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メトロポリタン美術館展・後編 [展覧会(西洋画)]

2,第二室 絶対主義と啓蒙主義の時代 前編のつづき

9、ニコラ・プッサン「足の不自由な男を癒す聖ペテロと聖ヨハネ」1655年
横165㎝の大きな絵。
聖書「使徒行伝」3章に基づく絵。プッサン晩年の作で、輝かしい色彩は、古代絵画に
倣っている。プッサンはルイ13世の首席宮廷画家だったが、その地位を捨て、若い頃
学んだイタリアに移住し、古代、歴史、自然を生かす宗教画や風景画を描いた。
この絵は、ラファエロの同じ主題の絵から着想を得たのだろうと言われている。


二コプッサン‗足の不自由な「男を癒す聖ペテロ.png


10、フェルメール「信仰の寓意」1670年
メトロポリタン美術館は、フェルメール作品を5点持っていて世界一である。
フェルメールらしくない仰々しい女性と思っていたのだが、支援者からの
「信仰」を表す絵を、という注文なのだった。
頼まれたフェルメールは、信仰をどう擬人化するか考え、
「イコノロージア」と言う本を参考にした。白(純潔)と青(天国)の服を着た
女性が壇の上に座り、片足を地球儀の上に置き、教会が世界の上に立つことを
示している。背後にはキリストの磔刑の絵がかかり、女性の横のテーブルには、
十字架、聖餐杯、ミサ典書が置かれている。左脇、上からの豪華なタピストリーは、
この室内空間を礼拝堂のように区切っている。
天井から下げられたガラス玉に光の反射で事物が映り、左上が明るくなっている
ことから、光の効果がはっきりわかる描き方は、フェルメールの技である。
フェルメール信仰の寓意.jpg


11、ヴァトー「メズタン」
メズタンという名前は、イタリア生まれのコメディ、即興劇のキャラクターである。
メズタンは惚れやすく、恋に溺れ、報われない恋に悩む従者。背後に見える大理石の
女性像に恋してるメズタンはギター片手に愛の歌を歌う。優雅な構図で、メズタンの
肌の描写がルーベンス風の色調と評されている。
ヴァトーは、「シテ島の巡礼」が代表作。
この絵は、私がメトで買った「美術館ガイド」の表紙に使われている。
701px-Jean-Antoine_Wattea.jpg


12、ブーシェ「ヴィーナスの化粧」1751年
この絵はルイ15世の寵妃ポンパドゥール伯爵夫人の化粧室にもう一枚の絵と
対で飾られていた。ブーシェは裸体画では、ルーベンス、ルノワールと並ぶ腕前で、
ルイ15世の首席画家をつとめ、ポンパドゥール夫人がパトロンであった。ヴィーナスの
アトリビュート(象徴物)として、天使と鳩、貝殻の形をした水盤が置かれている。
ブーシェ」_ヴィーナスの化粧.jpg


13,マリー・ドニーズ・ヴィレール「マリー・ジョセフィーヌ・シャルロット・
デュ・ヴァル・ドーニュ」1801年
逆光の中に浮かぶ美しい人。実施にこちらを見つめているかのよう。端正に描かれている。
窓の外には、小さく見えるのは楽しそうに歩く恋人たち。
この絵は長らく、新古典主義のダヴィッドの作品と思われていたが、「1801年のサロンの
展示風景」という版画の中にこの絵があるとわかり、ダヴィッドはその年出品していなかった
ことから、女性画家マリー・ドニーズ・ヴィレールの作品と判明した。腰にサッシュベルトを
しめた女性のロングドレスは当時の最新スタイルである。
この時代、女性は美術学校に入ることが許されなかったので、絵は個人的に学ぶしかなかった。
マリー・アントワネットの肖像画を多く描いたエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランは、
画家の父に学び、画商と結婚したので、画家として自立できた。
マリー・ドニーズ・ヴィレール
は、ヴィジェ=ルブランの20年後に生をうけたが、今、残る真筆は3点しかない。
マリージョセフィーヌblog.jpg


3,第三室 革命と人々のための芸術

1、ターナー「ヴェネツィア、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂の前廊から望む
1835年頃
英国の風景画家ターナーは、頻繁に旅をしたが、中でも、ヴェネツイアは最も刺激的な
場所だった。ゆらめく光と真珠色に輝く大気の中に浮かぶ建物を122㎝の画面にみごとに
映し出している。
ターナーヴェネツィア.png


