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フィリップス・コレクション展 [展覧会(西洋画)]

タイトルが「全員巨匠!フィリップス・コレクション展」
フィリップス・コレクションは、アメリカで最も優れた私立美術館である。
その通り、全部、すばらしかった!
これはチケット。ドガ「稽古する踊り子」とセザンヌ「自画像」とスーラ「石割人夫」の絵。

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A4判のチラシの表にある絵の紹介写真は以下の3つ。
ピカソ「緑の帽子を被った女」1939年(寄贈された作品)
ゴッホ 「道路工夫」1889年
モネ 「ヴェトゥイユへの道」1879年

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そして、チラシの裏には、
アングル「水浴の女(小)」1826年
ボナール「犬を抱く女」1922年
ジャコメッティ「モニュメンタルな頭部」1960年、、他。

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これだけで、ぜひ、行かなくては!と思う。
アングルの「水浴の女(小)」は、ルーヴルにある「ヴァルパンソンの浴女」1808年
背景に、「トルコ風呂」1862年のように女性たちが描きこまれ、シーツの上にはベッドカヴァー
らしきものがあり、元の絵「ヴァルパンソンの浴女」のすっきりした白が失われているが、
濃い色の背景で裸婦自体が浮かび上がる。

先々月に見た「ボナール展」は、とても良かったが、こういうタイプのはなかった。
縦長の画面、背景の薄いブルーに、妻の髪、犬、テーブルのケーキという茶色の縦の線。
妻の服の赤に白のストライプも目に染みる。モダンな感じがする。ボナールの絵では、
しばしば猫が脇役として描かれているが、犬の登場する絵も多い。

ジャコメッティも好きな作家で、2017年の展覧会に行った記事がある。

ゴーガンの「ハム」1889年
これもチラシにあったけれど、実物はリアル!横60センチと小さくないので、
ハムは実物より大きくてインパクト大。横にはコップに入ったワインとペコロス
(小さい玉ねぎ)。友達が「このハム、バイヨンヌ?」と少しおどけて訊いてきた。
さては、おなかが空いてるのね。薄切りにしたの
とワイン、、もう夜ご飯はこれに決まり?

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期待に違わず、どの絵もとても良かったが、面白かったのは展示方法だった。
フィリップス氏がコレクションした年代に沿って展示され購入年が記されている。

フィリップス氏はペンシルヴァニア州の鉄鋼王の孫。大学時代から美術に興味を持ち、
コレクションを始めた。妻も画家である。
最初に購入した絵は、シャルダンの「プラムを盛った鉢と桃、水差し」1728年、
26才の時であった。
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1、1920年代のコレクション

シャルダンの次に購入したのは、ドーミエの「三人の法律家」、モネ「ヴェトゥイユへの道」
2年後に、ドラクロワ「パガニーニ」
さらにシスレー「ルーヴシエンヌの雪」、クールベの「地中海」「ムーティエの岩山」、
モリゾ「二人の少女」、コンスタブル「スタウア河畔にて、マイヨール「女の頭部」

初期に気に入って購入したドーミエとクールベの作品は、私からすると、典型的な
ドーミエ、クールベではない。
ドーミエの「蜂起」は、制作が1848年以降とあるので、フランス革命での市民蜂起
だろう。ドーミエは労働者階級の生活を写実的に描いているのに、ブルジョワの
フィリップス氏が共感を持ったのが不思議だった。遠い国フランスでの出来事、
自由を愛するアメリカ人だからだろうか。
*クールベには風景画や狩りの場面が多いが、「地中海」は画面の上半分が緑がかった空、
下半分に雲と紺碧の海、波頭が一直線上に描かれている。空の大きさ、海の広さを感じさせる。
*ドラクロワ「パガニーニ」は、パガニーニの演奏姿。超絶技巧の演奏が評判だったが、
速い動きを捉えるのが上手なドラクロワゆえ、体を使っての演奏ぶりがわかる。
ドラクロワはヴァイオリンが上手だったから、手、指の位置が正確に描けているそうだ。


