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広重ビビッド展 [展覧会(日本の絵)]

サントリー美術館で開催中の「広重ビビッド」展。何がビビッドなのか、って色です。
広重作品の初刷りのものばかりなので、赤や青の色が驚くほど鮮明、まさにビビッドです。
とってもおすすめな展覧会なのですが、12日までです。

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チラシに使われているこの絵は、「亀戸梅屋敷」。ゴッホが模写した作品。
ゴッホは、「名所江戸百景の大はしあけたの夕立」も模写をした。

今回の展覧会は、日本全国津々浦々の名所を描いた「六十余州名所図会」が第一の
見どころ。刊行されたのは、1853年から1856(安政3年)頃。
会場に入ってすぐは、「阿波 鳴門の風波」。図下の渦潮部分に目が行く。
白波に対し、海の水の色は、よく見ると青、水色、藍色、群青色、紫っぽい青、ワイン色と、
様々な色が使われているとわかる。

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青だけでなく、赤の美しさにも息を飲まれる。
「尾張 津嶋 天王祭り」
天王祭りは500年以上の歴史を持つ祭で、提灯を飾った「巻藁舟」(まきわらぶね)
の半円形の部分には、365個の提灯が飾られ、笛の音と共に巻藁舟は巡航した。

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「甲斐 さるはし」
甲斐の猿橋は、橋脚のない橋で、日本三奇橋のひとつと言われている。
広重は、これを描くために、橋より上流に足場を据えて描いた。
「山高くして谷深く、桂川の流れ清麗なり。。。絶景、言語にたへたり」と
旅日記に記されている。殺がれた岩。川に張り出した桜の木。遠景の山の
色合いも美しい。

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広重は、色の美しさだけでなく、構図も面白い。
「美作 山伏谷」(岡山県久米郡美咲町)
雨の強さを帯のように表現している。強風で歩く人の笠は飛ばされているが、川には
一隻の小舟。そそり立つ岩。

ame1.jpg

広重は各地を全て訪ねて描いたわけではなく、ネタ本を参考に描いたものもあるので、
そのネタ本も展示されていた。

今回の作品は全部、日本化薬の社長を務めた実業家、原安三郎氏の所蔵品。
どれも初摺りの早い段階のもので、摺りに広重本人の意図が反映され、保存状態も
良好なので、ビビッド。

初摺りと後摺りの違いを比較できるよう2つを並べたものがあった。
「江戸 浅草市」初摺りが左、後摺が右
後摺りでは雲の部分の摺りの回数を減らしていることがはっきりわかるし、木を描いてる
墨線が薄れている。初摺りは、版木の板目を活かした絵になっているものが多い。

asakusa2.jpgasakusa.jpg

「六十余州名所図会」と揃いと言われているのが、「名所江戸百景」。
江戸なので、私には馴染みの場所が多い。
「深川萬年橋」
萬年橋なので、「亀は万年」にかけて、旧暦の8月15日にここで亀が売られた。
しかし、実際、こんなに亀が大きいはずがない。主役を誇張した大胆な構図。
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他にも誇張法が使われているものは多かった。
チラシの亀戸梅屋敷もそう。手前の梅の木の大きさに比し、後景の白梅は小さい。


「王子装束ゑの木 大晦日の狐火」 王子に伝わる狐火の伝説をもとにした作品。
闇夜に狐火を灯して狐たちが集う様は幻想的。

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約160年前の江戸。京橋、赤坂、愛宕山、上野、日暮里、芝増上寺、品川御殿山、目黒、
どれも、今とは全く異なっているが、「井之頭の池、弁天の社」は変わらぬ景色だった。

広重の他に、北斎の「千絵の海」10図がまとめて展示されていた。
「千絵の海 五島鯨突」
九州の五島列島では、古くから鯨捕りが行われていた。
50隻近い船を操るのは、左上の小屋。これから銛が投げ込まれるのだろう。
鯨の水しぶきの大きさが鯨の動きの荒さを示している。鯨の眼はこちらを威嚇するかの
ようににらんでいる。
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「千絵の海 総州銚子」
荒い波の大胆な動き。「神奈川沖浪浦」の波よりも動きが速いさまが波に乗せられた
船からも伺える。

北斎の「富嶽三十六景」からの有名な「神奈川沖浪浦」「凱風快晴」「山下白雨」の
3点が並んで展示されていた。


さくっと見れるだろと思ったのは大間違い。混んでいないと思ったも間違い。
どの絵にも、丁寧な説明文がついていて、その場所の現在のモノクロ写真が
添えられていたので、それをじっくり読んだら、2時間はかかる。
じっくり読んでゆっくり眺めたら、旅気分にひたれただろうけど、かなりの混雑だった
ので、それは、敵わず。
とはいえ、こんなに綺麗な版画は初めて見たので感激。おすすめです。
金・土曜日は夜8時まで開館です。


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コメント 10

コザック

おはようございます。
この展覧会ずっと美術館HP観て気になっていたんですよ~。
やはり混雑していますか。
あと一週間伸びていれば近くまで行くのですが・・
Taekoさんの細かな解説で行った気分になったことにします(^^)/
by コザック (2016-06-10 09:11) 

gillman

ぼくも行きました。
初刷りがほとんどらしいのですが、その美しさにぼくもほんとに驚きました。
by gillman (2016-06-10 09:52) 

