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川端龍子展 [展覧会(日本の絵)]

Ryushi.jpg


今年は川端龍子(1885~1966)の没後50年、山種美術館で回顧展が開かれている。
サブタイトルは、「超ド級の日本画」。
見に行くまでは、このタイトルがあまりいいものに思えなかったが、見終わった後には、まぁそうだな
と納得がいった。


日曜日の午後、暑い日、友達と渋谷で待ち合わせてタクシーで行った。
いつもは、恵比寿から歩いて行くのだが、暑いのでタクシー。730円。近い。

朝のNHK「日曜美術館」が、この展覧会の特集だったので、混んでいるかと思ったが、
そんなことはなかった。

第1章 龍子誕生ー洋画、挿絵、そして日本画
龍子とは、龍の落とし子の意味で、本人がつけた画号である。
初めは洋画家を志し、白馬会洋画研究所などに学び、文部省美術展覧会に入選。
生活の糧を得るため、新聞や雑誌の挿絵を手がけた。このジャーナリズムでの
仕事の経験が、後に戦争という時事的な関心につながり、絵に表すこともあった。

28才で単身渡米、洋画を学ぼうとするが、日本人の洋画には関心を持ってもらえず、失意の
うちにいる時、ボストン美術館で見た日本の古美術に心動かされ、帰国後、日本画へ転向した。

独学で日本画を学んだ龍子は、30才で日本美術院展に初入選、2年後には門人に推挙された。
この時の院展の長は横山大観であった。36才の時、発表した「火生」
会場では、照明の下、赤く輝いて迫力がある。
火生.jpg

『火生』は日本神話の英雄「ヤマトタケル」を描いている。荒れ狂う金色の炎、火で赤くなった体。
剣を振り上げ、かっと見開いた眼で敵を見ているのだろうか。

このよう激しく荒々しい表現は、従来の日本画になかったので、これは家の床の間に飾るような絵
でなく、展覧会で見る絵であるという皮肉を込めて龍子の作品は「会場芸術」とよばれた。


第2章  青龍社とともに -「会場芸術」と大衆-

実際、龍子の作品には巨大なものが多い。屏風もサイズが大きい。
今回、大きくて驚いた作品はこれ、「香炉峰」
画面いっぱいに大きな戦闘機。
空を飛んでいるのだが、戦闘機がシースルーになって下の景色が見える。
操縦士は龍子本人。日本軍の嘱託画家として偵察機に乗り、香炉峰の景観を描いた
経験をもとにしているそうだ。眼下に七重の塔が見えたりしていた。
なぜシースルーにしたのだろうか?奇抜な発想。


香炉峰.jpg


「鳴門」1929年 幅8m38㎝

鳴門.jpg
海の青さと荒れる鳴門の渦潮の白の対比。龍子は、水の表現がすばらしい。
しぶきをあげて荒立つ白波。よく見ると、白の波に所々、金、銀が使われていて、立体的に見える
効果になっている。
会場では、屏風として、折った展示なので、見る角度で、実際に鳥が海の上を飛んでいるようだったり、
入江の島が迫って見えたりする。


「草の実」1931年

草の実.jpg

黒地にススキや女郎花など秋の草花を金泥主体で描いた作品。
金を重ね塗りしたり、プラチナを使ったりと、秋の草花が装飾性高く描かれている。
じっと見ていると神秘的で、仏教的な崇高さが感じられる。
傑作と名高い東京国立近代美術館の「草炎」の翌年に描かれた作品。


「黒潮」1932年
「鳴門」と同じ群青色の海、広々とした海原をトビウオの群れが勢いよく飛ぶ。


「龍巻」1933年 
戦争の時代。日本領の島と米国領の島が混在する太平洋の波乱を象徴する作品。
正方形の大きな絵。
龍巻で、イカ・太刀魚・アカエイ・クラゲなどの魚が上からまっさかさまに下へ落ちていく。
サメだけが体をうねらせてこちらに向かってくる。ここでもくすんだ青い海中での波しぶき、
水の重量感の表現が装飾的で美しい。


