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ボストン美術館展(東京都美術館) [展覧会(西洋画)]

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「ボストン美術館展に行きたいけど、あなたは、ボストンで行ってるから、
見たものばかりでしょ。行かないわよね」とM子さんが言ってきた。
手許にあったパンフを見たら、見たことがあるのは、1点だけ。
なぜなら、この展覧会は、ボストン美術館にある日本絵画の里帰り展で、
日本初お目見えのものが数点。ボストン美術館は、日本美術だけで10万点
所蔵しているので、実際に見に行っても展示されているものは、ごくごく
一部で、いつも変わらずあるのは、障子の部屋に飾られている「大日如来像」くらい。


会場に入ると、まず目に飛び込んでくるのが、2枚の肖像画。
メアリー王女、チャールズ1世の娘」1637年 ヴァン・ダイク。
ヴァン・ダイクは、ファン・ダイクともよばれる。
ベルギー・アントワープの裕福な家庭の出身でルーベンスの筆頭助手を務めた。
芸術好きの英国チャールス1世に招請され、王の一家や貴族たちの肖像画を多く描き、
英国肖像画の発展に寄与した。
この絵は、ボストン美術館の所蔵品の中でも有名な絵であり、ほぼいつも展示されて
いるので、私も何回か見ている。6才の王女が大人の正装と同じドレスを着ているので、
とても違和感があり記憶に残っている。ドレスの描写がすばらしい。
ヴェラスケスの「マルガリータ王女」のような愛らしさがなく大人びた顔立ち。
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この絵の横にあるのが、ナポレオンの肖像画。
戴冠式の正装をしたナポレオン1世の肖像」1812年 ロベール・ルフェーヴルと工房
豪華な衣装の描写、金の刺繍が盛り上がって見え、実際の刺繍のように見える。
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第一室は、「力を示す」というタイトルなので、2つの肖像画の他に
エジプトの「ホルス神のレリーフ」、30㎝くらいの石片の一部にハヤブサの
頭部がある。
古代エジプトのペンダントも展示されていた。
古今東西の芸術品を所蔵しているので、ムガール帝国時代のインドのもの、
南宋時代の「龍虎図」、朝鮮王朝の「架鷹図」、日本の刀剣もあった。

素晴らしかったのは、「平治物語絵巻 三条殿夜討巻」鎌倉時代、13世紀後半。
最初に載せたチラシの絵で、日本絵巻史上最高傑作と言われている。
描かれているのは、藤原信頼と源義朝らが後白河上皇の御所である三条殿を襲撃し、
上皇を拉致した場面。そばで見ると、戦いの混乱の中のそれぞれの人の動き、
弓を構える者、馬で走り去る者の表情までがはっきり見える。

第二室は「聖なる世界」というタイトル。
エル・グレコの大きな絵が目にとまる。
祈る聖ドミニクス」1605年頃
ドラマティックな雲。聖ドミニクスの背後には十字架にかかるキリストが
描かれている。

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日本の平安時代の仏像、大日如来坐像(1105年)も展示されていた。
大日如来は密教の教主で天照大神と同一視される。所々、金箔がわずかに残っていた。
私がボストンで見たものと同じなのだろうか。大日如来坐像だけでも、何点かあるのかも
しれない。
華厳経(二月堂焼経)」は、東大寺に伝来した紺紙に銀字で書かれた経で、楷書の字が
美しい。表装がモダンだと思ったら、杉本博司が巻子であったものを表装に変えたそうだ。
展示される時、巻子より見やすい。


第三室は、「宮廷のくらし」というタイトルで、王侯貴族や枢機卿など権力の座にいた
人びとの贅沢な暮らしぶりを見ることができる絵や工芸品、宝飾品が展示されていて
華やかだった。
「灰色の枢機卿」1873年 ジェローム
パリに今もあるパレ=ロワイヤル宮殿の大階段が舞台の作品。
聖書を読む前方の修道士に向かって、色鮮やかな服を身にまとい頭を下げる貴族たち。
当時、ここはルイ13世の宰相リュシリーの館、この修道士はリュシリーの腹心で、
「灰色の枢機卿」よばれるほど力を持った黒幕だった。大きな絵で印象に残る。