2,クールベ「漁船」1865年
写実主義のクールベは、人物画と風景画が多い。海を初めて見たのは22才の時だった
そうだが、人生の後半には海や波、海景を多く描いている。私は西洋美術館の「波」
の力強さが好きだが、これは穏やかな波。反射光でオレンジ色がはいる灰色も空、
ブルーグレーの波と美しい穏やかな色合い。上のターナーの海の輝きとは異なる静けさ。
クールベ.jpg


3,コロー「遠くに塔のある川の風景」1865年 (写真なし)


4,ドーミエ「三等客車」1879年
ドーミエは、20年以上もの間、三等客車に乗る人々、待合室の人々を油彩、水彩、
リトグラフで描いている。ブルジョワ生活を鋭く風刺する政治評論家でもあった。
3classDomie.jpg

 

5,ゴヤ「ホセ・コスタ・イ・ボネルス」(通称ベビート)1828年頃(写真なし)
ベラスケスの「マルガリータ王女」も可愛いけれど、同じスペインのゴヤが描いた
この裕福な家庭の男の子のあどけなさも印象に残る。
白いツーピースの上に金モール付きの深緑のベルベットのジャケットを着て、
右手に羽根飾りのついた帽子、左手におもちゃの木馬の手綱を握っている。
薄い茶色の髪の毛。5~6才くらいだろうか。


6.マネ「剣を持つ少年」1861年 (写真なし)
モデルはマネの息子だが、一緒に暮らす親密な仲ではなかった。10歳の誕生日に
父のためにベラスケス絵画ふうの衣装を借りてポーズをとる。気取った表情でなく、
マネに向かって、「これでいい?」と言ってるかのようだ。


7.ルノワール「ヒナギクを持つ少女」1889年 (写真なし)
金髪、バラ色の肌の少女が服と共にルノワール独特の背景色に溶け込む。手に持つ
ヒナギクの白と赤い芥子が鮮やか。


8,ドガ「踊り子たち、ピンクと緑」1890年頃
ドガには踊り子たちを描いた絵がたくさんあるが、緑の衣装は珍しい。
全体の色彩も豊かな色合いになっている。
doga.jpg


9,ゴッホ「花咲く果樹園」1888年
一緒に行った友達に「今日見た中で何一番良かった?」ときいたら、
「ゴッホ、あんな穏やかなゴッホの作品は、初めてみたわ。足元草は大きな
点描だけど細いし、うねうねしたところもないし、好きだわ。亡くなる少し前
なのかしら」亡くなったのは1890年。「花咲くアーモンドの木」も穏やかで
丁寧な筆致の作品だったと思い出す。
花咲く果樹園.png

10,セザンヌ「リンゴと洋梨のある静物」1891~92年頃 
セザンヌの作品にはリンゴ、洋梨、オレンジ、プラムが多く登場する。それらは、
セザンヌが暮らしていたエクス=あん=プロヴァンスの特産品であり、長持ちする
ので、セザンヌが配置を変えたりしながら観察しても様子が変わらないので都合が
よかった。セザンヌは形に立体感を与えるため色のグラデーションでなく、異なる
色を使った。例えば、下のリンゴは、赤、ピンク、黄色、緑と塗り分けられている。
531fcc0d-s.jpg

 11,モネ「睡蓮」1916~1919年
モネは40年以上もの間、ジヴェルニーで暮らし、時間と共に変化する光を観察・
研究しながら。池の睡蓮を描いた。
この作品では、池は柳の反映によって緑色に色づけされ、睡蓮の葉は紫と青、根は白、
花は赤で示されている。
2022モネ睡蓮.jpg

紙面の都合上、ここで紹介しきれなかった絵がたくさんあります。
傑作ぞろいなので、ぜひ、ご覧になってください。(5月30日まで)
予約をおあすすめします。





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メトロポリタン美術館展・前編 [展覧会(西洋画)]

メトロポリタン美術館展を国立新美術館で見た。
作品の貸し出しをあまりしないメト美術館だが、今回は「ヨーロッパ美術部門」の
大々的な改装のため、重要な作品群が大阪・東京にやってきた。

サブタイトルは「西洋絵画の500年」、つまり、15世紀からの重要絵画作品が
年代順に展示されている。

1,第一室 信仰とルネサンス
重厚な青い壁の部屋は、入るなり、荘厳な気持ちにさせてくれる。
600年も前の絵がこんなに綺麗な状態で、金がピカピカ輝いているのに驚く。
テンペラ画は油絵よりも経年劣化が少なく、修復もなされてるだろうが、
今なお光輝き、活き活きとした絵の魅力に引き寄せられた。
1,フラ・アンジェリコ「キリストの磔刑」1420~30年
フラアンジェリコ キリストの磔刑.jpg

