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ブダペスト展 [展覧会(西洋画)]

コロナ・ウィルス感染予防のため、今日(2月29日)から、3月15日まで、
主要美術館はみんな休館。
あわてて最終日となる昨日、国立新美術館の「ブダペスト展」へ。
あちこちで良い評判なので、是非、行かねばと思っていた。

tirashi2.jpg


これが印象的なチラシやポスター。冬の最中、ここだけ春が来たかのような明るさ。
ハンガリーで、この絵は有名で、切手にも使われているそうだ。

ブダペストはハンガリーの首都。ドナウ川をはさんでブダとペスト、2つの街があるので、
ブダペストという首都になったと小学校で習った。「豚とペストなんて~」と大笑い
したので覚えている。(以来ずっと、ブタペストと思い込んでいた間違いをInatimyさんに指摘され、
ようやく気づきました)

18世紀末までの作品を所蔵する「ブダペスト国立西洋美術館」と19世紀以降を所蔵する
「ナショナルギャラリー」から、130点が来日した。

展示は、時代順になっている。
第I部.ルネサンスから18世紀まで
1、ドイツとネーデルランドの絵画
●一番最初は、クラーナハの「不釣り合いなカップル 老人と若い女」
狡猾そうな老人が若く美しい女性の体に手を伸ばし、女性は老人の財布を探る。
クラーナハは、このタイトルの絵を40枚描いているそうだ。調べてみたら、
たしかに、ある、ある。8割が財布に手を伸ばしている。
隣には小さな絵で、「不釣り合いなカップル 老女と若い男」
これも老女が財布からお金を取り、若い男にわたしている。
クラナーハ_不釣合いなカップル.png

2、イタリア絵画
●フランチェスコ・ヴァンニ「聖家族」1600年頃
パルマ展でのコレッジョのマリアに似た気品と優美さ。俯いた眼差し。
それもそのはず、コレッジョに学び、薄く溶いた絵の具で描くところと、構図も
コレッジョの「授乳の聖母」に似ているそうだ。赤ん坊のイエスは、ヨハネが差し出す
リンゴ(=知恵の実)をつかんでいる。

フランチェスコ・ヴァンニ「聖家族」2.jpg


●ティツィアーノ「聖母子と聖パウロ」 1540年
本と剣を持っているので聖パウロとわかる。大きく描かれた聖パウロが手前にいることで、
絵を見る私たちも一緒に聖母子を見ているような気持ちになる。

ティツィアーノ_聖母子と聖パウロ.jpg


●フェデリコ・バロッチの工房「アッシジの聖フランチェスコ7のいる受胎告知」
バロッチは柔らかな色彩で親しみやすい聖母を描き、当時、人気だった。
マニエリズムからバロックへの架け橋的存在。

●ジョバンニ・バッティスタ・ランゲッティ「監獄でファラオの料理長と給仕長の夢を

解釈するヨセフ」1660~1676の間。
まさにバロック。印象的な身振り、迫真の表情。中央の料理長は処刑される夢。一方、
左手の給仕長は牢獄から開放される夢。


●ジョバンニ・バッティスタ・ティエポロ「聖ヨセフをカルメル修道会の守護聖人に
するよう、アビラの聖テレサに促す聖母」1749年
縦長の絵。一番高い所に位置するマリアが神々しく美しい。聖母の下には、雲、雲。
ティエポロは、18世紀イタリア絵画随一の巨匠。ヴェネツィア派。

3、黄金時代のオランダ絵画
●ヤン・ステーン「田舎の結婚式」1656年
農民の生活や家族風景を描くことが多いヤン・ステーン。フェルメール展や
オランダ絵画展では、作品が展示されていた。
この絵では、大口をあけて笑っている男がほぼ中央にいて目立っている。
自分がモデルだそう。


4、スペイン絵画 黄金時代からゴヤまで
●エル・グレコ「聖小ヤコブ」(男性の頭部の習作)1600年頃
グレコ本人の自画像と思われていた時代もあったそうだ。細面の顔立ちが
似てる。水色と灰色の混じった幻想的な背景。輝きを放つ緑と赤(ピンク)の衣装。

グレコ_聖ヤコブ.jpg


●バルトロメ・ゴンサレス「王子の肖像」1618年
ゴンサレスはフェリペ3世のお抱え画家。金色のブレード付きの白い服の王子、
黄金の鈴、笛を持ち、サンゴの装飾品。それらは身を守るという言い伝えがあった。

●ゴヤ「カバリューロ候ホセ・アントニオの肖像」1807年
肖像画を頼まれたが、傲慢なカバリューロ候を好きでなかったゴヤは、衣装を
立派に描き、表情に傲慢で冷たい性格を滲ませた。

ゴヤ_カバリューロ候の肖像.jpg


5、ネーデルランドとイタリアの静物画
●アブラハム・ファン・ベイエレン「果物、魚介、高価な食器る静物」1654年
高価なものをたくさん並べた「見せびらかしの静物画」