「五鱗」1939年
鯉五匹、黒が四匹に赤一匹。嘴が円の中心になるように配置される。
画布の上半分を占めるさざ波、薄墨でさっと描いたようなさざ波が全体を引き締める。
やはり水の表現が巧みな画家どと思う。
「爆弾散華」1945年

爆弾散華.jpg

1945年8月13日、戦争の最中、東京大田区の龍子の自宅の菜園に爆弾が落ちた。
この画は、野菜が爆弾で吹っ飛ぶ瞬間を描いている。金色の破片は爆弾の閃光。


「百子図」1949年

百子図.jpg

この年、インドから上野動物園に象の「インディラ」がやってきた。
戦争で象は処分され、長いこと、上野動物園に象はいなかったのだ。
子供たちは象を見たことななく、憧れだった。
インディラは芝浦港に上陸し、首につけ鈴を鳴らしながら深夜、上野動物園まで
9kmの道を歩いたという。憧れの象と戯れる子供たちのようすが描き込まれている。
新聞・雑誌の挿絵画家だった龍子ならでは、の作品。


「牡丹」1961年
花芯が赤く、少しずつ赤が拡散していき、外側の花びらは白という珍しい種類。
紅白のコントラストに緑の葉、と、色づかいがモダン。


第3章 龍子の素顔 -もう一つの本質-
龍子の異母弟に俳人の川端茅舍がいて、龍子も20代の頃から俳句も嗜んでいた。
龍子の俳句を短冊にしたものが、10点ほどあり、書も上手い。
「十二支の年賀状」は、同行の友達が「うわぁ、こんなのもらいたい」と言っていた。

「鯉」 1930年 対になった絹本彩色屏風。
「春草図雛屛風」琳派風の小さな金屏風。
「松竹梅のうち 竹(物語)」1957年 年をとってからは、伝統的な日本画を描いていたと伺える。
「カーネーション」は、やさしい絵。制作年代不詳だが、晩年の作だろうか。
「十一面観音」 龍子は、晩年、自邸に持仏堂を設け、信心深い日々だった。


会場の最後に展示されているのは、大きな屏風「真珠」1931年
これだけ撮影可能と書いてあったので、スマホで撮った。大きいので一部になってしまうが、
雰囲気だけでも。
真珠.jpg


龍子が若い頃、アメリカで感銘を受けたというシャヴァンヌの壁画の神秘性と言われると、
ま、そうだなぁと思う。
山種美術館は、さほど広くないので、さくっと見れて、パワーをもらえる海の絵もあり、
夏の疲れを癒すには、おすすめです。会期中、入れ替えが少しあります。

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鈴木其一展(後期)サントリー美術館 [展覧会(日本の絵)]

サントリー美術館でのKIITSU 鈴木其一展は、前期と後期で作品の入れ替えがあった。
それも大幅な入れ替えで半分以上が替わるときいて、「それなら行かないと、、朝顔ももう一度
見たいし」」と、会期もあと2日という金曜日の夜、仕事帰りに行った。

10/30で東京展は終わってしまったが、兵庫、京都と巡回するので、載せることにした。

後期の注目作品は、
「夏秋渓流図屏風」 六曲一双 根津美術館
檜の木の緑と渓流の青に目を奪われる。実際に、こんなに青い水があるだろうか。
右隻は夏景色で、白い山百合と蝉、左隻は秋景色で紅葉した葉が描かれている。
きめ細かく描かれた檜の葉に対し、笹の葉は大まか。至る所に貼りついた点苔が
光り、森の中の妖しさを際立たせる。かなりの水量でこちらに向かって流れてくる
渓流も大胆で動きが感じられる。
秋草渓流屏風左.jpg

秋草渓流屏風.jpg


もう一つの注目作品は、
風神雷神図襖」 八面 東京富士美術館蔵 (ここに風神は図なし)
宗達、光琳、抱一と受け継がれてきた「風神雷神」。
元は真ん中二面の屏風だったものを左右に余白を加え襖とした。
墨の勢いがすばらしい。
これと「朝顔図屏風」の構図は似ていると、某TV番組で言っていたと同行の友達が
教えてくれた。

