SSブログ

ペレアスとメリザンド(2012年パリ・オペラ座公演) [オペラ、コンサート、バレエ]

フランスの作曲家ドビュッシー(1862~1918) は、生涯でひとつしかオペラを
作曲しなかったが、それはオペラ史に残る名作となった。「ペレアスとメリザンド」である。
原作は、「青い鳥」で有名なメーテルリンクの戯曲。
日本で上演されることが少ないオペラだが、目下、新国立劇場で公演中。見に行く予定
なので、その前にパリ・オペラ座での2012年3月公演の紹介を書いておく。
私は、NHKーBSの「プレミアムシアター」で日本語字幕で見たが、DVDも発売されている。
(DVDは英語字幕)
pelleas.jpg


ドビュッシーは、19世紀末、象徴主義、印象派の作曲家と言われている。
メーテルリンクも象徴主義の作家。リアリズムとは正反対の象徴主義ゆえ、
このオペラには、意味ありげな暗示が所々に込められていると思った。


<あらすじ>
【第1幕】いつとも知れない時代、架空のアルモンド王国が舞台である。
アルモンド王の孫のゴローは、森の中で道に迷い、泉のほとりで泣いている
美しい乙女メリザンドに出会う。ゴローはメリザンドを城に連れて帰り、結婚を
取りはからってもらうため異父弟のペレアスに手紙を書いた。
【第2幕】
ペレアスとメリザンドは「盲目の泉」に出かけた。メリザンドは
この泉に結婚指輪を落としてしまう。ちょうどその時、森で狩をしていた
ゴローは落馬で怪我をした。ゴローは怪我の看病をするメリザンドが指輪をしてないと
気付き激昂し、指輪を捜すように命令した。
【第3幕】
星空の美しい夜。城の塔の窓辺でメリザンドは長い髪をとかしていると、ペレアスが現れ、
メリザンドの美しさに惹かれる。窓辺から落ちるメリザンドの長い髪に手を伸ばし抱擁するペレアス。
その光景を見ていたゴローは、ペレアスを咎め、メリザンドが妊娠していると伝えた。
【第4幕】
その後もペレアスとメリザンドが二人でいる時があると知ったゴローは、
怒りをメリザンドにぶつけ、彼女の髪をつかんで手荒な仕打ちをします。
ペレアスは旅に出ることを決意、別れの夜、メリザンドに愛を告白、抱擁する二人。
そこへゴローが現れ、ペレアスを剣で刺し、メリザンドを追う。
【第5幕】
瀕死でベッドに横たわったメリザンドは女の子を授かる。ゴローはメリザンドに
ペレアスとのことを問うと「愛したけれど、罪は犯していない」と答え息を引き取った。

つまり、ストーリーは、美しい不思議な口数少ない女性を巡る兄弟の恋の鞘あてである。
オペラの舞台は、青みがかった照明で幻想的な雰囲気、象徴性を意識した演出。
そして、パントマイム劇のように、ゆったりとした動きで要所、要所でポージング。
衣装は白と黒。シンプルな舞台装置。兄弟2人から想われるメリザンドは美しいことが必須条件。
実際、メリザンド役のエレナ・ツァラゴワは、見とれるほど美しい。
これは始まり。ゴローが森の泉でメリザンドに出会う場面。
periasu1.jpg


このオペラには、メロディがあるアリアはなく、音楽に合わせてフランス語で
話すように歌う。曲にフランス語の響きが合う。心のざわざわ感や怒り、感情の
高揚、人の気持ちを音で表現しているとわかる。
照明の使い方が上手で、シルエットを使う表現も数か所あり、象徴的だった。
また、満月や三日月、月を照明で表していた。
不思議だったのは、塔から落ちて来るメリザンドの長い髪、これは何かの象徴
なのだろうか。


periasu2.jpg


出演:

ステファヌ・ドゥグー(Br ペレアス)
エレナ・ツァラゴワ(S メリザンド)
ヴァンサン・ル・テクシエ(Br-Br ゴロー)
フランツ=ヨーゼフ・ゼーリヒ(Bs アルケル)
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(Ms ジュヌヴィエーヴ)
ジュリー・マトヴェ(S イニョルド)
ジェローム・ヴァルニエ(医師)
フィリップ・ジョルダン(指揮)パリ・オペラ座管弦楽団,合唱団

ロバート・ウイルソン(演出)
フリーダ・パルメッジャーニ(衣装)
ハインリヒ・ブルンケ(照明)



nice!(32)  コメント(7) 
共通テーマ:アート

nice! 32

コメント 7

ナツパパ

シャンソンにしても昔のポップスにしても、フランス語は音楽と馴染みやすいですよね。
囁くように、呟くように歌われるフランス語は大好きです。
by ナツパパ (2022-07-14 12:34) 

angie17

国立劇場に観に行かれるのですね。
そちらの感想も楽しみにしています!
by angie17 (2022-07-14 14:45) 

yk2

このオペラ、もう10年くらい前にBSで放映されたのと同じかな?。シンプルな舞台装置と、冷たい水を連想させるブルーに統一された照明が印象的な演出でしたね。

新潮社から出版されている小林秀雄全集23『考えるヒント(上)』を開くと、1959年の第一稿が『ペレアスとメリザンド』の批評から始まります。小林は物語の始まり、メリザンドが王冠を失くして泣いている場面から、メーテルリンクの説明不足と遂には結末まで一切解決を見ない、謎が謎のままで放置され終わるこの物語を、筋が通らない話だとバッサリ切って捨てています。僕も2012年にブリヂストン美術館で観た『ドビュッシー、音楽と美術』展の後に興味を惹かれて読んでみましたが、『青い鳥』同様、どうにもメーテルリンクとは相性が悪いな~(苦笑)って感想しか持てませんでした。だけど、NHKで放映されたこのオペラ版は悪くなかった。オペラの出来としては僕にはよく判らないけど、ラストのメリザンドがあっけなく死んでしまうシーンは儚い夢幻を見たようで、人なのか、水の妖精なのか、それとも人の考えの及ばない何かなのか全く理解出来ないメリザンドの神秘を、不思議とすっと納得させられてしまった感がありました。それって、ドビュッシーのお手柄だったのかな?(^^;。

