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「酒井抱一と江戸琳派の全貌」展 [展覧会(日本の絵)]

 抱一生誕250年に因んで企画された展覧会。会場は千葉市美術館。
新宿から千葉まで総武線に1時間近く乗り、駅を降りて15分歩くので、私の家から
2時間近くかかる。初めてここを訪れたのは、今年1月の「ギッターコレクション展」。
アメリカ人ギッター氏の応挙、若冲、宗達、抱一など江戸時代を代表する画家たちの
コレクション展。遠かったけれど行ってよかったという充実した内容の展覧会だった。
今回も、抱一の多芸さに魅せられ、予想以上の感動だった。

IMG.gif 

 薄くて軽いが、写真がたくさん載っている「酒井抱一」という新潮日本美術文庫を
電車の中で読んで行ったら、本に出ていたものの本物が、続々登場。お~!
電車の中でにわか勉強をして、試験にその部分が出た時のようなうれしさ。
「あっ、同じのが出た」っていう体験。(みなさんもあるでしょ)

 会場入り口には、「桜に小禽図・柿に小禽図」(個人蔵)
おなじみの12か月花鳥図の構図。白い桜に瑠璃鳥の青、桜の木のたらしこみ、と
色合いもみごと。間近で見ると、花びら、つぼみ、鳥の羽、木の幹が本物そっくりな
までに描かれ、光琳継承のたらしこみがアクセントを添えている。
初めの一枚から見入ってしまう。

 酒井抱一(1761-1828)は、白鷺城で有名な姫路藩の大名・酒井雅楽頭家の二男と
して江戸に生まれた。酒井家は書や絵、俳句に秀でている家系であった。
兄の書に抱一画の共作、父の絵に母の句書の共作、叔父松平の絵、どれも素人離れ
の腕前。

 若い頃、二十代の抱一は、当時流行の浮世絵を描いていた。
「美人蛍狩図」(1788) 面長の顔、首をかしげたスタイルは、歌川豊春風。
10年後の「元禄美人図」(1797)は、抱一風。 着物の柄が光琳風である。   

美人蛍狩図.jpg  元禄美人図.jpg

 抱一は、37歳で出家、自由な立場になる。そのころから、光琳の琳派様式を私淑し、
光琳、乾山の構図を踏襲した「立葵図」を描いている。
抱一は、光琳の百回忌に光琳作品から100点を選んで縮図を載せた画集「光琳百図」
を作成したが、それも展示されていた。

作品は、ほぼ年代順の展示。抱一は48歳の時、身受けした吉原の遊女「小鶯」と
共に生活を始めた。「小鶯」書、抱一画の「紅梅図」は、梅の枝や幹の墨表現に
粋さがある。

「麦穂菜花図」(静嘉堂文庫)
すくっと真っ直ぐ伸びた麦に対し、曲線の菜の花。鳥の位置も好対照。
春らしいさわやかさ、軽やかさのある絵で、とても気に入った。

麦穂菜の花図.jpg

 

「四季花鳥図巻」(東京国立博物館)
琳派では、花の絵と鳥の絵は別々だったが、抱一は、花と鳥を同じ画面に描いた。
愛らしい画面構成。

四季花鳥図2.jpg


 光琳の屏風の模写と共に、抱一も屏風の作成を始めた。50代後半のことである。
四季花鳥図屏風(六曲一双) 陽明文庫
美しい。見入ってしまう。金色の輝きに鮮やかな絵。この会場で一番豪華だったと思う。
この写真は小さいが、実物は、六曲の屏風なので大きい。

四季花鳥図屏風.jpg


「青楓朱楓図屏風」は、同じく金地。左三曲が青楓一本、右三曲が朱楓一本という大胆さ。
「波図屏風」(細見美術館)は、小さい銀地の屏風だが、波の迫力が印象に残る。

「月に秋草図屏風」(旧襖二面)
月に秋草図屏風.jpg

シンプルな美しさで上品。ススキの配置が粋。現代のデザインに通じるものがある
と思う。

「十二か月花鳥図」は、いくつか種類があるが、宮内庁三の丸尚蔵館のものは、
特にすぐれていると定評がある。部屋の二面を使っての展示には惹きつけられる。
五㎝四方くらいの小さい豆画帳の十二か月花図もあり、ケースが立派だった。
持ち歩いて見るものだったのだろうか。