雷神.jpg


其一は、40代後半に家督を息子の守一に譲り、琳派に写実を加え、大胆さもある
自由な作風を追求した。


「鶏に菊図」 個人蔵
縦横共に1mを超える大きな絵。
雌雄の鶏と花という主題は、若冲の絵を想い起す。
若冲の場合は鶏が目立っているが、こちらは円弧を描いたような白い菊の花のみごとさ
にも目がとまる。若冲は其一より80年前の人気作家なので、其一は若冲作品を意識して
描いたのだろう。若冲に比べると華やかさはないが落ち着きがある。
「祝琳」という印章が押されているので、大名とか豪商からの祝い事で
依頼された作品。白い菊は長寿を表し、夜明けを告げる鶏は徳の高い吉祥の存在。

鶏と菊花s.jpg

「藤花図」 出光美術館蔵
横120㎝、縦約170㎝の大きな画面いっぱいに描かれた藤の花。
しかも藤の花の色は青。異次元の世界で幽玄な雰囲気。元は仏間の襖絵であった。
藤の花は「来迎図」で阿弥陀如来が乗ってくる紫雲に見立てたものだろうか。
背景にまかれた茶色の点は、元は銀砂子だったので、銀色を背景にした青い藤の花の
幽玄さは譬えようもなく美しかったであろう。見入ってしまった絵。

青い藤.jpg

「藤花図」 個人蔵
前期に展示されていた「藤花図」(細見美術館蔵)を気に入っているので、今回、
これを見るのを心待ちしていた。
細見美術館のものより花の色が紫っぽく、後ろに白藤がある。
藤の花を長く垂らす構成は琳派の先達に倣ったものと言われるが、其一の藤の花は
花びら一つ一つを付け立て技法で鮮明に描き、実に美しい。

藤の花個人蔵.jpg

「朴に尾長鳥図」 細見美術館
朴(ホオ)の木は日本原産だが絵に描かれることは珍しい。
たらし込みを用いた大きな葉の表現がみごと。
花の黄色いしべの上にある青い色が画布中央で絵を引き締めていた。

朴に尾長.jpg

「雪中檜図」 個人蔵
檜に雪という画題は師の抱一の「12か月花鳥図」でも時々描かれている。
しかし、枝に積もった雪がまさに落ちる瞬間をとらえた絵は其一が初めてである。
滝のような落ちる雪。積もった雪の形が地図のようで面白い。

雪.jpg

私の好きな作品ばかりを紹介したので、花の絵がほとんどだが、其一は達者で何でも描けた。
絵描きとして生活していくため、絵を買ってくれるお得意様の注文に応じ、仏画、能絵、節句掛け
などいろいろなものを描いた。

「達磨図凧」 個人蔵
達磨の図絵は江戸凧ではよく取り上げられた画題だった。しかし多くは、ざっと描いたものだったが、
これは胸毛まで描くほど写実的だが、表情に可笑しみがこめられている。線描に金泥添えられ華やか
な仕上がりになっている。

達磨凧.jpg

「大江山酒呑童子図」 ファインバーグ・コレクション
源頼光らによる大江山の酒呑童子退治の伝説は、絵巻に取り上げられ、浄瑠璃や歌舞伎にもなった。
この絵で酒呑童子は、桜の季節、滝を眺めながら女性2人を侍らせ、虎の敷物の上で酒を飲んでいる。
画面下で洗濯をする女性は、この後、頼光らが鬼退治に来たときに道案内をする役目。
酒呑童子の顔は、国芳ふうの武者絵に通じる描き方。滝から続く渓流は、「夏秋渓流図屏風」の手法。

大江山酒呑童子.jpg


其一が「描表装」で人気を得たことは、前期の記事でも紹介したが、これは親子の合作。
其一が月に雁を描き、秋草の表装部分を息子の守一が手がけた。守一は優しい画風。
「月に秋草図」 鈴木其一・守一 個人蔵

描き表装秋.jpg

「石橋・牡丹図」 鈴木守一
其一は大名能を広く知らせるために能を題材とした絵をいくつも描いた。
守一も跡を継いで、能の絵の作品を残している。
中央に獅子頭をつけて踊る能役者、左右に咲き誇る大輪の牡丹を描いた三幅対の作品。
牡丹の花の写実が素晴らしい。精緻な筆の冴えに優しさが加わっている。