結局、判らないことだらけで、解説を欲した僕は青柳いづみこさんのドビュッシーにまつわる本を片っ端から読む羽目となり、その点ではありがたくメーテルリンクに感謝してます(苦笑)。
by yk2 (2022-07-14 23:07) 

coco030705

こんばんは。
とても神秘的な舞台ですね。私の知っているオペラとは違います。歌もアリアがなく「音楽に合わせてフランス語で話すように歌う」というのも恋物語を盛り上げるのにぴったりな印象を持ちました。

メザリンドの長い髪は、グリム童話のラプンツェルを思い起こさせます。ラプンツェルの場合は、悪い魔法使いに塔に閉じ込められ、そこから逃れるために、ラプンツェルが髪を伸ばして、三つ編みにし、たまたま狩りに来ていた王子がそれを見つけ、よじ登ってきて、ラプンツェルを助けるというお話になっています。

いろいろ想像を掻き立てるストーリーですが、たぶんメザリンドはゴローに助けられたものの、短気なゴローが好きになれず、誰かに救われたいと思っていたところ、ペレアスが現れ恋に落ちたのでしょう。ペレアスもメザリンドが好きになったけれど、兄嫁との一線を越えてはならないという想いで、彼女の長い髪を抱きます。それは間接的にメザリンドを抱きしめていることだと思うのです。
ペアレスもそれ以上は進めない(進まない?)ので、二人は恋に苦しみます。けれど最後には二人の想いが兄上に見つかって、短気な兄は結局二人を失うことになったという悲劇なのでないか、と想像しました。
長い髪はメザリンドの、本当の恋に逃れたい気持ちの象徴のような気がします。勝手な解釈ですみません。色々な想像を掻き立てる、大変興味深い物語ですね。
by coco030705 (2022-07-15 22:20) 

Inatimy

最初、ゴローが道に迷って泉で泣いてる、と勘違い^^;。
泣いてたのはメリザンドだったんですね。なんで泣いてるのか知りたくて調べたら、
つけてた冠を水の中に落としたから、って・・・。
結婚指輪も泉に落として失くしてしまうし、うっかり屋さんですね。
ドビュッシーといえば、即「月の光」だったので、オペラを作ってっとは初めて知りました。
by Inatimy (2022-07-18 18:10) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲ナツパパさん、私もフランス語の響きが好きです。オペラは圧倒的にイタリアものが多くて、次、ドイツ語。フランス語のオペラは、カルメン、ホフマン物語、ロメオとジュリエットくらいですね。特に「ペレアスとメリザンド」は歌うより静かに語られる場面が多く、フランス語がひびいてきます。

▲angieさん、これは難解ではなかったのですが、新国立のは演出が難解で、よくわからなかったからと、友達は2度、見に行きました。
by TaekoLovesParis (2022-07-20 18:39) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲yk2さん、このオペラは、フランス本国でも、たまにしか上演されないので、ご覧になったのは、同じものでしょう。照明が終始ブルーなのに、ある時、心象風景で急に一瞬、グリーンになったりもしてましたね。そして、月が効果的に使われてました。

小林秀雄、しかも全集とは。。さすが知性のyk2さんです。私の頃は大学受験の国語で出題される難問は小林秀雄の評論でした。
全集で、「ペレアス、、」についても書いているのですね。<謎が謎のままで放置され終わるこの物語>、たしかにそうです。そこがファンタジーで、謎は読者が解いてください、ということなのでは? 謎物語を大げさなドラマ音楽にしないで、淡々とBGMのごとく、水の流れの如く美しい音で繋いでいったのは、yk2さんがおっしゃるようにドビュッシーの功績でしょうね。

青柳いずみこさんは、昔から雑誌などにエッセイを書いているピアニストで、
短刀直入、明快な切り口と知ってましたが、ドビュッシーが得意分野なのですね。いっとき高橋悠治とのジョイントが話題になってましたね。青柳いずみこさんが弾くドビュッシーを聴いてみたいです。

▲cocoさん、<グリム童話のラプンツェル> → ラプンツェルは、ディズニー映画で知ってましたが、もとはグリム童話だったのですね。
cocoさんの解釈、まさに、ドンピシャです。なるほどと思って読みました。
ありがとうございます。

▲Inatimyさん、私の書き方が悪くて、、これじゃ、まちがえちゃいますね。
そう、冠を落としたんですよ。つまり、身分が高い女性という意味ですね。だけど、それはもう要らないから拾わないでいいわ、つまり、過去を断ち切りたいのでしょう。指輪も要らない=ゴローとの縁を切りたい、メリザンドは自ら過去を捨て新しい運命に身をゆだねると解釈しました。うっかりのふりをして。したたかな女性なのかも。
by TaekoLovesParis (2022-07-22 10:46) 

コメントを書く

お名前:
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。