会場は8階と7階で、8階の絵から見る順序。7階は工芸品と弟子たちの作品。
7階の入口すぐに展示されていた着物は、「大琳派展」で光琳が模様を描いた着物
といっしょに展示されていたことを思い出した。

「白地梅樹木模様小袖」     

梅模様小袖.jpg 四季草花蒔絵茶箱.jpg


「四季草花蒔絵茶箱」は、抱一の下絵に蒔絵師「原羊遊斎」が蒔絵を施したもの。

抱一の作品は約160点、高弟の鈴木其一、池田孤邨らの作品もかなりあったが、
長くなるので割愛。 
其一は斬新な作品が多い。表装には遊び心の多いものがあり、楽しいので、
ひとつだけ貼っておく。
「夏宵月に水鶏図」(個人蔵)。
其一夏宵月に水鶏図.jpg

抱一の画業がわかる展覧会だった。花鳥画、風俗画、仏画、やまと絵、俳画など
実にさまざまなジャンルの作品を描いている。ヒポクラテス像は厳粛に、かぼちゃ顔
の吉原の置屋の主人は漫画風に、猛虎は猛々しくと、それぞれの主題を描きわけて
いる多才ぶりに改めて感心した。姫路藩主の家柄ゆえの大らかさが絵にあらわれて
いて見る者をなごませる。ますます抱一びいきになった。


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julliez

酒井抱一とは直接繋がりの無い話で恐縮ですが
去年訪問した姫路の小さな村のお祭りで
江戸のお姫様のお輿入れに献上された長持が神輿(あちらでは屋台というみたい)で出ていましたが、その仕組みといい、絵柄が今見ても粋だなあと感じたのを思い出しました。
姫路ならではの大らか大胆な構図は、江戸や京都の洗練されたものとはまた違いますが、その抜群な間の取り方の遊び心のような個性に惹かれました。
余談その2ですが
姫路城は日本を良く知れば知る程、日本びいきのフランス人の間では京都よりも通う回数が増えるくらいハマる人はハマるらしいです。
と、在日歴のなが〜いフランス人に姫路城がいかに美しく魅力的かディナーの間中熱弁を振るわれた事も思い出しました(≧∇≦)
by julliez (2011-11-03 05:05) 

TaekoLovesParis

julliezさん、姫路城は、私も小1の時、広島へ行く汽車の窓から見て、とても
きれいだったのを覚えています。フランス人が好きになるのもわかります。
京都は、観光地化されているので、何度か通って、ツウになっても、自分の
居場所とは違うと思うのでしょうね。でも姫路には居場所が見つかるし、歴史
とも対話できる何かがあるんでしょうね。
抱一の作品を見ていると、お金持ちの余裕が伺えます。julliezさんがご覧に
なったお品は大名家への献上品だから、技の粋を集め、姫路ならではの
趣向のオリジナル品。素敵だったことでしょう。
by TaekoLovesParis (2011-11-03 11:25) 

TaekoLovesParis

ムーミンさん、
<本当にお久しぶりです。 またよろしくお願いいたします^^
日本画はあまり観る機会がないんですが、何でも鑑定団の番組で詳しくなったような・・・。
去年の秋に京都へ行った時、建仁寺で風神雷神を観て来ました。
それからしばらくしてダウン症の書道家金澤翔子さんが「徹子の部屋」などで、建仁寺で書を書いていた事を知りました。
京都には2泊3日だったんですが、あっという間でした。また行けたらいいのですが。
落ち着いたら、記事に出来たらと思っています。>

というコメントをいただいたのに、まちがって消しちゃってごめんなさい。

昨秋の京都に、いらしたんですね。紅葉がきれいだったことでしょう。
記事で、写真を見せていただけるのを楽しみにしています。
by TaekoLovesParis (2011-11-03 11:57) 

pace

粋を貫き通す数寄者でもあったのでしょうね
極めた数寄者が素敵!
by pace (2011-11-03 18:35) 

