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シャセリオー展 [展覧会(西洋画)]

シャセリオーの名前を初めてきく人も多いと思う。

下のチケットの絵のように、すばらしい腕前で、奥深い魅力がある。
私もルーヴル美術館に行くたびに、シャセリオーの絵には惹きつけられてしまう。
 その時の記事は、ここをクリック

37才で亡くなったため、絵の数が多くないことと、大作の「パリの会計検査院壁画」
が破壊されたため、誰でもが知る画家ではないが、ギュスターヴ・モロー、シャヴァンヌに
大きな影響を与えた。


chasseriau.jpg


1、アングルのアトリエ

シャセリオーは、1819年カリブ海にあるフランス植民地イスパニョーラ島(今のドミニカ)で
生まれた。父はフランス人だが、母は現地の地主の娘で、シャセリオーが2歳の時、一家で
フランスに戻る。幼い頃から絵の才能を示し11歳でアングルに弟子入りした。

15才の時、スペイン絵画にも興味があったシャセリオーはルーヴル宮で、グレコの絵を模写した。
アングルが、「とてもよく出来ているから、ずっと持っているように」と言ったほどの出来栄え。
Chasseriau_Greco_S.jpg


16才の時の自画像
シャセリオーは、クレオール(母が植民地の原住民)なため、自分の容貌を好きでなかった。
そのため、一切、写真を撮らせなかった。自画像もこれ一枚だけである。
アングル風の古典的伝統に基づき、スペイン絵画の写実も取り入れた絵であるが、顔の右半分に
暗い影を描きいれているのは、心理描写なのであろうか。
容貌コンプレックスがあっても、彼は上品で会話が洗練されていたので、女性にもてた。

Chasseriau_Portrait.jpg


当時の画壇は、新古典主義のアングルとロマン主義のドラクロワが、「静と動」、全く違う画風で
対立していた。ローマ賞を受賞したアングルは、政府派遣でローマに留学し、ローマから弟子の
シャセリオーに計画中の作品に使う絵「サタン」をデッサンつきの細かい指示で命じた。
シャセリオ16才の作品「サタン」
指定された黒人モデルを使って筋肉がはっきりわかる力作。背景の青空や岩はシャセリオーが加えた。

Chasseriau_Etude de noir250.jpg


19歳のシャセリオーは、内務省からの注文で聖堂の祭壇画を作成した。
これは、その習作で、「十字架を抱く天使」
落ち着いた静けさと優美さがある絵。

Chasseriau_Ange croix.jpg


アングルは、ローマに8年も滞在した。
同行を誘われていたシャセリオーだが、この祭壇画の謝礼でようやくローマへの費用ができた。
しかし、パリにアングル不在の時期が長かったので、その間に、シャセリオーはアングルが嫌っていた
ドラクロワに傾倒。ローマに出向き、アングルに決別を告げた。

(2)ロマン主義へ

21才 「アクタイオンに驚くディアナ」
水浴中のディアナの姿を見た漁師アクタイオンは鹿の姿に変えられて、猟犬たちに噛み殺される。
背中を見せているのはディアナ、頭に三日月がついている。鹿の姿になったアクタイオンは遠くで
犬に襲われている。ニンフたちは驚きの表情。
題材を神話にとり、色彩豊かで、動きのあるドラクロワ風の作品。

Chasseriau_Diana.jpg


26才 「アポロンとダフネ」
アポロンの求愛を逃れるため、ダフネが月桂樹に姿を変える場面が描かれている。
流れるような曲線のダフネの体はすでに樹木化が始まって足元は木である。
Chasseriau_Aporon.jpg


31才 「泉のほとりで眠るニンフ」

かなり大きい絵なので、インパクトがある。
シャセリオーの代表作のひとつ「海から上がるヴィーナス」、「エステルの化粧」でももそうだが、
シャセリオーの裸婦は両腕を高く揚げているものが多い。このポーズは胸が綺麗に見えるし、
体の曲線がよくわかる。
ここでの裸婦は、クールベのような写実的な表現で描かれている。モデルは当時パリで一番美しい
裸体と言われた女優アリス・オジー。アリスとシャセリオーは恋中になり、『アングルから手放すな
と言われたエルグレゴの模写』を
アリスがどうしても、ほしいとねだるので、シャセリオーは
それを渡してしまう。しかし数か月後、友達も同席しての昼食会で、アリスが「手放すな」の一件を
茶化したので、激怒したシャセリオーは、絵の画面をナイフで切りつけ、二度と彼女とは会わなかった。
後年、年老いたアリスは、修復され男爵家に売られたこの絵を見てすすり泣いたそうだ。
(絵は、この記事の1、にある16世紀スペイン女性の肖像)

