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トリスタンとイゾルデ [オペラ、コンサート、バレエ]

 ワーグナーのオペラ「トリスタンとイゾルデ」を新国立劇場に見に行った。
この公演は、あっという間にチケットが完売になり、出演者ですら席をとれないと話題に
なった。私も新国の会員なので、先行発売日に朝から電話をしたが通じず、お昼頃、
つながったと思ったら、「○日と○日は、完売です。それ以外のかた、電話が混んでおり
ますので、もう少々お待ちください」。こんなの初めて。
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 なんで、そんなに評判かというと、「トリスタンとイゾルデ」は、新国立劇場では、初演。
さらに、指揮者が、大野和士。大野さんに関する前記事はここ。
ベルギーの王立歌劇場の音楽監督として、数々のオペラの指揮をこなし、ワーグナー
で定評のあるドイツ・バーデン州立劇場で、日本人として初めて、ワーグナーの殆どの
作品を振った。
大野さんの有名な逸話は、2005年パリでの公演の際、オーケストラがスト、公演は
中止かと思われたが、大野さんは、3日間で、オケ部分を3台のピアノに編集して、
初演を乗り切った。公演は大絶賛、この評判で、リヨンに抜擢されたそうだ。
大野さんは、ピアノが上手い。歌が好き。語学が得意。そしてユーモアたっぷりの
柔軟なお人柄。国際的に活躍する要素を備えている。

 さて、オペラ。
「トリスタンとイゾルデ」は、ロミオとジュリエットの下地になった話ときいてるけれど、
ちょっと違う。かわいい恋愛ではなく、パワフルな身体全体を使った情念。

 前奏曲。ピアニッシモから始まり、徐々に音が高まり、ワーグナーの和音が聞こえて
くると、舞台に月がゆっくりと上り、紗幕にさざなみがうつっている。ドラマが始まる期待
感と共に音楽に身をゆだねていると、右手から木の枠組だけの廃船が出て来る。
船に乗ってるイゾルデが歌い始める。その声のすごいこと!圧倒され、引き込まれる。
ワーグナーは、オペラというより楽劇だから、ほとんどセリフはなく、すべてが歌。

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 とにかく歌に圧倒された。イゾルデ役のイレーネ・テオリンの歌唱力は、「神々の黄昏」
で、わかっていたので、はまり役だろうなと思ったけれど、それ以上の熱唱。2,3歩前
に進んで客席を見据えて歌うときなど、目が合いそうで、こわいほどだった。
トリスタン役のステファン・グールドも素晴らしく、重厚で響きわたる声。時々、
「イゾルデ~」と歌う柔らかな高音に、「あ、テノールだったんだ」、と思いだすほど。

 イゾルデの侍女役のエレナ・ツィトコワは、細い体だが声がよく通る。イゾルデを怖がり
ながらお仕えしているようすが、かわいくいじらしい。この人の「ばらの騎士」のオクタヴィアン
男爵役がとてもすてきだった。
 トリスタンの親友で最期を看取る役は、ユッカ・ライジネン。「ジークフリート」の「さすらい人」
役がとてもよかったので楽しみにしていた。トリスタンを刺すメロート役は、星野淳。

 最後の場面は、月もイゾルデの衣装も赤、海へと向かって歩む姿がじんと来る。
演出は、象徴的でよかった。ただ、イゾルデの衣装が、、とても姫とは思えず。。。

 歌の素晴らしさにこれほど浸ったことはなかった。45分の休憩を2度はさんで5時間45分。
それでもあまり長いと思わなかったのは、この演目を見るのが初めてで、歌手もオケも
すばらしかったからだと思う。歌がよく聞こえるようにと、いつもより深めのオケピット。
時折、見える大野さんの指揮棒が、いっそうの臨場感を与えてくれた。
 


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