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フェルメールとオランダ絵画展 [展覧会(西洋画)]

4月3日で終わってしまった展覧会です。
予約制だったので、Webの予約ページに行ったら、1週間前で、ほぼ満杯。
夜間開館の4月1日、5時がとれました。
みごとな桜だったので、撮影している人が大勢。頭が入らないように
撮ったら、看板がちょん切れました。

東京都美術館.jpg


今回の「フェルメールとオランダ絵画展」の目玉作品は、フェルメールの
「窓辺で手紙を読む女」。
この絵は、2005年、1972年に来日したのだが、その時は、背景に何もなし。
fermel2005.jpg
ところが、最近の放射線を使った研究で、「この絵の背景には、キューピッドの絵が
描かれていたのだが、フェルメール没後の数十年後に、塗りつぶされた」とわかり、
大規模な修復が行われ、元の姿になり、今回、日本で初公開。

1フェルメールえはがき窓辺.jpg

このキューピッドの絵とほぼ同じようなものが、「ヴァージナルの前に立つ女」
の壁にもかけられていることからも、まさにフェルメールの筆。
なぜ塗りつぶされたのかは、諸説あって、まだ明確な答えはでてないそう。
mozさんの記事に、説明があります)

2フェルメール ヴァージナルの前に立つ.jpeg


17世紀オランダ絵画は、印象派に次いで、日本に来日する機会が多い気がする。
だから、17世紀オランダ絵画というと、風俗画、肖像画、風景画が連想され、
レンブラント、ライスダール、フェルメール、ヤン・ステーン、フランス・ハルス
の名前が思い浮かぶ。

レンブラントが妻を描いた「若きサスキアの肖像」1633年が、まず第一室にあった。
大きなつばの帽子の下で、光が顔、首、肩に差し込み、そこだけが明るく描かれている。
写真で見ていた時は、おばさんっぽかったのだが、実際の絵の中のサスキアは、はにかんだ
表情に愛らしさが伺えた。衣装の描写が際立っている。シルクの質感、透け感、金糸の細かい
刺繡は金が輝いていた。

レンブラント・サスキア2.jpg


写真はないが、ピーテル・コッドの「家族の肖像」1643年頃
レンブラントの「夜警」の中央の人物のような白い大きなレースの襟がついた
黒い服(たぶん、その時代の正装だったのだろう)を着た男たち。女性や子供も
大きな白い襟の服。服装から裕福な家庭とわかる。手前には、白に黒のブチの犬。
犬には「善良、忠実、正義」の意味があるので、画中に使われることが多い。

フランス・ハルスの「灰色の上着を着た男の肖像」1633年頃 も写真はないが、
黒いつば広帽子に灰色の繻子の服。白いレースの大きな襟が目をひく。

ヘラルト・デル・ボルフ「手を洗う女」1655~56年
奇妙な題材に思えたが、手を洗うという行為は、清純を意味し、足元に「忠実」を
意味する犬がいることから、若い女性に求められるのは「純潔」という教訓的な絵。
銀色の繻子のドレスの光りかたが半端ない。

4手を洗う女.jpg


同じくヘラルト・デル・ボルフの「白繻子のドレスをまとう女」1654年以前。
後ろ姿の絵がハマスホイの静寂さを思い出す。


ハブリエル・メツー「レースを編む女」1661~64年頃
こちらを見る女性の美しい!お人形のような顔立ち。
こちらも繻子のスカートが輝く。白いふわふわの毛の縁飾りがついた上着は、
フェルメールの絵にも何度か登場する。(フェルメールのは黒でなく黄色)
見えにくいが、左下にはネコが足温器の上にちょこんと。猫は官能の象徴。

5レースを編む2.jpg


同じくハブリエル・メツー「鳥売りの男」1662年
これも教訓画。白い毛のふわふわがついた赤い上着の女性は娼婦だそうで、
鶏は性的な意味を持つ。男が鶏を差し出しているので、「正義」の象徴の犬が
吠えている。説明がないと、現代ではこういう意味は絵から読み取れない。
6・4メツー鳥を売る男.jpg
メツーは他に、締めた鶏を開いた窓から、部屋の中にいる女性に見せている歯が抜けた
老婆を描いた「鳥売りの女」があった。

