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デ・キリコ展 [展覧会(西洋画)]

DeChirico_Tirashi.jpg

東京都美術館へ「デ・キリコ展」を見に行った。
行こうと思いながら、会期終わりになってしまったが、さほど混んでいなかった。

前記事「ピカソ美術館のピカソ以外の絵」で、キリコがピカソの依頼で描いた
レセプションホールの壁画を見ていて、暑くても行かなくちゃと出かけた。

とてもわかりやすい展覧会だった。[黒ハート]
回顧展の形で、年代を追って絵が展示されているので、キリコを知らない人でも
見終わると、奇妙に見える絵だがそれぞれの意図がわかると思う。

キリコは、両親はイタリア人だが、ギリシアで生まれ育つ。アテネの理工科学校に
通っていたが、17歳の時父が亡くなったので、家族でフィレンツェに移住。
ミュンヘン美術学校に入学、ニーチェに傾倒する。弟と共にパリへ移住。サロン・
ドートンヌに出品。アポリネールに認められ、画家としての順調なスタートを切る。


最初のコーナーは、
1.肖像画
肖像画のコーナーは、年代はいろいろでもどれもクラシックな写実絵画。
自画像はそばに本人の写真が展示されてたが似てる!彫りの深いイタリア男。
後に妻となる人の肖像は「秋」背景がオレンジがかった雲、夕焼けの空。
刺繍のある黒いドレスに黒のベレー帽、グレーパールのネックレス。


2、形而上絵画以前
「山上への行列」1910年 22歳の作品。若い時のもの。
黒い服の人々が山上へ続く葬列、三角形構図がドニの「カルヴァリの丘」
を思い出した。キリコの絵には宗教性がない。ただ事象だけ。

2-1、イタリア広場
イタリアに広場はたくさんあるけど、どれなのか、と考える必要はなかった。
形而上絵画のはじまりは、ここだと思う。
形而上絵画の意味は、「見慣れていたものがいつもと違ったように見える」とか
「日常の奥に潜む非日常」と言われている。
空想の世界が混じってるので、キリコの見てるイタリア広場には赤い塔がある。
そこに神話のアリアドネが画面を対角線に切って横たわる。
「沈黙の像」(アリアドネ)1913年 25才。
DEChirico_Ariadone.jpg


イタリア広場の絵が5点あるので、キリコの思い浮かべている広場のようすが
想像できる。最後に綺麗な色で塗り分けられた「塔」1974年。後年の作品。
色が綺麗なので、グッズコーナーでクリアファイルを売っていた。


2-2 形而上的室内
想像の世界の室内画。つまりありえない静物画。
初期のものは単純だが、後年の作品は見ごたえがある。
「ダヴィデの手がある形而上的室内」1968年
「球体とビスケットのある形而上的室内」1971年

2-3 マヌカン
絵の上の人物の顔をマヌカンにする試み。匿名性だろう。
「予言者」1914~15年頃
チラシに使われている絵。イーゼルに向かって絵を描く画家はキリコ自身。
何を描こうとしているのだろうか。
「形而上的なミューズたち」1918年は、別のチラシの表紙になっていた。

これは「ヘクトルとアンドロマケ」1924年
ヘクトルとアンドロマケはギリシア神話の恋人どうし。トロイ戦争に出る前の別れ。
De_Chirico_Hector Andoromake.jpg

「南の歌」1930年頃
おやっと思わず足を止める優しい筆遣い。背景がルノワールふう。
ルノワールに似せて描いてみたそうだが、服のもようが建物で足が極端に短い。
DeChirico_Renoir.jpg

「不安を与えるミューズたち」1950年頃
DE_Chirico_2Muse.jpg

3,1920年代の展開
透明度の高い速描きという近代的油彩の技法を身につけて当時の流行シュルレアリスム
を絵に盛り込む。
「ホワイエのミューズたち」1926年 では、神殿の柱のような階段の柱頭にミューズの
スカートの襞が溶け込む。「え、どうなってるの?」とじっくり眺める。
「考古学者」1926年頃
茶色の背景に人体(考古学者)はベージュ。白い建物の絵が描かれた服。
白、ベージュ、茶の三色で描かれたシンプルな作品が新鮮に目に映る。

「谷間の家具」1928年 シュルレアリスム
De_Chirico_TanimanoKagu.jpg


今回、特に見たかったのは、これ。ピカソ美術館にあった「剣闘士」の部分。
「剣闘士」1928年
DeChirico_Graadiator1926.jpg

試合形式で、審判がいる。剣闘士だが所作が優雅でバレエの動きのよう。
剣闘士は命がけなので、あらゆる心理が抜け落ちる。キリコがニーチェから
学んだ生の無意味の感情だろうか。


4,伝統的な絵画への回帰 ネオバロックへ
「菊の花瓶」1912年
端正に描かれた花瓶にいけられた菊の花々は美しかった。

ティツィアーノに倣って描いた裸婦が
「風景の中で水浴する女たちと赤い布」1945年
裸婦の顔がティツィアーノのとは異なり、かなり濃い顔。奥さんがモデル?