*ボナールの「犬を抱く女」は展覧会で見て気に入り、以後、ボナール作品を
ちょくちょく購入する。他2点が展示されていた。

2、1928年のコレクション
マネ「スペイン舞踊」、ボナール「棕櫚の木」、セザンヌ「自画像」、ヴュイヤール

「新聞」、
Bonard_Syuro.jpgボナール「棕櫚の木」


3、1930年代 理想の蒐集品
キュビズムの作品が続く。ピカソ?と思ったら、4点全部ブラックの作品。
フィリップス氏はブラック作品を「フランス的センスにあふれている」と気に入り、
7点の展示。全部で74点なのだから、そのうち7点は突出している。

スペインのファングリスの「新聞のある静物」もブラックに似た作風。
デュフィ「画家のアトリエ」、ゴッホ「アルルの公園の入り口」が良かった。
ゴヤ「聖ペテロの悔恨」、ピカソはブロンズの彫刻「道化師」


4、1940年前後の蒐集
第二次世界大戦の時代。アメリカ本土は戦場ではなかったので、蒐集を続け、
カンディンスキー「連続」を購入。楽譜をイメージする綺麗な色の初期の抽象画。
クレー、ココシュカ、マティス「サン=ミシェル河岸のアトリエ」も購入。


5、第二次世界大戦後
ゴーガンの「ハム」を購入したが、そのために、持っていたタヒチでの絵を売却。
作家の特色よりも、自分の好みを優先しての購入。
アングル「水浴の女(小)」は、ここにあった。


6、ドライヤーコレクションの受け入れと晩年の蒐集
コレクターのキャサリン・ドライヤーと知り合う。数年後、ドライヤーの死後、遺品の
寄贈の話があり、カンディンスキー「白い縁のある絵のための下絵」、フランツ・マルク
「森の中の鹿」、カンベンドンク「村の大通り」を受け取り、ブランクーシの彫刻は、
拒否をした。好みに合わなかったらしい。
Camppendock300.jpgカンベンドンク「村の大通り」


7、ダンカン・フィリップスの遺志
展覧会のサブタイトルは「A Modern Vision」。
フィリップス氏は、スーティン、ココシュカ、モランディなどを購入し、
アメリカでのモダン・アートの普及に努めた。
41才で自死したニコラ・ド・スタールの初個展も開催した。

フィリップス氏の死後も美術館フィリップ・コレクションへ良品の寄贈があり、
最後の部屋にあるピカソ3点、ロダンの彫刻、ドガ「リハーサル室での踊りの稽古」
は寄贈されたものである。


※追記

フィリップス・コレクション展は、2005年に国立新美術館で開催されました。
その時のりゅうさんの記事です。 
今回の出品作品とかなり重なっているので面白いと思います。


nice!(41)  コメント(11) 

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コメント 11

gillman

個人のコレクションはそのコレクターのテイストと自分のテイストを比べながら観る楽しさもありますね。「う〜ん、そうくるかぁ」みたいな。
by gillman (2019-01-23 08:56) 

TaekoLovesParis

gillmanさん、その通りです!「う〜ん、そうくるかぁ」、この表現、すごく、わかります。とってもほしいものがあった時、資金が足りない場合は、何かを売って買う、だったそうなので、何を売ったのかも興味でした。ブランクーシーを断ったと書いてあると、「へぇー」と思ったりでした。ピカソにご執心でなかったのに、寄贈作品があったため、今回の来日では、ピカソが5点と多いですね。
by TaekoLovesParis (2019-01-23 20:12) 

