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ジャコメッティ 最後の肖像 [映画 (美術関連)]

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細長い人物の彫刻で有名なアルベルト・ジャコメッティは、2017年に回顧展が
国立新美術館で開催され盛況だった。この映画は2017年制作、日本公開は
2018年だった。

アルベルト・ジャコメッティは、父が著名な画家ジョヴァンニ・ジャコメッティ、
弟ディエゴも彫刻家である。小さい時から父に手ほどきを受け、絵も上手い。
特に晩年は、絵を熱心に描いていた。

アメリカ人作家のジェームスは、パリからの帰国直前、かねてからの知り合い巨匠
ジャコメッティに「肖像画のモデルになってほしい」と頼まれ、明後日の飛行機に
間に合うならばと引き受ける。

ジャコメッティのアトリエで、制作が始まったが、終わらないので、ジェームスは
帰国を伸ばす。
大きな彫刻を挟んでモデルと対峙するこの画像がなかなか良かった。
筆をとりながらジャコメッティが訥々と語る。

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アトリエの中ばかりでは、息がつまるからと、散歩に出たり、Caféに行ったり、
いつもの散歩道はモンパルナス墓地。

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時には、妻も一緒にレストランへも。

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休憩よりも、絵を早く完成させてほしいと願うジェームスだが、

6日たち、7日たち、、その間に、愛人、妻、妻の彼、弟と現れ、邪魔がはいるので、
いったいいつ終わるのか、と、もどかしく思いながらも、波乱万丈の生活への参加
も楽しく、去り難い。8日、9日、、、14日。
完成が近づくと、
「やはりダメだ」とグレーの絵の具で、肖像画の顔を塗りつぶしてしまう。
一緒に暮らしている弟ディエゴに相談をすると、「締め切りを決めることだ」
と言われ、2人で協力して、「すばらしい、良い出来だ」と褒め、絵をさっと
画架から外し、完成にさせてしまう。実際、またとない傑作で、
18日間のジャコメッティとの日々は幕を閉じた。
アメリカへの帰国後、ジェームスは、この18日間を「ジャコメッティの肖像」
という本に著した。この本を映画化したのが本作品である。

絵の制作の苦しみと予告で言っていたが、そればかりだったら、観客は退屈するので、

年老いても、なお女好きで、かわいい面があるジャコメッティ像を見せてくれる。
愛人(娼婦)が「車を買って」と登場し、「よしよし」と承諾をした数日後、
愛人が赤いスポーツカーであらわれ、「ドライブに行きましょう」。3人でドライブへ。
この場面も一転して戸外。景色が清々しく、軽快な音楽。気分が変わってよい。
黙認はしているが、不服そうな表情の妻。妻は「矢内原」という日本人ボーイフレンド
と自室のベッドで話し込んでいたりだが、娼婦がしばらく来ないと、ふさぎ込んでいる
ジャコメッティに、急にやさしく寄り添い、
「オペラ座のシャガールの天井画披露
パーティに着ていくドレスを買って」とおねだりだったり、、、飽きさせないように
なっています。


帰宅後、気になったので調べたら、矢内原伊作がパリにいたのは、1956年から61年。
ジェームスが肖像画を頼まれたのは1964年。実際に2人は会ってないので、映画での
脚色。


なるほどーと思ったのは。画商を呼んで、最近の絵を渡し、初期の作品を戻してもらう場面。
今の作品のほうが、一目で「おージャコメッティ!」とわかるので売れるから画商は大金を
置いていく。一方、手離したけれど、初期作品には思い入れがあるから、手許に置きたい
ジャコメッティ。


ジャコメッティをジェフリー・ラッシュ、ジェームスをアーミー・ハマーという
2人の名優が演じ、妻をフランスの名女優、シルヴィー・テステューが演じている。
監督はスタンリー・トゥッチ。


セザンヌ、エゴン・シーレ、ゴーギャンに比べると、気楽に見れて楽しい映画だった。

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angie17

ジャコメッティの事は詳しくありませんが、
映画そのものが面白そうですね!

