オテロ [オペラ、コンサート、バレエ]
新国立劇場で、「オテロ」を見た。(10日・夜)
シェークスピアの「オセロー」をもとにしたオペラで、ヴェルディの作曲。
ムーア人の将軍のオテロが、トルコ艦隊を滅ぼし、嵐の夜、帰還する所からはじまる。
今回の場面の設定はキプロス島ではなく、水の都ヴェネチア。夜空に歓迎の花火が
数発、続けて上がると目が奪われる。奥行きと高さのある新国立の舞台ならでは、だろう。
見ていくうちに惹きつけられたのは、演出よりも歌。
主役の3人がすばらしかった。オテロ役のフラッカーロの最初の一声、ためていた勢いがうわっと
出て、駆け上がるテノール。オーケストラの織りなす嵐、雷の音や金管のボリュームと競う。
そして妻デズデーモナとの愛の二重唱で披露する甘い歌声。愛する人に戦場での武勇を語る歌
の表現力に吸いこまれる。後半、狂おしいほどの嫉妬、歌と演技がオテロそのものでよかった。
イアーゴ役のババジャニアン、最初の「乾杯の歌」から、悪人らしさを出した余裕の歌い方。
とにかく演技が上手い。細い顔、猫背、動きにまで狡猾な感じが満ち満ちていて、オテロが彼に、
はめられていくのが、見ていて怖いほどだった。
デズデーモナ役のマリア・ルイジア・ボルシは、体調不良で降板したポプラフスカヤの代役だったが、
清楚な感じがよかった。歌も安定していて、特に後半、ドラマティックな表現が聞かせる。
最後、エミーリア役の清水華澄がハンカチの経緯を語る場面は、切迫感があり、ドラマを盛り上げ、
とてもよかった。外人に負けてないのがすばらしい。
ヴェニスの運河を想定した水の演出が自慢のようだったが、ヴォツェックの時と同じような使い方で、
私には新鮮味がなかった。それと、最初のオセロの登場場面、お供を2人従えて、客席の間を
通って出て来るのが違和感があった。
オテロはやはり歌手だと思う。
2002年、ワシントンオペラ来日公演のドミンゴは、印象深かった。
実に堂々と、初めは愛と気品のオテロ。しかしそれが怒り、苦悶、狂喜へと変化していくさま、まさに
オセロに成りきっての演技と歌唱力だった。あのとき、ドミンゴは60歳。今、もう、オテロを歌うことは
難しいだろう。見ておいてよかった。
今回は、ドミンゴほどオテロ役が傑出していないぶん、イアーゴやデズデーモナ、エミーリアがよく、
オケも勇壮な響きで、すばらしかった。
指 揮:ジャン・レイサム=ケーニック
演 出:マリオ・マルトーネ
オテロ:ヴァルテル・フラッカーロ
デズデーモナ:マリア・ルイジア・ボルシ
イアーゴ:ミカエル・ババジャニアン
カッシオ:小原啓楼
ロドヴィーコ:松位
浩
エミーリア:清水華澄
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団