石橋と牡丹.jpg

其一は大名家の御用絵師であったが、商人のお得意様も多かった。
最大のパトロンであった油問屋の松沢孫八に宛てた手紙も展示されていて、
『こんな絵が出来ました、、』とか『こんなのはどうでしょう』、『先日は漬物をありがとうございました』などの下りがあり、読んでいると、なかなか如才なく商売上手だったことがわかる。そんな其一に親しみがわいたのは、
前期を見た後の後期展示で、いくつか見た絵があり、余裕があったからだろう。


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鈴木其一展(サントリー美術館) [展覧会(日本の絵)]

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「鈴木其一」、その名前と作品を知ったのは、2006年「若冲と江戸絵画展」・プライスコレクション
でだった。最後の部屋が、光の演出ということで、ガラスケースなしで照明に浮かび上がる屏風
たちの展示。幽玄な雰囲気が感動的だった。中でも、其一の「群鶴図屏風」が、同じ色の端正な
鶴が左に9羽、右に10羽並んだ構図。デザイン性が強く現代的で素晴らしいと思った。
もう一つ、其一の「青桐・紅楓図」は、夏の雨(夕立)の青桐と秋の雨(長雨)の紅楓。色の対照も
すばらしいが、雨の表現の違いがとてもよかった。
というわけで、この展覧会で、俄然、其一に興味が沸いたのだった。

数年後の夏、ブログ友yk2さんのトップスキンが、青い朝顔が咲き誇る金屏風になっていた。
「誰の絵?」とたづねたら、其一という答えだった。
其一は抱一の弟子なので、琳派や抱一の展覧会を見に行くと、必ず何点か作品が出ている。
しかし、今回は、「其一」が主役の展覧会。始まるのを楽しみにしていた。

会場、入ってすぐは、「江戸琳派の始まり」というタイトルで、其一の師、酒井抱一の作品。
ここ数年、抱一の展覧会をいくつか見て来たので、見覚えのある作品が多いが、
いつ見ても優美! 「白蓮図」、「桜に小禽図」、「槇に秋草図屏風」、どれも細見美術館蔵。

其一は18歳で抱一に弟子入りするが、既に絵は達者であった。4歳年上の抱一の最初の
弟子「鈴木蠣潭(れいたん)」の26才という若さの急死で、鈴木家の家督を継ぐ。
蠣潭(れいたん)の作品も今回、いくつも展示されている。中には抱一と思えるほどの達者な
作品もあった。

ぱっとそこだけが明るくなる金屏風。
「群鶴図屏風」 ファインバーグ・コレクション 
鶴の向き、姿勢がそれぞれで動きを感じさせる。一羽、一羽、緻密に描かれている。
描かれた当初は襖絵だった。

群鶴図屏風ファインバーグ.jpg

其一が33歳の時、師の抱一が亡くなり、養子の酒井鶯蒲が跡を継いだ。
其一は彼を支えながらも、独自の作風を展開していく。宗達・光琳の作風を
尊重しながらも大胆にアレンジした作品「風神雷神図襖」(後期10/4からの展示)
「三十六歌仙・檜図屏風」を制作した。

36歌仙檜図.jpg

切れてる画像で申し訳ないけれど、八曲一双という横長屏風なので、入りきらない。
華やかな三十六歌仙が優美に大和絵ふう描かれた右隻、それに対し墨一色で
描かれた左隻の檜の幽玄さ。素晴らしい。光琳画題の三十六歌仙と檜図という異なる
2つを一対にしてしまうのが面白い。

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高さ76センチの「水辺家鴨図屏風」も可愛い。

4面の襖絵「萩月図襖」も良かった。月明かりのもとでの萩の白い花が光を受けて
輝いている左側。余白がたっぷりの画面に大きな月。右側から薄紅色の花の萩の
枝が伸びる。秋の情緒に余韻が残り、絵の前を離れ難かった。