2,カルロ・クリヴェッリ 「聖母子」1480年頃(写真なし)
ロンドン。ナショナル・ギャラリー展で名前を覚えた画家。ヴェネティアで活躍。
北方ルネサンスの影響か、大きなリンゴときゅうりが聖母の顔の両側にあった。


3,ダビデ・ギルランダイオ「セルヴァッジャ・サッセッティ」1487年
(写真なし)テンペラ/板
婚約記念の若い女性の肖像画。赤いサンゴのネックレスと大きな真珠と奇石の
ペンダントが控えめな服を際立たせていた。

4,ラファエロ・サンティ「ゲッセマネの祈り」1504年 油彩/板
ラファエロは若くして頭角を現し注文が多く来ていた。これは21才の時の作品。
均整のとれた構図、人物の端正さはこの頃から表れている。
ラファエロ_ゲッセマネ.png


5,ドッソ・ドッシ「人間の三世代」1515年頃(写真なし)油彩
面白い絵で印象に残った。画面は森のような風景画である。
左端。木の下に若い男女、それを岩陰から見る男の子と女の子。
右奥には木陰で愛を語る老年の男女。関係がない3世代のカップルである。


6,ピエロ・ディ・コジモ「狩りの場面」1494年 テンペラ画 (写真なし)
横に長い画面。テンペラ、油彩/板に移し替え
背景の薄暗い森の奥で火の手があがり、動物たちが逃げ出している。
逃げて、画面手前に現れた動物たちは、人間(ケンタウロスやサテュロス)から
襲撃を受ける。死は生き物に平等に来るという訓戒。ヒエロムニス・ボスにも似た
画風。残酷さとグロテスクが同居。


7,ヘラルト・ダーフィット「エジプトへの逃避途上の休息」1512~15年油彩/板
気品あふれる聖母子。青い服のマリア。後退してゆく街並みは、画家ダーフィット
が住んでいるネーデルランド。背景の高い木々の森には小さくロバに乗った聖母子
の姿が見える。中央の聖母子の左横にはアダムとイヴを想起させるリンゴの実が
ついた小枝、右横には、魂の救済を意味するツタが見える。空からの光が地平線上
で消える色のグラデーションが美しい。
背景の上にポンと聖母子を置いたかのような遠近法。
ヘラルド・ダーフィット_エジプト逃避途上の休息.jpg

8,フラ・フィリッポ・リッピ「玉座の聖母子と二人の天使」1444年頃 テンペラ、金/板
分解された三連祭壇画の中央パネルなので、縦長の絵。
色大理石の玉座にすわる聖母子の威厳、聖母の金の光輪がすばらしい。
フィリッポ・リッピ玉座の聖母子.jpg


9,ルカス・クエラーナハ(父)「パリスの審判」1528年頃 油彩/板
クラーナハ展でも、ルーブルでも見た絵。クラーナハのこの主題での絵は少なくとも12枚
あるそうだ。


10,エル・グレコ「羊飼いの礼拝」
1605~10年 油彩/カンバス
中央にいるキリストに光が当たっている。みんながキリストの誕生を祝っていると、
一目でわかる構図。白の使い方が効果的。
エルグレコ_羊飼いの礼拝.png

11,ティツィアーノ・ヴェッチェッリオ「ヴィーナスとアドニス」1550年代 写真なし)
ヴィーナスは、狩りに出ようとするアドニスが怪我をするのではないかと
引き留める場面。豊満な身体のヴィーナス。かなり大きい絵。


2,第二室 絶対主義と啓蒙主義の時代
1,ルーベンス「聖家族と聖フランチェスコ、聖アンナ、幼い洗礼者ヨハネ」1630年代初頭
ルーベンスは大きな絵が多い。これも大きな画面に6人が並ぶ。

2,サルヴァトール・ローザ「自画像」1647年頃
葬礼のために頭に糸杉の冠をつけ、筆で哲学者セネカの本の上に置かれたドクロに
「やがて いずこへ 見よ」と書いている。


3,ピーテル・クラウス「ドクロと羽根ペンのある静物」1628年
17世紀にオランダで流行したドクロのある静物画は、世のはかなさを戒めている。


4,バルトロメ・エステバン・ムリーリョ「聖母子」1670年代
赤の外衣と青い布をまとった聖母は幼子を見下ろしながら、将来を憂える。
幼子が丸々としてかわいい。背景は何もなく茶褐色だけで塗られているが、
聖母子には後光がさしている。