by angie17 (2020-07-04 11:40) 

ナツパパ

矢内原伊作氏著の「ジャコメッティ」読みました。
文中の彼は、とても魅力的な人物です。
映画でも同じように描かれているようですね。
by ナツパパ (2020-07-05 10:05) 

TaekoLovesParis

angieさん、「来る日も来る日も。。天才なのか」という映画のチラシに書いてあるキャッチコピーは、ちょっと違う気がしました。
映画を見てるとジャコメッティのことが好きになってくる、次から次へと、いろいろ事件が起きて飽きないように作ってあるんです。面白いです。


by TaekoLovesParis (2020-07-07 00:17) 

TaekoLovesParis

ナツパパさん、矢内原伊作の「ジャコメッティ」、お読みになったのですね。やはり、魅力的な人だったのですね。
私は、学生時代にキルケゴールの本を読んだ時、矢内原伊作訳。矢内原忠雄の息子で伊作という名前だから、キリスト教徒なんだろうな、と思っただけで、、、だいたい、その頃、ジャコメッティを知らなったのです。
2017年のジャコメッティ展では、矢内原関連のコーナーが作ってあり、写真やデッサンが展示されていました。「矢内原は長時間、じっと座っていることができるので、モデルの特質を備えてる」「矢内原の顔は美しい」とあったのがとても印象に残っています。映画の中で、ジャコメッティは、思索して語る、自分の絵について語る、部分が多いけれど、矢内原は哲学者だから、格好の話相手だったんでしょうね。
by TaekoLovesParis (2020-07-07 00:41) 

coco030705

2017年の国立新美術館でのジャコメッティ展、行きました!面白かったです。よく東京へ行ってたのに、今なかなか行くことができないのが、悲しいです。
ジャコメッティの映画、面白そうですね。奥さんと恋人がいてというのは、芸術家や作家には当たり前のこと。それがアートの源泉なのだと思うんです。男でも女でも。いつも新鮮な気持ちや熱い気持ちを抱いていないと名作は誕生しないのでは。
by coco030705 (2020-07-08 19:33) 

Inatimy

ジャコメッティの回顧展はビルバオで観ました。同じサイズの細長い像が並んでると、なんだか仏像っぽく思えてきたのが妙でしたが^^;。
天才でも18日間もかかる肖像画・・・ではなく、天才だから極めて、追い求めすぎて、18日間もかかるんでしょうね。
弟のディエゴの作品の方が私は好き。鳥や猫など、動物だもの^^。
by Inatimy (2020-07-08 20:52) 

TaekoLovesParis

cocoさん、東京でジャコメッティ展をご覧になって、私の記事にコメントをくださいましたものね。今、県またぎの移動がOKになっても、まだ恐い気がしますね。年をとった芸術家は若い愛人と付き合うことで刺激を得、それが作品に活かされるのでしょうね。新しいものを作ろうとする力が湧くのでしょう。そして糟糠の妻と語りあうことで癒されるのかしらね。
by TaekoLovesParis (2020-07-09 00:28) 

TaekoLovesParis

Inatimyさん、ビルバオのグッゲンハイム美術館で開催されたのかしら。
<同じサイズの細長い像が並んでる> → 展示のしかたで受ける印象が違いますね。東京展は、回顧展だったから、年代順の並びで、同じタイプのものが並んでた印象がなかったです。木彫の仏像ね、見えなくもないけど、ジャコメッティ彫刻はストンとした仏像に比べて足が長い感じ。
おっしゃる通りよ。<天才だから極めて、追い求めすぎて、18日>
私も弟ディエゴの「猫の給仕頭」はユーモアがあって好き。Inatimyさんだったら、もっと好きよね。
by TaekoLovesParis (2020-07-09 00:39) 

moz

ジャコメッティの映画もあるのですね。
しかも、彫刻ではなくて絵画の制作の間のことを作品にしているんですね。
でも、愛人に真っ赤な車とか、妻はそれを黙認しているとか…、やっぱりアーティストって、普通じゃないですね ^^; コモンセンスから少しずれてないと、偉大な作品は生まれてこないのでしょうか?? ^^;;
ウイルスで自粛の間、TaekoLovesParis さんは、画家さん関係のDVD を沢山楽しまれていたんですね。モーツアルトやマーラーやラフマニノフ等作曲家のは割とよく見るんですが、画家のお話も面白いですね。これも又探してみたいと思います。 ^^
by moz (2020-07-09 08:20) 