珍しい鶏を描いたメルヒオール・ドンデクーテル「羽根を休める雄鶏」制作年不詳
中央の真っ白な雄鶏はトルコ産の「サルタン」種。右後ろに「アジア産孔雀」と
「アメリカ産七面鳥」(暗くて見えないかも)。
ドンデクーテルは鳥を描いては、天下一品。鳥のラファエロと呼ばれたそうだ。


7.2022羽根を休める雄鶏.jpg


ヨセフ・デ・プライ「ニシンを称える静物」1656年
ニシンを称えるというタイトル通り、ニシンを称える詩文が中央に吊るされた
ニシンに守られて配置されている。鉛色の光、ニシンの鉛色、白いテーブルクロス
が際立ち、ビールのグラス、パン、皿の上には、ニシンの切り身。
当時のオランダでは、ニシンが重要なたんぱく源だった。
6-にしんを称える250.jpg


ワルラン・ヴァイヤン「手紙、ペンナイフ、羽根ペンを留めた赤いリボンの状差し」
1658年  だまし絵。そばに寄って見てもリボンが本物に見えてしまう。立体的。

7no2だまし絵.jpg


ヤン・デ・ヘーム「花瓶と果物」1670~72年頃(写真なし)
黒が背景の季節を問わないたくさんの花の絵は、デ・ヘームの定番。


ライスダール「城山の前の滝」1665~70年
割合大きな作品なので、雲の様子と水の勢いが真に迫る。
中央に二階建ての家が見え、人が2人、家の方に向かって歩く姿が見える。
雄大な景色の中で、和む一コマになっているようだ。

8ライスダール城山の前の道.jpeg


ヤン・ステーン「ハガルの追放」1655~57年頃
旧約聖書にのっている話。
アブラハムは妻サラとの間に子供がいなかったため、サラは女奴隷のハガルを
アブラハムに差出し、イシュマエルが生まれた。数年後、サラ(90才!)に子供が
生まれたため、ハガルとイシュマエルは家から追い出される。別れを惜しむ場面。
イシュマエルは無邪気に犬に話しかけている。

9ハガル.jpg

同じく、ヤン・ステーンの「カナの婚礼」1674~78年頃(写真なし)は、
手前にほろ酔いでけんかになりそうな男2人、ソファーにもたれかかる女、
奥に見える祝宴も終わりの頃だろうか、キリストはどこに?左上、ほの暗い
中に浮かび上がる。


ヘンドリク・アーフェルカンプ「そりとスケートで遊ぶ人々」1620年頃
オランダは溜池が多く冬には凍るので、スケート場となる。夕暮れなのだろうか、
オレンジ色とブルーの空が美しい。こういう大勢の人が三々五々遊ぶ姿の絵では、
一人一人の様子を細かく観察するのも面白い。

10アーフェルカンプそりで遊ぶ人々.jpg


終わった展覧会ですが、これから先にオランダ絵画を見る手引きになれば、
と思い記事にしました。

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yk2

オランダ絵画って、我々現代の日本人には馴染みの無い寓意や象徴が散りばめられていて、僕なんかには1枚1枚展示に添えられている解説を読むのがほぼ必須になるので、じっくりと、時間に余裕を持って臨みたいもの。
先月、都内にどうしても出なくてはならない用事が出来まして、どうせ電車に乗らなくちゃいけないのなら何かついでに展覧会も観に行こうと考え、このフェルメールも当然に候補にと考えました。ですが入場が当日販売無しの完全予約制でしたので、サイトでチェックするも、予約可能な時間は閉館前の最後の1時間だったかにのみ・・・。選択肢から外しました(T.T)。で、結局僕はメト展に。

ただ、フェルメールのみに焦点を当て考えると、メトに在った『信仰の寓意』よりもこちらの『窓辺で手紙を読む女』の方が圧倒的に好み。一人窓辺で手紙を読む女性の、憂いを感じさせるその表情に様々なドラマを空想させられますね。このエントリを読んだ後で、久しぶりに映画版の『真珠の耳飾りの少女』を観てみようかな~、なんて気分になりました。果たしてあの映画の室内風景、ヴァージナルの背景にキューピッドの絵は掛かっているのか、いないのか(^^。
by yk2 (2022-04-15 08:25) 