ベイエレン_高価な食器のある静物.jpg


6、17-18世紀のヨーロッパの都市と風景
16~17世紀に初めて風景画というジャンルができた。特にイタリアでは
理想の風景が描かれた。

●ヤーコブ・ファン・ライスダール「アルクマールの税関」1655年
黒チョーク、灰色の水彩、小さなデッサンだが、その丁寧さは、さすがライスダール。
ロイスダールと表記されることもある。17世紀オランダ絵画で最も評価されている。

●ヤン・アブラハムスゾーン・ファン・ベールストラーテン「冬のニューコープ村」1660年代初期
横130㎝の大きな絵。半分から上は雲。空が広く人が小さい。

ベールストラーテン_冬のニューコープ村.jpg


7、17-18世紀のハンガリー王国の絵画芸術
8、彫刻 
机の上に置くような小さい作品ばかりだった。
メッサーシュミット(戦闘機のような名前)の変顔が2点あった。
https://taekoparis.blog.ss-blog.jp/2011-04-22 の一番下にメッサーシュミットの
変顔作品写真があります


第Ⅱ部 19世紀・20世紀初頭
1、ビーダーマイアー
ビーダーマイアーは、オーストリアを中心に身近で日常的なものに目を向けようと
生まれた市民文化の形態。絵画は写実で優美。
●フェリーチェ・スキアヴォーニ「お茶をいれる召使い」19世紀中頃
召使をぼかして描くことで、穏やかな優しい雰囲気を出している。

お茶を入れる召使い》フェリーチェ・スキアヴォーニ.jpg


2、レアリズムー風俗画と肖像画
●ムンカーチ・ミハーイ「パリの室内<本を読む女性>」1877年
ムンカーチ・ミハーイは、ハンガリーでは一番有名といえるほどの巨匠。
貴族の女性と結婚後は、室内画で優雅な貴族の生活を描いた。
豪華な室内。タピストリー、壁一面の絵、右側で子供が遊んでいる。

ミハーイ_本を読む女性.jpg

●ムンカーチ・ミハーイ「フランツ・リストの肖像」1886年
ミハーイは、音楽家とも交流があり、30才以上年が離れているリストともお互いに
尊敬しあっていた。この肖像画が描かれた時、リストは74才で、この4か月後に亡くなった。

ミハーイ_リスト.jpg

●シニュイ・メルシェ・パール「紫のドレスの婦人」1874年
チラシに使われている絵。縦1mの大きな絵。
モデルは新婚間もないパールの妻。自然な光の下、ドレスの紫と補色の草緑色。
空のブルーと補色の黄色と色遣いが明瞭。

シニュイ・メルシェ・パール「ヒバリ」1882年
縦長の大きな絵。高い空、雲の形が面白い、下に向かって降っているかのよう。
青空部分にヒバリ一羽。裸婦が体をもたげて空高く飛ぶヒバリを見つめている。
草原に裸婦はラファエル・コランの「フロレアル」を思い出す。

●ギュスターブ・ドレ「白いショールをまとった若い女性」1870年頃
人形のような顔立ちの若い女性。黒いドレスに白いショール、ウェストの細いことと
言ったら、、男の人は夢中になると思う。


3、戸外制作の絵画
ドービニー、クールベ、コローなどの作品もあった。
●モネ「トゥルーヴィルの防波堤、干潮」1870年
モネの初期の作品。雲に覆われた空と海の水が一体化している。
釣り竿をかざす人と傍らのベンチに座る人。サーモンピンクの帆のヨット。
右端には大きな客船が停泊中。


4、自然主義
●グドムンド・ステネルセン「夏至の夜」 こちらに背を向けた男女5~6名が、明るい夜
なので、ダンスをしようとしている。


5、世紀末ー神話、寓意、象徴主義
ベックリン、カリエール作品があった。
●チョントヴァーリ・コストカ・ティヴァダル「アテネの新月の夜、馬車での散策」1904年
ティヴァダルはハンガリー人。異彩を放つ絵。メルヘンっぽい。
月あかりがピンク色、白い家が中央に。手前の馬車が黒いシルエットになっている。
ティヴァダル_アテネの新月の夜.jpg

6、ポスト印象派
モーリス・ドニ、シニャックの作品もあった。

●リップル・ローナイ・ヨージェフ「赤ワインを飲む私の父とピアチェク叔父さん」1907年
リップル・ローナイ・ヨージェフはハンガリーのナビ派の大家。若い時代をパリで過ごした。
ローナイ・ヨージェフ_赤ワインを飲む父とおじ.jpg


見応えがある良い展覧会だった。今まで名前も知らなかったハンガリーの画家たちの
作品には印象に残るものがたくさんあった。ブタペストも行ってみたいな~。

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yk2

フランチェスコ・ヴァンニの『聖家族』、全体としてコレッジョに倣った柔らかなイメージは醸し出せているし、ヨハネだけ切り取って見せられたら「あ、コレッジョかな?」って、すぐに思い当たる人もいるでしょう。でも、肝心のマリアの愛らしくも気高い顔立ちや神々しいまでの表情は倣いきれていない気がします。コレッジョ(・・・の描いたマリア^^ゞ)を愛する者として、採点基準がかな~~~り厳しくなってますが(笑)。

