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ピーター・ドイグ展 [展覧会(西洋画)]

近代美術館へ「窓展」を見に行った時、次回予告のポスターが貼ってあったのが、
「ピーター・ドイグ展」だった。
霧の中から現れたような夜景。きれいなブルー、真ん中にアンリ・ルソー風の人2名。
手前の靄、湖の向こうの靄、何があるんだろう。童話の世界のように幻想的。
不思議な魅力。

Doig_Russeau.jpg


さて、そのピーター・ドイク展、始まってすぐに、コロナ対策で閉館。
7月末に再開し、10月11日まで開催中。


ドイグは1959年、スコットランド生まれ。トリニダード・トバゴとカナダで育ち、
ロンドンの美術学校で学んだ。
1994年に英国で現代アーティストに贈られる「ターナー賞」にノミネートされて
以来、注目され、作品「のまれる」は、2015年、約30億円で落札された。
これが、「のまれる」1990年 197㎝×241㎝
水辺の景色で、明かりが映ってるので夜なようだ。しかし、映り込みのほうが
大きいとは不思議、しかも中央に小さなボート。厚塗りで重厚な画面だが、
白が動きを感じさせる。私には、木やボートの形がジグソーパズルの一片に
見え、かわいい。

Doig_のまれるw.jpg


作品は、どれも大きい。
会場内は撮影OK. とても空いていたので、人が映る心配がない。

最初の作品は、これ。「街のはずれで」1986~88年
大学卒業後、ドイグは、当時流行のバスキアやシュナーベルふうのスタイルで、
都市をテーマにしたものを描いていたが、1986年に10代を過ごしたカナダに
戻ると、カナダで過ごした経験が自己を形成していると気づき、以後、カナダ
の自然に主題をおく。
右端、一本の木につかまっている男は、森に入ろうとしている。
力強い眼差しで、向かう先の森を見ている。木の形がムンクふうとのこと。


Doig_Himself.jpg


「天の川」1989~90年
画面の下、3分の1に天の川が見える夜空が映り込んでいる。
けれども、映り込みのほうが、鮮明なのは不思議。さらに中央に白いボート。
現物を見ると、ボートには人が乗っていて、腕がだらり、、と見える、死んでる?
こんな静かな夜、美しい水面、、事件性を感じさせるなにか、、秘密めいている。

Doig_Milkyway.jpg


さらに事件性をおびてくるのが、隣のこの絵。「エコー湖」1998年
後ろにパトカーが止まり、恐怖で顔を押さえた男が湖を見つめる。
私には、昔、はまった「ツイン・ピークス」の世界だが、
映画「13日の金曜日」の引用なのだそう。まさに映画の1シーン。

Doig2w.jpg


ブロッター(吸墨紙)1993年
かなり大きな絵。
画面の上部には森。中段が真っ白な積もった雪。下段の凍った水面。
これらが、全部、薄紫色で包まれているので、全体の色彩が美しく、静かな
世界。氷面にいる男は、水面に映る自分を眺めている。氷なのに映る?と
思ったら、水の波紋が描かれているので、水面。これも不思議さが残るが、
きりっとした冬景色に一人立つ男は何を見つめているのだろうか。

Doig_Brotter.jpg


「ロードハウス」1991年
きちんと3分割された画面。この空とこの景色は、色の統一がないように見えるが、
不思議に溶け込む。下の水面のような部分も合うような合わないような。。
バーネット・ニューマンの「3つの色の帯」の色部分を各々、風景に置き変えてみたのだそう。

Doig_LoadHouse.jpg


打って変わって明るい画面。
ドイグは、カナダの前は、カリブ海の島国「トリニダード・トバゴ」に住んでいた。
そこの景色。
Doig_TorinidaTobago.jpg


初期に比べ、絵具は薄塗で、画面全体が明るくなってきた。
「オーリンMKIV Part2」1995~96年
OLINスキー板の広告。むかーし、憧れのOLIN. 007で、ボンドが履いていたスキー。
格調高いオーリンのイメージでないのが面白い。
ジャンプする人と下にいる人々の大きさが、、ん?逆。この美術館所蔵のアンリ・ルソー
「アンデパンダン展への参加を呼びかける自由の女神」に似た構図。