ナツパパ

これはいってみたいです。
オリジナルの初刷りは一度は見たいですし。
by ナツパパ (2016-06-10 11:12) 

yk2

ここ1年くらいのサントリー美術館はほんとに良い展覧会が続いてますよね。今回も広重も、五十三次のイメージで知ったつもりで出掛けると、とんでもない。初めて見る作品ばかりで驚かされました。

ところでtaekoねーさんの目には、一体どのくらい深川萬年橋のカメが大きく映ってるんでしょう?。ガメラ並?(笑)。水桶の持ち手に吊れるくらいだから、せいぜい10cmくらいかなとも僕には思えるんですが、あまりにもユニークな画角を採用した広重の狙い通り、富士山にのし掛かる勢いでまんまと大きく思わされちゃってるでしょ?(笑)。
by yk2 (2016-06-10 22:35) 

Inatimy

どこかで見たような・・・と気になって調べていたら、「甲斐 さるはし」、
ジヴェルニーのモネの家にありました。 それでポストカードも購入。
"Le Pont du singe dans la province de Kai"
見比べていたら、印刷のせいもあるんだろうけれど、確かに色の差が^^。
チラシも、あれ、これはと思ったら、ゴッホでしたね。
初摺りと後摺りの比較も、色の濃さで絵のどの部分にまず目が行くか、違ってきますね。
by Inatimy (2016-06-11 17:08) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲コザックさん、展覧会:始まってすぐは、まだ大丈夫って思ってるのに、あっという間に会期の終わりになってしまいますね。この展覧会は予想と違ってとっても良い展覧会でした。何しろ色が鮮明!絵と違って最前列に行かないとよく見えないので順番に並んで見ます。添えられている解説が丁寧なので、読んでいると、立ち止まり時間が長くなり、皆に迷惑と思い、ちらり読みで、図録を買いました。だから、解説が細やかなのです。
by TaekoLovesParis (2016-06-12 11:15) 

moz

初刷りの作品たちなんですよね。そのままの色彩を実物で見ることができるのはとてもすごいことだなと思います。
そして、改めて、構図の大胆さ!! 我が日本の先人のアーティストたちの感性と才能を誇らしく思います。 ^^
絵が見れていないので、これから少し挽回したいと思います ^^;
by moz (2016-06-12 16:54) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲gilmanさん、私も広重展は何回か見ているのですが、こんなに鮮明な色のは、初めてでした。行ってよかった!と思える展覧会でした。

▲ナツパパさん、木版の多色刷りは、版を重ねたものと初版では、こんなに色が違うということが初めてわかりました。行ってよかった!と思える展覧会でした。

▲yk2さん、私も見たことがあったのは、ゴッホが模写をした「亀戸梅屋敷」と「大はしあけたの夕立」だけでした。「大橋、、夕立」の雨に比較したら、「美作 山伏谷」の雨の激しさ、その大胆さに驚きました。「鳴門の風波」も驚くほどの大胆さ。
北斎の「神奈川沖」以上の波かと思うほどでした。

ガメラ、、言われてもムリないです。富士山に比べてしまいました。そ、まんまと騙されてしまいました。冷静に見れば、橋の欄干の一区画より小さいわけですものね。

「養老の滝」を目に染みるほどの青で、長方形での大胆表現も印象深いです。しかも版木の木目でとぼかしで水の流れを表現している繊細さ。版木の木目は実際に見ないとわからないですね。

▲Inatimyさん、「甲斐 さるはし」、ジヴェルニーのモネの家にあったんですか。教えてくださってありがとう。うれしい情報です。
<初摺りと後摺りの比較も、色の濃さで絵のどの部分にまず目が行くか、違ってきますね。 >→そうなんですよ。今回、私も初めてそのことに気づきました。版を重ねるごとに線が薄れたり、多色刷りの色を減らしていったりもあるんですね。

▲mozさん、初刷りには、広重も立ち会って、色の指示を出したので、本人の意図した通りのものが出来たそうです。とにかく、青と赤、この2色が眼も覚めるような色あいでした。
構図の大胆さ、視覚に訴えてきます。思いっきりがよくて、これぞ江戸っ子ですね。ゴッホやホイッスラーがジャポニズムに憧れたこと、誇りに思えますね。
by TaekoLovesParis (2016-06-15 00:24) 

nicolas

わーーー、これ観たかったです。残念ー
解説と現在の場所、いろんな本でも載ってたりしますが、
また違った視点になれるものも多いです。
by nicolas (2016-06-25 12:10) 

TaekoLovesParis

にこちゃん、遅いお返事でごめんなさい。
にこちゃんだったら、私以上に、学べるものがあったと思います。色の鮮やかさ、大胆何構図に驚きが多い展覧会でした。

にこちゃんの記事の「エリオット・アーウィット」、にこちゃんほどじゃないけど、私も面白いなぁと注目しています。3年くらい前のお正月の頃に、銀座のシャネルホールで、「パリ」と題するアーウィットの写真展があって、見応えがありました。「階段にブルドッグが2匹?」の写真にはびっくり。膝の上に乗せてるんですよね。「妖怪鼻指突っ込み」(ナイス・ネーミング)、アーウィットならあり得ますね(笑)
by TaekoLovesParis (2016-07-03 13:36) 

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