Inatimy

フェルメールの「窓辺で手紙を読む女」、以前の背景に何もない時の絵でも、壁の色がなんとなく違ってて、何かありそうな感じがしてますよね。修復後のは絵画全体の色もキレイになって。私が初めてオランダの黄金時代の絵画を見たときに気になったのが、テーブルの上に敷かれた絨毯。今回の展覧会でも、フェルメールの他に、ヘラルト・デル・ボルフ「手を洗う女」や、フランス・ファン・ミーリス「化粧をする若い女」にもありますね。当時は高価だったし床に敷いて踏めなかったんですよね。先日たまたまTVつけたら、番組で今でもテーブルの上に絨毯だったので、一種の感動を覚えたのでした^^。
by Inatimy (2022-04-15 21:47) 

響

フェルメール見ると絵画の中に使われている独特な青色を探してみたくなります。
福岡にも来ないかなー。
by (2022-04-18 20:04) 

ナツパパ

フェルメールの現れたキューピット、ビックリしましたねえ。
何にもない壁で見慣れてしまっているので違和感が、うーむ。
by ナツパパ (2022-04-19 14:36) 

TaekoLovesParis

nice&コメントありがとうございます。
▲yk2さん、私も会期終わりに近かったので、予約ができるのは、夜間開館のある金曜日の夕方以降でした。予約制は、ゆっくり見れるメリットがあるけれど、早くから予約をしないと、なので、私も三菱一号館の「イスラエル美術館展」を予約していたけど行かれませんでした。フェルメールよりメト展の方が大作揃いで良かったと思いますが、「窓辺で手紙、、」は特別ですからねー。今回はキューピッドが現れているし。
「信仰の寓意」は、説明がないと、女性のポーズの意味がわからない絵でした。寓意や象徴がちりばめられ、ちらっと見たのでは意味不明。「窓辺、、」や「真珠の耳飾り、、」は、わかりやすいし、感情移入できます。映画の室内い背景は「ヴァージナル、、」だったんですか。全く覚えてなくて、、DVDで持っていると、もう一度、見ることができていいですね。

▲Inatimyさん、テーブルの上の絨毯のこと、全く知らなかったので、感心してもう一度、絵を眺め、なるほど~と思いました。自慢の品だったのですね。だから、絵にも小道具として残しておいた、これから他のオランダ絵画を見ると気にも探してみます。

▲響さん、お住まいが福岡でしたね。市美術館には行ったことがあります。大濠公園のそばで、環境も素晴らしいですね。巡回は、大坂、北海道、宮城だけなようですね。フェルメール・ブルー、何年経っても色褪すぇないのは、素晴らしいです。

▲ナツパパさん、そうなんです、壁のキューピッドが話題の展覧会でした。
入場制限をしているので、ゆっくりと見ることができました。キューピッドの絵にも寓意が潜んでいるのでしょうね。
by TaekoLovesParis (2022-04-22 00:11) 

moz

メトロポリタン展も素敵でしたが、ドレスデン展もとても良い展覧会でしたね。なにしろ、フェルメールの修復前と修復後が比較展示されていて、修復のことも細かく説明されていました。好みで言うと修復前でしたが、そう言われて見てみれば、その時期のフェルメールだったら修復後の作品のほうがしっくりくるのかなぁとも? ^^;
フェルメールは単独でフェルメールではなくて、17世紀全体が影響しあってあの素晴らしい作品を作り上げたのだなぁと、今回も展覧会でも認識をしました。小林さんの本も事前にちょうど読み終わっていたのも良かったです。とても素敵なTaekoLovesParis さんの記事にじぶんの拙い記事のリンクを書いて頂き、本当に恐縮です。 ^^;;
by moz (2022-04-22 15:46) 

coco030705

こんにちは。
一度書いたコメントが消えてしまって(私のミス)、ちょっと時間が経ってしまいました。(;^_^A

桜が咲き誇っているという感じで、とてもきれいですね。
フェルメールとオランダ絵画、このテーマでよく美術展が開かれますね。大好きな画家です。

「窓辺で手紙を読む女」いい絵ですね。これにキューピッドが描かれていたのを見つけ出して、また再現されて、とても興味深い話だと思いました。「ヴァージナルの前に立つ女」にも描かれているので、フェルメールのお気に入りの絵だったのでしょうか。私はキューピッドが描かれている絵が好きです。

