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川端龍子展 [展覧会(日本の絵)]

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今年は川端龍子(1885~1966)の没後50年、山種美術館で回顧展が開かれている。
サブタイトルは、「超ド級の日本画」。
見に行くまでは、このタイトルがあまりいいものに思えなかったが、見終わった後には、まぁそうだな
と納得がいった。


日曜日の午後、暑い日、友達と渋谷で待ち合わせてタクシーで行った。
いつもは、恵比寿から歩いて行くのだが、暑いのでタクシー。730円。近い。

朝のNHK「日曜美術館」が、この展覧会の特集だったので、混んでいるかと思ったが、
そんなことはなかった。

第1章 龍子誕生ー洋画、挿絵、そして日本画
龍子とは、龍の落とし子の意味で、本人がつけた画号である。
初めは洋画家を志し、白馬会洋画研究所などに学び、文部省美術展覧会に入選。
生活の糧を得るため、新聞や雑誌の挿絵を手がけた。このジャーナリズムでの
仕事の経験が、後に戦争という時事的な関心につながり、絵に表すこともあった。

28才で単身渡米、洋画を学ぼうとするが、日本人の洋画には関心を持ってもらえず、失意の
うちにいる時、ボストン美術館で見た日本の古美術に心動かされ、帰国後、日本画へ転向した。

独学で日本画を学んだ龍子は、30才で日本美術院展に初入選、2年後には門人に推挙された。
この時の院展の長は横山大観であった。36才の時、発表した「火生」
会場では、照明の下、赤く輝いて迫力がある。
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『火生』は日本神話の英雄「ヤマトタケル」を描いている。荒れ狂う金色の炎、火で赤くなった体。
剣を振り上げ、かっと見開いた眼で敵を見ているのだろうか。

このよう激しく荒々しい表現は、従来の日本画になかったので、これは家の床の間に飾るような絵
でなく、展覧会で見る絵であるという皮肉を込めて龍子の作品は「会場芸術」とよばれた。


第2章  青龍社とともに -「会場芸術」と大衆-

実際、龍子の作品には巨大なものが多い。屏風もサイズが大きい。
今回、大きくて驚いた作品はこれ、「香炉峰」
画面いっぱいに大きな戦闘機。
空を飛んでいるのだが、戦闘機がシースルーになって下の景色が見える。
操縦士は龍子本人。日本軍の嘱託画家として偵察機に乗り、香炉峰の景観を描いた
経験をもとにしているそうだ。眼下に七重の塔が見えたりしていた。
なぜシースルーにしたのだろうか?奇抜な発想。


香炉峰.jpg


「鳴門」1929年 幅8m38㎝

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海の青さと荒れる鳴門の渦潮の白の対比。龍子は、水の表現がすばらしい。
しぶきをあげて荒立つ白波。よく見ると、白の波に所々、金、銀が使われていて、立体的に見える
効果になっている。
会場では、屏風として、折った展示なので、見る角度で、実際に鳥が海の上を飛んでいるようだったり、
入江の島が迫って見えたりする。


「草の実」1931年

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黒地にススキや女郎花など秋の草花を金泥主体で描いた作品。
金を重ね塗りしたり、プラチナを使ったりと、秋の草花が装飾性高く描かれている。
じっと見ていると神秘的で、仏教的な崇高さが感じられる。
傑作と名高い東京国立近代美術館の「草炎」の翌年に描かれた作品。


「黒潮」1932年
「鳴門」と同じ群青色の海、広々とした海原をトビウオの群れが勢いよく飛ぶ。


「龍巻」1933年 
戦争の時代。日本領の島と米国領の島が混在する太平洋の波乱を象徴する作品。
正方形の大きな絵。
龍巻で、イカ・太刀魚・アカエイ・クラゲなどの魚が上からまっさかさまに下へ落ちていく。
サメだけが体をうねらせてこちらに向かってくる。ここでもくすんだ青い海中での波しぶき、
水の重量感の表現が装飾的で美しい。


「五鱗」1939年
鯉五匹、黒が四匹に赤一匹。嘴が円の中心になるように配置される。
画布の上半分を占めるさざ波、薄墨でさっと描いたようなさざ波が全体を引き締める。
やはり水の表現が巧みな画家どと思う。
「爆弾散華」1945年