moz

確か三菱一号館美術館でしたよね。しばらく行っていないし気にかかっている展覧会です。2月11日までですね。行きたい ^^;
ご紹介頂いた中では、アングル「水浴の女」とボナール「犬を抱く女」に興味津々です。アングルもあまり見る機会ないし、ボナールのこの絵は色彩と構図にとっても惹かれました。
今年も美術館巡りスタートですね。じぶんも計画を立てて既に前売りも2枚買ったので、それに合わせて見ていきたいと思っています。
TaekoLovesParis さんの記事もとても楽しみにしています。 ^^
by moz (2019-01-24 09:53) 

nicolas

コレクションするっていうのは、好みもある程度表面化するんですねー
カンベンドンクの「村の大通り」は、私も受け取りたいです。(笑)
この中で一番好きだなーと思ったのは、ゴッホの「道路工夫」。
最初、どこに工夫が?!って、一瞬探しちゃいました。
どう見ても、題名にするほど大きく描いてないけど、ちゃんと中心に居て、
その分、手前で踊りくねるようにして佇む街路樹の存在感がスゴイですね。

そうそう、クスミティーのセカンドラインの「LΦVオーガニック」、もしかして既にご存じでしょうか。
ここのブレンドティー、かなりスパイシーですがたまには面白いかもです。
大よそのラインナップ載ってたサイト、参考のために貼り付けておきますね。
https://macaro-ni.jp/16368
by nicolas (2019-01-25 16:20) 

Inatimy

展覧会のサイトで出展作品をのぞいてきました。
フランツ・マルクの「森の中の鹿」、カンベンドンク「村の大通り」は私も欲しい^^。
大通りなのに、こんなに牛がいる村、なんてのどかな。
ブランクーシの受け取りを拒否するのも、なんかすごいな。とりあえず受け取っておいて、
あとで売って他のもの買う資金にしようなんてことよぎったりしない人なんだなぁ^^;。
あと気に入ったのが、空の色と山の迫力と緑の調和がいい感じのココシュカの
「クールマイヨールとダン・デュ・ジェアン」とグラデーションが美しいクレーの
「養樹園」。 リビングに飾りたい。
by Inatimy (2019-01-25 17:50) 

yk2

今回ここには画像がありませんが、ドラクロワのパガニーニはいかにもロマン主義的なモヤモヤとした絵で、当時の風評で長身で痩せこけて歯も無く病的で風変わりとも云われたこのバイオリニストの風貌をよく表していましたね。一方で彼の宿敵アングルの描いたデッサンのパガニーニ像(※フィリップスコレクションとは関係ありません)はすごく端正で見た目整った紳士風。実際女性にモテモテ(異常なまでに!)だったそうだし(^^;、一体どっちの姿が本当なんでしょう?。

今回のパガニーニ像は1831年のパリ・オペラ座公演をドラクロワが実際に見て同年に描いた作品とのこと。抱えていた病気も複数あって、治療の為に水銀療法や下剤を常に服用していたなんて話もあり、この3年後の34年には病状が悪化したパガニーニは演奏活動の引退を余儀なくされてしまったそうなので、アングルが描いた頃より晩年に向かって大きな風貌の変化があったのかなぁ?~なんて想像を展覧会会場で巡らせてました。
by yk2 (2019-01-26 10:49) 

ふにゃいの

ゴーガンのハム、昨年見ました。
私のお気に入りの絵です。
購入した順番に展示、面白そうです。
ご本人の趣味や財力の移り変わりがわかりそう。
by ふにゃいの (2019-01-26 20:01) 

りゅう

2005年に六本木で見たものが結構あるなぁというのが第一印象でした。パガニーニ、どっかで見たよなぁって思っていたので、思いがけない再会にビックリでした。
このモリゾを見て、ボナール展に行きたくなったのですが、残念ながら日程が合いませんでした。。。
by りゅう (2019-01-27 15:25) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲mozさん、アングル「水浴の女」は小さいけれど、良い作品でした。ボナールも強烈な赤い服に目が行きますが、全体は見ていると和むような温かさがあります。mozさんの美術館巡り、始まりましたね。お買いになったフェルメールの本3冊、呼んでらっしゃいますか?

