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ブリューゲル「バベルの塔」と絵の映画 [映画 (美術関連)]

東京都美術館で開催中の「バベルの塔」展、私のまわりでは、「見た?すごかったわね」と
ちょとした話題になっている。職場の同僚からも「行きましょう」と誘われたが、気乗りがしない。
なぜなら、展覧会は、ブリューゲルの「バベルの塔」+ヒエロニムス・ボスの作品という構成
で、ボスが好みでないことと、「バベルの塔」はウィーンで見たことがあるからだ。

tirashi.jpg


ブリューゲルの「バベルの塔」は2つある。
都美術館て展示中のオランダ・ボイマンス美術館のものと、ウィーン美術史美術館のものである。
ウィーンのは、1563年制作、ボイスマンのは5年後の1568年の作である。
そしてウィーンのは、横155cmとボイスマンの2倍以上の大きさ。
緻密さはボイスマンのほうが勝る。

Babel_KunstWien.jpg

ブリューゲルの他の絵もそうだが、細かく緻密な描写が特徴。
チラシの写真からは見えないが、ボイスマンのは塔の工事現場で働く人1400名が米粒くらいの
小ささで描きこまれているそうだ。
ウィーンのは左下に、塔の建築主の王様が何やら文句を言い、職人頭たちが、「お赦しを」と
膝まづいているようすが見えるが、工事現場で働いている人は見えない。実物は横155㎝なので、
働いている人たちは一人1㎝くらいで描かれ、建設作業のようすがわかる。

2つの絵を比べると、ボイスマンの方が後で描かれているので、雲が低い位置に描かれ、
バベルの塔が天に届こうとする高さだったとわかるようになっている。

大勢の人が描かれていることから、そこには、ドラマがあると容易に想像できる。

2011年にポーランド・スウェーデン合作の『ブリューゲルの動く絵』という映画が作られた。
ブリューゲルの代表作の1つ「ゴルゴタの丘への行進」の世界を実写とCGで再現した映画で、
見ているうちに、16世紀のフランドル地方に入り込んだ気分になり、後から考えると、歴史映画
のようでもあった。
Cinema-Brugel.JPG

「ゴルゴタの丘への行進」は1564年に制作され、ブリューゲルの作品中、2番目に大きい作品で、
イエス・キリストが十字架に磔にされる場面が描かれている。
gorugodaBrugel.jpg
右奥に円形の処刑場が見え、中央に白馬にまたがった人がいて、その上に横たわる十字架
があり、キリストが縛られている。馬に乗った赤い服の兵士たちが周りを囲んでいる。

映画では、この一枚の絵の中にいるそれぞれの人々の物語が繰り広げられていく。
16世紀のフランドル地方。森で、きこりが木を切る、何を作ってるのかと見つめていたら、十字架!
これにキリストが磔にされるのだ。
のんびりと暮している新婚の夫婦。子牛を売りに行く途中、野原でお弁当を広げ昼食。
突然、赤い服の兵士が現れ、「カソリックでないから」と、虐待、殺されてしまう。
当時のフランドル地方は、赤い服のスペイン・ハプスブルグ家の圧政下という社会状況がわかる。
些細なことで農民が殺されていくのだ。[たらーっ(汗)]

岩山の上に風車のある粉ひき小屋があり、ここに神がいて、下界の生活を見守っているのだそう。

絵の右下、グレーのベールの聖母マリアは嘆き悲しんでいる。
絵の中の人物の物語を再現しているので、登場人物は絵と同じ衣装を着ている。
ブリューゲル役がルドガー・バウアー、マリア役は、シャーロット・ランプリング、
絵の依頼者役はマイケル・ヨークと渋い演技達者な人たちが主演。監督はレフ・マイェフスキ。
上映映画館:渋谷・ユーロスペース