ぶんじん

本で見たことのある画の本物を見た時、確かに感動しちゃいますね。予習は大事だな、やっぱり。
by ぶんじん (2011-11-03 20:01) 

匁

前に、花鳥図に挑戦しようと思いましたが
まだ描いていません。と言うのは
花はまだしも、鳥や虫がなかなか自然の中で
出会うことは少ないからです。近くの川でシラサギとカモを見るくらいです。
昔も、そんなに多くの鳥の種類が身近にはいなかったと思いますが
それだけ貴重だったんでしょう。
動きのある楽しい絵を描いてみたいです。


by (2011-11-03 21:29) 

シェリー

お久しぶりです^^
片道2時間かけての美術館巡りなんて素敵ですね。
移動も時間も行きはちょっとわくわくするみたいで
帰りは感動の余韻があって。。。
今の私にそんな余裕はないのですけど
いつかそんな時間がもちたいなーなんて思いました^^


by シェリー (2011-11-04 14:12) 

pistacci

新聞にこれだけ作品が一堂に会することはない、みたいな見出しで載っていました。
私のほうが近いのに(でも一時間ちょいかな)最近足が重くって
会期もあと10日余りなんですよね。
さすがTaekoさん、ちゃんとチェックしていかれたのですね~。
by pistacci (2011-11-04 21:34) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます
▲paceさん、「数寄者」、ぴったりの言葉ですね。生活の苦労がないからこそ、
ですね。料紙や絵の具も上等のものを使っていたので、あまり色あせなかった
そうです。

▲ぶんじんさん、<予習は大事だな、やっぱり。>に、うなづいてしまいました。
どの展覧会へ行くときも予習をして行けばいいのに、行き当たりばったりが
多くて。。

▲匁さん、そういえば、鳥や虫はめっきり減りましたね。田んぼがなくなって
いるからでしょうね。私も一昨年、野川(東京都武蔵野市)で、川にシラサギ
がいるのを見たときは、驚きました。
<動きのある楽しい絵を描いてみたいです。>→期待しています。

日本シリーズは、ソフトバンク対中日になりそうですね。

▲シェリーさん、普段、どこに行くのもそんなに時間がかからない生活なので、
2時間は記憶に残って、、、でもね、それもいいことなんだなぁって、シェリーさん
からのコメントを読んで思い直しました。非日常は新鮮ですものね。

▲pistaさん、新聞にでてた、ってきくと、うれしいです。
千葉市立美術館は、昔、銀行の建物だったので、イオニア式柱の荘厳な
ギリシア風建築です。この抱一展のことは、NHKの「日曜美術館」でも
やってたんですよ。
by TaekoLovesParis (2011-11-05 21:20) 

yk2

ねーさんに先を越されましたが僕は今日行ってきました。たくさん抱一が観られて幸せだったけど、結構ざっくり前期後期で展示替えも行われてたんですね。二度行くべきだったのか・・・と気付いて、少々悲しい気持ちにもなっています(T.T)。

ねーさんは新潮日本美術文庫の本を“移動の友”で持っていったのですね(笑)。確かにあれは、「試験」直前に読むのなら、薄いくせしてギュっと色々詰め込まれているから最適かもしれませんね(笑)。反対に、研究書みたいに分厚い、すごい図録(^^;、買った?。
by yk2 (2011-11-05 22:51) 

ララアント

遠くまでお出かけになるだけの展覧会のようでしたね!
私でも 何かで見かけたような作品が一同に揃っていて
見入ってしまうTaekoLovesParisさんの気持ちが理解できました。
匁さんと同じ阪神ファンで 野球は終わったと思っていましたが
息子より「今から名古屋へ」って電話があり 「出張なの!」と。
長男は中日ファンでした(名古屋で7歳まで過ごしただけなのですが)。
by ララアント (2011-11-05 23:08) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます
▲yk2さん、私が行った中期には、「ポスターにのってる銀屏風がない」って、
文句を言ってる人の声が聞こえました。yk2さんは、ご覧になれたわけですね。
だから、全部が載ってる図録には、心動かされたのですが、重いし、、、抱一の
本は数冊持ってるし、で買わなかったのです。でも、やっぱり買うべきだったかと、
帰りの電車で早くも反省でした。
yk2さんも記事、書いてくださいよ。(強制はしてません、念のため)

