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ウフィツィ美術館の肖像画展 [展覧会(西洋画)]

 

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 ウフィツィ美術館の自画像コレクション展に行った。
ちらしは、「マリーアントワネット」の肖像画家で有名なヴィジェ・ルブランの自画像。
バラ色の頬、愛らしい微笑み、赤いサッシュベルトで、赤、白、黒の配分がみごと。
近づくと、髪のカール、襟元、袖まわりのレースの繊細さにも見入ってしまう。

 ウフィツィ美術館は、フィレンツェにあるヨーロッパ最古の美術館。
肖像画のコレクションは、1664年にメディチ家出身のレオポルド枢機卿が始め、
今では、1700点余。今回は、その中から64名の自画像が展示されている。
それぞれの画風の特徴が現れていて、とてもおもしろい。

 歴史順に見ていくと、
1、ティントレッタ(1550~1590年)
有名なティントレットの娘。ティントレットの作品の数は膨大なので、それらは、
工房で制作されたとみられている。2人の息子同様、娘ティントレッタも工房の一員
だった。当時、絵を仕事とする女性は少なく、生家の家業である人に限られていた。
この絵は、楽譜を持ち、チェンバロに寄りかかっていることから、音楽の素養があった
とわかる。こちらを向けて開いてるページの楽譜は、はっきり読み取れるので、
この時代の楽譜の貴重な資料にもなっているそうだ。

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2、アンニーバレ・カラッチ(1560~1609年)
カポディモンテ美術館展で、カラッチの「リナルドとアルミーダ」を見たばかりだったので、
「お~!」と思ってしまった。

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 イーゼルに置かれたキャンバスに描かれた自画像。
暗くてわかりにくいが、イーゼルには、パレットがかけられ、左隅には、かわいい犬が
いる。
悲観的な表情なのは、名声を博したカラッチだったが、この絵が描かれた晩年は、
幸せでなかった。天才カラヴァッジョが登場し、カラッチが契約していた礼拝堂の壁画
の仕事が、半分、カラヴァッジョに変更になり、落ち込んでいたのだ。

3、ベルニーニ(1598~1680年)
「ベルニーニはローマのために生まれ、ローマはベルニーニのために作られた」
という言葉があるほどの天才。彫刻家、建築家、画家。
[右斜め下]
ベルニーニ.jpg 3   JReynolds.JPG 4

レンブラントの自画像もあった。

4、ジョシュア・レイノルズ(1723~1792年) [右斜め上]
イギリスの肖像画家。オクスフォード大学で民法学博士でもあったので、帽子と
ガウンは、オクスフォード修了生着る公式衣装。手に持つ巻紙には、「神の如き
ミケランジェロのデッサン」と記されている。

5、アングル(1780~1867年)
多忙だったアングルは、ウフィツィから自画像の依頼を受けて、15年後に催促され、
ようやく描いた。これは「見事な肖像画」と評価された。

ingres.jpg 5  ElisabethChapilan.JPG 6

 1861年、イタリアは、サルディニア王国によって統一され、トスカーナ大公国の
ウフィツィ美術館は、国立の美術館になった。美術館長は、積極的に自画像の
収集を行うことにし、国の内外に寄贈をよびかけた。
ベルギーのジェームス・アンソール(1860~1949年)は、生活が困難な時代だった
ので、過去の自画像をコピーして寄贈した。構図が同じでも、比較すると、過去の
自画像とは色彩や技法が違っているのが、今では興味深い。

 古典を題材に描くイギリスのフレデリック・レイトンは、ウフィツィ美術館を訪れた際、
自画像を頼まれ、イギリスの画家が少ないのでジョン・エヴァレット・ミレイ
(「オフェーリア」が代表作)や、ジョージ・フレデリック・ワッツにも頼んでほしいと懇願
され、帰国してすぐに伝えると、2人は実際に自画像を送った。
レイトンの自画像は、ジョシュア・レイノルズと同じくオクスフォード大学のマントをまと
い、背景にパルテノンの神殿の騎馬隊のレリーフを明るい茶色で描き、古代ギリシア
への情熱を示している。

6、エリザベート・シャブラン(1890~1982年) 
暗い色に傾きがちな肖像画の中で、目だってきれいな緑色の傘をさした絵。
シャブランは、マッキアイオーリ派のジョバンニ・ファットーリに師事した。

7、モーリス・ドニ(1870~1943年)
この作品を寄贈するとき、ドニは、「大きい作品のレプリカになるけれど、いい
ですか?」、と手紙を書いている。元のものとは、背景にいる子供が異なっている。

Donis.jpg

 ベルギーのエミール・クラウス、デ・キリコ、藤田嗣治、ピカビアのも
あった。彫刻家のマリノ・マリーニは彫刻で自身の顔を表現。

8、ルイージ・ルッソロ(1885~1947年)
イタリアのフューチャリズム(未来派)の作家、騒音楽器を作ったりした。
この自画像は、まだ完全に未来派にならず、色彩分割の手法である。

LouigeRussolo.JPG 8  Leger.JPG 9

9、レジェ(1881~1955年)
亡くなる1年前に描かれたもので、彼の芸術理念「あらゆる階層の人々が接しうる
芸術をつくること」を晩年の簡潔で大胆な線と明るい色彩で表現している。

10、シャガール(1887~1985年)
シャガールは自画像を30点以上描いている。
この絵の中には、シャガールが慈しんだものがすべて描き込まれている。妻ベラ、
故郷ロシアのシンボルの雄鶏、ノートルダム聖堂、セーヌ川、パレット。
シャガールは、80歳のとき、自ら、この作品をウフィツィに持参した。
それをきっかけに、館長は、自画像コレクションの拡大キャンペーンを再開、
シャガール効果で、多くの画家が自作を持ち込んで来るようになった。

Uffizi.JPG 肖像画が展示されている「ヴァザーリの回廊」

 最後のコーナーは、これから収蔵される日本人画家3人の自画像。
草間彌生、横尾忠則、杉本博司。
草間はドットで表現された自画像、杉本は眼球が見えないほど不透明なレンズの
眼鏡をかけた自分の写真を装飾フレームにはめこんだもの。横尾は日本地図を
背景に仏像メイクをした顔を置いた作品。

 当然のことながら、イタリアの作家のものが多い。パリで「未来派展」を見たので、
ジャコモ・バッラがコーヒーを飲みながら話しかけてくるような構図の肖像画には、
「やっぱり普通の肖像画ではないのね」と、ほほえんでしまった。カルロ・カッラの
「西方の若い娘」は単純化されておもしろい作品なので、その名残りが見られる
自画像に、あーやっぱり、と思ったり。20世紀のものは、ロバート・ラウシェンベルグ、
フォンタナなど、従来の自画像と違って、作品と作者が結びつくものが多い。
日本人作家3人のスタンスにも如実にそれが表れていた。

 ヴァザーリの回廊は、予約入場制なので、この機会に見れてよかった。 
いっしょに行った友達は、最後の方では、「知ってる人が、いなくてつまらない。
あ、この人、イタリア人らしくてかっこいい」とか、「この人、ロシア名前だから、
背景が全部ロシア。雪景色で玉ねぎ型の鐘楼の教会」なんていう見方だった。

11月14日まで、損保ジャパン東郷青児美術館で開催。金曜は夜8時まで。
このあと、大阪の国立国際美術館に巡回します。


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