映画のチラシからわかるように、ブリューゲルは白髪のおじいさん。実際のブリューゲルは、
39才から44才(生年が不詳)で亡くなっているのに。。。

ブリューゲルの作品は約40点。そのうち12点がウィーン美術史美術館にある。
「雪の狩人」「農民の婚礼」も注目されている作品。
長男も同名で絵描きなので、「バベルの塔」はピーター・ブリューゲル(父)と表記される。

  

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moz

バベルの塔には興味があって行こうと思っていました。
そうなんですか? TaekoLovesParis さんは組み合わせがあまりお好きでないので、それに見ていらっしゃるからパスなんですね ^^;
でも解説をして頂いて、じぶんはもっと興味がわいてしまいました 笑
機会を作って見たいなと思います。
美術史美術館はむかーしですけれど行ったことがあります。画集を買ってきたので今でも時々見たりしてます。 ^^
by moz (2017-06-08 08:24) 

アールグレイ

バベルの塔、徳島にある大塚美術館で、陶板の複製画を見たことがありますが、
大きかったので、ウィーンのものだったと思います。
実際にウィーンで鑑賞されたのですね。
ブリューゲルの映画もあるのですね。
画家や音楽家などの実際の芸術家をもとにした映画は好きで、機会があると見たりします^^
by アールグレイ (2017-06-08 09:58) 

初夏(はつか)

「バベルの塔」と言うと、
聖書とは全く違うお話ですが、
子どもの頃に見ていた「バビル二世」というアニメを思い出します^^
で今、主題歌が頭の中をリピートしています(笑)。
『ブリューゲルの動く絵』、観てみたいと思います^^

by 初夏(はつか) (2017-06-08 10:25) 

coco030705

こんにちは。
『ブリューゲルの動く絵』観てみたいです。TSUTAYAにあったらいいんですが。この展覧会は大阪に巡回しますので、行きたいなと思っています。

by coco030705 (2017-06-08 15:35) 

Inatimy

バベルの塔で覚えがあるのは、ブリュッセルにあるベルギー王立美術館にあったもの。 
画家はヨース・デ・モンペルIIとフランス・フランケンの合作で、下の建設作業場から見上げた視点。
あとルーヴル美術館で見たバベルの塔は、ルーカス・ファン・ファルケンボルフ作。
バベルの塔をテーマにした絵画って、いろんな人が描いてますよね。全部かき集めて一斉に並べての展示だったら、観に行きたいなぁ^^。
ボイマンス美術館はまだ行ったことがなく・・・いつか機会があれば行ってみよ^^。
ブリューゲル、ボス、アーフェルカンプなどなど・・・一体何をしてるのかしらと、
絵画の中をじーっと見てしまいます。 登場人物多くて、細い人の描写が面白いですよね。
by Inatimy (2017-06-09 19:21) 

yk2

おはようございます。
ハプスブルクのブラックな歴史にアントワネットなtaekoねーさんが敢えて触れているので、読んでるこちらも何だか神妙な気分になります(笑)。

美術絡みの映画は結構チェックしているつもりでしたが、この映画は全然知りませんでした。ちょっとwikiも読んでみましたが、日本では2011年12月の公開かぁ。震災の年だったから、お陰でこの手の映画はあまり宣伝もされずに地味に埋もれちゃったのかな。映像の見せ方が面白そうなので、DVDで観てみます。
by yk2 (2017-06-10 07:29) 

匁

やっと来れました。
G軍連敗脱出で!
匁も都美術館へ行きましたが、これは小さく見えました?!
大勢の人の中で見るので細部は詳しくは見れませんが、
自分の頭の中でこの倍以上のサイズに想像していたのは
ウイーンの物なんですね。面積は4倍になりますから。
これでないとね。(気乗りしなかったね)

by (2017-06-11 09:12) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲匁さん、連敗は脱出したけれど、依然として投手も踏んばれないし、打線はくすぶっています。昨日は4番降格3番になった中田翔に逆転の決勝打を打たれ、今日は元G軍の大田に昨日に続いてHRを打たれ、、ですが、13連敗の重苦しい雰囲気は消えました。匁さんにも、安心して遊びにいらしていただけます。