▲ララアントさん、<何かで見かけたような作品が一同に揃っていて>
→ そうなんですよ。12か月の季節の花の絵はララアントさんの写真の参考
になりそうですよ。

いよいよ日本シリーズですね。でも自分のひいきチームが出ないと、いまいちで。。


by TaekoLovesParis (2011-11-06 00:13) 

Inatimy

まずビックリしたのが、黒い月。 これもアリなんだなぁ・・・って。
「麦穂菜花図」は私もこれ好きかも。 平面なのに、奥行きがあって、いい感じ♪
「白地梅樹木模様小袖」の梅の枝ぶりも見事。 どんな人が着るんだろうなぁ・・・。
どんな帯を選ぶんだろう・・・なんて想像して楽しめますね~。
by Inatimy (2011-11-06 08:01) 

バニラ

これ行きたかったのです。 13日までにはちょっと無理そう…
ここで行った気分にちょっとだけでも浸ります。
やっぱり襖絵、いいなぁ~
by バニラ (2011-11-06 10:46) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます
▲Inatimyさん、黒い月は描かれた当時は、銀色だったんです。銀だから、
怪しく光って、まばゆい月明かりを表現する最高の方法だったのではないかしら。
でも、銀だから年月と共に硫化して黒変しちゃったのです。
小袖は、おはしょりの部分が短くなってもよいような柄描きですね。帯は、、
黒地のをしめたら、粋になるし、薄い色合いだったら軽やかな春ですね。
着物と帯の組み合わせは楽しいですね。私も成人式の時の振袖の袋帯を
今は無地の紋付に使っています。

▲バニラさん、行きたかったでしょ。展覧会はやはり秋にラッシュなので、
日程のやりくりが大変ですよね。
<ここで行った気分にちょっとだけでも浸ります。>と、おっしゃっていただくと、
記事にしてよかった、って思います。
襖絵は醍醐味ですよね。
by TaekoLovesParis (2011-11-06 12:58) 

チョコローズ

権力者のところには素晴らしい芸術品が集まりますね。
私もこちらで行った気分に浸っています。
by チョコローズ (2011-11-06 15:55) 

TaekoLovesParis

チョコロさん、抱一の襖、屏風、豪華ですてきでしょ。
こういうのを見ると、日本人であることを誇らしく思います。
by TaekoLovesParis (2011-11-06 22:06) 

りゅう

抱一いいですね~
このシンプルさがたまりません。
まさに洗練された美しさ、日本の美って感じがします。
私も観に行きたいのですが、ちと遠いです。。。(>_<)
by りゅう (2011-11-06 22:53) 

TaekoLovesParis

りゅうさん、今回の展覧会は大規模で、今まで本でしか見たことがなかった
ようなものが勢ぞろい。なぜ千葉で?と思ったら、こちらの館長小林忠氏は、
学習院大学の教授で、浮世絵、水墨画、さらには抱一の研究の第一人者
なんです。だから、この展覧会は抱一ゆかりの姫路でスタートし巡回です。
ずっしりと余韻の残る展覧会でした。私にとっては今年のベスト1です。
by TaekoLovesParis (2011-11-06 23:54) 

hatsu

「四季花鳥図巻」、本当に愛らしいですねー。
「白地梅樹木模様小袖」も素敵。
見ていると、ため息が出てきます^^

by hatsu (2011-11-07 05:48) 

TaekoLovesParis

hatsuさん、「四季花鳥図巻」、真ん中に鳥がいなかったら、さみしいです
ものね。鳥は画面に動きを与えてくれますね。
小袖は、白地なのに、あまり黄ばんでないんです。保存がいいんでしょうね。
by TaekoLovesParis (2011-11-07 21:52) 

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