宮川香山展(サントリー美術館) [展覧会(絵以外)]
没後100年・宮川香山展を見にサントリー美術館へ行った。
宮川香山(1842~1916)の没後100年を記念する回顧展。
香山は明治から大正時代にかけての陶芸家で、「眞葛焼」という陶器の表面に
浮彫で装飾をした独創的な作品を発表した。これらが、フィラデルフィア万博や
パリ万博で紹介されると、称賛を浴び海外で人気を集めた。
後に香山は、輸出先のヨーロッパの趣向の変化に応じ、釉薬の研究を進め、
釉下彩磁の作品を次々に発表、帝室技芸員に選ばれ、作品は重要文化財に
指定された。明治時代の傑出した陶芸家である。
私が、初めて宮川香山の作品を見たのは、2008年の「ガレとジャポニズム展」の時だった
と思う。ガラスの表面に、カエルやトンボなどの装飾が施されたガレの花器や器の展示の
最後に、置物のようなカニがついた陶器の鉢があり、それが、宮川香山の作品だった。
非常に繊細な細工だが、愛らしさがあるカニ。そして陶器自体の重量感。強く印象に残った。
今回の展覧会会場、入ってすぐ、一番目立つ場所にあったのが、
「高取釉高浮彫蟹花瓶」 大正5年(1916) 田邊哲人コレクション
(拡大図)
すばらしい!
爪の青や赤が、照明に照らされ、宝石のように輝いている。
配色の見事さは、カニの甲羅のブツブツの斑点と調和している。
硬さが伝わってくるようなカニの甲羅。そしてかわいい眼。
横から見ると、カニは二匹、親子のように重なりあっているのがわかる。
私が以前に見たのは、同じような造形だったけど、カニの脚、爪が黒っぽい色
、地味だった。しかし、これは鮮やか。
帰って来て、図録を見たら、見覚えがある「茶っぽい甲羅で黒っぽい脚」の写真があった。
「褐釉高浮彫蟹花瓶」1881年、重要文化財、東京国立博物館所蔵。大阪会場でのみ展示。
ということは、大阪では2つの「高浮彫蟹花瓶」が見れるのね。
私の記憶は風化されていた。赤と青の爪の蟹が「ガレ展」で見たもので、その後、東京博物館で、
黒い爪のを見たので、赤と青のの記憶が飛んでしまったのだった。
会場には、「高浮彫」を施した作品がずらりと並んでいた。
特に鳥たちの浮彫は、ほんものそっくりで、迫真に迫るものがあった。
「高浮彫岩滝ニ鷹花瓶」 明治時代前期 田邊哲人コレクション
大きく羽を広げた鷹が滝を覗きこむ。崖にはうっすらと粉雪。
「高浮彫葛ニ山鴫花瓶」 明治時代前期 田邊哲人コレクション
上の鷹に比べるとおとなしい図柄。秋、葛の葉の季節。鴫の羽根が実に丁寧に
描きこまれ剥製のよう。
チラシの写真の猫、びっくりしたような顔をしてるのはなぜ?と思ったら、日光東照宮の
「牡丹に眠り猫」の猫が眼を覚ましたところ、という想定だそう。左甚五郎に倣ってか、
猫は丸彫り。歯や足裏の肉球まで緻密に再現。水指の牡丹も精緻で素晴らしい。
今回は、写真撮影可のコーナーがあった。
「高浮彫桜二群鳩大花瓶」 明治時代前期 田邊哲人コレクション
一対だが、写真はひとつだけ。
「高浮彫四窓遊蛙獅子鈕蓋付壺」明治時代前期 田邊哲人コレクション
これも写真には一つしか映ってないが一対。
中央をくぼませ、そこに太鼓を持ったカエルを配置。なかなかユーモラス。
(もっと、鮮明な写真は、yk2さん記事をごらんください)
会場は4階と3階の2フロア。4階が高浮彫で、3階は「釉下彩」
香山はヨーロッパの趣向の変化に応じ、窯を二代香山に継がせ、自身は制作を陶器から
