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「扇の国、日本」展 [展覧会(日本の絵)]

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サントリー美術館で開催中(20日まで)の「扇の国、日本」展に行った。
チラシの横に、「せんすがいいね」と書いてあるのに、ほほえんでしまう。


扇子は最近では、使われる機会が減っているが、私たちの生活に馴染んでいる。
扇は日本の発明品なので、1878年にパリで開催された万国博覧会で100本展示された。
これは、パリでジャポニズムが流行する一端になったようだ。モネが妻に打掛を着せ
扇を持たせた「ラ・ジャポネーズ」という作品もある。


入ってすぐに見えた扇3つ。
英一蝶の「松に白鷺図扇面」、金色の扇子に白鷺が大きく舞う。優雅で美しい。
谷文晁は「雛に蛤図扇面」、歌川国芳は「九紋龍史進図扇面」
これだけで、すごい!と思ってしまう。


扇の歴史は古く、中国の文献に「日本扇」という言葉が見られ、平安時代の
檜扇も発掘されているが、最初に展示されていたのは、国宝、熊野大社の「採色檜扇」
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檜扇は、檜の薄皮を綴って作ったもの。宮中の行事に公家たちが出席するときの
正装用に使われた。これは室町幕府3代将軍の足利義満の奉納品。今でも檜扇は
能の舞台で使われている。熱田神宮のものも展示されていた。
扇は、あおいで風を起こすものでなく、儀式用であった。


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これは毛利家の陣扇。
扇には超人的な力が宿ると考えられていたので、武将たちは扇によって勝ちを
引き寄せることができると信じて使った。


儀式用でなく、庶民に使われたのは竹骨に紙を張り付けた紙扇である。
「扇流し」という扇を水に投げて、そのようすを楽しむ遊びもあり、それが、
「遊楽図屏風」に描かれている。細かい写実の絵。女性たちの所作が優雅。
「あーら、おほほ」と扇子流しに興じているに違いない。

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襖に扇が描かれているのは、「扇面流図」(狩野杢之助画、名古屋城蔵 重文)
名古屋城の湯殿の襖絵。波の上にひらひら舞い散る扇。風を感じる軽やかさが
湯殿にふさわしい。(チラシの下部の写真)

「浜松に扇面図屏風」、金屏風に松の緑が映える六面の立派な屏風。(個人蔵)
扇の数は80本。全開の扇、半開きのもの、それぞれ、いろいろな方向を向いて、
散らされた配置にデザイン性を感じる。
「舞踊図」はサントリーの所蔵品。6枚揃いだが、前半に3枚、後半に3枚と
交代で展示。(チラシの上部の写真)

扇面貼交屏風」宗達画 六曲一双(個人蔵)
扇の人気と共に既製品が作られるようになり、扇絵のコレクションも行われ、
扇絵を貼った屏風も登場した。金屏風に様々な色の扇絵は実に華やか。

源氏物語、平家物語など、文芸作品に題材をとった歌(書)と絵の扇を複数枚
貼った屏風もあった。
「源氏物語絵扇面散屏風」六曲一双のうちの左隻 室町時代(広島・浄土寺蔵) 
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扇の図柄、形は、陶芸や工芸の世界にも広まった。
「織部扇面形蓋物」桃山時代(梅沢記念館蔵)
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刀の鍔(つば)にも扇の模様が使われている。
「桜に破扇図鍔」伝林 又七 江戸時代 (永青文庫蔵)重文
舞い散る桜と壊れた扇は、はかなさを表しているかのようだ。象嵌(ぞうがん)の
金が美しい。

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七宝でできた草花模様の扇型の「釘隠」もあった。(東京国立博物館蔵)

江戸時代は、浮世絵の中にも扇が登場。
「高麗煎餅見世先」鳥居清満・鳥居清経(千葉市美術館蔵)
歌舞伎役者の二代目市川高麗蔵が、ひいきの客に頼まれて扇にサインしている浮世絵。

「見立那須与一 屋島の合戦」鈴木春信画 (個人蔵)
見立なので、弓を持つ青年の後ろに畑、茄子が植えられているので、那須与一とわかる
しかけ。

扇絵には、中村芳中の扇面いっぱいに描かれた「立葵図」、与謝野蕪村に池大雅、
呉春の「養老図」(太田記念美術館)抱一の「月図」北斎、暁斉と巨匠の作品が
ずらっと並び、見ごたえがあった。
最後は、シーボルトの「NIPPON」から出島図。出島は扇型だったと気づく。
うまいなぁと感心した。
とても良い展覧会で見ごたえがあったが、会期は、20日(日)まで。
ご都合のつくかたは、ぜひ!