Chasseriau_AlisAugie.jpg



3、肖像画

かつての師アングル同様、シャセリオーは肖像画も得意だった。
アングルが注文の肖像画を多く制作したのに対し、シャセリオーは親しい友人たちを描いた。
シャセリオーの交際範囲は、上流階級の人の出入りするサロンが主だったので、当時の
有名人たちやパリの様子を肖像画と数通の手紙から知ることができる。

29才 「カバリュス嬢の肖像」

カバリュス嬢は、有名医師の娘で、母はスエズ運河を作った技師レセップスの姉である。
ユゴー、デュマ、ミュsッセ、バルザックらの文豪が出入りする家庭だった。
当時の流行の服で髪にはスイセン、手にはスミレの花束を持っている。
カバリュス邸を訪れたアングルは、この絵を見るなり、「色彩が眩しすぎる」とコートの袖口で
目を隠したという逸話もある。
Chasseriau_MalleCavalus.jpg

この展覧会では、肖像画は油彩、デッサンなど数多く展示されていた。


4、オリエンタリズム

北アフリカから小アジにかけての部分が「オリエント」と言われる地域である。
画家にとっては、オリエントは、エキゾチズムでインスピレーションが得られる場所であった。
シャセリオ―も27才の時、アルジェリアに旅をした。

32才 「コンスタンティーヌのユダヤ人街の情景」
ゆりかごが天井から吊り下げられている。それを揺らして赤ん坊を寝せる2人の女性。
平和な光景。女性のヴェールの軽やかさ、足元の光の描写に目が行く。

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34才 「左を向く白馬」(習作)
アルジェリアから帰国後、アラブ馬に魅せられたシャセリオーは馬の習作をたくさん描いた。
実際、シャセリオーの絵には馬が登場することが多い。
Chasseriau_Cheveau200.jpg



5、建築装飾と宗教主題

シャセリオーは数々の教会や公共の建築物の壁画も手掛けた。
オルセー河岸にあった会計検査院の壁画は特に素晴らしかったが、パリコミューンで破壊されてしまった。


37才 「東方三博士の礼拝」
亡くなる年の作品。キリスト誕生のお告げを受けて馬小屋の聖母子のもとに訪れた東方の三博士。
マリアの顔は恋人マリー・カンタキュゼーヌ公女に似ているといわれている。そして本作は彼女が
所有していた。

Chasseriau_3Docter.jpg


シャセリオーが亡くなった後、親しく行き来していたギュスターブ・モローは彼を偲んで
この絵を描いた。「若者と死」1881年  
中央に立つ若者は、シャセリオーの面影を宿す。元気いっぱいで、月桂樹の冠を被ろうと
しているが、右手には死を意味する黄水仙が握られている。背後に「絶命」を意味する剣を
持つ女性が忍び寄る。モローらしい象徴性の強い作品。
Chassseriau_MorotStSevastian.jpg


ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ 「海辺の乙女たち」1879年
古代ギリシアの理想郷のイメージだが、中央の女性は、シャセリオーの「海から上がるヴィーナス」
の影響がみられる。シャヴァンヌは、シャセリオーの最後の恋人マリー・カンタキュゼーヌ公女を妻にした。
Chasseriau_Chavanne.jpg


新古典主義のアングルに学び、ドラクロワのロマン派に転向し、オリエンタリズムに
没頭し、のちのシャヴァンヌやモローの象徴派に影響を与えたシャセリオーの画業が
よく分かる展覧会です。アングルのデッサン、ドラクロワの絵、シャヴァンヌやモローの
絵も展示されています。

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yk2

日本での知名度がそれほどでも無いだろうシャセリオーの単独での展覧会を企画してくれた西洋美術館には心から感謝したいですが、やっぱり、ちょっと展示作品が少なかったかなぁ~と感じてしまいますねぇ。taekoねーさんも書かれてらっしゃるとおり、早世で元より作品数が少ないので仕方が無いことなのでしょうけど。新古典主義とロマン主義の双方で頂点に立てる才能がありながら、いや、双方の美点を完璧に融合させた全く新しいフランス絵画だって創造出来る可能性を持った画家だったのに。そうと考えると、40年に満たなかった彼の早過ぎる死が本当に惜しまれますね。もっともっとたくさん彼が作品を遺せていたのなら・・・って。
by yk2 (2017-05-19 07:34) 

dezire 

こんにちは、
私も「シャセリオー展」を見てきましたので、画像と鑑賞レポートを読ませていただき、美術展を再体験することができました。シャセリオーは、新古典主義のアングルから絵画の技量を学び ロマン主義的なテーマに展開しても独自の美的世界創り出しているのがすばらしいと思いました。特に女性の顔の表現が美しく、肉体の表現も含めて魅力を肌で感ずることができました。