匁さん、都美で「バベル」をご覧になったのですね。そうなんですよ、面積だと4倍だから全く大きさが違います。米粒ほどの人間だから、見える?見えない?という感じだったのでしょう。拡大した写真があって、それを見て、初めて人がいるとわかったと同僚が言ってました。「老眼にはきついわ」ですって(笑)

▲mozさん、ウィーンの美術史美術館には、ブリューゲル部屋があって、、mozさんがいらした時もそうだったかしら?特別扱いです。どれも大きな絵なので、強く印象に残っています。
ボスはヨーロッパのたいていの美術館にあるし、絵に特徴があるので、見ると、「あ、ボスね」とわかります。たくさん観すぎて、ちょっと食傷気味なんです。

by TaekoLovesParis (2017-06-11 22:31) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲アールグレイさん、いつもいろいろな所に旅をなさっていらっしゃるけれど、大塚美術館にもいらしたんですね。私は行ったことがないんです。陶板の複製画ですか、大きいと迫力があるでしょうね。
<画家や音楽家などの実際の芸術家をもとにした映画>→ 絵や曲のできる背景がわかると、いっそう楽しいですね。「アマデウス」、「クララ・シューマン」、「カミーユ・クローデル」、「炎の人ゴッホ」など面白かったです。

▲hatsuさん、ありましたねー、バビル2世、TVで夕方やってましたね。「コンピュータに守られたバビルの塔に住んでいるバビル2世」という歌詞が当時は変だなぁと思って覚えてます。今、コンピュータ制御の建物は珍しくない時代になりましたね。

▲cocoさん、大阪に巡回なんですね。『ブリューゲルの動く絵』は東京でもたった1か所でしかやってなかったし、ほとんど広告がなかったので、私も知りませんでした。時々一緒に展覧会に行く同僚が誘ってくれたので見たら、わかりやすくて良い映画でした。しかも絵の中の人物のそれぞれの物語という趣向が面白いし斬新だなと思いました。

▲Inatimyさん、ベルギー王立美術館は行った時に、作品抜粋井図録を買ったので、でてるかなと思って見返してみたら、ありました! ブリューゲル没の50年後に描かれているので、塔がブリューゲルのより高くなっている?
ルーヴル美術館にもあったんですね。今度行った時には探してみます。
by TaekoLovesParis (2017-06-12 01:00) 

TaekoLovesParis

yk2さん、お返事が遅くなりました。
<ハプスブルクのブラックな歴史> → 私の好きなオペラ「ドン・カルロ」で、王子カルロの親友ロドリーゴが、「スペインの圧政に苦しんでいるフランドルの救済を」とカルロに提言し、カルロの父フィリポ2世にも「フランドルの人々のフィリポを呪う声が聞こえますか。かつては美しかった国が今は恐怖に沈んでいます」と直訴。けれどもフィリポ2世は、平和は血を流さないと得られないと答える。この場面が気になっていたので、調べてみたら、ドンカルロは1560年のマドリードが舞台。
ブリューゲルの「バベルの塔」は1563年。カソリックのスペインが、プロテスタントのフランドルをカソリック化するために粛清が行われていたことが、オペラでも取り上げられていたのね。(パリで見たドン・カルロは記事にしました2010年4月)

私もこの映画は全く知らなかったんだけど、金曜の帰りがけに、同僚から、「ねぇ、明日あいてる?ブリューゲルの動く絵という映画なんだけど」と誘われ、行ったのは2012年の1月。画面は森の場面での光の入り方が美しく、山がそびえる景色が立体的に見え、草原も風を感じさせ綺麗でした。すぐ記事を書いたものの、絵の世界を現実にする置き換える面白さは、私の文章力では表現しきれず、下書きに入ったまま、、5年もたって、、(苦笑)。yk2さん、cocoさん、hatsuさんと映画好きの方に興味を持っていただけて、よかったです。
by TaekoLovesParis (2017-06-12 23:16) 

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