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エミール・ガレ展(生誕170周年) [展覧会(絵以外)]

サントリー美術館へ「エミール・ガレ展」を見に行った。
今年は、ガレの生誕170周年にあたるので、ガレ関連の催しの広告をよく見かける。

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ガレは、19世紀末から20世紀初頭のアールヌーヴォー期を代表するガラス陶芸作家。
その独創的な作品は、ガレ風なものとして、今でもいろいろな所で見かける。

ガレ作品をたくさん持っているサントリー美術館は、「ガレとジャポニズム」展を以前に
開催したが、今回は、オルセー美術館から借りた制作過程のデッサン画や家具を交えて、
ガレの作品を以下の①~⑤の5つの視点でとらえ直している。

①ガレと祖国
ガレは、フランス東部ロレーヌ地方ナンシーで、高級ガラス器陶器製造販売会社を営む家に生まれた。
父は、ナポレオン3世に食器を納める御用商人であった。ガレも父を手伝い、ガラス工場で
修業をし、デッサンを習い、デザインを始めた。

ガレが24歳の時、普仏戦争がおこり、ガレも義勇軍として参戦した。しかしフランスはドイツに
敗北、アルザス・ロレーヌ地方の一部を割譲した。ガレがガラスの修業をしたマイゼンタールの工場は
ドイツ領となってしまった。ガレの祖国へ愛はいっそう深まり、それが作品に表された。

デッサン画 「花器(フランス菊)」
フランス菊は、忍耐、寛容、、、を表す花。
このフランス菊にロレーヌ十字(十字を上下に重ねたもの)と、ナンシーの花、アザミをデザインした花器。
デッサン画とそこから生まれた花器を並べて見れるのが興味深かった。

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デッサン画 「花器(アザミ)」 故郷ナンシーの花アザミ。

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ゴブレット「ジャック・カロの人物画」1867年
ガレ21歳の作品。
中央に配置された絵柄は、ジャック・カロの銅版画シリーズ「小さな道化たち」からで、
左利きの辻ヴァイオリンニスト。帽子を被った道化とヴァイオリン、見えますか?
ジャック・カロはナンシーの上流階級の生まれ。人々の生活を鋭い観察で風刺して
銅版画に描いた。2014年に西洋美術館で「ジャック・カロ銅版画展」があった。
ガレが、同郷のカロの作品を多く用いたのも祖国愛からだろう。

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②ガレと異国
ガレの眼が異国に向けられたのは21歳の時。1867年パリ万博での経験だった。
ガレは万博に出品する父の手伝いで、半年間パリに滞在した。この時の万博は、
ジャポニズムが話題となり、ガレも多くのインスピレーションを得た。

1878年の万博にガレが出品したのは、花器「バッタ」
酸化コバルトで発色した「月光ガラス」を発表して、その美しさが評判になった。
バッタや菊などが金彩風に絵付けされ、日本美術の影響が伺える。
口縁部には、イスラムを意識した唐草模様。
前回の万博で吸収したものを使った異国的な要素が高い作品。

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ジャポニズムからインスパイア―された瓢形植込鉢「鯉」1880年
瓢箪形で、側面は節のある竹の装飾、底には鯉が描かれている。
細い線はおたまじゃくし?
エジプトも万博で注目されていたので、ガレはこちらからもヒントを得て、
鳩の顔がエジプト風に描かれた植込み鉢「鳩」。胴の部分には日本美術からの
流水紋、笹竹紋などが描かれている。
その他、イスラム、中国の影響と思われるものがあった。

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③ガレと植物学
ガレは母の影響で幼少期から植物に深い愛を持ち、植物採集で有名な植物学の
教授と知り合い、植物学に没頭していった。自宅の庭には2000種以上の植物が
栽培され、花の絵はボタニカル・アートとして成り立つほど緻密である。

習作「アイリス」 花瓶「アイリス」
ジャーマン・アイリスのつぼみの形を花器に見立て、花模様を装飾した作品。
くすんだ緑色のガラスを被せた素地に茶色、紫、明るい緑など幾種類もの色ガラスが
筋状に練り込まれている。上にアイリスの花が白や紫で象嵌され彫がなされている。
ブロンズ製の台もアイリスの形。凝った作品ですばらしい。

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白い大輪の蘭の花がこぼれ落ちそうな「氷の花」は、「ガレとジャポニズム展」で見て
印象に残っている壺型の花器。