木蓮.jpg

「木蓮小禽図」も良かった。木蓮の色はワインに近いほどの濃い紫。
木蓮のみごとさに目を奪われ、鳥がどこにいるのか探すほどだった。

其一は40代後半で家督を長男の守一に譲り、さらに多様な作風へ挑戦していく。
この展覧会の目玉作品「朝顔図屏風」もこの時期に制作された。

「藤花図」
真直ぐに垂れ下がる3本の花。細い蔓が花の後ろでS字を描いている。
近くで見ると、花のひとつひとつが実に丁寧に描かれていて感心する。

藤の花400.jpg

「花菖蒲に蛾」も良かった>
花弁の搾り模様や筋目線、特徴が丁寧な写実で描かれ図鑑のようだが、
蝶でなく蛾が飛んでいるのは、、。

花菖蒲_きいつ.jpg


仏画、能の絵、描表装は、大名や豪商から注文があったそうだ。
其一といえば描表装と浮かぶほどで、節句図や正月図が人気があり、需要が多かった。
「三十六歌仙図」 出光美術館蔵 は、見る機会が多い。

「夏宵月に水鶏図」は、描表装部分に紫陽花、撫子、立葵が描かれ、
紫陽花には雨が降っている。満月の下に水鶏がたたずむという静かな世界に対し、
かなり派手な表装という対比が面白い。円熟した年代だからであろう。
この描表装が、今回の図録の表紙に使われていた。

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最後は今回の目玉作品「朝顔図屏風」、メトロポリタン美術館蔵なので見る機会が少ない。
左隻、右隻、2つ揃っての大きさに圧倒される。花ひとつがお椀くらいの大きさがあるのだから、
その迫力は推して知るべし。

朝顔.jpg

其一は63才でコレラのため亡くなった。同じ年、広重もコレラで亡くなった。


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広重ビビッド展 [展覧会(日本の絵)]

サントリー美術館で開催中の「広重ビビッド」展。何がビビッドなのか、って色です。
広重作品の初刷りのものばかりなので、赤や青の色が驚くほど鮮明、まさにビビッドです。
とってもおすすめな展覧会なのですが、12日までです。

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チラシに使われているこの絵は、「亀戸梅屋敷」。ゴッホが模写した作品。
ゴッホは、「名所江戸百景の大はしあけたの夕立」も模写をした。

今回の展覧会は、日本全国津々浦々の名所を描いた「六十余州名所図会」が第一の
見どころ。刊行されたのは、1853年から1856(安政3年)頃。
会場に入ってすぐは、「阿波 鳴門の風波」。図下の渦潮部分に目が行く。
白波に対し、海の水の色は、よく見ると青、水色、藍色、群青色、紫っぽい青、ワイン色と、
様々な色が使われているとわかる。

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青だけでなく、赤の美しさにも息を飲まれる。
「尾張 津嶋 天王祭り」
天王祭りは500年以上の歴史を持つ祭で、提灯を飾った「巻藁舟」(まきわらぶね)
の半円形の部分には、365個の提灯が飾られ、笛の音と共に巻藁舟は巡航した。

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「甲斐 さるはし」
甲斐の猿橋は、橋脚のない橋で、日本三奇橋のひとつと言われている。
広重は、これを描くために、橋より上流に足場を据えて描いた。
「山高くして谷深く、桂川の流れ清麗なり。。。絶景、言語にたへたり」と
旅日記に記されている。殺がれた岩。川に張り出した桜の木。遠景の山の
色合いも美しい。

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広重は、色の美しさだけでなく、構図も面白い。
「美作 山伏谷」(岡山県久米郡美咲町)
雨の強さを帯のように表現している。強風で歩く人の笠は飛ばされているが、川には
一隻の小舟。そそり立つ岩。

ame1.jpg

広重は各地を全て訪ねて描いたわけではなく、ネタ本を参考に描いたものもあるので、
そのネタ本も展示されていた。

今回の作品は全部、日本化薬の社長を務めた実業家、原安三郎氏の所蔵品。
どれも初摺りの早い段階のもので、摺りに広重本人の意図が反映され、保存状態も
良好なので、ビビッド。

