グエルチーノ展 [展覧会(西洋画)]
このチラシをもらったとき、「グエルチーノ?バロックの、、知らない画家だけど、
神々しさがあふれててすばらしいなぁ」と思った。でも、時の経過と共に忘れて。。
(そういうこと時々ありませんか?)
先週は、国立新美術館のルーヴル展に行った。風俗画特集ということで、小さい絵
が大半で、オランダ絵画が多かった。一点、一点、面白かったが、感動はなかった。
一番目玉のフェルメール「天文学者」は、ルーヴルで何回も見たし。
その日の夜、長年の美術ブログ友りゅうさんが、ルーヴルとグエルチーノに行って、
断然グエルチーノがよかった、グイド・レーニもあったと書いてらしたので、昨日、
閉館1時間前着だったが、行ってきた。ずらり並んだ大きな絵たちは、どれも陰影が
強くドラマティック。静けさの中で、感動の時間を過ごすことができて幸せだった。
ところで、グエルチーノって誰?ですよね。
グエルチーノは17世紀、イタリアのバロックの画家。
カラッチ、グイド・レーニより少し後の生まれで、若い頃から天才とうたわれ、
文豪ゲーテからも絶賛されたが、次第に忘れられてしまった。(若冲みたい?)
しかし、20世紀になって、英国の研究家が、グエルチーノを再評価、世界的な
評判にまで高めた。
グエルチーノはボローニャのチェント市出身なので、作品の多くはチェント市立
絵画館や教会にあったが、2012年にチェントにおきた大地震で建物が崩壊した。
幸い、絵は、難を逃れたので、建物再建までの間、世界的な巡回展が開催
されることになったのだ。(展覧会の収益の一部はチェント市に寄付される)
上野・西洋美術館の会場にはいると、そこはもう荘厳な雰囲気に包まれていた。
最初の絵は、グエルチーノではなく、先輩ルドヴィコ・カラッチによる祭壇画。
1、「聖家族と聖フランチェスコ、寄進者たち」 1591年
祭壇画なので大きい。聖母子の頭を頂点とする三角形構図。
くっきりと強い明暗、今にもフランチェスコの元にと飛び込みそうなキリスト。
フランチェスコの右手は手前の寄進者たちを指し、天国への取り成しをしている。
動きを感じる表現が絵をドラマに仕立てている。
若い時代のグエルチーノはこの絵を参考にして、構図と明暗を学んだそうだ。
この時代、寄進者たちは絵の中に自分や親戚を描いてもらっていた。
2、「ゲッセマネの園のキリスト」1613年
この主題は、いろいろな画家が描いている。西洋美術館の常設にもヴァザーリの
作品がある。
3、聖カルロ・ボッロメーロの奇跡(1613年)
生まれながらに目の見えない赤ん坊の眼が見えるようになったという奇跡。
女の子が、赤ん坊が目をあいた奇跡に気づき、母親のエプロンをひっぱり、
「ほら、あそこにボッロメーロさまが!」
当時、ボッロメーロは聖人に列聖されたばかりだったので、グエルチーノは
お手本にするボッロメーロ像や構図がなく、自ら工夫してつくりあげた。
4、聖母子と雀(1615年)
写真では見ていて、なぜ、この絵が絶賛されるのかわからなかった。
実物を見るとわかる。実にふくよかな絵。優しさや繊細さが伝わってくる。
5、聖三位一体(1616年)
6、聖イレネに介抱される聖セバスティアヌス(1619年)
キリスト教徒であることが発覚し、弓矢で処刑になったセバスティアヌス。
体中に矢が刺さった絵を見ることが多いが、これは、処刑後、医者に矢を抜いて
もらい、イレネに介抱されているところ。セバスティアヌスは苦痛で体をよじらせている。
動きあふれる画面。
7、聖フランチェスコの法悦(1620年)
フランチェスコは右手を高く上げ、天使を拒絶している、まさか、、と思ったら、
天使の出現がまぶしくて手をかざし光を遮っている瞬間だそう。
ヴァイオリンの音色を聴き、天使の出現に驚きの瞬間。
すぐ横に、グイド・レーニ作の穏やかな「聖フランチェスコの法悦」があった。
私は、こちらのほうが好きだった。
8、聖母被昇天(1622年)
チラシに使われている絵。聖母は下から仰ぎ見る高い位置にある。
12の星に冠の聖母は、照明に照らされ、美しく神々しい。
9、放蕩息子の帰還(1627年)
見たことある、と、思った。ボルゲーゼ美術館の所蔵品なので、「ボルゲーゼ美術館展」
で見たのだろう。
お金を使い果たし戻って来た放蕩息子の帰還を喜び、きれいな服を着せる父。
犬が懐かしそうに息子にすがりつく様子は臨場感を盛り上げる。左は従者。白い服が
光を浴びて浮かびあがり、父の指が息子をさしていることから、主役は息子とわかる。
10、聖母と祝福を受ける幼児キリスト(1629年)
この作品は、グエルチーノがローマで勉強をした後のもの。
光での明暗技法が変化し、画面から重厚さが消え、柔らかい感じがする。
静けさと上品さが漂う絵だと思った。
11、聖母のもとに現れる復活したキリスト(1628-30年)
ゲーテが著書「イタリア紀行」で、この絵を詳しく解説し、非常に気に入ったと
述べている。
三角形構図、風にはためく旗を持つ復活したキリスト。聖母は聖書を読む手を
とめて、キリストの体に手をまわし、傷のすぐ下を押さえる。
母を見つめるキリストの顔はやさしい。
12、ルクレティア(1638年)
自害するルクレティアの絵は、いろいろな人が描いている。
グエルチーノのルクレティアは、着衣の古典主義的な美しさの女性。
西洋美術館所蔵のグイド・レーニの「ルクレティア」も隣に展示してあった。
13、ゴリアテの首を持つダヴィデ(1650年)
これは、西洋美術館の常設で、毎回、「ゴリアテの首がリアルで気持ち悪い」と
思いながら見ていた作品。
ダヴィデは、ミケランジェロの「ダヴィデ像」の人。ダヴィデ像は手に石を持っている。
その石をゴリアテの額に命中させ、倒し、相手の剣で首を切った。
天に勝利を感謝するダヴィデ。
14、悔悛するマグダラのマリア(1652-55年)
展覧会最後の絵。グエルチーノが晩年、自分の家に飾っていた横長の絵は4枚。
そのうちの一つは、この絵。穏やかに目を閉じているマリア。罪を悔悛し、天国を見る
境地に達した表情とも言われている。ラファエロに通じるような美しさ。
全部で44点の展示。
その中で、注目されているもの、私が気に入ったものを14点取り上げた。
写真で見るよりも、実際に、会場で見る大きな絵には、心を揺さぶられる。
会期はもうあと2日だけですが、おすすめです。