④ガレと生物学
植物を愛したガレは、花と共に生きる生物、昆虫も愛し、模様に取り入れた。
蜻蛉、蝉、蝶、カエル、海洋生物などがモチーフとなった。

昼顔形花器「蛾」 1900年
白い昼顔の花に、茶と紫色の羽根の蛾がとまる様子をそのまま描いている。
白い半透明のガラスは、花弁の筋が浮き上がって見えるほどである。
マルケトリー(ガラス象嵌)で蛾は精密に描かれ、白い昼顔との対比が美しい。
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⑤ガレと文学
ガレは学生時代にいろいろな言語を勉強し、神話の世界にも詳しかった。
文学好きでもあったので、自分の作品に詩文を描くようになった。

栓付瓶「葡萄」1900年
全体が葡萄のモチーフになっている栓付きのワインボトル。
胴部には葡萄の葉と蔦の模様が彫られ、色とりどりの半球状の葡萄の実が着いている。
ボードレールの詩集「悪の華」からの「毒」の一節が彫られている。
「葡萄酒はどんな汚れたあばら屋をも豪華な姿に装わせ、赤く金色に光る靄の中に、
幾つもの架空の柱廊を出現させる、、、、」

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「過ぎ去りし苦しみの葉」というメーテルリンクの銘文が刻まれた壺「枯葉」の
ガラス器に見えない風合いは「ガレとジャポニズム展」で見て(写真あり)印象に
残っていたが、今回、また見ることができた。

⑥ガレと究極
ガレは観察したこと、自ら感じたことを表現するために、様々な方法を考えた。
ガラスは美しいだけでなく何かを語るものだった。ガレはガラスの透明性を故意に失速
させる「パチネ」という技術を開発し、特許をとった。

ランプ「ひとよ茸」1902年頃
ひとよ茸は数日間で成長し、夜に笠を開き、一夜のうちに柄だけを残して溶けてしまうもの。
錬鉄製の台座は、森の木々を表している。一夜だけと言う命が自然の摂理、人生の輪廻を
表している。ぼんやりと灯るランプの姿が薄暗い森を思わせる。

iGalleHitoyodake.jpg

脚付き杯「蜻蛉」 1903年~4年 (写真は「ガレとジャポニズム展」参照)
大理石の輝きを持つマーブルガラスに化石のように蜻蛉を閉じ込めている。
ガレの最後の作品。死を予期したガレは、このモデルを数点造り、親しい友人や親戚に
贈った。はかない命の蜻蛉は自分を象徴するものだったのだろうか。


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nicolas

ガレは虫系のデザインが多い気がしてましたが、植物も多いんですね。
というよりも、植物画がスゴイ!間近で見てみたいです。
ボタニカルアートはル・ドテくらいしか知らないのですが、すごく惹かれます。
このガレの1枚もいいですねー
「ひとよたけ」そんな深い意味があったのですね。
そのぼんやりな灯りが何か切なく見えてきますね。
by nicolas (2016-07-20 17:42) 

coco030705

こんばんは。
先日東京へ行ったときは、ちょうどサントリー美術館が展示替えで観られませんでした。残念ですが、こうしてTaekoさんが美しいお写真とともに、わかりやすく解説してくださるので、楽しく拝見しております。本当にガレはすばらしく魅力的ですね。

by coco030705 (2016-07-20 21:40) 

TaekoLovesParis

にこちゃん、花は伝統的に陶器に使われている柄だから、革新的なガレはカエルやバッタ、蜻蛉のイメージが強いですね。でも、ガレはナンシー園芸協会を設立して、フランス園芸協会に加入、地元では植物学者として一目おかれていました。
展示されていたガレのデッサン画は植物だけ。生物は、最後の「蜻蛉」はエストーのデザインというように、工房で仕事をしていたので、他の人の手も入っています。ル・ドテは私もBunkamuraやニューオータニでの展覧会で見ました。バラ中心で品のある絵だから、にこちゃんは外せないわね。
「ひとよ茸」のために描いた、ジロール茸やセップに似た茸のデッサンもありました。にこちゃんのアイコンは紅テング茸?
by TaekoLovesParis (2016-07-21 08:10) 