初摺りと後摺りの違いを比較できるよう2つを並べたものがあった。
「江戸 浅草市」初摺りが左、後摺が右
後摺りでは雲の部分の摺りの回数を減らしていることがはっきりわかるし、木を描いてる
墨線が薄れている。初摺りは、版木の板目を活かした絵になっているものが多い。

asakusa2.jpgasakusa.jpg

「六十余州名所図会」と揃いと言われているのが、「名所江戸百景」。
江戸なので、私には馴染みの場所が多い。
「深川萬年橋」
萬年橋なので、「亀は万年」にかけて、旧暦の8月15日にここで亀が売られた。
しかし、実際、こんなに亀が大きいはずがない。主役を誇張した大胆な構図。
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他にも誇張法が使われているものは多かった。
チラシの亀戸梅屋敷もそう。手前の梅の木の大きさに比し、後景の白梅は小さい。


「王子装束ゑの木 大晦日の狐火」 王子に伝わる狐火の伝説をもとにした作品。
闇夜に狐火を灯して狐たちが集う様は幻想的。

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約160年前の江戸。京橋、赤坂、愛宕山、上野、日暮里、芝増上寺、品川御殿山、目黒、
どれも、今とは全く異なっているが、「井之頭の池、弁天の社」は変わらぬ景色だった。

広重の他に、北斎の「千絵の海」10図がまとめて展示されていた。
「千絵の海 五島鯨突」
九州の五島列島では、古くから鯨捕りが行われていた。
50隻近い船を操るのは、左上の小屋。これから銛が投げ込まれるのだろう。
鯨の水しぶきの大きさが鯨の動きの荒さを示している。鯨の眼はこちらを威嚇するかの
ようににらんでいる。
kujira_Hokusai.jpg

「千絵の海 総州銚子」
荒い波の大胆な動き。「神奈川沖浪浦」の波よりも動きが速いさまが波に乗せられた
船からも伺える。

北斎の「富嶽三十六景」からの有名な「神奈川沖浪浦」「凱風快晴」「山下白雨」の
3点が並んで展示されていた。


さくっと見れるだろと思ったのは大間違い。混んでいないと思ったも間違い。
どの絵にも、丁寧な説明文がついていて、その場所の現在のモノクロ写真が
添えられていたので、それをじっくり読んだら、2時間はかかる。
じっくり読んでゆっくり眺めたら、旅気分にひたれただろうけど、かなりの混雑だった
ので、それは、敵わず。
とはいえ、こんなに綺麗な版画は初めて見たので感激。おすすめです。
金・土曜日は夜8時まで開館です。


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若冲展 [展覧会(日本の絵)]

東京では、この派手なポスター、見かけた人も多いと思います。
「若冲展」、会期もあと数日。GWには混雑ぶりが話題になりましたが、まだ混んでいるのでしょうか。
でも、一見の価値があります!

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若冲って?っていう人のために少々解説。
江戸時代に京都で活動した絵師、伊藤若冲(1716~1800)。
青物問屋の長男として生まれ裕福に育ち、家督を継ぐが、30才過ぎから絵にのめり込み、
画業に専念するため40才で弟に家業を譲り引退、仏の教えを学ぶ。
当時は狩野派の絵が主流だったが、若冲には、狩野派の影響は見られない。
「若冲ブーム」は、2000年に京都国立博物館で開催された展覧会以来で、東京では、
2006年に「プライスコレクション展」が開催され、人気は不動のものになった。

若冲は長い間、忘れられていたが、その良さを発見したのはアメリカ人のジョー・プライス。
プライスは大の日本びいきで、1ドル360円の時代に若冲作品を買い集めた。
私が若冲を知ったのも、プライスコレクション展であり、以来、いくつもの展覧会を見ている。
    皇室の名宝展(2009年)  京都 細見美術館展「琳派・若冲と雅の世界」展(2012年)
    若冲と蕪村展(2015年)

会場に入ってすぐが、鹿苑寺大書院障壁画の襖絵。全部で4面。
筆が緻密で水墨画の傑作。若冲が得意とする「葡萄」の「葡萄小禽図襖絵」に見入ってしまう。
上から垂れ下がる葡萄の葉と房、画面に伸びる蔓の線のみごとさ。力強い部分と先端の渦巻き
部分。ぶどうの一粒、一粒まで細かく描かれている。広い余白に静寂さを感じた。

