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アントニオ・ロペス展 [展覧会(西洋画)]

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最終日に行ったので、東京は既に終了の展覧会だけど、覚えておきたい
良い展覧会だった。(7月から長崎、そのあと岩手に巡回)

アントニオ・ロペスは、スペイン・リアリズムの現代作家。チラシがマドリッドの
景色の絵なので、スペインに一緒に旅行した友達に誘いの電話をしたら、
「今日が最終日って、もう2時過ぎよ、なんで午前中に電話くれないの?」
「朝までブラジル戦のサッカー見てて、起きれなかった」「もぅ~、ダメな人。
今からじゃ、3時半待ち合わせね」

チラシの絵は、ロペスの代表作、マドリードの「グラン・ビア」(1974~1981)
左の建物の時計が「06 30」を示している。ロペスは、この絵を完成させるため
7年間、夏の一時期、毎朝6時半、決まった場所にイーゼルを立てて、描き
こんでいった。同じ季節の同じ時間でないと光が変わるからだ。とはいえ7年間も!
実に精密な絵。道の奥をじっと見つめ、絵にこめられた7年の歳月を感じとろうと
してみた。街路で絵を制作中のロペスの写真が入口に展示してあった。

ロペスは、絵が、一瞬を捉える写真と違う所は、画面に対象物の時間の経過を
表せることだと考え、庭のマルメロの木の果実を毎日観察しながら描いた。
まだ硬い実、熟しつつある実、腐る実、一本の木に実るそれぞれの果実が
陽の光を浴びて、どのようになるかを描いた。この仕事ぶりが有名な監督により
「マルメロの陽光」という映画になった。

身近で観察できる家族の絵も多く描いた。
「マリアの肖像」1972年(下にチラシの抜粋写真あり)は、長女マリアを
描いたもの。鉛筆のデッサンなのに、光による濃淡、ぼかしが巧みに
表現されていて驚いた。少女は、理知的だが、少し内気という性質まで
もが伝わってくる。

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同じく、家族を描いた「夕食」1971~80年。
こちらを向いているのは、次女カルメン。手前は妻。絵をそばで見ると
妻の顔に絵の具が幾重にも塗られていて不自然。顔の向きを変えよう
としたまま未完成なのだそう。でも、こうやって、スケッチブックの表紙に
なってしまうとあまり変に見えない。
「手前の緑はアーティショー、ハムにチキン、ゆで卵がエッグスタンドに
乗ってるけど、普通、夕食にゆで卵、食べる?」と、友達は食事内容の
解明に努めていた。アーティショーやハムはコラージュなので、盛り上
がっているが、よく見ないと絵の具の厚塗りかと思ってしまう。
↓ 買ったスケッチブック

RopezSketchBook.jpg


ロペスはラマンチャの生まれだが、画家の叔父にすすめられ、13歳でマドリッドの
美術学校に入学、18歳で個展と早くから才能を発揮していた。初期の作品には、
セザンヌやピカソっぽいキュビズムの影響、古典派の影響も見える。
研究熱心なロペスは作品を完成させるまでに何年もかかることが多いので、結果、
作品数が少なく、展覧会も少ないが、現在のスペインを代表する画家といえよう。

上のマドリッドの「グラン・ピア」の絵の他に、高台からマドリッドの町を俯瞰的に捉えた
4mの大きな絵は、パネルが数枚つながっていた。描いているうちにもっと遠くまで
描きたいと範囲が広がり、キャンパスを継ぎ足していったそうだ。夕日が地平線に
沈む時の絵だが、絵の中の時計は21時。そういえば、スペインの夏の9時は、まだ
ほの明るかったっけ、と思い出した。

ロペスは彫刻も多く制作している。
「見上げるマリア」という上を向く子供の彫刻を見たとたん、友達と、「駅の顔の彫刻!」
マドリッドのアトーチャ駅を出たところにある巨大な幼児の顔。目をつぶっているものと
あけているもの2体。「なんで、ここに大きな顔がごろんと。」と
笑いながら写真を撮った。
「昼」と「夜」というタイトルであると、展覧会のあとのほうの解説でわかった。
「この人の彫刻だったのね!」

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見る機会の少ないアントニオ・ロペスの「回顧展」ということで、作品を年代順に見れて
興味深かったし、アトーチャ駅前の彫刻がロペスとわかったのは収穫だった。
「あの大きな顔の彫刻は、スペインの有名な人、名前ロペスだっけ、って、わかったから、
来てよかったわ」と友達も言っていた。

<追記> アントニオ・ロペス来日!
高齢なので来日はムリと言われていたが、長崎展にロペス氏が来日。
TVの「新・日曜美術館」でインタビューを見た。
ロペス氏の言葉で印象に残ったのは、「写真を使ったら絵は簡単に描けるが、色と光の
世界を表現できない」 「空間の構造を研究すること、常にできるだけ実物を見て描く」
ロペス氏は最近、彫刻に力を注いでいるそうだ。対象をあらゆる角度から眺めることが
できるから。日本で見たいものは巨大な仏像だそう。  (7月21日)


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