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カミーユ・アンロの生け花 [展覧会(絵以外)]

東京、オペラシティのアートギャラリーで「カミーユ・アンロ 蛇を踏む」という
奇妙なタイトルの展覧会を見た。
カミーユはフランス人の現代アーティスト。ドローイングやイラストレーション
作品も展示されていたが、私が興味を持ったのは、生け花。


草月流の生け花に魅せられたカミーユは、一冊の本の中の言葉に合わせたイメージで
花を活けている。タイトルの「蛇を踏む」も川上弘美の芥川賞受賞作の本の名前。
でも、私は、蛇を好きでないから、その生け花は省略。


1、「お菊さん」1887年 ピエール・ロティ著
フランス人のロティは、海軍士官で日本に2度来日し、鹿鳴館のパーティにも出席した。
「お菊さん」という女性と親しくなり、彼女及び日本について書いた小説である。
「豊富で新鮮な自然は、日本特有の調子を持っていた。山の頂にまで、、」
日本の風景をイメージした生け花。西洋さんざしとアルストロメリア。
アルストロメリアはもっとピンク色だったのだけど。。。

お菊さん.jpg

ゴッホは小説「お菊さん」から日本についての知識を得ていたそうだ。


2、「美しさと哀しみと」川端康成著
「大木を思わせる言葉は数知れずあるだろう。見るもの聞くものが大木につながるのは、
音子が生きていることに他ならないのであった。」 菊、マオ蘭

川端.jpg


3、「源氏物語」 紫式部著
「似つかわしからぬ扇のさまかな」胡蝶蘭、ヤシ、アジアンタムなど
紫式部だから紫?

源氏物語.jpg


4、「闇の奥」ジョセフ・コンラッド著
「これには僕も驚いた。いったいどうしたというのだ」
コンラッドは英国人。植民地コンゴでの経験、アフリカ奥地の暗い闇を書いた。
この本をもとに、映画「地獄の黙示録」はコンゴをヴェトナムに置き換えて作られた。
マオ蘭、はらん    アフリカのイメージの色合い。

コンラッド.jpg


左:5、「しあわせな日々」サミュエル・ベケット著
「でも、そのなかにはほんとうのことは一つもない。どこにも」
ピーチグラス  タケノコのよう。
ベケットは、何回も上演された「ゴドーを待ちながら」の劇作家。不条理が
テーマだったから、この不可解さもそうなのかしら?


右:6、「ドミトリー」 小川洋子著
「死んでいるものしか食べられないと思っていたのよ、あなた」
ミモザアカシア ニューサイラン 観葉植物2種 ドミトリーは寮の意味で、
これはちょっと不思議な小説。

ベケット他.jpg


7、「人間の条件」 ハンナ・アーレント著
「しかし、善への愛から生まれる活動力と知への愛から生まれる活動力とが似てるのは、
ここまでである」
蓮(Indian Lotus)   「ハンナ・アーレント」という映画に感動したので、「おっ!」と思った。
映画は実話に基づいた話で、政治学者アーレントがナチのアイヒマン裁判を見学した時の
こと。「思考をやめたとき、人間はいとも簡単に残虐な行為を行う」「人間は考えることで強くなる」
この言葉は、現在の世界情勢にも当てはまると思った。蓮、、しかも枯れている。。


ハンナアーレント.jpg


8、「オデュッセイア」 ホメロス著 オリーブ、カラー、ぶどう(枝)、スターチス

オデュセイア.jpg


9、「フランス革命史」ジュール・ミシュレ著  ユリ、カーネーション アネモネ

フランス革命.jpg


その日、私が読んでいた本があって、うれしかった。
10、「舟を編む」 三浦しをん著

「犬は動物の犬だけを意味する言葉ではない」 辞書編纂という内容の本なので。
花材が「じゃのめ松、イヌタデ」 犬という言葉が入っていたので、うふっ、だった。

三浦しをん.jpg



このイメージだから、この花ね、とわかりやすいものと難解なものとが混在していた。

別部屋で展示されていたカミーユ・アンロンスタレーション。ユーモアあり~。
作品ドローイング.jpg



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コメント 9

coco030705

やはり外国人アーティストが活けると日本の生け花とはちがう感覚がありますね。「美しさと哀しみと」のマオ蘭がおもしろいですね。菊と合わせるなんて、斬新。川端の小説はほとんどよんだことがないので、ちょっと読みたくなりました。「源氏物語」のお花は、目立ちますね。恋愛模様華やかな源氏の世界でしょうか。映画「ハンナ・アーレント」観ました!とても面白い映画でした。枯れた蓮は、ユダヤ人の絶望感をあらわしているのかしら。「舟を編む」も観ました。面白かったです。じゃのめ松とイヌタデ、どういうイメージなのでしょうか。Taekoさんは、犬好きでいらっしゃるんですね。
by coco030705 (2019-11-06 23:12) 

engrid

素晴らしい展覧会ですね
知的好奇心を、大いに刺激されます
舟を編む、わたしも うふっ、です
枯れた蓮、絶望感、、そうなのかと、、でも蓮は地下茎、時を待っていますね
by engrid (2019-11-07 18:00) 