今回、若冲愛好家の話題は、行方不明だった「孔雀鳳凰図」が展示されていること。
昨年、某家の蔵から発見され、岡田美術館所蔵となった。
これは、「鳳凰の図」で、「老松に孔雀の図」と対になっている。鮮やかな赤いハート型が尾に
付いている。鳳凰も赤白青と極彩色。
これらは、「動植綵絵」の「老松白鳳図」「老松孔雀図」に似ている。

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若冲は青物問屋の息子なので、野菜や植物を描いたら、天下一品。
左は玉蜀黍、右は隠元豆。
玉蜀黍には、よく見るとバッタがいる。隠元は、さやの周りの墨を濃くし、さやと中の豆を
目立たせている。下の方にちょこんと座ったカエルが愛らしい。
 
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若冲は、版画も制作した。
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さて、今回のメインは1階展示室、ぐるっと広い円形の部屋全部を使った展示はみごと。
主展作品50点中33点がここに集まっている。
正面にあるのが相国寺に寄進した「釈迦三尊像」の3幅。

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そして、皇室所蔵の「「動植綵絵」。かなり大きな絵なので見ごたえがある。30幅展示。
若冲が10年かかって描いた連作30枚で、報国寺に寄進したが、明治時代の廃仏毀釈のために、
寺はこれを皇室へと献上。下賜金を得た。

30幅のうちの一枚「群鶏図」

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「老松鸚鵡図」

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2階に上がると、「菜蟲譜」が全巻広げての展示。野菜や果物が描かれている前半、
虫や両生類が描かれている後半も一気に観られる。
「乗興舟」

大阪の西福寺の「仙人掌群鶏図襖絵」も素晴らしい。金地の襖に鶏たちの共演。
そしてこの襖の裏は、「蓮池図」でモノクロ。表の鮮やかさと一転して寂しい光景。
花が朽ち、枯れていくさま。ここには静かな時間が流れていた。

2008年に北陸の旧家から見つかり話題となった傑作「象と鯨図屏風」も登場。
これは昨年、「若冲と蕪村展」で見たばかり。

ラストはプライスコレクション。
「虎図」」、「鷲図」などのほか、プライス氏が初めて購入した若冲作品「葡萄図」も
出品されていた。もちろん、有名なモザイク屏風の「鳥獣花木図屏風」もあり、
人気で人だかりだった。いつ見ても可愛い。

「動植綵絵」の作品保護から会期は僅か1ヶ月。巡回もなし。
水墨画が少なく、豪華な作品の連続だった。


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「ファンタスティック・江戸絵画の夢と空想」展 [展覧会(日本の絵)]

「面白いのやってるから、連休に行きましょう」と、同僚に誘われて
府中市美術館へ「ファンタスティック・江戸絵画の夢と空想」を見に行った。
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府中市美術館は、京王線府中駅からバスに乗って5つめの停留所「美術館前」で
降りる。緑に囲まれた大きな公園の一角にあり、五月の風が気持ち良かった。

「ファンタスティック」なので、、奇想天外に面白いものがいろいろあった。
展示は、作品を自然現象、山水、天文、面白い動物、妖怪とセクションに分けてあった。
まずは、自然現象のなかでも「月」を取り上げた掛け軸で始まる。
森一鳳の「満月図」、柴田是真の「三日月図」、円山応挙の「残月牽牛花図」と、
同じ大きさの掛け軸でも、月が満月、三日月、残月と順に欠けて行く展示。
いきなり、是真、応挙と好きな画家の作品が登場でうれしい。

そして、さすが応挙!と感心したのが、「雲峰図」。
画面には、夏雲の一番上のところだけが「もくもく」というようすで描かれていた。
薄墨色の大胆な雲が、入道雲を思わせる夏らしさ。

宗達調の四季の花の金屏風。堂々と豪華な「伊年」印の6曲2双。
季節に関係なく配置された花々。左上に垂れ下がる藤が、左曲の画面を締めている。
美しいので、しばらく眺めていた。
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谷文晁の山水画の前で、友達が、「これは、本物よね」とくすっと笑って言うので、
「何で?」ときくと「鑑定団(TV番組)で、一番多く出てくるのが、谷文晁の偽物なの」