この展覧会、チケットは持っているのですが、実質もう終了ですよね。国立新美術館は月曜日開館だから、会期最終日の16日は予定では休業明けになるけれど。昨年末のリヒテンシュタイン展からハプスブルク展、エリザベート繋がり(?)で本展と、3つの展覧会を自分の中でセット組みして楽しみにしてたんですが(泣)。新型コロナのせいで残念なことばかり続き気も塞ぎます。気持ちとして、外食にも飲みにも行きづらいし。早く収束すると良いですね。
by yk2 (2020-03-01 12:13) 

gillman

ビーダーマイアーが好きなので行きたいのですが…、タイミングを逸したかも。
by gillman (2020-03-02 21:54) 

Inatimy

何度もブタペストと登場すると、このままでは街がちょっと可哀想ゆえ・・・ブタじゃなくて、濁音ついてブダで、Budapest ブダペストなんですよ^^;。
フランスのパリと姉妹都市でもありますね。
「冬のニューコープ村」、この教会、どの辺りかなとGoogleマップで調べて、それらしいのを見つけて楽しめました、この辺りか・・・って。スケートできる、このくらい湖が凍る冬がいいなぁ^^。空の色はこんな感じが多いのに暖かくって。
by Inatimy (2020-03-03 07:11) 

TaekoLovesParis

Inatimyさん、ありがとう!
ずーっと、ブタと聞きまちがえたまま何十年も、でした。たしかに~濁点がついてますね。早速、なおします。
パリと姉妹都市なんですか。
「冬のニューコープ村」、オランダ人ならわかる地名なんですね。1660年代初期の風景画の湖などから場所が特定できるなんて、Inatimyさんの検索能力、すごいです。
by TaekoLovesParis (2020-03-03 10:50) 

TaekoLovesParis

yk2さん、この展覧会は、最終日16日のことは未定としているけれど、16日は月曜だから、行ける人が限られてしまいますね。
日本とオーストリア、ハンガリーとの国交150周年記念の年ということで、リヒテンから始まって、ハプスブルグ、ブダペストと豪華なコレクション。ハンガリーは、ミュージカル「エリザベート」でも、ハンガリーを支援していたエリザベートが、オーストリア=ハンガリー帝国の皇帝となる場面が明るく華やかで記憶に残っています。実際、この展覧会に行ってみたら、はエリザベート関連は何もなかったのですが。

フランチェスコ・ヴァンニの『聖家族』のマリアは、先達コレッジョに適わないとの仰せなので、yk2さんの記事で、コレッジョを検索して見てみまし
た。私には8割がたコレッジョに近づいてるように見えるけど、、会場内で、ティツィアーノを含め4枚、大きい「聖母子」が並んでいたんですよ。その中では光っていて、赤ん坊を見る伏し目の美しさに私は惹かれました。

<外食にも飲みにも行きづらいし> → ってことで、うちに友達が集まることが多くなり、私も出かけてないです。今週は仕事が自宅、つまり1週間休みなのですが、、美術館が閉まってるのでは。。


by TaekoLovesParis (2020-03-03 11:13) 

TaekoLovesParis

gillmanさん、突然の展覧会中止ですものね。gillmanさんは、ウィーンで美術史美術館、アルベルティー美術館といらしてますものね。この展覧会は、ハンガリー展なので、さりげなく、ハンガリーの画家を紹介し、私たちの印象に残るようにしていました。
by TaekoLovesParis (2020-03-03 11:18) 

ふにゃいの

3月中頃までの展覧会が多かったので
最後、駆け込もうと思っていた方は
いけなくなってしまった方も多いでしょうね。
私も期日指定がひとつ払い戻しになっちゃいました。
by ふにゃいの (2020-03-04 00:35) 

TaekoLovesParis

ふにゃいのさん、行く気満々だったのに、払い戻しって残念ですよね。私は、この展覧会の招待券をいただいてたので、行かないと無駄になってしまうっていうのもあって、出かけたら、予想以上に見応えがあり、行ってよかったと思いました。
by TaekoLovesParis (2020-03-04 21:59) 

りゅう

あー、おわったーって思ったら、
再開時期は不明なものの月末まで会期延長とのこと。
一握りですが、鑑賞の可能性が出てきました。
私も見に行きたいです♪
by りゅう (2020-03-14 23:24) 

TaekoLovesParis

りゅうさん、「ブダペスト展」の情報ありがとう。
ハンガリーのコロナウィルス感染情報は入ってこないからわからないけれど、
今や欧州8か国が国境封鎖だから、この展覧会の美術品を返却するのも大変でしょうね。延長になったのは朗報。りゅうさんのお休み期間と合うといいですね。見ごたえあるたくさんの作品でした。
by TaekoLovesParis (2020-03-17 09:09) 

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