SSブログ

鈴木其一展(サントリー美術館) [展覧会(日本の絵)]

tirashi.jpg

「鈴木其一」、その名前と作品を知ったのは、2006年「若冲と江戸絵画展」・プライスコレクション
でだった。最後の部屋が、光の演出ということで、ガラスケースなしで照明に浮かび上がる屏風
たちの展示。幽玄な雰囲気が感動的だった。中でも、其一の「群鶴図屏風」が、同じ色の端正な
鶴が左に9羽、右に10羽並んだ構図。デザイン性が強く現代的で素晴らしいと思った。
もう一つ、其一の「青桐・紅楓図」は、夏の雨(夕立)の青桐と秋の雨(長雨)の紅楓。色の対照も
すばらしいが、雨の表現の違いがとてもよかった。
というわけで、この展覧会で、俄然、其一に興味が沸いたのだった。

数年後の夏、ブログ友yk2さんのトップスキンが、青い朝顔が咲き誇る金屏風になっていた。
「誰の絵?」とたづねたら、其一という答えだった。
其一は抱一の弟子なので、琳派や抱一の展覧会を見に行くと、必ず何点か作品が出ている。
しかし、今回は、「其一」が主役の展覧会。始まるのを楽しみにしていた。

会場、入ってすぐは、「江戸琳派の始まり」というタイトルで、其一の師、酒井抱一の作品。
ここ数年、抱一の展覧会をいくつか見て来たので、見覚えのある作品が多いが、
いつ見ても優美! 「白蓮図」、「桜に小禽図」、「槇に秋草図屏風」、どれも細見美術館蔵。

其一は18歳で抱一に弟子入りするが、既に絵は達者であった。4歳年上の抱一の最初の
弟子「鈴木蠣潭(れいたん)」の26才という若さの急死で、鈴木家の家督を継ぐ。
蠣潭(れいたん)の作品も今回、いくつも展示されている。中には抱一と思えるほどの達者な
作品もあった。

ぱっとそこだけが明るくなる金屏風。
「群鶴図屏風」 ファインバーグ・コレクション 
鶴の向き、姿勢がそれぞれで動きを感じさせる。一羽、一羽、緻密に描かれている。
描かれた当初は襖絵だった。

群鶴図屏風ファインバーグ.jpg

其一が33歳の時、師の抱一が亡くなり、養子の酒井鶯蒲が跡を継いだ。
其一は彼を支えながらも、独自の作風を展開していく。宗達・光琳の作風を
尊重しながらも大胆にアレンジした作品「風神雷神図襖」(後期10/4からの展示)
「三十六歌仙・檜図屏風」を制作した。

36歌仙檜図.jpg

切れてる画像で申し訳ないけれど、八曲一双という横長屏風なので、入りきらない。
華やかな三十六歌仙が優美に大和絵ふう描かれた右隻、それに対し墨一色で
描かれた左隻の檜の幽玄さ。素晴らしい。光琳画題の三十六歌仙と檜図という異なる
2つを一対にしてしまうのが面白い。

kamo.jpg

高さ76センチの「水辺家鴨図屏風」も可愛い。

4面の襖絵「萩月図襖」も良かった。月明かりのもとでの萩の白い花が光を受けて
輝いている左側。余白がたっぷりの画面に大きな月。右側から薄紅色の花の萩の
枝が伸びる。秋の情緒に余韻が残り、絵の前を離れ難かった。

