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モーリス・ドニ展 [展覧会(西洋画)]

 損保ジャパン東郷青児美術館で開催されているモーリス・ドニ展に行ったのは、
かれこれ1か月前。もうすぐ会期が終わってしまうので、書いておかないと。。

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 モーリス・ドニ(1870~1943)は、印象派のすぐ後、「象徴派」を代表する画家。
私は好きな画家なので、パリ近郊の彼の住居だった美術館に行ったりオルセー
で特別展
を見たりしたが、「こども」の絵がたくさんあったという印象がない。
しかし、今回は、「こどものいる風景」がテーマの展覧会。どんなのだろうと、
疑問と期待の入り混じった気持ちで出かけた。

今回展示されているドニの絵は、家族の日常を描いたもので、長い間、ひっそりと
ドニの家や親戚の手元にあったのだが、2009年に初公開された。この新しく
公開された絵を中心に昨年、オルセー美術館で、「モーリス・ドニ、子供のいる風景」
という特別展が開かれ、評判となった。その巡回展なのだろう。

 ドニは、22歳でマルトと出会い結婚。翌年、長男ジャンポールが誕生した。

La Mere peignoir mauve.jpg     Jean Paul nu.jpg

(左)マルトは黒い輪郭線ではっきりと浮かびあがるように描かれている。
(右)はだかんぼうのジャンポール。
若い母親のやさしい幸せな笑顔。絵の中心は赤ちゃん。
だが、ジャンポールは3か月で亡くなってしまう。

 しかし、その後、3人の娘が生まれ、ちらしに使われている「家族の肖像」に
ある幸せで輝いた生活がはじまった。

「子供のみづくろい」(1899)
お風呂上がりの次女の髪の水分をスポンジで拭く母マルト。
下絵では、マルトの服は暗い無地だった。絵全体、そして子供をはっきり
浮かびあがらせるために、敢えてこのストライプを選んだのだろう。縞模様服
は、「青いズボンの子供」にも効果的に使われていたのを思い出した。

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 1897年、マルトと長女と共にフィレンツェ郊外に滞在したドニは、風景、聖堂、
美術館から多くの刺激を受け、ルネッサンスの巨匠たちの模写も勢力的に行った。
パリに戻ってから、「フラ・アンジェリコ風のショーソン夫人」という聖母子に見立てた
子供を抱く夫人の肖像画を描いたり、「朝食、フィリッポ・リッピふうに」と、リッピの
古典的な画風で、赤ん坊にスープを飲ませる母親の絵を描いた。象徴主義を深める
ために古典の巨匠の研究をしていた時代である。 

 1907年、ヴェネティアに家族で旅をしたドニは、光あふれるこの場所で、
逆光に照らされた子供たちを描いた。顔にも足元にも強い光が差し込んでいる。
背景の海に浮かぶサンジョルジュ教会の建物も光を浴びてピンク色になり、
海のきらめきもはっきりとわかる。

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ヴァイオリンのおけいこ(1909)
フェリックス・ヴァロットン風の絵だが、強い光がさしているところがヴァロットンとは
一線を画している。
ドニは、子供たちをモデルに絵を描きながらも、いろいろな手法を試みた。

LaLecon de violon.jpg


 この年、待望の男の子ドミニクが生まれた。
「ドミニクの最初の一歩」(1911年)
長女ノエルがドミニクを支え、マルトは後ろで見守っている。
左に2人の女性が立っているが、白い布をまとう女性が、マルトに似ているのは、
これもマルトがモデルだから。
初めの一歩を祝うために集まった人々という配置で、宗教画のような構図。
ドニは熱心なカソリックなので、宗教画を研究していた。

Le promnade de dominique.jpg



 6年後、さらにもう一人男の子、アコも誕生。
いっそうにぎやかになるはずが、妻マルトが病気で入院。入院は何年にも及んだ。
母親がいなくて、淋しいアコをドミニクが遊んであげている絵。
「活き活きして「かわいい!」と思って見たのだが、裏話を読むと胸がつまる。
「ボクシング」(1918)

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 その後、マルトは亡くなるが、ドニは、次女のヴァイオリンの先生エリザベツと結婚。
(ヴァイオリンのおけいこのモデルの人?) さらに2人の子供をもうけた。

ドニは、子供たちのしぐさを描くことによって得た手の動き、表情、身体表現などを
聖書を題材とした絵や象徴派としての絵にも応用していったことがわかり、興味深
かった。

ここで描かれている子供たちは、モデルとしてポーズをとっているのでなく、切り取ら
れた日常生活の一コマ。おすまし顔でなく、いろいろな表情があり、見ていて、和やかな
気持ちになる。
ドニをよく知らなくても、ほっとしたい時におすすめの展覧会です。


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