爆弾散華.jpg

1945年8月13日、戦争の最中、東京大田区の龍子の自宅の菜園に爆弾が落ちた。
この画は、野菜が爆弾で吹っ飛ぶ瞬間を描いている。金色の破片は爆弾の閃光。


「百子図」1949年

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この年、インドから上野動物園に象の「インディラ」がやってきた。
戦争で象は処分され、長いこと、上野動物園に象はいなかったのだ。
子供たちは象を見たことななく、憧れだった。
インディラは芝浦港に上陸し、首につけ鈴を鳴らしながら深夜、上野動物園まで
9kmの道を歩いたという。憧れの象と戯れる子供たちのようすが描き込まれている。
新聞・雑誌の挿絵画家だった龍子ならでは、の作品。


「牡丹」1961年
花芯が赤く、少しずつ赤が拡散していき、外側の花びらは白という珍しい種類。
紅白のコントラストに緑の葉、と、色づかいがモダン。


第3章 龍子の素顔 -もう一つの本質-
龍子の異母弟に俳人の川端茅舍がいて、龍子も20代の頃から俳句も嗜んでいた。
龍子の俳句を短冊にしたものが、10点ほどあり、書も上手い。
「十二支の年賀状」は、同行の友達が「うわぁ、こんなのもらいたい」と言っていた。

「鯉」 1930年 対になった絹本彩色屏風。
「春草図雛屛風」琳派風の小さな金屏風。
「松竹梅のうち 竹(物語)」1957年 年をとってからは、伝統的な日本画を描いていたと伺える。
「カーネーション」は、やさしい絵。制作年代不詳だが、晩年の作だろうか。
「十一面観音」 龍子は、晩年、自邸に持仏堂を設け、信心深い日々だった。


会場の最後に展示されているのは、大きな屏風「真珠」1931年
これだけ撮影可能と書いてあったので、スマホで撮った。大きいので一部になってしまうが、
雰囲気だけでも。
真珠.jpg


龍子が若い頃、アメリカで感銘を受けたというシャヴァンヌの壁画の神秘性と言われると、
ま、そうだなぁと思う。
山種美術館は、さほど広くないので、さくっと見れて、パワーをもらえる海の絵もあり、
夏の疲れを癒すには、おすすめです。会期中、入れ替えが少しあります。

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コメント 16

coco030705

こんばんは。
川端龍子、こんなにすごい画家とは知りませんでした。際立った個性を持つ画家ですね。ぜひ観に行きたいですが、今は暑くて……。8月お盆が過ぎたら少しは涼しくなるでしょうか。会期中に行きたいです。
by coco030705 (2017-07-22 22:12) 

moz

渋谷からタクシーで行かれたんですね。なるほど、暑いですし二人ならリーズナブルかもしれません。恵比寿というとビールが飲みたくなります。 ^^;
川端龍子、面白い画家なんですね。独学で日本画を学び大作を何点も書いているんですね。ヤマトタケルは不動明王かと思いました。仏画ではないのですね、そうすると飾るところも限られてしまうのかな?
偵察機を描いた「香炉峰」も面白い構図ですね。シースルーもそうですが、日本画でこういうものは見たことないです。96艦戦かな?
川端龍子、興味津々です。 ^^
by moz (2017-07-23 06:56) 

yk2

今晩八時からの日曜美術館で先週の龍子の回、再放送ですね。夕方より出掛けるのでしっかと録画予約致しました。
by yk2 (2017-07-23 12:22) 

アールグレイ

川端龍子、あまり詳しく知らない日本画家です。
記事を読ませてもらいながら、とても勉強になります。
TaekoLovesParisさんの絵画展などの説明は、とても詳細で、興味深く読ませてもらっています。
川端龍子、激しさと奇抜さも感じたりしますが、発想が独創的ですね。
最後の、真珠は優しい色遣いで神秘的にうつります。
by アールグレイ (2017-07-23 16:21) 

匁

8mですか!でっかいですね。
Taekoさんの解説がないと、絵だけだと、よく理解できません。
どれも不思議な絵が多いですが
「爆弾散華」1945年も不思議ですね。もし、爆撃に遭遇したら
恐ろしくて、命が有ってもこの絵は描けないでしょう。
これも、想像画なのかな?
金色とは畏れ入りました。
by (2017-07-23 19:48) 

