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カラヴァッジョ展 [展覧会(西洋画)]

5月の連休中に東京・上野の西洋美術館へ「カラヴァッジョ展」を見に行った。
混んでいるかと思ったが、客足は「若冲展」に向いているらしく混雑はなく、ゆったりと見れた。
記事を書くのが遅くなって、会期は12日(日)、明日までだが、カラヴァッジョ作品をまとめて
見る機会はあまりないので、おすすめ。日本初公開作品が多く、カラヴァッジョの天才ぶりに
改めて驚くと思う。

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カラヴァッジョ(1571~1610)は光と影の巨匠で、イタリアバロック絵画の先駆者である。
人物を写真のような写実で描き、光が当たる部分と影になる部分を強いコントラストで
表現した。私生活では喧嘩で人を刺し殺してしまった一件が有名である。

会場にはいってすぐは、。「女占い師」(1597年)
大きな絵。26才、背景色が明るめの時代。
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男は服装から金持ちとわかる。女は占い師で、左手で男の手を握って、手相を見ながら、
指輪を抜き取ろうとしている場面。女は男の表情を伺いながら、「Ok,取れそう」と笑みを
浮かべている。男は女の言葉にだまされやすそうなお坊ちゃまで、幾分嬉し気な表情。

次のコーナーでは、やはり「女占い師」、絵の大きさは同じだけど、騙される男が歯を見せてニヤリ
、、さっきのと全然雰囲気が違う。こっちはちょっと下手だし、と思ったら、シモン・ヴーエ
という人の作品。カラヴァッジョの「女占い師」に倣って、多くの画家が同じテーマで描いたそうだ。

「この絵、ルーヴルで見た気がする」と思ったので帰宅後、調べてみたら、男の帽子の羽根飾りが
立っているのが、ルーヴル蔵だった。ラトゥールにも「女占い師」があり、ルーヴルで見たと思い出した。

カラヴァッジョ作品は11点だけなので、カラヴァジェスキと呼ばれる継承者、また周辺の画家の
作品も加え、あわせて50点の展示。

チラシの、「果物籠を持つ少年」(1593年)は、21歳の作品。
モデルを雇うお金がなかったため、自分がモデル。
果物籠を持ってうっとりとしている少年よりも、果物のみずみずしい描写がすばらしい。
静物画がないカラヴァッジョにしては珍しい作品。

静物画をほとんど描かなかったのは、人間の表情に興味があったからなのだろう。
「トカゲに噛まれる少年」 1596-97年頃 
この写真では見えないが、少年の中指にトカゲが噛みついている。突然噛まれて痛い、
その驚きぶりが表情と指先、肩に表れている。悲鳴が聞こえてきそうだ。
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バッカス(1597) ウフィツィ美術館蔵
ワインの神バッカス。ほろ酔いで頬は赤く染まり、眼がとろん。女性かと見まごうほどの顔なのに、
肩から腕への筋肉はまさに男性。ワイングラスを左手に持っているのは、鏡に映しながら、
絵筆を右手に持って描いたから、と言わている。いつ見ても奇異に感じる絵。

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カラヴァッジョは、その激しい性格から、斬首に興味があったようで、「サロメ」や「ゴリアテの首を持つダビデ」、
「ホロフェルネスの首を斬るユディト」などの劇的場面の作品があるが、今回は来ていない。
代わりに、シモン・ヴーエ、グエルチーノなど他の画家たちの同主題の作品があった。
カラヴァッジョ作は、盾のような円形のものに描かれた恐ろしい表情の「メドゥーサ」

1599年、「ナルキッソス」以降の絵は背景が黒。闇に光を与えると言われるほど、
光が当たった部分だけがクローズアップされる。

「エマオの晩餐」(1606年)
聖書の場面:弟子2人がエマオという町を歩いていた時、イエスが近づいてきて、彼らと
語りながら歩き、彼らの家の食事によばれた。弟子2人は、一緒にいるのがイエスで
あると気づいていなかったが、食事中に亡くなったはずのイエス本人であると気づき驚いた。
テーブルの上にはパン。壺の後ろにワインのはいったグラス。イエスの両脇に2人の弟子。
光の効果は、画面をドラマティックにしている。

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カラヴァッジョは、冒頭に述べたように、喧嘩で殺人を犯した。そのためローマを逃亡。
その時期に描かれた作品。気性の激しいカラヴァッジョとは逆に宗教的で静かな絵。

「洗礼者聖ヨハネ」(1602年)
聖ヨハネの体は、強い光で、クローズアップされているが気品がある。
手に持つのは、十字架であろう。白い肌に赤いマントが印象に残る。

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カラヴァッジョは、ローマを逃亡後も有力者の庇護で絵を描きつづけた。
その後、各地を放浪したが、恩赦を受けることになり、船でナポリからローマに向かう途中、
雨に打たれた風邪がもとで38歳で亡くなった。
その時、持っていた荷物から絵が最近、見つかり、真作であるとの鑑定が出ての初公開。

「法悦のマグダラのマリア」(1606年)
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青白い顔。失神して全てを失ったかのように反り返っている。白目で半開きの口、
息も絶え絶え状態だが、苦しそうでないのは、「法悦」だからであろう。

「エッケ・ホモ」(1605年)
エッケ・ホモは「この人を見よ」の意味で、棘の冠りをつけた磔(はりつけ)直前のイエスの姿が
描かれる。枢機卿マッシミの依頼作品だが、マッシミはこれに満足せず、フィレンツェの画家
チゴリにも同じ主題の絵を注文した。今回2つの絵が並べて展示されていた。
カラヴァッジョ作品が縛られ観念した静かな表情のキリストなのに対し、チゴリ作品はドラマティック
だった。

カラヴァッジョの明暗法に影響を受けた画家は数知れない。レンブラント、フェルメール、ラトゥール
など。フェルメールの贋作で話題になったメーヘレンの絵は「エマオのキリスト」だったから構図は
カラヴァッジョに倣った?など、いろいろ考えるのも面白い。


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