Doig_8.jpg


「ポート・オブ・スペインの雨(ホワイトオーク)」2015年 
3mある大きな絵。左端にいる人は影のような扱い。そしてライオンの頭の辺り、
足の辺りにも影が描きこまれている。影の扱いについては、いろいろな工夫が
なされているようだが、私は解明できなかった。
   注)ポート・オブ・スペインはトリニダード・トバゴの首都
Doig_Lion22.jpg

昨年の作品。
「2本の木(音楽)」2019年
この絵のところは明るい。影絵で見えているのは音楽士。キャンパスに軽い金属製の
ストレッチャーフレームを使っているので、光を当てると、絵の具が透き通って見える
そうだが、確認はできなかった。
「シグマー・ポルケの透明な支持体から見え隠れする構造に感銘を受けた」とドイグは
語っているそうだ。

Doig_2Trees.jpg


ドイグは映画も好きで、トリニダード・トバゴ時代には、無料映画会を行っていた。
ポスターは全部、手作りだったので、それらが最後、廊下に展示されていて、
面白かった。スターの似顔絵のようなもの。北野武監督の「座頭市」や「花火」もあった。

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いろいろなものを組み合わせての表現、いろいろな作家たちからインスパイアされて
新しいものを創っていくドイグ。何からインスパイアされたのかが、もっとわかったら、
さらに興味が広がったと思う。
どの作品も楽しいので、こういううっとおしい時期には、おすすめの展覧会です。

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響

水面に映ってる物の描写がどこか違和感があって
なにかメッセージ的な物も感じますね。
すこしダークトーンな色使いも独特。
by (2020-08-20 13:15) 

TaekoLovesParis

響さん、水面に映るときは、対称になるはずなのに、違ってる部分があったり、で、何か不思議な感じは、たしかに、メッセージとも受け取れますね。静かなメッセージ。暗い色合いもミステリアスな雰囲気を出してますね。
by TaekoLovesParis (2020-08-20 19:28) 

moz

じぶんの今年の「見たいものリスト」の中でも上位にあった展覧会。
初めて会う画家さんでしたが、良い展覧会でしたよね。
ピーター・ドイグ、じぶんは「クレオール」と言う言葉が今でも脳裏に!!
「異質な文化的な要素が互いを排除することなく、全く等価に共存しあい、予見不可能なものを生み出す現象」。色々な既視の残像や、潜在的、ある意味プリミティブな意識等が色々と影響しあって化学反応を起こす、じぶん達のこころに新しい化学反応物質が生まれるような、そんな感じがする作品たちでした。^^
行って良かったです。今年は、なかなか絵が見られずにいます。
安心して、絵画鑑賞ができるように、早くなって欲しいですね。 ^^;
by moz (2020-08-21 16:58) 

ふにゃいの

この展示、めちゃくちゃ行きたいんですよね~。
未だ悩んでいるのですが、まだ期間があるので
暑さが抜けてきたら行こうかなと思っています。
記事みたら、やっぱり行きたくなりました。
by ふにゃいの (2020-08-22 16:51) 

yk2

僕もこの展覧会、行きたいと思ってました。

これらの作品をぱっと眺めた瞬間、いろんな画家の名前が浮かんできました。それは画家自身が実際に影響を受けているかどうかなんて、あまり深いことは考えず、ただ頭にふわんと浮かんできました。ルソーも確かに。それにアンソールやホドラー、ポール・デルヴォーなどなど。
間違いなく画家なんでしょうけど、どこか発想がディレクター的と云うか、引き出しが多彩で、ちょっと普通の”画家”とは違う感じ、ニオイが僕にはします。面白いアーティストですよね。
by yk2 (2020-08-22 19:53) 