木蓮.jpg

「木蓮小禽図」も良かった。木蓮の色はワインに近いほどの濃い紫。
木蓮のみごとさに目を奪われ、鳥がどこにいるのか探すほどだった。

其一は40代後半で家督を長男の守一に譲り、さらに多様な作風へ挑戦していく。
この展覧会の目玉作品「朝顔図屏風」もこの時期に制作された。

「藤花図」
真直ぐに垂れ下がる3本の花。細い蔓が花の後ろでS字を描いている。
近くで見ると、花のひとつひとつが実に丁寧に描かれていて感心する。

藤の花400.jpg

「花菖蒲に蛾」も良かった>
花弁の搾り模様や筋目線、特徴が丁寧な写実で描かれ図鑑のようだが、
蝶でなく蛾が飛んでいるのは、、。

花菖蒲_きいつ.jpg


仏画、能の絵、描表装は、大名や豪商から注文があったそうだ。
其一といえば描表装と浮かぶほどで、節句図や正月図が人気があり、需要が多かった。
「三十六歌仙図」 出光美術館蔵 は、見る機会が多い。

「夏宵月に水鶏図」は、描表装部分に紫陽花、撫子、立葵が描かれ、
紫陽花には雨が降っている。満月の下に水鶏がたたずむという静かな世界に対し、
かなり派手な表装という対比が面白い。円熟した年代だからであろう。
この描表装が、今回の図録の表紙に使われていた。

kuina.jpg


最後は今回の目玉作品「朝顔図屏風」、メトロポリタン美術館蔵なので見る機会が少ない。
左隻、右隻、2つ揃っての大きさに圧倒される。花ひとつがお椀くらいの大きさがあるのだから、
その迫力は推して知るべし。

朝顔.jpg

其一は63才でコレラのため亡くなった。同じ年、広重もコレラで亡くなった。


nice!(46)  コメント(20)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート

nice! 46

コメント 20

coco030705

こんばんは。
すばらしい作品群ですね。Taekoさんがここに載せていらっしゃる絵はすべて好きです。先日「PEN」という雑誌の美術案内をみていて、この展覧会ぜひ行きたい!と思ってました。今月号のPENは世界のNew openの美術館特集でした。デザイン的にすごく面白い美術館がたくさん掲載されていて、楽しかったです。この美術展と「クラーナハ500年後の誘惑」(国立西洋)をみたいので、また東京行きを計画しようかしらと思っています。

by coco030705 (2016-09-30 22:02) 

TaekoLovesParis

cocoさん、其一の作品は、江戸時代の作だというのに、現代に通じるものがありますよね。斬新で、きりっとしています。この展覧会は来年1月3日から2月19日まで、京都の細見美術館に巡回します。でも、「朝顔」は、メトロポリタンの借り物なので、東京だけです。クラーナハも巡回で大阪の国際美術館で来年1月から見れますよ。だから、「朝顔」体験に新幹線代、、組み合わせるのにいいものが見つかればいいですね。
PENって男の人向きの雑誌かと思ってました。そうじゃないんですね。
by TaekoLovesParis (2016-10-01 23:21) 

yk2

taekoねーさん宣わく、メトまではるばる出掛けたとしても其一の朝顔がいつ展示されているんだかなんてまるで検討がつかない、実際、いつ行っても展示されていたためしがない・・・ってお話ですから、今回の東京での展示はとっても貴重ですよね~。物の評価としては、光琳やそれに倣った抱一の燕子花図、八橋図の方が高く見られるのかもしれませんが、師匠たちとは全く違う捻りを入れた其一の「変奏」センスにはひたすら脱帽です。ずっとずっと見たい見たい!と思い焦がれてたアサガオをこの目に出来て嬉しかった~~~(^^。

>蝶でなく蛾が飛んでいるのは、、。

確かに、蛾はあんまり素敵な画題とは云えませんよね(^^;。他の絵で「蛾」が登場するだなんてのは、御舟の『炎』くらいしか思いつきません。あとはマイケル・フランクスの77年のアルバム、『SLEEPING GYPSY』のジャケットくらいかな(^^。
by yk2 (2016-10-01 23:52) 

yk2

横レスになりますが、cocoさん、クラナーハお好きですか?。どっかの誰かさんみたいに彼のサロメやユディトに夢中になって、「ナマ○ビ好き?」だなんて在らぬ疑いを掛けられない様お気を付けあれ(げらげら^^)。
by yk2 (2016-10-02 00:03) 