私も自分なりにシャセリオーの作品の魅力を読み解いてみました。またアングルとなぜ決別したのか? 絵画・美術におれるロマン主義とは何なのか?本質的な違いを考察してみました。読んでいただけると嬉しいです。内容に対してご意見・ご感想などコメントをいただけると感謝いたします。


by dezire  (2017-05-19 09:17) 

アールグレイ

シャセリオーについては、あまり詳しく知らなかったので
興味深く読ませてもらいました。
素晴らしい作品たち
その描く変容も、美しい作品で楽しめますね。
若くして逝かれたのが、とても惜しい気持ちになります。
by アールグレイ (2017-05-19 21:12) 

TaekoLovesParis

yk2さん、yk2さんはかなり前から、シャセリオーに注目なさって、記事も書いていらっしゃいましたね。だから、この展覧会には、大いに期待なさっていたことでしょう。そうすると作品数が少ない!って感じてしまいますね。数えてみたら油絵は40点ないですね。デッサンがかなりあったのと、参考出品の他の画家の作品で何とか埋まったという感じでしょうか。37才で亡くなるとは、、早いですものね。

ところで、シャヴァンヌの奥さんマリー・カンタキュゼーヌ公女が、シャセリオーの最後の恋人だったって、御存じでしたか? 会場で「東方三博士の礼拝」のマリアさまの顔を見た時、光が当たって神々しく美しかったかったので、「公女」だからやっぱり、って思いましたが、シャセリオーの想いも加わっていたのですね。
シャヴァンヌのパンテオンの「聖ジェヌヴィエーヴ・シリーズの壁画」のモデルは、マリー・公女だったんですって。ちょっと驚きでした。

「左を向く白馬」は、どこかで見た覚えがあったので、親しみを感じて、載せたけど、思い出しました。yk2さんの記事で見たのでした。習作だからでしょうけれど、馬だけの絵って意外と少ないですね。
by TaekoLovesParis (2017-05-19 21:22) 

TaekoLovesParis

desireさん、読ませていただきました。きれいな画面構成の記事ですね。
絵画名は、なるべく日本で使われているものにしないと、わかりにくいです。
特に英語を翻訳ソフトで日本語にすると、意味がわからなくなってしまいます。「スザンナと長老たち」が「スザンナとエナメル」だったり、「エステルの化粧」が「エスターそのすべて」では。。Wikiなどで、作品を調べてからお書きになるほうがいいと思います。詳しいことは、そちらにコメントしましたので、参考になさってくださいね。
by TaekoLovesParis (2017-05-19 21:46) 

TaekoLovesParis

アールグレイさん、私はシャセリオーの絵が好きなので、記事を通して知っていただいて、うれしいです。もっと長生きしたら、お花とか風景を描くこともあったのかしらって思います。風景は水彩で描いていたようですが。
by TaekoLovesParis (2017-05-19 21:49) 

Inatimy

師弟関係も恋愛と同じなのかなぁ、としみじみ。せっかくできたローマ行きの費用なのに、
決別を告げるための旅になったとは。
遠距離だとうまくいかないことが多いんでしょうね。 今の時代だとメールだの、スカイプだのですぐに連絡できるけど、当時は手紙くらいですものね。
シャセリオーの絵は、私もルーヴルで観ました^^。
"Suzanne au bain"「水浴のスザンナ」と "Les deux soeurs" 『二人姉妹』。
肖像画の「二人姉妹」は、シャセリーの姉妹を描いたもの。
16歳の時の自画像を見て、顔、似てるかもと思いました^^。
by Inatimy (2017-05-20 05:37) 

hatsu

「十字架を抱く天使」、美しいですね。
心の内の表情が、見てとれるよう。
チケットの「カバリュス嬢の肖像」も、素敵。
惹きつけられますね^^
by hatsu (2017-05-20 09:43) 

