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坂田一男 展 [展覧会(西洋画)]

もらっていた東京ステーションギャラリーの半額チケットをが、26日で終わり。
「坂田一男」展。名前を始めて聞く人だけど、調べたら、パリでレジェに学び、
助手をしていたという経歴。コルビジェやイタリアのモランディ、夭折したド・スタール、
坂本繁二郎といった人たちの作品も見れるというので、がぜん興味が湧き、出かけた。

予想以上に面白かったし、すいていて、らくに見れた。
来てる人が全員ひとり。連れがいない。やはり現代ものは、ハプスブルグ展とか
ゴッホ展と違って好きな人が限られるからだろう。


入ったところすぐの作品群は、色合いは違うけど、まさにレジェ。楽しい。
「或る女 Ⅳ」(1926年、個人蔵)は、長い髪のはっきり顔立ちがわかる女性。
身体はキュビズム。茶系の色合いで、キュビズムなのに温かみがある。

比較のために展示されていたレジェ作品は、「緑の背景のコンポジション」
(愛知県美術館)1931年
これは、レジェの中でもキュビズムというよりコラージュっぽいしミロっぽい。
得意のモチーフである「機械」らしいものはある。実際は緑色がもっと鮮やか。

Leger_compositionGrun.jpg

坂田一男「キュビズム的人物像」 1925年 岡山県立美術館
レジェに師事していた時代は1923年~で、「緑の背景のコンポジション」の
制作より前の時代だから、この作品が上のレジェ作品に似てるとはいえない。
1930年前のレジェは、キュビズムで、セザンヌの影響をうけ、すべてを円錐形で
表現しようとしていた。円錐形、まさにそれである。クレーっぽい淡い色合いは師とは異なる。


Sakata_Cubism.jpg

「女と植木鉢」1926年(兵庫県立美術館)もキュビズムだが、植木鉢の円、
女の顔の円、肩の線の円、と円が多用され、可愛らしさがあった。
他の作品でも、手の指がフォークのように見えるものや、足の指が猫の肉球の
ようだったりと、立体を積み上げるキュビズムの中にかわいさがあった。


坂田一男(1889~1956)は、岡山県生まれ。
エコール・ド・パリの時代の1921年にパリに渡り、12年間滞在。
レジェの弟子だったこともあり、パリで画家として人気があったそうだが、
出品したサロンには入選できなかった。


帰国後の制作は、故郷岡山にアトリエを構え、レジェ一辺倒でなく、いろいろな
要素を取り入れての模索。作品名に多いコンポジションは「構成」という意味で、
モンドリアンがこのタイトルで、いくつもの抽象表現を試みていた。
「端午」というタイトルの「鯉のぼり」の作品群や、「上巳」という紙製のひな人形
など、
帰国後は、日本のものに対象が絞られていく。


コンポジション 1936年 個人蔵
一部屋に、花瓶にしては先頭が長すぎるこの形をモチーフにした作品がいくつも並ぶ。
説明によると、これは第一次世界大戦で多く使われた手榴弾。手榴弾は内部にある火薬が
爆発する。内部にあるものが外部とは異質の自立性を持っている。内部と外部という意識、
第一次大戦と第二次大戦の間の時期。手榴弾への恐怖と抵抗。戦争への抵抗。

Sakata_Composition.jpg

コンポジションA 1948年 個人蔵
ある時期から後の「コンポジション」という作品群には、必ずのように中央に太い帯が
入る。背景と対象物、色を変えることで、進出、後退が決まり、平面的なものが立体的に
見えるという試みをしていたようだ。
Sakata_CompositionA.jpg


ここで、
ニコラ・ド・スタール「3つのりんご」1952年
モランディの「茶碗のある静物」1954年。
坂本繁二郎「植木鉢」1958年と、好きな絵が続けて並んでいた。
参考までにモランディの絵は、こんな。