Inatimy

「木蓮小禽図」の一体どこに鳥が?と画面に顔を近づけてみたけれど、
よく分からず^^;。鳥なんだか、花びらなんだか、葉っぱなんだか・・・。
ひょっとして大きく咲いてる2つの花の下、横向きに止まってるのかしら?
花びら、渋い色でいいですね〜。
「花菖蒲に蛾」も気になる作品。こんなの見ちゃうと、恐々ながらも何の蛾だろう?と
種類が気になってしまって、調べてしまいました・・・蝶類、苦手なんですが・・・。
オオミズアオか、オナガミズアオってところかしら。
この中でもらえるとしたら、「水辺家鴨図屏風」がいいなぁ♪ 
アヒル、後ろ姿のお尻が何とも言えずキュートで^^。
by Inatimy (2016-10-02 07:13) 

coco030705

Taekoさん、アドバイスありがとうございます♪
歌舞伎でいい出し物があったら、行ってもいいかなと思っております。
by coco030705 (2016-10-02 10:59) 

coco030705

yk2さんへ
こんにちは。横レスありがとうございます。私、サロメって好きなんですよ~!見かけによらず。(って、お会いしたことないですけれどもね)
(^-^)/

by coco030705 (2016-10-02 11:05) 

nicolas

構図が全て、とまでは言い切れないけど、
やっぱり構図がすごい意味をなしてますよね。
「木蓮小禽図」に目を奪われたんですが、小禽がみつかりませんでした。
黒に近い紫も、確かに存在感一気に上げてます。
by nicolas (2016-10-03 16:31) 

TaekoLovesParis

cocoさん、私がもたもたしてるうちに素早く明快なお返事をyk2さんにしてくださっってありがとう。特に<見かけによらず。(って、お会いしたことないですけれどもね)>に大笑いでした。
歌舞伎は、芝翫の襲名披露で湧いていますね。私はずっと福助を一番贔屓にしていただけに、福助が芝翫と思っていたので、可愛そうで。。。健康が一番ですね。
by TaekoLovesParis (2016-10-05 08:29) 

TaekoLovesParis

Inatimyさん、さすがInatimyさん、<ひょっとして大きく咲いてる2つの花の下、横向きに止まってるのかしら>→当たり!葉っぱの色と大きさと小鳥が同じようなんですものね。わからないですよ。実物では、小鳥のくちばしと目がかわいいんです。
蛾も当たり!オオミズアオって図録に書いてありました。蛾は夜行性だから、昼に飛んでるのは変なのだけど、「夜の生き物がふらりと昼にでた白昼夢」なのだそう。
大きい屏風だったら、首長の鶴が似合うけど、丈の短い屏風だからこそ、家鴨さんがぴったりですね。
by TaekoLovesParis (2016-10-05 08:39) 

TaekoLovesParis

nicoちゃん、藤、木蓮、花菖蒲、どれも花だけが画面いっぱいに描かれる掛け軸、縦長の画面を活かして花が主役の構図は、この時代には珍しかったでしょうね。
「木蓮小禽図」の鳥は葉と同じ色で描かれているので、実際に見ても、探すほどでした。一番下の花の花びらの左端のすぐ下にいて、くちばしで花びらを突っつこうと、反り返ってます。くちばしと目が濃い色なので鳥の形とわかりました。
花びらの描き方は、ぼかしを使って木蓮の特徴を捉えてみごとでした。
by TaekoLovesParis (2016-10-05 08:46) 

TaekoLovesParis

yk2さん、朝顔だけで一部屋、贅沢な空間でしたね。照明に映し出されたたくさんの朝顔。そこだけが大きな舞台。能舞台を思い浮かべる幽玄さがありました。右隻と左隻の違いも写真ではわかっていなかったけど、上手く配置されているんですね。あまり混んでいない時だったので、思い出に残る体験でした。