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プリスキラ

このごろ美術館に行けてないので、まるで自分が行っているように楽しんで読ませていただきました。
by プリスキラ (2019-01-18 21:53) 

TaekoLovesParis

プリスキラさん、そうおっしゃって頂いてうれしいです。書く励みになります。忙しいと美術展は足を運ぶのがおっくうになりますね。でも、行ってみると、よかったと思う時が9割です。
by TaekoLovesParis (2019-01-19 15:55) 

ふにゃいの

私も先週末、行きました。
酒井抱一の描いたものがきれいでした。
そうそう、ラスト何だろう?
と思ったら出島で、面白かったですね。
by ふにゃいの (2019-01-19 18:53) 

Inatimy

扇が主役の展示、面白そうですね。扇の文様は着物の柄にも和紙にも多く使われてるし。
扇を使った遊びで思い出したのは、投扇興^^。
夏、扇子、使ってます。コンパクトなのでカバンに入れて持ち歩き。
by Inatimy (2019-01-20 08:19) 

yk2

こう云う展覧会に行くと、つくづく草書が読めたらどんなに良いだろうと毎度の様に思うのですが、そんな気持ちも美術館出た途端に忘れちゃう(苦笑)。ついでに和歌や俳諧の知識が多少なりともあれば、もっともっと楽しめちゃうんでしょうね。「風雅」だとか云われるもののハードルは僕にはあまりに高いです(^^;。
光悦・宗達の時代はひたすら雅で、抱一まで時代が進むとその感覚が「粋」に変化してゆくのは、和歌俳諧の違いもあれど、お酒の楽しみ方・酒宴のあり方の変化熟成もあるのかなぁ~なんて、会場がサントリー美術館だからこその感想も持ったりして。教養が無いとお酒もおちおち楽しめない時代に生まれなくて好かった(笑)。
by yk2 (2019-01-20 11:16) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲ふにゃいのさん、いらっしゃいましたか。私は、扇ばかり集めたという企画が面白いなと思って行ったのですが、名作ぞろいで、とても楽しかったです。抱一の描く「月」は、屏風や掛け軸の絵で見ているけれど、扇子絵になると雰囲気が違いますね。「源氏物語絵巻」の絵の方が女性好みですよね。

▲Inatimyさん、<投扇興>→ 初めて知りました。古来、扇を使ってのこんな遊びがあったのですね。投げられた扇と蝶(的)、枕(台)の位置で作られた形を採点する、、難しそう。でも優雅な遊びですね。水に扇を流す遊びは、もったいないけど、これなら、知的ゲームで良さそう。
扇子はバッグに入るから便利ですよね。京都には扇子専門店が何軒かありますね。

▲yk2さん、私も美しい流れるような光悦の書を読めなくて、、注釈があるときは照らし合わせながらができるけど、ない時は、全く見当がつかず、「あ~ぁ」と思っています。友達が、「くずし字の読み方」という本をくれたのですが、これを読むのに苦労してます。光悦は硯箱、文箱など蒔絵ものの工芸にすぐれ、そこにちなんだ和歌を書き(船橋の硯箱)、さらに宗達の才能を発見し画力を育て合作を生むわけでしょ。和歌をいくつも知っていたら、関連性がわかって面白いのに、って思います。いつも説明書き読んで、あーそうだったのか、ってわかるのですもの。
時代すすんで、抱一になると、絵だけのものが多いからわかりやすいわ。え?なんで急にお酒の話に?サントリーだから、、そういえば、昔のyk2さんの記事で、抱一の秋草鶉図屏風を観たら、鶉料理が食べたくなったって、レストランへ行く話があったわね。(笑)

by TaekoLovesParis (2019-01-20 19:48) 

coco030705

こんばんは。
扇の展覧会、すばらしいですね。「ラ・ジャポネーズ」はボストン美術館蔵なんですね!さすが、Taekoさんです。画集ではよくみますが、本物は見たことがないと思います。
歌舞伎役者も、踊りの時、色々な扇を持って踊るので、あれを観るのも楽しみの一つです。
私は「源氏物語絵扇面散屏風」がみたいと思いました。


by coco030705 (2019-01-22 00:37) 

初夏(はつか)

「採色檜扇」、美しいですね~。
「儀式」に使うというのは、何かの本で読んだことがありました。
先日、日舞を習っている姪っ子たちに、
妹夫婦が、踊り用の「扇子」をプレゼント。
もうこれ以上ないってくらいの喜びっぷりでした^^
by 初夏(はつか) (2019-01-22 06:40) 

アールグレイ

扇子や屏風、日本の文化がわかる素敵なものですよね。
一つあるだけで、その場の雰囲気がとても和的なものになりますね。
美しい絵がら
見ごたえある展覧会でしょうね^^
by アールグレイ (2019-01-22 09:31) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲cocoさん、脇役の扇に焦点を当ててのコレクション、なかなか面白かったです。サントリーの所蔵品は少なく、借りてきたものが多いので、構成もバラエティにとんでいました。
「ラ・ジャポネーズ」は、大きい絵で、モネの奥さんカミーユが等身大ですものね。赤い打掛に目を奪われます。
<歌舞伎役者も、踊りの時、色々な扇を持って踊るので、あれを観るのも楽しみの一つです。>→そうなんですね!歌舞伎で前の方にすわってるのに、
オペラグラスを使ってるかたは、そういう所も見てるのでしょうね。私も今度、注目してみます。

▲初夏(はつか)さん、姪御さんが日舞をならってる記事、ありましたね。茶道の扇子は小さくて、広げるときはほとんどないけれど、日舞では、舞う時に広げて使ったりしますね。日舞の所作は美しく、トントンというリズムも雅でいいですね。

▲アールグレイさん、扇子絵は実際に扇の時と、絵だけ、抜き出してる時では、ずいぶん雰囲気が変わりますね。そう、日本の文化ですよね。私も茶道の扇子は持っていますが、えーっと、どんな絵柄だったっけ?ってあまりにも無関心でした。扇子屋さんは残ってほしいですね。日本文化を見直すためにも良い展覧会でした。

by TaekoLovesParis (2019-01-23 08:25) 

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