「安井曾太郎の肖像画」展 [展覧会(日本の絵)]
「安井曾太郎の肖像画」展を京橋のブリヂストン美術館に見に行った。
もう会期は終わっているけれど、作品は国内からだったので、今後も見る機会があると思う。
安井曾太郎は、昭和期を代表する日本の画家。1888年、京都の生まれ。
関西美術院で、浅井忠に師事し、7年間フランスに留学。セザンヌに師事した。
第一次世界大戦の勃発で帰国。帰国後に発表したセザンヌやドーミエ風の本格的で重厚な
表現が人気をよんだ。
風景画も描いたが、肖像画の名手との名声が高い。
上のパンフに使われている青い中国服の女性「金蓉」は、国立近代美術館の作品。
「座像」 「F夫人像」
「座像」の女性は、常盤貴子ふうの顔立ち。着物の鮮やかさが目に飛び込んだ。
「F夫人」は、パリに長く住んでいたというだけあって、パリのマダムの貫禄。
安井は、デッサンのうまさで定評があり、人物の特徴を捉えるのが上手だった。
座像の女性は、物静かだけどはっきりとした聡明な人、F夫人は気が強いけど、
気風がよさそう~、と絵を見ながら想像できる。
「F夫人像」の横に、下絵のデッサン画、F夫妻が自宅の部屋で、この絵の横に立つ写真も
並べて展示されていたのが興味深かった。
安井の肖像画は、デフォルメしているが、それだけに「人となり」を一枚の絵で見事に表現
している。人物がくっきりと浮かぶはっきりとした輪郭線。力強さ。
「孫」
今にも椅子から飛び降りそうなようす。モデルとしてじっと座っているのが子供には
つらいんでしょう、とわかる腰のあたり。「もう、いい?」ときいているような感じ。
「安部能成先生」
安井が一番好きだったモデルは、安部能成先生。白髪と髭が気に入って、モデルをお願い
したとのことで、安部先生の肖像画は何枚もあった。(安部能成は文部大臣、学習院院長を勤めた)
安井の肖像画は評判で、有名人がこぞって注文したので、財界人、学者、文化人の肖像画が
並び、説明を読みながら見て歩くのが楽しかった。大原総一郎、藤山愛一郎、大内兵衛、横山大観、
長与又郎(長与善郎の兄で東大総長)などなど。
水戸徳川家当主で参議院議員を務めた徳川氏は、できあがった絵を見て、「私は、
こんなに年とっていない」と言ったのに、後年、絵に自分が似てきたと感心したそうだ。
「アトリエ、裸婦と家族」(兵庫県立美術館)は、マネの「草の上の昼食」のように
「なぜ、ここに裸婦が?」という構図。絵の中央にベッドに横たわる裸婦、左に家族の肖像、
右にイーゼルという大胆さ。丁寧に描かれた重厚な絵。デッサンや家族の部分だけの肖像画、
夫人だけの座像、と、この絵を構成するパーツを並べて展示してあったのが、印象的だった。
「座像」を見ながら、思い出したのは、昨年1月、横浜美術館で見た「セザンヌ主義」展。
セザンヌに影響を受けた画家たちの作品ということで、安井の「婦人像」(京都国立近代美術館蔵)
があった。
今にも、立ち上がりそうな動きを感じる肖像画。縦縞の着物はこの頃の流行だったの
でしょうか。着物に絵筆ののびやかさが感じられた。
展覧会のパンフの絵は、「青い衣装のセザンヌ夫人」
展覧会を出て、隣室のコレクション展示にも立ち寄った。
前述の横浜の展覧会で見たセザンヌの「自画像」が、さりげなく飾られていた。
安井が帰国して最初に描いた「父の像」「母の像」もこんな色あいだったと、今、見た
ばかりの絵を思い出した。