私も蛾は、御舟の『炎』の蛾の大群を思いましたよー。ヤマタネの自慢の所蔵品ですものね。『SLEEPING GYPSY』は知らなかったので、調べました。小さいので見つけた時は嬉しかったです。「木蓮」の小鳥と同じく、ね。
by TaekoLovesParis (2016-10-05 08:53) 

ma2ma2

お越し頂き、有り難うございます。
鈴木其一展は人気があるみたいですね(^^)
by ma2ma2 (2016-10-05 10:27) 

coco030705

こんばんは、お邪魔します。
芝翫襲名興行は、関西では来年になる予定です。
福助、本当に残念ですね。歌右衛門を継ぐ予定だったのに。私も福助が好きだったので、福助&橋之助の襲名興行をみたかったです。

by coco030705 (2016-10-07 22:34) 

moz

KIITSU って? と思いました (笑)
漢字でなくてKIITSU っていうのも何となくわかる感じがする其一展だなぁと b^^
スリムでスマートなフォルム、群鶴図屏風をはじめとして垂直線がとても綺麗な作品たちですね。
でも、何と言っても朝顔図屏風はすごいなぁ~ ^^;
基本、藍色、白、緑色、金色ですよね。それでこの構図でその大きさなんですよね。近くでじっくりと見てみたいです。 ^^
by moz (2016-10-08 05:52) 

gillman

良かったです。後半、大幅な入れ替えがあるので楽しみです。
by gillman (2016-10-09 18:58) 

アールグレイ

素晴らしい作品たち!
朝顔図屏風、ダイナミックで動きがありますね。
木蓮小禽図は、木蓮の花びらの感じがとてもよくて
小鳥が目に入ってきません(^-^;
屏風画、日本人として特に心魅かれるものがあります。
by アールグレイ (2016-10-12 12:03) 

匁

ごちそうさま
いつも、ご案内有り難う。

ハロウィンは
渋谷スクランブルで大変な賑わいらしい
ですが、25階まで届いていますか[?][わーい(嬉しい顔)]
by (2016-10-29 18:32) 

TaekoLovesParis

匁さん、日本シリーズは、日本ハムの優勝で終わりましたね。
毎試合もどっちが勝つかわからない展開で面白かったです。

ハロウィン、ぎょっとする仮装もありますね。25階まで届きそうな騒ぎ、私はどうもハロウィンに馴染めなくて。

by TaekoLovesParis (2016-10-30 01:41) 

TaekoLovesParis

こちらへのお返事大変、遅くてすみません。
▲ma2ma2さん、私も飛行機が好きなので、詳しい記事、面白かったです。

▲cocoさん、間違えてました。訂正ありがとう。福助は歌右衛門の名跡を継ぐ予定でしたね。昨年は仲良しの友達の御主人が要職に着いた途端に亡くなり、病気になったら、何もかもがふいになるということを実感します。

▲mozさん、其一と書くと読めない人もいるし、「そのいち」と読まれても困るから、KIITSU って、思いました。でも、KIITSUブランドの方がしゃれた感じがしますね。何といっても「朝顔図屏風」が一番でした。mozさんも実物をご覧になったら、感動しますよ。これだけ人気を集めたから、メトロポリタン美術館もまた貸してくれるでしょう。

▲gillmanさん、後半と2回見て完成という形ですね。こんなにたくさん見ても飽きないっていうのは、すごいです。朝顔図は何度見ても感動するだろうな、って思いました。サイドバーの感想、うなづきながら読みました。

▲アールグレイさん、屏風は私たちの心にしっくりくるものがありますね。特に私は金屏風の華やかさが好きです。
木蓮小禽図の小鳥は、一番下、右側の大きな花の左側花びらの下に横向きで枝に止まっています。葉っぱの色と小鳥の色がほとんど同じなので、この大きさの写真では探すのが難しかったですね。
この展覧会は後期もあったので、記事にしました。よかったらご覧になってください。
by TaekoLovesParis (2016-11-06 13:19) 

コメントを書く

お名前:
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0