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メトロポリタン美術館展・前編 [展覧会(西洋画)]

メトロポリタン美術館展を国立新美術館で見た。
作品の貸し出しをあまりしないメト美術館だが、今回は「ヨーロッパ美術部門」の
大々的な改装のため、重要な作品群が大阪・東京にやってきた。

サブタイトルは「西洋絵画の500年」、つまり、15世紀からの重要絵画作品が
年代順に展示されている。

1,第一室 信仰とルネサンス
重厚な青い壁の部屋は、入るなり、荘厳な気持ちにさせてくれる。
600年も前の絵がこんなに綺麗な状態で、金がピカピカ輝いているのに驚く。
テンペラ画は油絵よりも経年劣化が少なく、修復もなされてるだろうが、
今なお光輝き、活き活きとした絵の魅力に引き寄せられた。
1,フラ・アンジェリコ「キリストの磔刑」1420~30年
フラアンジェリコ キリストの磔刑.jpg

2,カルロ・クリヴェッリ 「聖母子」1480年頃(写真なし)
ロンドン。ナショナル・ギャラリー展で名前を覚えた画家。ヴェネティアで活躍。
北方ルネサンスの影響か、大きなリンゴときゅうりが聖母の顔の両側にあった。


3,ダビデ・ギルランダイオ「セルヴァッジャ・サッセッティ」1487年
(写真なし)テンペラ/板
婚約記念の若い女性の肖像画。赤いサンゴのネックレスと大きな真珠と奇石の
ペンダントが控えめな服を際立たせていた。

4,ラファエロ・サンティ「ゲッセマネの祈り」1504年 油彩/板
ラファエロは若くして頭角を現し注文が多く来ていた。これは21才の時の作品。
均整のとれた構図、人物の端正さはこの頃から表れている。
ラファエロ_ゲッセマネ.png


5,ドッソ・ドッシ「人間の三世代」1515年頃(写真なし)油彩
面白い絵で印象に残った。画面は森のような風景画である。
左端。木の下に若い男女、それを岩陰から見る男の子と女の子。
右奥には木陰で愛を語る老年の男女。関係がない3世代のカップルである。


6,ピエロ・ディ・コジモ「狩りの場面」1494年 テンペラ画 (写真なし)
横に長い画面。テンペラ、油彩/板に移し替え
背景の薄暗い森の奥で火の手があがり、動物たちが逃げ出している。
逃げて、画面手前に現れた動物たちは、人間(ケンタウロスやサテュロス)から
襲撃を受ける。死は生き物に平等に来るという訓戒。ヒエロムニス・ボスにも似た
画風。残酷さとグロテスクが同居。


7,ヘラルト・ダーフィット「エジプトへの逃避途上の休息」1512~15年油彩/板
気品あふれる聖母子。青い服のマリア。後退してゆく街並みは、画家ダーフィット
が住んでいるネーデルランド。背景の高い木々の森には小さくロバに乗った聖母子
の姿が見える。中央の聖母子の左横にはアダムとイヴを想起させるリンゴの実が
ついた小枝、右横には、魂の救済を意味するツタが見える。空からの光が地平線上
で消える色のグラデーションが美しい。
背景の上にポンと聖母子を置いたかのような遠近法。
ヘラルド・ダーフィット_エジプト逃避途上の休息.jpg

8,フラ・フィリッポ・リッピ「玉座の聖母子と二人の天使」1444年頃 テンペラ、金/板
分解された三連祭壇画の中央パネルなので、縦長の絵。
色大理石の玉座にすわる聖母子の威厳、聖母の金の光輪がすばらしい。
フィリッポ・リッピ玉座の聖母子.jpg


9,ルカス・クエラーナハ(父)「パリスの審判」1528年頃 油彩/板
クラーナハ展でも、ルーブルでも見た絵。クラーナハのこの主題での絵は少なくとも12枚
あるそうだ。


10,エル・グレコ「羊飼いの礼拝」
1605~10年 油彩/カンバス
中央にいるキリストに光が当たっている。みんながキリストの誕生を祝っていると、
一目でわかる構図。白の使い方が効果的。
エルグレコ_羊飼いの礼拝.png

11,ティツィアーノ・ヴェッチェッリオ「ヴィーナスとアドニス」1550年代 写真なし)
ヴィーナスは、狩りに出ようとするアドニスが怪我をするのではないかと
引き留める場面。豊満な身体のヴィーナス。かなり大きい絵。


2,第二室 絶対主義と啓蒙主義の時代
1,ルーベンス「聖家族と聖フランチェスコ、聖アンナ、幼い洗礼者ヨハネ」1630年代初頭
ルーベンスは大きな絵が多い。これも大きな画面に6人が並ぶ。

