっとしたら、あれって上から、唇、胸、おへそだったのかしら^^;。
by Inatimy (2016-02-24 06:48) 

カエル

ジャクソン・ポロック「深淵」,気になります。
女性の体にも見えてくる。。。
by カエル (2016-02-24 17:06) 

TaekoLovesParis

yk2さん、6つもポンピドー記事を読んでくださってありがとう。いい加減なこと書いてたらいけない、って思って、もう一度、読んでみましたよ。そしたら、書いたけど、覚えてない、っていう画家が数名。やっぱり記録しておくのは大事ですね。

バウハウスもアールヌーヴォーも同じ時代、地理的に近い地域だったので、当時はやったジャポニズムに触れる機会が多かったことでしょう。実際、ヴァン・デ・ヴェルデは、パリに日本美術を広めたサミュエル・ビングの「アール・ヌーヴォーの店」のインテリアを担当しました。だから、yk2さんの<アールヌーヴォーもバウハウスの合理主義も、源泉にジャポニスムの影響が少なからず有った点で両者は繋がりますよね。>は、その通りですね。(私は気づいてなかったんだけど)

バウハウスの日本への影響という点では、ペリアン女史の功績が大ですね。
柳宗理と一緒に日本の民芸の良いものを探し歩いたことは知ってたのですが、
芸大の油絵科学生だった柳宗理が、バウハウスに留学した水谷武彦からコルビュジェの話をきき、興味がデザインに移り、人々の生活に密着した「ものづくり」を志すようになったことは初めて知りました。そういうコンセプトで作られた「バタフライ・チェア」をうちで使ってました。
ペリアン女史の作品には、日本の工芸(民芸)が取り入れられてますね。木工の曲げ木や縁付きの畳の雰囲気、格子など。デザインが古びず、今でも使えるものばかりっていうのが、すごいですね。シンプルだからかしら。
by TaekoLovesParis (2016-02-28 02:28) 

TaekoLovesParis

Inatimyさん、ポンピドーは2年に1回は展示替えがあるので、度々、行っても面白いです。何度もあった展示替えでも、変わらないのは、マティスの「金魚鉢のある室内」。ミロのこの絵は初めて見ました。かわいらしさに、所謂ミロらしさが表れ始めてますね。この翌年くらいで具象が終わります。Inatimyさんがウィーンでお買いになった絵葉書のミロの「農園」は、この1年前だから、もう少し写実だな、って思いました。
いつだったかの記事で、Inatimyさん、フォンタナ作品のことを、「切れ目を入れただけ、、、」のように表現してらしたので、うふと笑いながら「あ~赤いあれね」って思い浮かべました。今回、それはありませんでした。で、代りに、このピンクが登場してました。
アルプの赤い作品、「顔でなく、あ~そうなのね!!」

by TaekoLovesParis (2016-02-28 02:45) 

TaekoLovesParis

カエルちゃん、タイトルも「深淵」と哲学的。
確かに踊ってる女性にも見えるわね。でも、頭がオオカミみたい。じっと見てると、本当に動きだしそうよ。

by TaekoLovesParis (2016-02-28 02:48) 

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