▲nicolasさん、美術館として公開するほどのコレクションだと、好みもわかっちゃいますね。フィリップス氏は、青騎士グループは好みに合わないと、カンディンスキーとクレーの他は無しだったんですって。だからカンベンドンク「村の大通り」にも興味を示さなかった。でも部屋にかけてみたら、明るい色彩、かわいい動物だったから、気に入り、ついでに、マルクの鹿も受け入れたんですって。寄贈と言われても趣味に合わないものは受け取らないという潔さ、お金持ちならではかしら。
ゴッホの工夫、小さいながらも真ん中に配置って、で、右側にも3人いて石を運んでる。大きな木の根元には、工事に使う石が置かれ、、ぱっと見、木に目が行ってしまうのに、よく見ていると、、芸が細かいですよね。

「LΦVオーガニック」、知りませんでした。缶がかわいいです!
でも、日本で売ってないみたいね。今度、パリに行った時に探します。

▲Inatimyさん、ここのサイト、すごいですね。たくさんの絵が見れるようになってますね。フィリップス氏はドイツものはカンディンスキーとクレーだけって決めてたんですって。でも、寄贈の申し出を受けて、ちょっと部屋に飾ってみたら、明るくて良かったので、もらうことにしたそうです。そうよね、あとで売るっていう手もあったわね。でも、資金原資より自分の好みを優先させたかったのね。

気に入ったのが、クレーの「養樹園」というのは、わかりますが、ココシュカのこの絵は意外でした。とっても男性的で男の人が好きな絵だろうなと思って見たので。

▲yk2さん、パガニーニというと、私は映画「パガニーニ」での風貌と演奏スタイルが浮かぶのですが、ドラクロワの絵は、狂気とまで言われた天才の謎めいた感じが出ていましたね。そういえばアングルの「パガニーニ」、柔和な感じのお顔は、yk2さんの「アングルのバイオリン」記事で見ましたが、ドラクロワのとは大きく違いますね。どっちが本当って思うのも無理ないけど、たしかに、どの年代のパガニーニだったのか、ですね。調べたらドラクロワが演奏を見た1831年には49才。30代の終わりに梅毒と診断されアヘンを使っていたそうなので、かなり病気がすすんでいますね。映画の時とも違う晩年の姿なんですね。そう思ってごらんになったら切なさもあったことでしょう。

▲ふにゃいのさん、ゴーガンのハム、私は「ゴッホとゴーギャン展」で見ました。取り上げる題材がユニークですね。しかもかなりの迫力。
購入した順番と、その時のフィリップス氏の画家に対するコメントがでているのが面白かったです。
by TaekoLovesParis (2019-01-27 17:32) 

TaekoLovesParis

りゅうさん、フィリップスコレクション展は以前にもあって、10年以上前で、、ってどこかで読んでいたので、りゅうさんのコメントを読んで、2005年六本木がそう? りゅうさんの記事を探したら、ありました!
作品、7~8割、重なってますねー。ルノワールの「舟遊びをする人々」も来ていたんですね。
リンクをつけさせてくださいね。
by TaekoLovesParis (2019-01-27 18:01) 

coco030705

こんばんは。
すばらしい作品の数々、観に行きたいなぁと思いますが、2/11までなので、行けるかしら……。この中でぜひ実物を観たい作品は、ボナール「犬を抱く女」(猫じゃないけど、かわいい!)、ボナール「棕櫚の木」(こんな素敵な風景画、初めてみました)、ピカソ「緑の帽子を被った女」(色も構図もすばらしい)、カンベンドンク「村の大通り」(はじめ、シャガールかなと思ったんですが、もっとしっかりと描いてますものね。美しい色彩ですね)など。すばらしいコレクションですね。


by coco030705 (2019-01-30 20:47) 

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