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シャヴァンヌ展 [展覧会(西洋画)]

 1月の初め、東急bunkamuraミュージアムで「シャヴァンヌ展」を見た。
大好きな画家、ピュヴィス・ド・シャヴァンヌPuvis de Chavannes(1824-1898)の
日本初の展覧会なので、ずっと心待ちにしていた。
シャヴァンヌは壁画家として名声が高いので、オルセーで見たシャヴァンヌ・ブース
のように絵を並べる構成とは違い、ゆったりとした空間で壁画を見せる展覧会だった。
予想と違ったので、少し戸惑ったが、「水辺のアルカディア」というタイトルがついて
いるように、今回の展覧会は、この絵が中心だった。

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「諸芸術とミューズたちの集う聖なる森」(1884~89)
シャヴァンヌは壁画を制作した後、その縮小作品を作る主義だった。これもリヨン美術館の
壁画の縮小版である。中央にいるのが絵画のミューズで、子供から花を受け取っている。
古代ギリシアの理想郷アルカディアをイメージした世界で、水辺があり、月桂樹、松、樫の
聖なる森の中央にギリシア的建築、空には竪琴を持ったミューズが舞う。
白が目に染みるパステル調の色彩の美しい絵。

シャヴァンヌは、1824年、フランスのリヨンの裕福な家に生まれた。16歳で母を、19歳で
父を亡くす。22歳でイタリア旅行をし、画家になる決心をする。アリ・シェフェールに入門を
願い出るが、叶わず、弟アンリに6か月間学ぶ。   
アリ・シェフェールの「聖アウグスティヌスと聖モニカ」(下、右の絵)は横浜美術館「フランス絵画の19世紀」展で見て、
シャヴァンヌ風の静謐さが印象に残った絵。実際、シャヴァンヌはこの絵に影響を受けた絵を描いている。

24歳、再び、イタリアへ旅したシャヴァンヌは、ピエロ・デラ・フランチェスカの壁画に感銘
を受けた。その頃の絵が(下左)「アレゴリー」 署名と共にローマ1848年と記されている。

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「アレゴリー」で、左側の人物は、手に建築図面を持ち貴族風の衣服。
建築家ブルネレスキと推測されている、中央は聖フランチェスコ、右はダンテ。
このように異なる時代に生きた人物を1枚の絵に一緒に描くことは、19世紀に
流行ったそうだ。


29歳の時、兄が郊外に建てた家の食堂に壁画装飾を描く。1年がかりで9点の
大きな絵を描いた。
37歳、サロンに出品した絵が歴史画として2席になり、国家が買い上げてくれた。
この頃から、絵が売れるようになった。
「休息」1863年

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この絵の2年前に描かれた同じタイトル「休息」を島根県立美術館が買ったことから、
今回、この展覧会が開催されることになったそうだ。
島根のものと比較して見ると、どのように絵が完成されていったのかを見ることが
できて面白い。ここに登場する人物のデッサン画も、展示され、興味深かった。

大原美術館所蔵の「幻想」1866年。
この絵は、横浜美術館の「フランス絵画の19世紀」展にも出品されていた。
かなり大きな絵で、青と白が美しいから記憶に残る。個人宅のサロンを飾る4点の
絵のうちのひとつで、シャヴァンヌ自身も気に入っていた作品だそう。

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このブルーがピンクに置き換わったサイズの小さい「幻想」(47.5×31.5㎝)1886年
も展示されていた。この見比べも面白い。

46歳の時、普仏戦争が勃発し、シャヴァンヌも従軍する。
包囲されたパリの街で、「気球」と「伝書鳩」(1870年)を制作した。
祖国フランスへの音信を気球にのせ、鳩に託しているのである。パリを救いたい
気持ちがこめられている絵。敵である鷹(プロイセン)から逃れ、フランスの他の町
と通信をするために伝書鳩が使われていた。「気球」の女性は、手に剣を持つ。
この絵の完成版がオルセー美術館にある。鳩の絵の背景は雪景色のパリである。

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戦争終了後、パリの守護聖人ジュヌヴィエーヌのために建てられた聖堂(現パンテオン)
の壁画をシャヴァンヌは依頼され、これの成功で、レジオン・ド・ヌール勲章を叙勲された。

「聖ジュヌヴィエーヌの幼少期」(1875年)
中央にいる少女がジュヌヴィエーヌ。司祭ゲルマヌスが巡礼中に少女に出会い、少女が
特別な才能を持っていることに気が付く場面。周囲の者たちもみな頭を下げ、祈りをささげて
いる。

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「海辺の乙女たち」(1879年) オルセー美術館所蔵

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3人3様、何かを考えているかのようなポーズだが優雅さがある。ギリシア彫刻に
通じる静けさがあり、中央の女性はヴィーナスで、濡れた髪を絞っている。
謎を秘めた魅惑的な絵で、私はとても好きだ。


展覧会場の後半は、リヨン美術館の壁画を写真とパネルで再現していた。
ぐるりとシャヴァンヌの壁画に囲まれる幸せ、リヨンに行きたいなと思いながら、会場を出た。

*シャヴァンヌに関しては、だいぶ以前になりますが、yk2さんが、ピカソとの比較、
ドガとの比較で、絵が多い詳しい記事を書いてらっしゃいます。


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