2,サルヴァトール・ローザ「自画像」1647年頃
葬礼のために頭に糸杉の冠をつけ、筆で哲学者セネカの本の上に置かれたドクロに
「やがて いずこへ 見よ」と書いている。


3,ピーテル・クラウス「ドクロと羽根ペンのある静物」1628年
17世紀にオランダで流行したドクロのある静物画は、世のはかなさを戒めている。


4,バルトロメ・エステバン・ムリーリョ「聖母子」1670年代
赤の外衣と青い布をまとった聖母は幼子を見下ろしながら、将来を憂える。
幼子が丸々としてかわいい。背景は何もなく茶褐色だけで塗られているが、
聖母子には後光がさしている。


5、カラヴァッジョ「音楽家たち」1597年
カラヴァッジョ20代の作品。写実が素晴らしい。静物画家の工房で働いていたので、
花や果物を描くのが上手い。
Caravajo音楽家たち.jpg



7、レンブラント「フローラ」1654年頃

フローラは、春、花、豊かな実りを司る古代ローマの女神なので、ティツィアーノも
同じ主題の絵を描いている。この絵は、構図やフローラのポーズにティツィアーノの
影響が見られる。背景の色はレンブラントの肖像画によく使われる色。

レンブラント「_フローーラ.png


8、ジョルジュ・ラ・トゥール「女占い師」
この絵は展覧会のチラシに使われているので、今回の目玉先品と言えよう。
女占い師は、右端の老婆で、占いのカードを中央の若い男性に見せている。
このカードによるとあなたの運勢は、、と男性の興味をひくことを言う。
その間に一味の3人の女たちが男性から金品を盗もうとしている場面。
ルーヴル美術館の「いかさま師」も同様の主題の絵ですね。
女占い師.jpg



後編に続く




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ナツパパ

ヨーロッパの宗教画は見応えがありますね。
各年代の第一流の画家たちが同じ主題を描いているのですから。
美術館で見比べながら見て歩くのは、いつも愉しみです。
by ナツパパ (2022-03-21 10:06) 

angie17

600年前の絵が、今も輝いているって凄いですね!
画家本人が知ったら、さぞ驚くでしょうね。

by angie17 (2022-03-21 14:40) 

yk2

このラファエッロをまじまじ眺めていたら、なんだかシャヴァンヌを思い浮かべてしまいました。『夢』と『海辺の娘たち』がこの1枚から派生してるようだなぁ~なんて具合に。ゲッセマネってイエスが最後の晩餐の後にユダの裏切りによって捕らえられた場所なんですね。勉強になりました(^^。
by yk2 (2022-03-23 00:28) 

やまびこ3

第1室の宗教画の時代には、カトリックはラテン語以外の聖書を認めなかったため、布教のためにはきらびやかで荘厳な宗教画が発展したと聞いたことがあります。
by やまびこ3 (2022-03-23 08:10) 

coco030705

ラファエロ・サンティ「ゲッセマネの祈り」、若干21歳にしてこのすばらしさ。天才ってすごいですね。

ヘラルト・ダーフィット「エジプトへの逃避途上の休息」、なんと美しい聖母子像なのでしょう。Taekoさんの解説によって色々なものが配置されていることがわかりました。

エル・グレコ「羊飼いの礼拝」、好きな画家です。暗い画面に浮かび上がる人物像は白の効果的なつかい方によるのですね。なるほど。

カラヴァッジョ「音楽家たち」、人の表情が生き生きとしていますね。

レンブラント「フローラ」、いい絵だなと思います。

ジョルジュ・ラ・トゥール「女占い師」、面白い絵ですね。女性たち、いかにも一癖ありそうな表情をしていますね。中央の若い男は、だまされやすそうな、世間知らずの青年かしら。
by coco030705 (2022-03-23 22:12) 

Inatimy

一番気になったのは、カルロ・クリヴェッリ 「聖母子」。なぜキュウリ?って。
ネットで絵画を探して絵画を見てみると、確かに大きなキュウリ。メトロポリタン美術館のサイトで解説を読みましたが、リンゴとハエは罪と悪の象徴で、キュウリとゴシキヒワは贖いの象徴。それらは対立してる云々と。しかし、なぜキュウリがその象徴なのか、さっぱり分からずです^^;。"Food and Feasting in Art"って本を持ってるんですが、それにもきゅうりはでてこなかったし。クリヴェッリの他の絵を探してみたら、キュウリが描かれてるのが他にも何枚か・・・単にキュウリが好きなのかしらとも思ったり・・・。キュウリを描いてる画家さんって他にアルチンボルド(『四季』の中の「夏」)くらいですよね^^;。
by Inatimy (2022-03-23 22:15) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲ナツパパさん、ほんと、そうですね!神話や聖書のなかの話をテーマにして、描く、「受胎告知」「キリストの誕生」「聖母子」「エジプトへの逃避行」、などは、何人もの画家の絵がうかびます。見比べる面白さがありますね。外国の美術館では、15世紀~17世紀の古い時代の宗教画が多く、良い絵だなぁと作者の名前を見ると、ボッティチェリだったり、ティツィアーノだったり、レンブラントだったり、で納得してしまいます。リスボンの美術館では、「ギルランダイオ」に感心し、と、画家の名前と特徴を徐々に憶えていくのも楽しい経験です。