磁器へ転換。釉下絵の研究をしながら、「釉下彩」(ゆうかさい)という新しい作品を発表した。
高浮彫に比べると、可憐でシンプル。エレガント。私は、高浮彫よりも、こちらの方が好きだ。
はいってすぐ、中央のガラスケースに入って、人目をひくのが、
「釉下彩盛絵杜若図花瓶」 明治時代中期~後期 田邊哲人コレクション
薄紫色の地に紫と白の杜若(かきつばた)。花弁が重なるようすを彫り出して立体的に
表現。葉の勢いの良さと優しい花との対比に唸ってしまう。
大きい花瓶。
こちらは、細く華奢な花瓶。ガレふうの形。
黄地青華朝顔図花瓶 明治時代中期~後期 田邊哲人コレクション
黄色い「釉下彩」」の下地だが、上から下へと色が薄くなっている。
朝顔は花の部分だけ貼花で僅かに盛り上がっている。
斬新な絵付け。
右は「釉下彩白藤図瓜型花瓶」 明治時代中期~後期 田邊哲人コレクション
これもアールヌーヴォーっぽい作品。浮彫の白い藤の花は藤色の背景に映える。
緑色の葉が肩にあるので、藤棚のようにも見える。
「色嵌釉紫陽花図花瓶」 明治時代後期~大正時代初期 田邊哲人コレクション
首のない形の器。グレー地に白い紫陽花の花。はりめぐらされた花の枝が、
アールヌーヴォーのよう。葉は緑の濃淡で、表と裏を表している。
「釉下彩紫陽花図花瓶」 明治30年(1897) 田邊哲人コレクション
薄紫色の地に紫陽花。白い紫陽花の花の部分は透彫になっている。
盛り上がるほどの立体感ですばらしい。
今回の展示品のほとんど全部と言っていいほどが、「田邊哲人コレクション」。
田邊氏の香山コレクションは、質・量共に世界一なのだそう。
いつもサントリー美術館の展覧会は、だいたい1時間~1時間半で見れるので、
6時の閉館に合わせて、4時半に入った。ところが、高浮彫は立体なので全方位から
眺めたい。「どんなふうに工夫してあるのだろう?」
あっという間に時間が経ち、好きな「釉下彩」は、さらっとしか見れなかった。
行きたいと言ってる友だちがいるので、来週、もう一度、行くことにした。
☆ 宮川香山に関しては、yk2さんの「ハマヤキ故郷へ帰る」明治の輸出食器という
展覧会記事が、わかりやすい説明で、写真が綺麗なので、おすすめです。
香山の面白さって、高浮彫の超絶技法による驚きと、エレガントな釉下彩とのギャップですよね。それはほぼ作家活動の前期と後期なわけだけど、よくまぁここまで違う作風で、しかもその双方がため息が出ちゃうくらいに素晴らしく両立出来ているもんだと感嘆しちゃいます。そして、香山作品の多くが欧米への輸出品だったことから日本では一時その名が忘れられてしまいそうな時期もあったと云うのに、この希有な芸術家作品を驚くべき情熱で蒐集し続け、こうして僕らに紹介してくているコレクターの田辺哲人さんにひたすら感謝ですね。
香山はじめ明治の帝室技芸員たちの技術は本当に素晴らしい。この時代の工芸って、もっともっとたくさんの人々にその魅力を知って貰いたいものです。 香山の「蟹」はそのとっても良い入り口になると思います。実際、僕もそうでしたから(^^。
by yk2 (2016-04-10 09:33)
かに すごいリアルでやすね!
今にも動き出しそうでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2016-04-10 16:45)
すごい!!