きたろう

TaekoLovesParisコメントありがとうございます(*^_^*)
エプタザールは、大好きなホールの一つです。
by きたろう (2019-11-09 03:21) 

Inatimy

「フランス革命史」、右側に斜めに傾いてるのと、テーブルにぼとっと落ちてるのが
なんだか意味深ですね^^;。
この中だと2の「美しさと哀しみと」が気に入りました。ボウルのような器に
まっすぐとすくっと伸びて、とってもシンプル♪
by Inatimy (2019-11-10 07:16) 

TaekoLovesParis

cocoさん、外国人の場合は、花材の選びかたも違ったテイストですね。
私も川端は、「雪国」と「伊豆の踊子」くらいで、「美しさと哀しみと」はタイトルすら知りませんでした。ノーベル賞作家の日本人ということで、菊のイメージがあるのかもしれませんね。マオ蘭が刀のようにも思えました。

私もあでやかな蘭の紫色が光源氏のイメージかと想像しました。
「ハンナ・アーレント」、cocoさんの記事で知ったんですよ。
<枯れた蓮は、ユダヤ人の絶望感をあらわしているのかしら> → そうですよ!私は気づかなかった。。
「舟を編む」、面白く読みました。犬だからイヌタデとわかっても、それにじゃのめ松って、どういうことなのか。。。犬好きだけど、この謎はわからないです。(苦笑)
by TaekoLovesParis (2019-11-10 18:40) 

TaekoLovesParis

engridさん、「舟を編む」、お読みになったんですね。馬締さん、面白い名前ですよね。今は、やはりみうらしをんの「風が強く吹いている」箱根駅伝をめざす話を読んでます。枯れてても地下茎だから、死なない、希望がある、時を待つっていうことですね。
友達は、ベケットのところで、「私、卒論、ベケットで、、ひどく苦労したのを思い出した。」作者(アーティスト)のカミーユ・アンロはフランス人だから、フランスものが多かったような。。
by TaekoLovesParis (2019-11-10 22:38) 

TaekoLovesParis

Inatimyさん、青が右に傾いてぼとっと落ちる、フランス国旗は青、白、赤で、青が自由、白が平等、赤が博愛。つまり、あお=自由がなくなっていく、
っていう意味かと。あー、だから意味深ね!
「美しさと哀しみと」、この菊はシンプルですくっと高い、潔いイメージ。菊が蘭の上にのせてあるかのように見えるわね。
by TaekoLovesParis (2019-11-10 22:49) 

yk2

ちょっとご無沙汰しております(^^;。

現代作家物の小説を全然読まない僕にはこれらの作品のタイトルと造形の関連性がまるでちんぷんかんぷんですが、彫刻を手がけるアーティストが活け花をすると、どことなく、テクスチャーも硬質な感じが漂うものですね、植物なのに。どうしてそう思ったのか自分でも上手く説明出来ないのですが、『オデュッセイア』辺りを眺めていたらヘンリー・ムーアを思い浮かべてました。

以下序で。
「犬は動物の犬だけを意味する言葉ではない」って、ここではやっぱり「誰かの命を受け、スパイの様に嗅ぎ回るもの」って意味で採れば大丈夫ですか?。日本だと「犬」って言葉にはこんな意味もあるけど、フランス人にもこんなふうに思われてるのかな?。フランス人じゃないけど、メーテルリンクの『青い鳥』の犬は愚直なまでに裏表無く従順で、ネコは腹黒くで悪巧み。あ、こんなふうに書いちゃったけど、リオンちゃんのモデルもちょっと大きめのネコ科でしたっけね・・・(笑)。
by yk2 (2019-11-12 07:47) 

TaekoLovesParis

yk2さん、『オデュッセイア』からヘンリー・ムーアねーーー、素直に、そうそうとは言い難く、謎解きをするような気持ちで眺めました。
『オデュッセイア』の生け花は、ブドウの木を使っていて、それが古い時代のギリシアの象徴に思えました。ギリシア神話にはバッカスが登場するし、昔からワインがつくられていたから。さらに、曲線的でうねりの多いフォルムの生け花は横長、松岡美術館の彫刻部屋の一番奥に立膝で横たわってたムーアの「横たわる人?女?」に見えはじめました。ムーアの彫刻は太古の大らかな時代を思わせる丸みを帯びたものが多くて、温かみを感じるから好きです。

犬のもう一つの意味は、その通り、スパイです。嗅ぎまわるからよね。
フランス語で、犬に俗語っぽいのあるのかしら。私は聞いたことないけど。
「青い鳥」、チルチルとミチルが青い鳥を探しに行くとき、お供で行く動物たち、犬と猫がいたのを覚えてないけど、そんなふうに性格づけられてたのね。リオンちゃんはネコ科リサ・ラーソン属で、リサ・ラーソンに命を吹き込まれた時、前世のネコの性格は捨てられ、従順なやさしい動物になりました。あの瞳を見ればわかるでしょ。
by TaekoLovesParis (2019-11-15 18:52) 

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