5, 新形而上絵画
「オデュッセウスの帰還」1968年
意表をつく作品で話題をよんだ。ありえないでしょ(笑)
DEChirico_Odhusseus.jpg

「オイディプスとスフィンクス」1968年
スフィンクスからの謎に頭をひねるオイディプスの頭部はマヌカン。
服には建物の絵。ギリシア神殿の柱頭にある渦巻模様が全体を引き締め、
古代へ誘うかのよう。
DE_Chirico_OydeppusSphinx.jpg


「放蕩息子」1973年
息子をまちわびていたお父さんは、こんな姿に。。
De_Chirico_HoutouMUsuko.jpg


「闘牛場の剣闘士」1975年
キリコは、過去の自分の作品に手を加え、修正し、リメイクするのが
晩年だった。


6,挿絵

ジャンコクトーの「神話」のための版画連作。リトグラフ。
これらの版画からの着想で油彩「神秘的な水浴」1936年もあった。


「神秘的な水浴」1965年 は後年の完成形。
謎が多かったので、小道具の意味を関あげるためポストカードを購入。
De_Chirico_Suiyoku.jpg


7,彫刻
彫刻には晩年、とりくみ始めた。
「ヘクトルとアンドロマケ」1966年
横浜美術館にあるのは、同名だが、1973年のもの。


8,舞台芸術
オペラの衣装や舞台装置を手がけた。
衣装のスケッチだけでなく、実際の衣装が展示されていた。
「オテロ」第二幕、中庭のスケッチ、水彩もあった。


[黒ハート]充実していて面白い展覧会だった。

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Inatimy

キリコの絵って、美術の教科書で見たんだったか、
アーチのある絵の隅に輪回しをする子が小さく描かれてたのくらいかな、覚えているのは。
マヌカンのは、なんとなく、ウィル・スミスが出ていた映画「アイ,ロボット」を
思い出させますね。もしキリコ観たら、映画気に入ったかな・・・。
by Inatimy (2024-08-26 21:59) 

yk2

『ヘクトルとアンドロマケ』は横浜美術館に在る金ピカのブロンズで馴染みがあるけど、デ・キリコって作家自体、よくよく考えるとあんまり作品見たコトないなぁ。油彩で思い浮かぶのも、やっぱり横浜美術館の常設に展示されてる『吟遊詩人』くらいです。僕は写真に撮って来てるから、デ・キリコ作のその絵が横浜にも所蔵されているのを記憶してるるわけですが、これは作品そのものよりも、寄贈者が「サカタのタネ」の創業者さんだから、って方が印象深い事柄だったりして(^^ゞ。
by yk2 (2024-08-27 00:28) 

TaekoLovesParis

Inatimyさん、映画「アイ,ロボット」ご覧になったんですね!私も見ました。アシモフの原作「ロボット」が気になっていたので。たしかにキリコのマヌカンと同じようですね。私はその頃、キリコを知ってたかしら?
by TaekoLovesParis (2024-08-28 08:36) 

TaekoLovesParis

yk2さん、私もキリコといえば横浜美術館の入口でお出迎えしてくれる印象なので、自分の横浜美術館の記事のトップに写真をのせてます。マヌカンの「吟遊詩人」もわかりますが、サカタのタネの坂田氏寄贈なんですか。坂田氏は当時としては前衛好みだったんですね。
横浜美術館には、20世紀シュルレアリスムの絵のコーナーがあるので、そこで覚えた数々の奇妙な絵が、そののち他の絵を見るのに役立ってます。
by TaekoLovesParis (2024-08-28 08:54) 

coco030705

若いころ、母と京都近代美術館での「キリコ展」に行きました。でもこのころは、抽象画があまり理解できなくて、いいとも思えなかったのです。
けれども、ここにTaekoさんがアップしてくださっている絵を観ると、面白いと感じます。少しは抽象画を観る目ができたのでしょうか。
by coco030705 (2024-08-29 01:27) 

TaekoLovesParis

cocoさん、お母様がすごいわ。お母様世代で「キリコ展」をご覧になるかたは少なかったでしょうから。ピカソもお母様と、とおっしゃってましたね。そういう下地があったから、cocoさんに絵を見る眼が養われたんでしょうね。そしてさらにその後、いろいろな絵をご覧になったから、受け入れる範囲が広がったのでしょうね、キリコの絵は、形がはっきりわかる、ただ現実離れしてるだけ、シューレアリスムといい、現代美術という分野です。抽象は形がわからないものが多いので、私もその分野はまだわからなくて。でも拒絶はしてません。
by TaekoLovesParis (2024-08-30 07:57) 

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