coco030705

とても面白い絵画展ですね。東京に居たら絶対行くのにと思います。コロナがうらめしいです。
最初の絵が私の好みかもしれません。色がきれいで幻想的なので。
2、Taekoさんがおっしゃるように、白が印象的ですね。
3、森の風景が好きです。この男の人、これから森に入っていくので、緊張しているような感じがします。観た感じ怖そうでもない森ですけど、独りだと不安なのかしら。
4、「天の川」ちょっと暗い雰囲気なので、ボートで事件があったかもですね! 5、「13日の金曜日」の引用ですか、これもちょっと不気味な感じがします。 6、きれいですが、寂しい感じ。7枚目の色彩はかなり好きです。
8、ジャングルって感じですね。いい絵ですね。9、OLINスキー板は有名なのですね。007が履いていたというだけで、興味が持てます。モダンな感じです。
10、ライオンとぼんやりした人と、はっきり描かれている家。解釈がむずかしいです。「2本の木(音楽)」も誰かに影響を受けて描いているのですね。
映画好きな画家!北野武監督の「座頭市」や「花火」どちらもみたことがないので、機会があったら、観てみたいです。
by coco030705 (2020-08-23 00:17) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲mozさん、どの絵も大きくインパクトがあって、見応えがありましたね。じっと見てると、奥深く、面白みがありました。
mozさんがブログ記事に書いていらした感想、<自分がそこにいた訳ではないのに、まるで自分もそこにいたかのように思えて来る。ちょっと不安で、でも、懐かしい感じ…。>→ 私も同じ事を感じました。それは、絵の中に親しみのあるもの、懐かしさのあるものがあって、惹きつけられ、絵が大きいから、その世界に飲み込まれていく、自分がそこにいたかのように感じるのでは、と思いました。
クレオール文化のような新しい化学反応を心に感じとれて、mozさん、絵を見る醍醐味を存分に味わえましたね。

▲ふにゃいのさん、気楽に見れます。ライブのような楽しさを私は感じました。見ながら、自分で、ストーリーを組み立てちゃったりして。暑い日だったせいか、ここに載せてないけど、「赤い男(カリプソを歌う)」は、Ver1とVer2があって、違いが面白かったです。

▲yk2さん、どれも大きな絵で、色彩が明るく楽しいです。時に舞台装置のようだったり、イラストや広告塔のようだったり、いろいろなタイプの絵があります。映画の一場面を思い出すものもありました。私も見ながら、部分的にここはホドラー(三番目の絵の男が「木を伐る人」のイメージ)、とか、一番上の人物はルソーって思いました。yk2さんがアンソールやデルヴォーをあげていらっしゃるのは、ベルギー象徴派ね。
<発想がディレクター的> → そう、だから映画のシーンのようだな、って思う絵がいくつもありました。実際、ドイグは映画好きで、自分で選んだ映画を見る会を主催してたんですよ。デビッド・リンチのブルーベルベットのポスターは、いきなり耳でした。(知ってますよね)

▲cocoさん、近場だけの行動範囲で不自由ですよね。数か月の辛抱かと思ったら、もう半年。新しい生活になじむどころか飽きてきました。
一番上の絵、童話の一場面のようだと思いました。宝石をちりばめたような塀がきれいですよね。これだけで、この人の絵を見に行こうと思ってしまうの、わかるでしょ。行ってみたら、予想以上に良かったのです。
3の男の人が大きく描かれているので、怖い森には見えないけれど、この厳しい決意の表情から察すると、、ですよね。見ながら、そういう想像をさせるところが楽しいのです。
映画「13日の金曜日」を見てないので、探して予告を見ました。殺人鬼ジェイソンの話なのですね。場所は湖のほとりのキャンプ場。
7枚目の色彩はかなり好きです。→ 私も好きですが、空部分が、絣に見えて
笑っちゃいました。
OLINオーリンのスキーは、昔、高級で有名で、私もほしかったけど、実力もお金も無理でした。
最後の絵、この横に音楽士のおじさん2名だけの絵がありました。
北野武の「花火」は岸本加世子主演。ドイグが描いたポスターは、岸本加世子の顔を大きく描いたものでした。もうちょっと可愛く描いてあげれば、って思いました。


by TaekoLovesParis (2020-08-24 18:54) 

匁

こんにちは
「天の川」と「ロードハウス」が好きですね。
写り込みが特徴的に描かれていますね。これくらいはっきりと描いた方が見る人に、印象的に描けるのかな?!。参考にしたいです。
by (2020-08-25 11:18) 

TaekoLovesParis

匁さん、匁さんがお好きなのは、題材、色合いから、天の川だろうなと思っていました。ドイグの絵も匁さん同様、楽しい絵です。
by TaekoLovesParis (2020-08-25 19:35) 

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