▲angieさん、<画家本人が知ったら、さぞ驚くでしょうね。>→ 昔は、修復されるなんて考えにないですものね。ミケランジェロもシスティナ礼拝堂の天井画が今も大勢の観光客に見られているなんて想像できなかったでしょうね。

▲yk2さん、シャヴァンヌをお好きでしたね。私もそうだけど(笑)。「夢」では、左に眠る人、右上に天使、背景はなだらかな丘(海)と言う構図がぴったり当てはまりますね。「海辺の娘たち」も海(丘)を背景にこちらを向き、物憂げな眠たそうなようす。シャヴァンヌは、イタリア旅に行ってから壁画を描くようになったそうで、実際にラファエロの壁画をみたことでしょう。
ラファエロの優美さがシャヴァンヌに引き継がれていますね。
「ゲッセマネの祈り」同タイトルのヴァザーリ作品が、西洋美術館の常設で、
入り口近くにありました。そろそろ西洋美も再開ですよね。
by TaekoLovesParis (2022-03-24 00:55) 

TaekoLovesParis

▲やまびこ3さん、<布教のためにはきらびやかで荘厳な宗教画が発展した>→ なるほど。圧倒して従わせるという形ですね。今回の第一展示室の壁は青だったので、金色が殊の外、映えてました。ちなみに、絶対主義の時代、王様が権力を持った時代の第二室の壁の色は赤でした。
by TaekoLovesParis (2022-03-24 01:06) 

TaekoLovesParis

cocoさん、気に入ってくださった絵への感想、ありがとうございます。
ラファエロ作品というと、いくつもの肖像画が浮かぶけれど、このような聖書に基づいた歴史画を初期は描いていたのですね。直立して顔を上げ熱心に祈るキリスト対俯いて眠る弟子たちという対比も面白いです。
エル・グレコはドラマティックな場面の宗教画が多いですね。この絵は一目で、皆がキリストの誕生を喜んでいるとわかり、見ているほうも同じように幸せな気持ちになる、伝播性を感じました。
たくさん絵があっても、似ている絵は少なくて、それぞれに特徴があるすばらしい絵が揃っていました。

by TaekoLovesParis (2022-03-25 00:08) 

TaekoLovesParis

Inatimyさん、カルロ・クリヴェッリの「聖母子」の顔のすぐ横に垂れ下がる大きなキュウリ。私も不自然だなと思ったもののスルーしてましたが、Inatimyさんからの疑問で、やっぱり変と思い、調べましたが、腑に落ちる説明のものはありませんでした。いろいろ調べて読み、面白かった中で良かったのは、2015年にプーシキン美術館で開催された「ピエロ・デラ・フランチェスカと彼の同時代人」という展覧会の解説でした。それによると、リンゴは原罪、キュウリは復活を表すのだそうです。たいていの絵でキュウリはリンゴと一緒に出てきてますね。じゃ、メトサイトによる「贖い」と「復活」はどう違うのかとなり、お手上げです。一応、参考にしたロシア語サイト(和訳つき)のURLを貼っておきます。
http://valentina-site.ru/zarubejnie-hudojniki/pero-della-francheska-i-ego-sovremenniki-obraz-madonnyi-v-kartinah-epohi-vozrozhdeniya
by TaekoLovesParis (2022-03-26 09:26) 

ふにゃいの

女占い師光の具合と色合いがキレイで、
個性的な登場人物たちの顔が引き立つなぁ。
すでに金品に手がかかってますが
斜めがけ、ここからどういきますか^m^
by ふにゃいの (2022-03-27 20:01) 

TaekoLovesParis

ふにゃいのさん、「女占い師」は、実際に会場で見ても、修復が終わったばかり?とおもうほど綺麗で、照明で輝いていました。たくさんの色を使ってそれらが上手に織りなされ、すばらしいです。そして表情、手はもう成功近し、ですね。スリの女の表情は見えないようにしてる配慮がいいですね。
by TaekoLovesParis (2022-03-31 01:09) 

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