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憧憬の地ブルターニュ展 [展覧会(西洋画)]

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東京・上野の西洋美術館へ「憧憬の地ブルターニュ」展を見に行った。
一か月くらい前に、損保美術館で見たのも「ブルターニュ」展で、
ブルターニュのカンペール美術館から借りて来たもの中心であった。
西洋美術館のは、国内美術館の作品が大半で、オルセーからの借りもの3点
という構成。国内のなら、いつでも見れるという気がするが、ブルターニュ主題で、
まとめて見れるのは面白い。しかも展示作品数160点と、とても多い。


「憧憬の地ブルターニュ」
なぜブルターニュは、憧れられるのかというと、ブルターニュ地方は、
フランスの西の端で、英国海峡をはさんで英国と近い位置で、祖先はケルト人である。
英語で、英国をグレートブリテンと言い、ブルターニュをリトルブリテンと呼ぶほど
である。そして1532年にフランスに併合されるまでは、ブルターニュ公国という
独立国であったため、独自の文化、生活様式を持つ。

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第一章 ブルターニュ地方の景観
ブルターニュは三方が荒い海に面し、海岸線は断崖が連なり、波が岩に砕ける。
モネの作品2つ。「嵐のベリール」1886年(オルセー美術館)
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「ポール=ドモワの洞窟」1886年 (茨城県近代美術館)
光を浴びる岩肌、海の水が無数の色の筆で置かれている。美しい絵。
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モネは、この2点が描かれたベリール島(Belle-Ile美しい島の意味)に3か月ほど
滞在し、約40点の作品を描いた。東京・アーティソン美術館にも「雨のベリール」
という作品がある。
英国のターナーも、中世にブルターニュ公国の首都として栄えたナントに2日間
滞在し、「フランスのヴェネツィア」と呼ばれるナントの水路の賑わいを描いている。
「ナント」1829年(ナント歴史博物館)
30×44cmの小さな水彩だが、実に細かく描かれていて、大気の様子もわかる。
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第二章 風土にはぐくまれる感性
野生と原始性を追求したゴーガンは、ブルターニュ地方のポン=タヴェンに滞在し、
ブルターニュ独特の風土、民族衣装の人たちの生活を革新的な様式で描いた。
ゴーガンに賛同する画家たちがポン=タヴェンに住むようになり、ポンタヴェン派
と呼ばれた。
一番上の写真:展覧会の立て看板は、ゴーガン「海辺に立つブルターニュの少女たち」
1889年 西洋美術館( 松方コレクション)


ゴーガン「ブルターニュの農婦たち」1894年(オルセー美術館)
白い頭巾にエプロンは、当時のブルターニュの民族衣装。
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ベルナールは、ゴーガンを慕って、ポン=タヴェンに移住し、それまでの
点描を捨て、輪郭線をはっきり描くクロワゾニズムの手法を推し進めた。
「ポン=タヴェンの市場」1888年(岐阜県美術館)
ブルターニュ独特の白い頭巾姿の人が多い。