これは近くで見てみたい...いや、見なくちゃ。
by ナツパパ (2016-04-10 17:31)
yk2さん、早々にコメントありがとう。香山は、前半と後半でガラリと手法を変える。しかも、まだ人気と需要があった「高浮彫」は二代目香山にまかせて、自分は「釉下彩」の研究に没頭。トーハクの「黄釉銹絵梅樹図花瓶」はシカゴ万博で美術賞をとったというから、こちらも国際的に評価されて、半端ない力量ですね。重要文化財に指定が「高浮彫」の「蟹」と、「釉下彩」の「黄釉銹絵梅樹図花瓶」、どちらも優れている証ですよね。
<日本では一時その名が忘れられてしまいそうな時期もあった>→そうだったんですか。素晴らしいコレクターの田邊哲人氏に感謝ですね。
<明治の帝室技芸員たちの技術は本当に素晴らしい。>→ 「超絶技巧展」(三井記念美)や「皇室の国宝展」で、帝室技芸員たちの質の高い作品を見て感服しました。さらに、「柴田是真展」も良かったです。そもそもは、香山の「孔雀香炉」を持っている泉屋博古館分館での「明治の超絶技巧展」をyk2さんのおすすめで、Jと3人で見に行って、工芸品の魅力に気づいたのでした。
yk2さんの「香山」記事にいいのがあったっけ、と探して「ハマヤキ、故郷へ帰る、明治の輸出陶器」展の記事を読んだら、わかりやすいし、写真が綺麗だから、リンクをつけさせてくださいね。
by TaekoLovesParis (2016-04-10 23:52)
ぼんぼちさん、そう、すごいリアルなんです。実際にご覧になったら、びっくりなさいますよ。器自体の造形も、実際に蟹がはりつきそうな素朴さがあって面白いです。
by TaekoLovesParis (2016-04-10 23:55)
ナツパパさん、すごいでしょ。日本の誇る陶器って感じがします。この自己主張の強い「高浮彫」に対し、優美で控えめな「釉下彩」の花瓶たち。共に見る価値あり、です。会期が残り少なくて、17日までなのですが。
by TaekoLovesParis (2016-04-10 23:58)
カニは、ガザミかな・・・ハトはキジバトかしら・・・なんて、
今の時代でカニやハトからイメージするものと違うから、気になりますね^^;。
カニといえばズワイガニ、タラバガニ、ハトはドバトが直結ですもの・・・。
「高浮彫岩滝ニ鷹花瓶」を見て、ふと思い出したのが柴田是真の「瀑布に鷹図」。
香山の花瓶の鷹は、何が見えてるんだろうなぁ。
この中で一つもらえるとしたら、最後の白の濃淡の紫陽花の花瓶がいいな^^。
オランダ人にはモダンな黄色地の朝顔が評判いいかもしれない♪
by Inatimy (2016-04-11 19:17)
陶芸の領域をはるかに超えていると思います。
宮川香山、テレビで以前に見たことがあって、知ってはいましたが、改めて見せていただくと、すごーーいの一言ですね。 ^^;
どうやって作るのだろう? 陶芸でここまで作るなんて、ものすごい匠の世界ですよね ^^; ^^;
黄色の朝顔柄の花瓶、ほんとにアールヌーボーみたいですし、色々なバリエーションがある創作家なんですね。
二度行かれるとは、TaekoLovesParis さん、お気に入りなのですね ^^v
by moz (2016-04-13 07:28)
Inatimyさん、カニ、たくさん種類があるけど、私は食べるほうからばかり思い浮かべるから、タラバ、ズワイ、松葉、渡り蟹。えっ、ガザミって?調べたら、渡り蟹のことなんですね。鳩、yk2さんが、もっと綺麗で精密な写真を載せてらっしゃるから、そちらで見てね。
柴田是真の「瀑布に鷹図」の鷹は、滝に映る自分の姿にうっとり、というユーモアがある画面でしたね。こちらの鷹は、獲物を狙う目で、羽にまで緊張感が現れていました。鷹の力強さを見せつけられます。
<最後の白の濃淡の紫陽花の花瓶がいいな>→ さすがInatimyさん、最後の紫陽花の造形の立体感をわかってくださったのね。写真だと上手く伝わらないけど、実物はもう一度見たいって思うほどなの。わかりやすいコントラストの朝顔、外人受けするわね。裏はシンプルなのよ。
by TaekoLovesParis (2016-04-13 11:20)
mozさん、宮川香山すごいでしょ。しかもmozさんの地元、横浜焼きですよ。