コザック

うわ、これ行きたいです!
『火生』は、、本物みたらめっちゃパワー伝わってきそう!
日曜美術館で予習して行ってきます!
駅からタクシーは正解かもしれませんね。上り坂キツイし・・・。
by コザック (2017-07-23 23:35) 

Inatimy

美術館のサイト覗いてきました。
とっても印象的だったのが「龍巻」。 迫力ありますね。
真っ逆さまにクラゲ、イカ、アカエイなどが落ちる中、
サメと太刀魚が顔を上げてるのも気になるところ。
でも「草の実」や「爆弾散華」の植物を描いた絵も、
勢いの中にも繊細さがあっていいなぁ^^。
by Inatimy (2017-07-24 21:15) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲cocoさん、昨日、きょうは曇り空で幾分しのぎやすいけど、それまでの数日は驚くほどの暑さ!出かけるのが億劫になりますね。川端龍子は上村松園、鏑木清方という美人がと対極にある男性的、ダイナミックな画家です。昔の歌舞伎座の階段途中にに「青獅子」という青い獅子が白い牡丹を口にくわえてこちらを睨んでる絵があったんですよ。怖い絵だったので覚えてますが、今はどこに行ったのでしょうね。cocoさん、この間、東京にいらしたばかりなのに、また、ですか(笑)

▲mozさん、タクシーも2人ならお得ですよね。暑い日に歩くのは大変ですからね。エビス=ビール、そうですよね!この間、20代の同僚に「なんで恵比寿がビールなんですか?」と言われ、昭和は遠くなりにけり、と思いました(笑)

mozさん、鋭いご指摘です。これは、高野山明王院で赤不動を拝観した龍子が、火を描きたいとして制作した作品です。仏画でないし、大きいので、普通の家では飾れないということで、展覧会場向きの「会場芸術」とよばれたそうです。
「香炉峰」では、龍子が操縦士になっていますが、実際は、偵察機に同乗した経験があるだけなんですって。でも、その時、眼下に手に取るように景色が見えたり、コックピットの計器にも興味を持ったので、両方が描きこめるようにシースルーっていう推測もできますね。
96艦戦、戦闘機の機種もわかるなんてすごいなぁmozさん。(私はわからない)

▲yk2さん、再放送のこと、教えてくださってありがとう。その日、8時に家にいたので見ました。前の週、途中から見たので、ちょうど良かったです。

▲アールグレイさん、龍子はうちの両親の時代は、誰でもが知ってる画家だったけれど、だんだん知名度が遠のいていきますね。昔の歌舞伎座には、当時の有名画家の絵が階段の踊り場やロビー、食堂、喫茶室などの壁面にかけてあり、私は、それで名前を覚えました。母が、「あら、玉堂ね」と言うと「ぎょくどう?変な名前」というふうに。上村松園、鏑木清方、伊東深水の美人画、安田ゆきひこの神話画、奥村土牛の鯉、片岡球子の富士山、岡田三郎助の娘道成寺がぱっと思い浮かびます。ヤマタネ美術館は近代日本画のコレクションが充実している美術館で、質も高いので、またのご上京の折にはおすすめです。

▲匁さん、そう8メートル、大きいです。中でも、オレンジに白に緑という色合いも相まって人目をひくのが、「香炉峰」でした。シースルーになってるから、ちょっとかわいらしくて、漫画っぽいところもあります。
「爆弾散華」、実際に見たもの、その閃光のすごさを描き残さなくては、という気構えは、新聞や雑誌の挿絵記者で時事的なものも取り上げていたからでしょう。経歴が役に立ちますね。私も爆弾の閃光がぴかっと光る、とは聞いているけれど、白系かなと想像していたので、金色、しかも金箔には驚きました。トマトなんか、まだ、青さが残っていて小粒、吹き飛ばされたことがよくわかります。
挿絵画家時代の作品を見ると、ユーモアに富んだ画風なので、匁さん、いらっしゃると、絵の参考になるかもしれません。とはいえ、暑いですねー。