TaekoLovesParis

cocoさん、東京にいらした時、サントリーが展示替えだったとは、残念ですね。大阪・天保山のサントリーは閉鎖してしまいましたものね。ガレは作品が多いので、今までも見る機会が多かったけれど、このような分野別、年代を追っての展示だと、今まで見て来たものが整理されて、とっても良かったです。
美しくて、cocoさんに気に入ってもらえるのは、昼顔形花器「蛾」だと思うわ。
by TaekoLovesParis (2016-07-21 08:15) 

yk2

制作前デッサンと完成品(若しくは近似デザイン品)を並べて見せてくれるのは確かに興味深い展示でしたね。今回は図録も買ってないし、taekoねーさんの書かれたこのエントリ読んでふむふむと復習してます。あんまりデカダンに傾き過ぎると僕には辛いのだけれど、ガレの作品を文学的な方向から理解してみたいのでモンテスキュー伯について知りたいな、と本を数冊買い込んであるのですが、積ん読状態に入って早数年が経ち・・・って具合です(^^;。『HOKKAI』も結構頑張って手に入れた割にはねーさんが「あの本はツマンナイ」だなんてバッサリ斬る様に云うから結局・・・・・・と、いつまでも手に取らないのを人のせいにしてみる(笑)。
by yk2 (2016-07-21 08:34) 

TaekoLovesParis

yk2さん、ガレのデッサン画、上手かったですねー。。ボタニカル・アートとして成り立つ、って言われるのも当然ですね。制作前、後のように製品と並べての展示は面白かったです。どれも忠実に再現されているわけでなく、花の絵は繊細なのに、紫陽花は花びらが分厚かったり、紫陽花玉だったりと、花の種類によって再現が難しいですね。なーんて言ってても、紫陽花玉はじっと見ていると可愛らしくて好きになったりする(笑)
青いすくっとした紫陽花を閉じ込めた花器はモンテスキュー伯の”青き紫陽花”のイメージなんですね。モンテスキュー伯は紫陽花を偏愛していて、ガレと紫陽花の箪笥を合作したって図録に書いてありました。本をご購入されたのなら、これを機にぜひ、読んでみてください。yk2文庫で終わってしまわないように。HOKKAIは読みやすいですよ。盛り上がりがなくてつまんなかったと言ったけど。。
by TaekoLovesParis (2016-07-22 08:44) 

hatsu

花器「バッタ」、涼しげですね~。
イスラムを意識した唐草模様も、すてき^^
by hatsu (2016-07-22 12:21) 

TaekoLovesParis

hatsuさん、季節柄、ガラス器は涼しげでいいですね。しかもバッタの絵柄がかわいい。サントリー美術館は照明が上手なので、ガラス器がキラキラ輝き、感動しました。
by TaekoLovesParis (2016-07-23 09:54) 

Inatimy

瓢形植込鉢「鯉」の細い線、私にはパッと見、メダカのような感じがしました^^。
作品でいう植込鉢って、土を入れて使うものなのかしら・・・だとしたら、
もったいなくって私には使えないです^^;。
昼顔形花器「蛾」がチラシに使われた作品ですね。デッサン画では蛾が飛んでるのも面白く♪
蛾は苦手だけれど、青緑に紫、この乳白色の色調が美しいから、
もし一つもらえるとしたら、これ、選びます^^。
by Inatimy (2016-07-24 17:42) 

コザック

こんばんは行ってきました。
「ひとよ茸」も「蜻蛉」も素敵でした。
ガラス花器は光と輝きでなんともうっとりした時間を過ごすことができますね☆
by コザック (2016-07-26 01:17) 

TaekoLovesParis

Inatimyさん、「しまった!」その通り、メダカです。おたまじゃくしだったら頭が大きいし、絵に描かれることはあまりないですものね。陶芸の植込鉢って、実際に土を入れてるのをあまり見かけません。水盤として使えそうですね。でも、この2つはやはり観賞用でしょうね。
蛾と言っても日本の蛾のイメージじゃないですね。そういえば、速水御舟「炎舞」って重文の絵だけど、たき火に群がる蛾の写生です。
by TaekoLovesParis (2016-07-27 13:31) 

TaekoLovesParis

コザックさん、ガレ気味の体(笑)に、この展覧会が特効薬だったようで、よかったです。きれいなものは心を豊かにしてくれますね。そして上昇志向になる気がします。

by TaekoLovesParis (2016-07-27 13:35) 

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