モランディ小.jpg


コンパス 1949年 岡山県立美術館
製図用のコンパスが坂田の作品には時折、登場するそうだ。上の「コンポジションA」
の左端にあるにもコンパスだろう。コンパスは時にアンドロイドに見立てられたりする
そうだが、私には、後ろの茶色のネジが人間のように見える。
白い絵の具を上からかけてある。

Sakata_Compas.jpg


コンポジション メカニック・エレメント 1955年 岡山県立美術館
横向きに機械のモティーフが並んでいる。

Sakata_MecaniclElement.jpg
他に作品が展示されていて興味があったのは、
ジャスパー・ジョーンズの「国旗」
アメリカの旗になる前、モノクロで横に無数の線。
リチャード・ディーベンコーン「黄土色」1983年 
黄土色の横長画面、右上に四角くあいた窓。そこから外の景色が見える。
明るい画風。ひとつの画面の中に複数の画面を置く試み。


坂田のアトリエは、2度も水害に会い、冠水をする。
しかし、彼はめげることなく、冠水作品に手を加え、新たな作品をつくった。
左:静物 Ⅰ 1934年 大原美術館 右:静物 Ⅱ 1934年 大原美術館
冠水で四隅が茶色くなり、という発想のもとに、新たに描かれた作品。
これが、この展覧会のチラシ。


Sakata_Titashi.jpg
しかし、このチラシを見て、展覧会に行く気になるだろうか。
いきなり、面白い変容と思うほどのインパクトはない。
なぜ、変容をさせたのか、水害にあったから、という説明がほしい。
会場を出るとき、初めてチラシを見て、そう思った。

1月26日(日)までです。チケットは1000円。

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コメント 12

coco030705

「キュビズム的人物像」を観て、一瞬レジェかなと思ったんですが、坂田一男の作品なのですね。はじめて知った画家ですが、この絵はTaekoさんの解説通り、色彩が淡くきれいですね。モダンアートもいいものだなと思いました。

by coco030705 (2020-01-25 00:10) 

angie17

こういう記事を拝見して、
「そういえば・・」と語れない自分が残念(笑)

花瓶や香水瓶に見えるものが、手榴弾と驚きです。
現代アートならではの表現ですね。

by angie17 (2020-01-25 17:02) 

ナツパパ

色が好きだなあ。
実物を見てみたいです。
by ナツパパ (2020-01-26 10:16) 

TaekoLovesParis

cocoさん、「キュビズム的人物像」は、円錐の甲冑に身を固めたようで面白いし、色が淡いせいで、かわいく見えますね。
<モダンアートもいいものだなと思いました。>→そう思って頂けるとうれしいです。
by TaekoLovesParis (2020-01-26 11:14) 

TaekoLovesParis

angieさん、<花瓶や香水瓶に見えるものが、手榴弾と驚きです。>って十分に語ってくださってます(笑)。香水瓶とは気づかなかったけど、そういう感じありますね。
by TaekoLovesParis (2020-01-26 11:18) 

TaekoLovesParis

ナツパパさん、現代アートは形の解釈・表現がいろいろだから、色がだいじな要素ですよね。実物、私は初期の方が好きでした。
by TaekoLovesParis (2020-01-26 11:21) 

yk2

昨日たまたま放送された日曜美術館の内容が、去年の台風で冠水してしまった川崎や長野の文化財修復のお話でしたね。水に浸かってしまった美術品や歴史資料の悲惨な状況を見るに、胸が押しつぶされる様な思いでした。そして、今回のこの記事で初めてその名前を知った坂田一男のアトリエも、二度の水害に遭っている。自らの作品を襲った悲劇さえ創作の力に変えるバイタリティは並大抵のものではありませんね。精魂込めた作品が汚損した姿を目にして、普通なら絶望的になってしまうところでしょうに。