U3

こんばんは。
じっくり読ませて頂きました。
by U3 (2020-07-09 17:47) 

TaekoLovesParis

mozさん、お返事遅くてすみません。
ジャコメッティといえば、彫刻だから、絵を描くプロセスというのは意外ですよね。芸術家は、いつも次の新しい作品を考えていて、刺激を求めているけれど、年をとってくると、身の回りに刺激が少なくなってくる。自分から出向いて行くことも減る、となると、お金を出せば傍にいてくれる愛人に頼ることになるのでしょう。奥さんだって、年をとると、昔のように振る舞うことはできないし、作品が売れればお金が入ってくるのだから、黙認するのでは。コモンセンスより、良い作品を作ることのほうが大切なのでしょう。
もちろん、愛人がいなくても、素晴らしい作品をつくる人はいますよね。
音楽家の映画は、モーツァルトの「アマデウス」、ベートーヴェンの「不滅の恋」「クララ・シューマン」が良かったけれど、画家に比べると数が少ないですね。
by TaekoLovesParis (2020-07-12 00:27) 

TaekoLovesParis

U3さん、読んで頂きありがとうございます。
by TaekoLovesParis (2020-07-12 00:28) 

yk2

シルヴィー・テステューも名女優と呼ばれる様になりましたか。『サガン』も観たけど、僕にとっては彼女は今でもカロリーヌ・リンク監督作品『ビヨンド・サイレンス』の主人公・ララのイメージのままなので、本作でのちょっとくたびれた感じのアルベルト妻役(失礼・・・^^ゞ)を演じているのが彼女だとは始めは気がつきませんでした。モデルを務めるシーンとはいえ、この映画に彼女のヌードは必要だったのかなぁ?(^^;。

この作品はモデル役(とはいえ、本業は物書きだけど)の目を通して芸術家とその制作過程を描く、と云う点で興味深かったですが、もし僕がその立場だったら、自分の姿がジャコメッティ作品に残されると云う素晴らしい栄誉と引き換えであっても、絶対に耐えられない(苦笑)。アルベルトはあまりに自由気まま過ぎて、対照的に常識人として描かれる緩衝材の様なディエゴ(いい人!^^)がまるで仏様に思えるほどでした。今度松岡美術館に行く機会があったら、猫給仕長殿を前にして、手を合わせて拝んじゃうかも(笑)。
by yk2 (2020-07-12 03:38) 

TaekoLovesParis

yk2さん、「サガン」は見てないけれど、細身のシルヴィー・テステューは、サガンのイメージにぴったりだったのではないかしら。え~っ、『ビヨンド・サイレンス』のララ役の女優だったとは。。見てる時に全く気付きませんでした。
ドイツ映画なのに主演で賞をもらったんですよね。ろうあの両親、赤ちゃんのお世話をして、けなげな少女時代の方が頭にこびりついています。いい映画でした。そうね、上半身脱いでのモデルは、がりがりなので見ていて痛々しかったわ。
モデルは動いちゃいけないから辛いけど、ジェームスは、ジャコメッティとの会話を楽しんでるように見えました。モデル体験をを本にしようと、この時から思っていたのかしら。
ディエゴは緩衝材、上手い表現ね。その通りだわ。松岡の「猫の給仕頭」、アルベルトには作れないユーモアと愛のある作品ね。ディエゴ役のトニー・シャループは、昔の映画だけど、「リストランテの夜」という映画でシェフ役だった人でした。

by TaekoLovesParis (2020-07-15 23:13) 

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