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セリュジエ「ブルターニュのアンヌ女公への礼賛」1922年(ヤマザキマザック美術館)
中世の壁掛けの織物(タピ)を絵に表したような図柄。
アンヌはブルターニュ公爵家に生まれ、フランス王シャルル8世、ルイ12世と結婚、
ブルターニュ女公を名乗った。ブルターニュでは格別に人気がある歴史上の人物。
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第三章 「土地に根を下ろす:ブルターニュを見つめ続けた画家たち」
ブルターニュで生まれ育った画家たちは、土地の自然や風俗を描き「バンド・ノワール」
とよばれた。バンド・ノワールは黒の集団という意味だが、黒=暗い絵?ピンと来ない
ネーミング。代表格は、シャルル・コッテ
「悲嘆、海の犠牲者」1808年~09年(西洋美術館・松方コレクション)
上半身裸で中央に横たわる海の犠牲者、嘆く親族・縁者たち、あたかもキリストの死の
ような構図で、犠牲者に聖性をもたせる効果。コッテの代表作で、数年後に描かれた
ほぼ同じものがオルセー美術館にある。
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同じく「バンド・ノワール」のメンバーであるリュシアン・シモンは明るく楽しい
集いを非常に美しい色彩で描いている。
「庭の集い」1919年 (西洋美術館・松方コレクション)
赤い天蓋の下の舞台で芝居や踊りをする子供たち。観客としてそれを見つめる大人たち。
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同じくリュシアン・シモンの
「ブルターニュの祭り」1919年(西洋美術館・松方コレクション)
伝統的で有名な「パルドン祭り」だろうか。
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ブルターニュ育ちではないが、モーリス・ドニもこの地に魅せられ作品を残している。
「花飾りの船」1921年 愛知県立美術館
ぱっと明るい色彩の絵。アマンジャンと児島虎次郎の仲介でコレクター大原孫三郎の
注文に応じた絵。中央にドニの息子2人、再婚相手のエリザベツが紫陽花で飾られた船
に座り、船には日本の旗も。右端の船の女性はブルターニュの白い頭巾姿。
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ドニは、キリスト教の信仰に篤く、大勢の子供がいる家族を度々絵に描いた。
「若い母」1919年 (西洋美術館・松方コレクション)
聖家族の図柄をもとにした構図。

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版画家アンリ・リヴィエールもブルターニュに魅せられ、連作「ブルターニュ風景」
を制作した。リヴィエールは日本の浮世絵に興味を持ち、多色版画の作品を多数制作
している。

連作「ブルターニュ風景」より「ロネイ湾(ロキヴィ)」1891年 (西洋美術館)
青い空と海。なだらかな海岸線のやさしい風景にブルターニュの服装。
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「美しきブルターニュ地方」より「トレブルに停泊する船」1902年 (西洋美術館)
呼応する白い波の配置が面白い。深い海の色合いが波の白を一層引き立たせている。

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第四章 「日本発、パリ経由、ブルターニュ行 日本出身画家たちのまなざし」
ブルターニュは、日本でも注目され始めていたので、日本人画家たちも
ブルターニュへ向かった。黒田清輝、藤田嗣治、坂本繁二郎、岡鹿之助、山本鼎、
小杉未醒らがブルターニュを描いた作品が展示されていた。
今、見ても、さほど古い感じがしないのは彼らの技量ゆえと思う。初めて聞く名前の
画家の絵でも、いいなと思うものがいくつかあった。

久米桂一郎「林檎拾い」1892年 (久米美術館)
6年間のフランス留学の集大成の作品。サロンに出すことを念頭に制作。
頭に白いものをかぶり、木靴を履き、当時のブルターニュの服装。リンゴから
作る発泡酒、シードルはブルターニュの特産品。
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岡鹿之助「信号台」1926年 (目黒区美術館)
いつ見ても端正な岡鹿之助の絵。

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最後に、屏風があった。西洋の題材を日本の屏風に取り入れる試みが面白い。
映り込みがある写真ですみません。
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追記:yk2さんから、この屏風に「説明がない」というコメントが入りました。
疲れて、最後、説明を省略して記事を終わりにしたのだけど、小杉未醒が
お気に入りyk2さんは、がっかりなさったようで、説明がないのは不憫と、
代わりに説明をしてくださってるので、お読みください。

小杉未醒はこの頃は洋画家でしたが、のちに日本画に転向し、名も「放庵」と
改めました。
小杉未醒「楽人と踊り子」1921年(茨城県近代美術館)
左の楽人が吹いているのは、ブルターニュ地方のオーボエに似た楽器「ボンバルド」
で、合わせて踊る女性は白い頭巾に木靴とブルターニュ地方の服装です。<終>