5、カラヴァッジョ「音楽家たち」1597年
カラヴァッジョ20代の作品。写実が素晴らしい。静物画家の工房で働いていたので、
花や果物を描くのが上手い。
Caravajo音楽家たち.jpg



7、レンブラント「フローラ」1654年頃

フローラは、春、花、豊かな実りを司る古代ローマの女神なので、ティツィアーノも
同じ主題の絵を描いている。この絵は、構図やフローラのポーズにティツィアーノの
影響が見られる。背景の色はレンブラントの肖像画によく使われる色。

レンブラント「_フローーラ.png


8、ジョルジュ・ラ・トゥール「女占い師」
この絵は展覧会のチラシに使われているので、今回の目玉先品と言えよう。
女占い師は、右端の老婆で、占いのカードを中央の若い男性に見せている。
このカードによるとあなたの運勢は、、と男性の興味をひくことを言う。
その間に一味の3人の女たちが男性から金品を盗もうとしている場面。
ルーヴル美術館の「いかさま師」も同様の主題の絵ですね。
女占い師.jpg



後編に続く




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メトロポリタン美術館展のランチ [レストラン(フレンチ)]

国立新美術館で開催中のメトロポリタン美術館展に行った。
同行の札幌の友だちが、行ける日時が限られていたので、ネットで予約をして
出かけた。
展覧会の絵の感想記事は、次回にして、まずは、ランチの写真から。

この美術館のレストランは、3階にあり円形の部屋で全面ガラスで壁がない。
開放的で明るく陽が射しこむ。
通常のメニューの他に毎回の展覧会の合わせたメニューが用意されていた楽しい。

まずは、カラヴァッジョ「音楽家たち」
Caravajo音楽家たち.jpg
左から3番め、「この人は!」そう、カラヴァッジョ本人です。
西洋美術館でのカラヴァッジョ展のポスターの絵も本人がモデルだったから
見覚えあり、だった。

前菜:
「フランス産鴨のフォアグラのポワレとホワイトアスパラガス モリ―ユ添え
ソース・ポルト」
アスパラ、ふわっと温かくやさしい感触が口に入れた時に気持ちが良い。
ポルト酒のソースは、甘めでフォアグラによく合う。
テーブルの上に説明書き付きのメニューが置かれている。
説明文は、「フォアグラとアスパラの王道の一皿。艶やかに照り輝くポルト酒のソース、
絵中のなめらかな白い肌を見立てたモリ―ユ茸香る牛乳の泡を添えて。カラヴァッジョ
の作品から漂うけだるい官能的な雰囲気を感じさせます。」

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次の絵は、マリー・ドニーズ・ヴィレールの「マリー・ジョセフィーヌ・シャルロット・
デュ・ヴァル・ドーニュ」

マリージョセフィーヌblog.jpg
魚料理:
「真鯛のムニエルとノーザンルビーのコンフィ ブイヤベースのジュソース
黒ニンニクのアイヨリと共に」
説明文「18世紀後半、さまざまな分野で女性が活躍を始めたフランス。絵の中の
女性のドレスに見立てて、真鯛を大根とベーコンで包み、優しい出汁の効いた魚介の
ソースを合わせ、シンプルに仕上げました。凛とした女性らしさを表現しています。」
Baucuse2.jpg
一見、ロールキャベツ風。直径12~3センチの大根の薄切りを皮にして
焼き目のついた真鯛を包んである。ソテーした帆立も浮かんでいる。
ピンクはじゃがいも。ノーザンルビーという品種。



フラ・アンジェリコ「キリストの磔刑」

フラアンジェリコ キリストの磔刑.jpg

デザート:
「ピスタチオのムースと赤い果実のシャルロット アングレーズソース」
説明文
修道士でもあったフラ・アンジェリコは三次元空間を表現した第一人者。
十字架を取り囲む人々が醸し出す空間の奥行きを伝統菓子シャルロットで仕立てて、
ピスタチオのムース、カスタードソースと甘酸っぱいベリーと共に。
Baucuse4.jpg

十字架はさくさくのパイ。白いキリスト(鳩かと思った)はメレンゲ。
このアイディアはいいなぁ。赤い果物はフランボワーズで、周りのソース・アングレーズ
(カスタード・ソース)が、シャルロットやピスタチオムースと合う。

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