レンブラントの奥様がサスキアなんですね。ほんとうに写真で見るとちょっと老けた感じがしますが、やはり本物の絵をみないといけませんね。

「レースを編む女」のふわふわの毛皮がついた上着、とても美しいです。隅っこに猫がいるの、わかります。足温器の上に乗っているのが、猫らしいです。

「羽根を休める雄鶏」立派なにわとりですね。こんなにふっくらとして威厳のあるにわとりは観たことがありません。にわとりといえば、若冲を思い出しますが、彼のにわとりは、とても緻密にえがかれていて、ちょっと気持ち悪いぐらいです。

「手紙、ペンナイフ、羽根ペンを留めた赤いリボンの状差し」は、このお写真を見て、写真で撮ったのかと思いました。すごいですね、おもしろいです。これもやはり実物を観たいです。

「城山の前の滝」  こういう風景は今でもみられるのでしょうか。ヨーロッパなら残っているような気がします。

「そりとスケートで遊ぶ人々」少し明るい絵でいいですね。人々を細かく観て、どんな人物なのか想像するだけでも面白いと思いました。

いい絵をたくさんみせていただき、ありがとうございました。
by coco030705 (2022-04-23 18:32) 

TaekoLovesParis

mozさん、遅い返事ですみません。
この展覧会、今、思い出してもよかったなぁと思います。mozさんの記事は、小林頼子の「フェルメールとそのライバルたち」と絡めての絵の紹介だったので、わかりやすく、視野が広がる感じでためになりました。同時代の画家たち、それ以前の画家たちがいたからこそ、フェルメールの絵ができたということが、同時代の画家たちの作品を見ることで、明確にわかりました。カスパル・ネッチェルの「手紙を書く男」には、見入ってしまいました。確かに男の人、端正な顔立ちですしね(笑)地理学者につながる、なるほど、です。

もちろん、修復前と修復後にも興味深々でした。修復後に現れた背景の絵が大きいので、絵の印象が大きく違ってしまいますね。これがキューピッドということは、手紙の内容が愛の手紙? これだけ大きいと光の効果も変わりますね。どっちがいいか、私の中でまだは結論が出てません。
by TaekoLovesParis (2022-05-01 16:40) 

TaekoLovesParis

cocoさん、遅い返事ですみません。
消えちゃうと、がっかり、気が抜けてしまいますよね。それなのに、もう一度、書いていただいてありがとうございます。
消された背景画のキューピッドは、「ヴァージナルの前に立つ女」ほど、はっきり見えないけれど、「稽古の中断」にも大きく登場しています。キューピッドは、そこに愛の関係があることを暗示しているのだそうです。

古い映画ですが。「レンブラントへの贈り物」、サスキア、次の内縁の妻、家政婦ヘンドリッキエ(次の奥さんになる)と登場。その頃の衛生事情の悪さもあって、サスキアは30才で亡くなるし、みんなが病気におびえていた時代。暗い画面。コロナ禍になってから時々、この映画を思い出します。

「レースを編む女」では、女性の美しさに目が行き、ネコに気づかない人もいるそうです。さすがcocoさんはわかりますね。足温器に注目なさってるし。

「羽根を休める雄鶏」の鶏、こんな雄鶏、世の中に存在するの?と思ったら、やはりトルコの雄鶏なんですね。画家も描いて残しておきたかったのでしょう。
「手紙、ペンナイフ、羽根ペンを留めた赤いリボンの状差し」、立体的に見えるので、近くによっても絵とは思えなくて。えの技術はすごいですね!

オランダの昔の絵で、凍った川の上でスケートをする様子が描かれたものをいくつか見たことがあります。スケート遊びは、当時の流行だったのですね。
by TaekoLovesParis (2022-05-01 17:11) 

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