▲コザックさん、日曜美術館で、「火生」のことを取り上げていましたね。燃え盛る炎が金色と黒で激しい表現です。画面いっぱいの炎が全てをのみ尽くすかのよう。照明に照らされて迫力がありますよ。今は後期展示になっているので、チラシ下方の「金閣寺炎上」が見れます。これも火がすごそうですね。
私は「香炉峰」がコザックさんの好みかなと思いますが。アニメちっくな一面もあるので。
夏でも曇り空だったら、まだしも、炎天下の上りはね、、帰りは下りだったので歩きましたよ。

▲Inatimyさん、サイトを見てくださったのね。なかなかいい展覧会とわかるでしょ。ヤマタネ美術館は近代日本画のいいものをたくさん持ってます。
「龍巻」、楽しい作品に見えますよね。白波はアールヌーボーっぽいし。イカ、クラゲ、波と同じ白いものを持って来て、魚は形の面白いエイ、太刀魚。確かに太刀魚くん、龍巻で体が折りまがちゃったから目が上むいて、びっくりしてますね。
「草の実」は琳派的な草花だけど、仏教的な装飾なので、(季節はお盆だったし)、絵に向かうと神妙な気持ちになりました。

by TaekoLovesParis (2017-07-25 11:27) 

coco030705

またお邪魔します。
そうですね‼ 私もあの「青獅子」の絵は玉三郎が好きだと言っていたので、前の歌舞伎座へ行くたびに観ていたんですよ。何処へ行ったんでしょうね。今度歌舞伎座へ行ったら、劇場の人に聞いてみますね。

by coco030705 (2017-07-26 00:50) 

いっぷく

大森の龍子記念館は文士村の重要なスポットで、また地元なので何度か行きましたが、撮影を禁じられてブログ記事で紹介したことはありませんでした。立派な記念館ですね。
by いっぷく (2017-07-26 09:49) 

笠原嘉

ゼロ戦闘機の絵には度肝を抜かれました。恐らく川端先生は戦争反対で
自然を愛していたのだと思います。(私見)
by 笠原嘉 (2017-07-26 21:06) 

TaekoLovesParis

cocoさん、「青獅子」の絵は玉三郎のお気に入りだったんですか。
<劇場の人に聞いてみますね。>→きいて、きいて、で、どうなったのか教えてね。歌舞伎座が新しくなっても、当然、絵はかけられると思ってたので、さみしいです。
by TaekoLovesParis (2017-07-27 00:23) 

TaekoLovesParis

いっぷくさん、大森の龍子記念館、ずいぶん前に行ったことがあります。大森からバスに乗って行きました。いっぷくさんは大田区が地元ですものね。記念館の外観写真だけでもいっぷくさんなら、他のこととも絡めて一本記事になりますね。 そうそう、龍子は、本門寺の天井画、龍の絵を描いている時に亡くなったんです。
by TaekoLovesParis (2017-07-27 00:34) 

TaekoLovesParis

笠原さん、龍子は息子を戦争で亡くし、妻も戦時中、病気で亡くなりました。だから、戦争反対に決まってますよ。戦後は四国の八十八カ所不札巡りを息子と妻の供養のためにしたそうです。自然を愛し、ユーモアを愛していたようですよ。絵にも表れますね。
by TaekoLovesParis (2017-07-27 00:37) 

コザック

こんばんは
坂登って行ってきました。汗だくでした。
「火生」は迫力ありました。
観ているだけでエネルギーが満ちてくる作品でした。
展示は後期に入っており、撮影展示は、「八ツ橋」になっていました。
こちらも素晴らしかったですヨ(^^)/
by コザック (2017-08-05 23:37) 

TaekoLovesParis

コザックさん、いらっしゃいましたか!
<坂登って行ってきました。汗だくでした。>→とっても臨場感あります。
「火生」、もっと大きな壁面で堂々とした展示だったら、どうだったのでしょう?他の絵が屏風で大きいから、ああいう廊下で光ってる形になったのかもしれませんね。
でも、良かったってきいて安心。
「八ッ橋」、私は期待して行ったら後期だったので、がっかりでした。「真珠」(前期展示の撮影可の一枚)の隣が「花の袖」という白い花菖蒲だったので、紫のカキツバタの八ッ橋と白いこれが並んでいたら、よかったのに、と思いました。
並んでいましたか?
「金閣寺」の火はどうでしたか?きっとコザックさんが記事にしてくださるでしょう。
by TaekoLovesParis (2017-08-06 17:33) 

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