TaekoLovesParis

Inatimyさん、<師弟関係も恋愛と同じなのかなぁ>って、実は、私もそう思ったの。アングルはローマが気に入って8年も帰って来ないでしょ。その間、パリではドラクロワ全盛。環境がそうだから、次第に影響を受けてしまうのは当然よね。ローマの師とはなかなか連絡とれないし。でも、アングルはシャセを忘れたわけでなく、ローマから、シャセに「サタン」を細かい指示書付きで、ジェリコーの「メデュース号の筏」の黒人モデルを使って描くようにと注文し、シャセもちゃんと制作してる。

師も弟子も熱心に次の制作のアイディアを考えていて、昔のままでないから、情報交換しないと相手のすすみたい方向がお互いにわからないわね。だから、ローマで面と向かって話し合い、別れることにしたのでしょう。

”Suzanne au bain”(水浴のスザンナ)が英語では、”Susanna and the Elders ”(スザンナと長老たち)、このタイトルだと私はルーベンスを思い出しちゃう。シリーズみたいに何枚もあるから。

「二人姉妹」は、シャセリーの姉妹だったのね。どうりで顔が濃いなと思ってたの。
この展覧会の図録で、シャセリオに関していろいろ知ることができたけど、今までは、日本語で書かれたものが少なかったから、「へ~そーなの」ばかりでした。
by TaekoLovesParis (2017-05-20 11:33) 

TaekoLovesParis

hatsuさん、「十字架を抱く天使」、いいでしょ。私も静かな絵なので好きです。信仰の強さを感じるから、聖堂の壁画用なのね。油彩だけど、塗りが少しテンペラの雰囲気がでてて、会場では異色でした。
by TaekoLovesParis (2017-05-20 11:37) 

匁

完敗です。
伏兵。小林のタイムリー1本に遣られました。
先日、東京ドームでは菅野の連勝記録ストップ。
今日も勝とうとは、欲が深すぎました。
秋山クンも好投して、勝ちには繋がらなかったですが
自信がまたUPしたのでは?。今日の収穫です。
明日に期待します。
美酒カンパイ!!!。
by (2017-05-23 21:50) 

TaekoLovesParis

匁さん、昨日はディナーショーだったので、ナイターが見れずでしたが、途中、携帯で試合速報をチェックしてました。菅野が投げてましたからね。
<今日も勝とうとは、欲が深すぎました。>→ あっさり兜を脱いでいいですねー(笑)秋山一失点で、敗戦投手になってしまいましたね。こちらの昨日の収穫は、
小林のタイムリー2ベース。キャッチャーで打てるのは強いです。

さて、今日もまた勝たせてもらいました。
福留の3塁打はすごい当たりで、能見もびしっと押さえててよかったのに、鳥谷への危険球で流れが変わってしまいましたね。これはちょっと後味悪いです。。鼻血だけで終わるといいけれど心配ですね。
by TaekoLovesParis (2017-05-24 21:42) 

TaekoLovesParis

昨日に引き続き匁さんへのメッセージです。
今日は、そちら、上機嫌の美酒ですね。
メッセの好投、キャンベルも初HR,抑えのマテオもびしっといい仕事と外人が活躍してくれましたね。鳥谷もバッティングBOXに立てて安心しました。
明日からは対CARP。一挙に首位虎のしっぽがつかめるようがんばってほしいです。
by TaekoLovesParis (2017-05-25 21:09) 

moz

ルオーの先生ギュスターブ・モローも好きなんですが、モローにも影響を与えた画家なんですね。確かにモローの感じがします(本当は逆なんでしょうけれど)、象徴的でもあり冷たさの中に青白い炎があるような。
若くして亡くなってしまったんだ。
紹介して頂くと見て見たくなりましたが、28日までなんですね。
行けるかな?
by moz (2017-05-26 07:20) 

coco030705

こんばんは。
シャセリオー展、チケットの女性の肖像画が好きです。「カバリュス嬢の肖像」ですね。本当に素敵な絵。自画像を見たら、気は弱そうだけど結構ハンサムだと思います。どうして劣等感をもったりしていたんでしょうね。
どの絵も素敵ですが、私は「アポロンとダフネ」の神話的な絵が面白いと思いました。樹木化が始まっている様子が。
実は先日、日帰りで東京へ行って来ました。目的は国立新の[「ミュシャ展」をみることだったんですが、三井記念美術館の「西大寺展」のチケットがあったので、それと国立新と三菱一号館をみたら、「シャセリオー展」をみる余裕がなくなって……。残念なことをいたしました。

by coco030705 (2017-05-26 22:46) 

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