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「1902年8月のエドワード7世の戴冠式にて国家の剣を持つ、第6代ロンデンテリー候爵
チャールズ・スチュワートと従者を務めるW・C・ポーモン」1904年 サージェント
長いタイトル。王様かと思ったら貴族。目を惹く立派な衣装だが、第一室のナポレオンの
戴冠式の正装には負ける。
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ムガール帝国では、
「モンスーンを楽しむマハーラージャ、サングラーム・シング」1720年~25年頃。水彩画
統治者サングラーム・シングが郊外の宮殿を訪れたときの様子を描いている。
屋上から広大な領土を眺めるサングラーム・シングが上段で、下段では傘を捧げ持つ3人の
侍女を従え宮殿に入るサングラーム・シング。彼に権威が集まっているとわかる。

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一番目の保養になったのは、エメラルド6カラットが中央に配置された
アメリカの大富豪、マージョリー・メリウェザー・ポストのブローチ

ナポレオン皇妃ジョセフィーヌのために、セーヴル磁器製作所で作られた
平皿「マルメゾン城の植物のセルヴィス」1803~1804年は、絵柄が
上品で、落ち着いた雰囲気がすてきだった。セルヴィスは食器セットのこと。



第四室は「貢ぐ、与える」というタイトルで、外国への貢ぎ物がなされる場面
を描いた絵の展示。
「韃靼人朝貢図屏風」伝狩野永徳 桃山時代 16世紀後半
韃靼人(ダッタンじん)とは、モンゴルの騎馬民族のことで、上部に貢ぎ物を積んだ
唐舟に乗った一行が描かれ、下部にはそれを受け取る準備をしている馬に乗った韃靼人
たちが描かれている。狩野永徳が、外国どうしの貢ぎ物の様子を描いていることに、ほぉうと思った。

第五室は「たしなむ、はぐくむ」、権力者たちは芸術家のパトロンとなり、工芸品にも
すばらしいものが登場した。
ギター(キタラ・バッテンテ) ヤコポ・モスカ・カヴェッリ イタリア 1725年
象牙、鼈甲、真珠母貝など豪華な素材を使用している。金属弦。見とれるほど美しい。
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このギターの時代ということで、カナレットの「サン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂」
を描いた絵もあった。

左:「メアリー・トッド・リンカーンのブローチ」アメリカ大統領リンカーンの妻メアリー。
大変な浪費家で宝石が大好きだったそう。ダイヤモンドをふんだんに使い金とエナメルで
縁取り。イヤリングもあった。
右:「日本風のブローチ」ラクロシュ・フレール社 1925年頃
ラクロシュ社はフランスの宝石ブランド。ジャポニスムの影響が濃いアールデコ様式。
縁取りのある長方形にダイヤモンドを敷きつめ、日本画的な白い余白を作り、ルビーで
梅のような花を表現している。英国王ジョージ5世の妻が注文。孫の結婚式のお祝いに
贈った。
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「吉備大臣入唐絵巻」 平安時代後期〜鎌倉時代初期 12世紀末
遣唐使として海を渡った吉備真備は高楼に幽閉され、難題を吹っかけられるが、
先に入唐して現地で亡くなった阿倍仲麻呂の亡霊(赤鬼)の力を借りてこれを
退ける話を絵巻にした。鎌倉絵巻の傑作。
絵の下に説明がついているので、この箇所はこう、とわかりやすい。見に来ている
人たちが全員、ここで文字を読みながら絵と照らし合わせるので混みあう。
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急いで駆けつける場面の描写、漫画で笑える。この図柄のTシャツを売っていた。
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日本初公開の狩野派の絵もあった。
狩野山雪「老子・西王母図屏風」 江戸時代 17世紀前半
狩野探幽「楊貴妃・牡丹に尾長鳥図」平安時代後期~鎌倉時代初期
 
修復して日本初公開の孔雀図」 増山雪斎 江戸時代(1801年)
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