白い小鳥がたくさん配置され舞っている絵、でも、あり得ない配置と笑うと、夢を絵に
したものとの説明書き。「日々歓喜図」岡本某。その横に、同じ小鳥の群れでも真ん中に
ぴっと光を放つほど見とれる写実の青い鳥。これも応挙。「群鳥図」

たしかに面白い。こんな絵があったの!と笑ったり驚いたり。
応挙の写実に感心していたら、こんな絵もあった。「地獄変相図」。閻魔大王が主役。
お寺のために描いたそうだけど、応挙は何でも描けるんですね。
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この応挙の絵を参考にして描いた酒井抱一の「地獄図」が横に展示されていた。

歌川国芳のギャグに富んだ絵は、いつ見ても面白いので好きだ。
「道外化もの(どうけばけもの)夕涼み」、化け物の仮面を被った人たちの夕涼み風景。
ゆかたの柄が粋。

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歌川国芳と国貞は兄弟弟子で、今、Bunkamuraで、「俺たちの国芳、私の国貞展」を
やっているが、二人とも浮世絵の名人。特に国芳は武者絵に優れ、国貞は美人画が
人気だった。国貞が歌舞伎の場面を描いた「豊国奇術競」の「鳴神上人」は人目をひく。
「鳴神上人」が、雲の絶間姫を追いかけて行くところ。火災の衣装。

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応挙はすばらしいと讃えたが、応挙の弟子の「蘆雪」の「蓬莱山」は重要美術品指定の絵。
遠近法の三角形構図。蓬莱山は中国伝説にある仙人が住むという桃源郷。
白砂青松の海。砂浜ではカメが行列。空には鶴が飛び、仙人が鶴にのっている。

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蘆雪の「朧月図」
白い鳥たちが飛び交う空。月と雲のまわりを淡墨で外隈を描いているのでくっきりと浮かぶ。
青みがかった墨が月明かりの感じを出している。幽玄な世界。
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チラシの「虎の絵」も芦雪 は蕪村だが、これは前期の展示なので、今回は見れなかった。

富士山といえば、北斎。「富士越竜図」は大きい水墨画。
かなり縦長の富士。その上を天に上る竜。竜の通った道筋が黒いのは雲竜。
手前は海の波なのだろう。画面の左上、佐久間象山がつけた漢詩に、「海から現れた竜」とある。

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現在、都美術館で「若冲展」が開催され人気の若冲の「乗興舟」、11mの絵巻物。
この絵が描かれたのは、「釈迦三尊像」3幅と「動植綵絵」24幅を、相国寺に寄進した2年後。
相国寺の和尚から誘われ、京都伏見から大阪の天満橋までの夜の淀川下り舟に乗った。
和尚が詠んだ詩に、若冲が絵を描いた。

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若冲の墨絵「亀図」もよかった。灰色の亀の甲羅は筋目がきで描かれ、藻亀なので、
毛のような藻が、墨の一筆で、さっと描かれていた。

他にも、印象に残った絵がたくさんあった。
狩野芳崖の「鷹雀図」は、鷹と雀が仲良く群れ飛んでいる図。夢で見た情景を描いたそうだ。

是真の「月下布袋図」は布袋様だから、さくっと描かれ愉快。
曽我蕭白「後醍醐帝笠置潜逃図」は、どこに天皇が?まさか、この裸足の痩せた男の人が。
逃げる途中、山の中で笠を置き佇んでいる後醍醐天皇。傍らの木の根元に腰を下ろし休んで
いる烏帽子を被った2人は御付きの者。

東東洋「富士・足柄山・武蔵野図」は3福の掛軸。
左は太った鹿、中央が富士山、右が山桜。ゆったり、のんびりした風景。
東東洋は、初めてきいた名前だが、他にも風景画が展示されていた。

司馬江漢の「天球図」(地球)やオランダ風景を描いたものなど、江漢の作品が一番多かったが、
私は応挙、蘆雪の絵が良かった。
いろいろとバラエティに富んでいて、楽しく面白い展覧会だった。


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