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よしあき・ギャラリー

これは見応えがありますね。^^
by よしあき・ギャラリー (2023-05-28 06:07) 

yk2

コロナがひとまず落ち着いてくれて、僕もぼちぼち展覧会に出掛け始めていますが、この頃は企画展でも一部の展示作品の写真を撮れる様になっていてありがたいですね(^^。

僕は小杉未醒(放庵)が好きなので、一番最後に紹介されている『楽人と踊り子』が観られて嬉しかったな。2015年に出光で行われた展覧会にも出掛けましたし。フランス遊学の経験からシャヴァンヌを気に入り影響を受けた未醒がそのまま洋画の道のみに邁進していたら、どんな画家になっていたでしょうねぇ。安土桃山の南蛮画の様でもある人物の、特に女性のフォルムのスマートかつ柔らかな簡略化に、同じ様にシャヴァンヌに影響されたドニを越えてさらに洗練された装飾性を感じます。今回、taekoねーさんに説明を一切端折られて全く以て不憫(笑)なので僭越ながら、敢えて僕が触れておきましょう(^^ゞ。
by yk2 (2023-05-29 08:04) 

おと

いつも丁寧な説明をありがとうございます^^
とても楽しく読んで、わかったつもりになっています。
西洋美術館、また行きたくなりました。
日本人画家の作品、素敵ですね~。
by おと (2023-05-30 21:55) 

moz

憧憬の地ブルターニュ展、気になっていました。
160点とたくさんの展示なんですね。見どころも点数もたくさん!!
多くの画家たちが憧れた地、ブルターニュ。160点からその秘密が垣間見られるのかもしれません。
ポスターになっているゴーガンの絵が魅力的ですが、その他にもこんなに沢山の画家たちの作品!!
バンド・ノワールというのも初めて知りましたが、松方コレクションなんですね。それと、日本人の画家たちの作品もたくさん。藤田嗣治や岡鹿之助の作品も素敵です。
6月11日まで…、行ってみようかな? 今年はシーレと佐伯祐三で満足してしまいました ^^; w でも、展覧会、良いものがまだまだありますね。
by moz (2023-06-03 10:50) 

ふにゃいの

ブルターニュ地方、行ってみたいです。
さすが西洋美術館、作品数が多いですね。
小杉未醒の屏風絵いいな。
by ふにゃいの (2023-06-03 22:40) 

coco030705

こんばんは。
やはりブルターニュは「憧憬の地」なんですね。面白いところですね。

モネの作品「ポール=ドモワの洞窟」は何度かどこかの展覧会で観ている気がします。Taekoさんの解説通り、海の色が本当に色々な青系の色が使ってあって、本当に美しいです。岩肌もきれいですね。
ターナーの「ナント」も空気まで描かれているような感じです。ゴーガン「ブルターニュの農婦たち」は、はっきりした色彩でいい絵ですね。
リュシアン・シモンの絵は初めて見たかもしれないのですが、明るくて素敵です。
モーリス・ドニの家族の絵も素敵。アンリ・リヴィエールの絵は版画なんですね。構図も色もいいですね。久米桂一郎「林檎拾い」も初めてみました。こういう民族衣装的な服っていいですね。
岡鹿之助の絵はハンサムな感じがします。
最後の屏風絵が楽しいですね。音楽が聞こえてきそう。yk2さんのコメントでよくわかりました。
by coco030705 (2023-06-04 00:29) 

ナツパパ

やぁ、これは見応えのある展覧会ですね。
一つ一つ選び抜かれて、洋の東西を問わず、も良いですね。
ブルターニュって行ったことないのですが、いいところなんですね。
by ナツパパ (2023-06-06 09:30) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲よしあきさん、点数が多く、初めて見るものも多かったので、見ごたえ十分でした。展示順もわかりやすくて良かったと、見終わってからわかりました。

▲yk2さん、お礼を言うのが遅くなりましたが、最後の屏風作品、小杉未醒「楽人と踊り子」への説明、ありがとうございました。写真に映り込みがあるので、「こんな写真のせるのも、、」と迷ったのですが、ブルターニュ衣装で踊る図柄の金屏風なんて珍しいから記念に、と、ポンと置きました。yk2さんのおっしゃる通り、金屏風に黒い衣装は、ポルトガルとの交易を描いた南蛮屏風を思わせますね。それにしても全く説明がなく、扱いがひどかったですね。