陶工の家に育ち、小さい時からずっと陶芸一筋、早くから才能が評価されてました。細かく精緻な彫りをしながらも、眼は広く外に向けられていて、次々、新しいことに挑戦していくんです。アールヌーボーのガレに共通するモチーフがありますね。朝顔の斬新さ、いいですよね。裏はシンプルでこれも良い。つまり、360度、ぐるっとまわって見てしまうので、ひとつの作品を見るのに時間がかかって、、全部、見終わらなかったので、もう一度行くのです。「一緒に行ってね」と言ってる友だちがいるので、丁度いいし。
by TaekoLovesParis (2016-04-13 12:05)
こんばんは。
すごい陶器ですね。衝撃的です。最初の猫が乗っている陶器が面白くてかわいいので油断していたら、続々とリアルな動物と一体になった作品が!ほんとに全方角から鑑賞したい美術品ですね。猫は「日光東照宮の『牡丹に眠り猫』の猫が眼を覚ましたところ」というのが面白くって。(^^) 後半の「釉下彩」がそれまでの展示のお口直しのように、爽やかですっきりと美しいのがすばらしいですね。関西に巡回したらぜひ参ります。
by coco030705 (2016-04-13 20:22)
宮川香山さんの作品、すごいですね。
カニや鷹、鳩など、リアルに今にも動き出しそうな感じで
しかも花瓶に留まるその姿、見入ってしまいます。
芸術って素晴らしいと、このような作品に出会えると心から思うことです。
朝顔やアジサイの花の花瓶も、存在感もあり
その場の雰囲気をしなやかに華やかにしてくれそうです。
粋な感じが時代を超えていますね^^
by アールグレイ (2016-04-13 23:28)
cocoさん、お返事遅くてごめんなさい。
この展覧会は、この後、4月29日から大阪の東洋陶磁美術館へ巡回です。チラシの猫、可愛いけど、初めて見た時はびっくりしました。そして、「眠り猫」が目覚めた時という説明を読んで、なるほど!と思ったのです。これは白い牡丹だけど、ピンクの牡丹のもあります。他にも白毛黒縁の猫のかわいいのと、キツネ顔の猫のとがあります。だから、cocoさんにおすすめです。実に細かく彫ってあるんですよ。
「釉下彩」、写真ではわからないけど、少し彫って立体感を出していたり、「朝顔」の場合、花の部分だけ、貼花になってます。地模様の素晴らしいものもあります。
私が好きなトーハクの重用文化財の梅の花の花瓶は大阪だけの展示です。
とってもおすすめの展覧会なので、ぜひ、いらしてね。
by TaekoLovesParis (2016-04-15 00:09)
アールグレイさん、宮川香山の作品、実際に見ると、カニや猫、鳥、よくぞ、ここまで再現して、と感心してしまいます。鳥や動物のリアルさに比較すると、花はどうしても造花っぽくなってしまいますが、ヨーロッパにはリヤドロとかイタリアの陶花などの伝統があるから、輸出用には必要なのでしょうね。
朝顔やアジサイの花の花瓶、私は、こちらのほうが好きでした。「高浮彫」と、がらっと変わって、上品な日本の美です。
<粋な感じが時代を超えていますね^^ >→ ほんと、そうですね。
by TaekoLovesParis (2016-04-15 01:36)
こんにちは
カニびっくりです!!
貼り付けたのか?彫りだしたのか?
おひねりという技か?
どうして割れないで制作保存できたのか?
不思議です。
ところで
宮川香山のso-netブログに以前は行ってました。
http://kozan.blog.so-net.ne.jp/
by 匁 (2016-04-17 08:51)
匁さん、こんばんは。
ユーモア好きの匁さんなら、きっと気に入ってくださると思ったカニです。
まず、ろくろで鉢の形を造って、褐釉をかけています。カニは別に上絵付きで彩色し、貼っています。これだけリアルなカニを陶器で造るのはものすごい技ですよね。欠けないように保存するのは大変だと思います。
帆立貝の貝殻を作って貼り付けてある作品で、欠損箇所を見つけて、こんな薄いのを貼り付けてるから欠けるのも無理ない、と思いました。
私も真葛博士さんのサイト、何回か見ました。横浜の「眞葛ミュージアム」にも行ったことがあります。匁さんもご覧になったことがあったんですね。
by TaekoLovesParis (2016-04-17 22:01)