taekoねーさんの仰るチラシに並べられた2枚の作品の来歴は、確かに知らされていればそう云う事かと得心がいくものかも知れません。この作家の強さを知って、それに惹かれて展覧会に行ってみようと云う動機になるかも知れない。でも、抽象画はそもそもが誰かに説明的なものを与えられるより、鑑賞者各が作品から感じる「何か」が大切にされるものだとも思いますから、同じ様な絵が敢えて2枚並んでいる事に対して、観る側に「これってなんで?」と、思考を投げかける事もこのチラシの企図するところだったのかもなぁ・・・等と考えました。作家の過去を知らない鑑賞者にとって、水害と云う過去の事実はその思考よりもほんのちょっと先にある。もう少し早く、そんな方向の見方に気付いていれば・・・と思ったその日が展覧会最終日とは皮肉なものです(^^;。レジェの弟子と聞いて、興味は充分有ったんですけどねぇ(苦笑)。
by yk2 (2020-01-27 08:04) 

TaekoLovesParis

yk2さん、私も日曜美術館で見ました。地下の収蔵庫が冠水した川崎市民ミュージアムと千曲川の氾濫で冠水した長野の美術館。東日本大震災の時、被災したお寺の書物や美術品など、実際に見ると、胸が痛みますよね。冠水は、あっという間の出来事ですものね。
あー、私は、坂田一男の被災した絵シリーズを思い出さなかった(反省)

「災い転じて福とする」というのが坂田一男の姿勢でしょうか。
坂田の抽象画は、解釈不能でなく、ちょっとわかりそうな気がするというのが良さかなと見終わって、思いました。たくさん作品があったので、作品を作っていくプロセスがわかったからかもしれません。入った時は、傍観者だったのに、ずっと見ていたら、出る時は共感者というのは、個々の作品というより一連の作品から、坂田のめげない明るい努力が伝わってくるからだと思いました。初期の作品は、黄色は使われていないけれど、レジェの雰囲気そのものでした。
見に行ったのが最終日に近くて、記事も遅い、、ですみません。
by TaekoLovesParis (2020-01-27 23:44) 

moz

ステーションギャラリー暫く行けていません。
こじんまりとしていて隠れ家みたいで好きな美術館なんですけれど。
やはり、連れではなくて一人でいらしている方達が多いんですね。
じぶんと同じかも? 笑
坂田一男は初めて知りました。人となりのことを知るともっと見てみたくなる画家なのかもしれませんね。コンパス、なるほど上の作品にもいますね。興味津々です!!
by moz (2020-01-28 06:20) 

TaekoLovesParis

mozさん、ステーションギャラリーは東京駅と、場所も、途中で寄れる所だから、お一人様が多いのかもしれませんね。昔のレンガ壁がそのまま保存されてる階段、落ち着きますよね。でも丸の内北口って覚えておかないと、南口からはちょっと距離がありました。
抽象画って、ある主題、コンパスならコンパスが形を変えて何度も登場するのが面白いです。mozさんのように「ここにもコンパス見つけた!」みたいな。
by TaekoLovesParis (2020-01-28 21:34) 

Inatimy

レジェの「緑の背景のコンポジション」、私だったら、右端が下に来るように
飾ってしまうかも^^。 顔みたいに見えて、楽しげだし。
坂田一男、冠水作品に手を加えて・・・だから捲土重来というタイトルがついてるのかしら。
このチラシだと、私、見過ごしてしまうかも・・・^^;。
by Inatimy (2020-01-28 22:16) 

TaekoLovesParis

Inatimyさん、<右端が下に来るように> → くるくるが眼ね。鼻が広がり、赤い口。なるほど~すごい! 豊かな発想力。私は緑の部分がトルソー(胴体)に見えただけ。ちょっとバンザイのポーズね。
捲土重来、そうなんですって。冠水にもめげず、再び作品を制作っていうサブタイトル。私も見過ごしました。実際、冠水作品部分の展示はほんの一部だから、それをタイトルに打ってでるのも、、って思えました。

by TaekoLovesParis (2020-01-30 01:40) 

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