小杉放菴は好きな画家で、このブログでも過去に「金太郎」と「椿」の写真を載せてますが、「未醒」時代の絵を知らなかったので、この展覧会でブルターニュを描いた絵を見れてよかったです。端正な風景画にポツンと後ろ姿の人の「入江の一角」などからシャヴァンヌやドニの装飾性は感じられなかったので、調べたら、安田講堂の壁画が日本版シャヴァンヌなのですね。出光美術館の展覧会も見たかったです。

yk2さんの記事で絵を見たことがある「山本鼎」の「ブルトンヌ」、変わった版画と印象に残ってましたが、ブルターニュ衣装ばかりのあの場所では、とても自然な版画でした。

▲おとさん、きちんと読んでくださってるんですね。ありがとうございます。
私は見た絵を忘れることが多いので、記事にしておくと覚えてられるから、書き残してます。西洋美術館の常設は充実してて、上野駅からも近いので、時間があるときに、ちょっと寄ってみるのにいいですね。
ブルターニュを描いた日本人画家たちの作品コーナーは、作品を見たことがある画家のものに親近感を覚えました。その時代、何を学ぼうとしてたのかという一生懸命さも伝わってきて良かったです。

▲mozさん、そうなんです。みどころたくさんで良かったです。特に日本人画家たちが描いたブルターニュのコーナーがそれぞれの画家の特徴が出てて、
面白かったです。バンド・ノワールは私も初耳でした。
コロナでの制限が解除されて美術館へも行けるようになったのですが、いったん足が遠のくと、出不精になって、休日は本を読んだり、TVを見たりになってます。mozさんがシーレと佐伯祐三のチケット確保という記事は読みましたよ。良かったと思える展覧会でよかったですね。
by TaekoLovesParis (2023-06-17 18:53) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲ふにゃいのさん、小杉未醒の屏風絵、面白いでしょ。ホテルの宴会場でも使えるわね。親友・歌姫は、舞台の段が高くないコンサートの時、舞台はピアノだけだったのですが、金屏風を後ろに置いて、いい感じでした。
ブルターニュ地方、私が行き損ねた「レンヌ」もブルターニュ地方なんです。絵が描かれてる場所は、海の近く、西側なので、レンヌからは遠い。つまりパリから今、5時間。この絵が描かれたころには、もっと時間がかかって遠かったから、行くのも大変だったでしょうね。

▲cocoさん、絵への感想ありがとうございます。
モネはこの場所で40点の作品を描いたそうだから、似たような絵があるでしょう。きっと、その中のひとつをご覧になったのでしょうね。
ナントはヴェネティアみたいな水の都だったのですね。高校の世界史で「ナントの勅令」って習って、水のイメージがなかったので、ターナーの絵を見て、
「こういうとこだったの」と開眼。
リュシアン・シモンの絵は、今回、まとめて数点見れたので、なんとなく画風がわかりました。絵が描かれた時代に、松方正義が何点も購入していたのですから目利きですね。
「林檎拾い」白い頭巾にエプロンが当時のブルターニュの民族衣装です。都会から行くと、この衣装が珍しく絵に描きたくなるのでしょうね。
小杉未醒の屏風絵、yk2さんの解説がお役にたってよかったです。

▲ナツパパさん、ブルターニュがゴーガンたちの絵で、フランスの画家たちに注目をあびてた時代に、日本の留学生画家たちも、行ってみようと出かけ、絵を描いた、それが展示されていて、面白かったです。ブルターニュを描いても、それぞれの画家の特徴がはっきり出ていました。
今のように、雨の多い季節は、青空の風景画を、いいなぁと見てしまいます。

by TaekoLovesParis (2023-06-17 22:19) 

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