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「ブルターニュの光と風」展 [展覧会(西洋画)]

「ブルターニュの光と風」展を新宿・損保ジャパン美術館へ見に行った。
ブルターニュは、フランスのブルターニュ地方、西の端で、イギリスとも近い場所。
中心都市は、Rennes(レンヌ)。3月に私がフランス国鉄のストで行き損ねた所。
フランス革命(1789年)前までは、独立した王国だったため、独特の文化を持って
いて、酪農が盛んでバターとガレットなどの焼き菓子が特産品。
この展覧会は、下の地図の左端Quinper(カンペール)美術館からの作品が中心で、
訴えかけてくる絵一枚、一枚への興味を通して、ブルターニュの歴史や文化に
触れることができた。


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この展覧会のメイン・ビジュアル、ポスターに使われている絵はこれ。
ドラマティック。海に飛び込んだ恋人を、、、ではなかった。
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横2.5mの大きな絵。
アルフレッド・ギユ「さらば」1892年

ギユ_さらば.jpg

父と子。嵐に遭遇し転覆した船。海に落ちた息子、息途絶えてる息子に人工呼吸。
必死で息を吹き込む父。全身全霊で救おうとする父。青白く、もう死んでいるかの
ような息子。襲い掛かる波、見ていても息が詰まる絵。大画面での迫力。
作者ギユGuillouは、コンカルノー出身。パリでカパネルに学ぶ。サロン出展の後、
故郷で漁師たちの日常生活を描いた。

ここで思い出すのは、アーティゾン美術館のモネ「雨のベリール」
ベリールは、ベル・イル島のこと。ブルターニュの海岸の沖合にある島で、
荒々しい海景をモネは気に入って、3か月滞在し何枚もの絵を描いた。
モネの作ではないが、
テオドール・ギュダン「ベル=イル沿岸の暴風雨」1851年

Belle_Ile_Tempest.jpg


大西洋の荒海に面したブルターニュ。
テオフィル・デイロール「鯖漁」1881年
大きな櫂を3人の漁夫がこぎ、たくさんかかった鯖がはねている様子、波のうねり、
飛沫が臨場感あり。遠方のオレンジ色の日没の光が画面全体を包み込む。
デイロールは、パリで「さらば」のギユに出会い画家の道を目指し、カパネルに学ぶ。
ギユの妹と結婚、コンカルノーに移住した。
フィロール鯖釣り.jpg



明るく穏やかな日の海の絵もあった。
オーギュスト・アナスタジ「ドゥアルヌネの渡し船の乗り場」1870年
クロード・ロランの絵に出てきそうな海辺、歴史画の海辺と思った。
これも横130㎝の大きな絵。女性たちがブルターニュの民族衣装姿である。

アナスタジ_渡し船の乗り場.jpg



歴史をたどるという観点からすると、この聖母子はイコンのような古風さだが、
背景は描かれた1890年代のパンマール地域である。不思議な絵。
リュシアン・デュルメール「パンマールの聖母」1896年

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顔の輪郭が、瓜二つの聖母子。ブルターニュの白い頭巾をかぶっている。
「デュルメールが好き」という友達と一緒だったので、「これ、デュルメールよ」
と話しかけたら、浮かぬ顔だった。デュルメール独特のメランコリックな優雅さが
ないからだろう。ちなみにデュルメールは、師匠ラファエル・コランを通じて、
ブルターニュを知り、パンマールには旅で訪れたのである。



ブルターニュは酪農で有名な土地なので、青空の下、牧草地も大きく広がる。
空を描いては天下一品のブーダンの弟子だったモネが、出身地ル・アーヴルに
近い「ルエル」の景色を描いた画業初期の作品。ポプラ並木はモネの創作。
若い頃から、ポプラ並木が気に入ったモチーフだったとわかる。
ブーダンの「ルエル」と思われる「ノルマンディの風景」(1854~57年)も展示されていた。
モネ「ルエルの眺め」1858年

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1886年夏、ゴーギャンは、異郷ともよばれていたブルターニュの自然と昔ながらの
風俗に惹かれ、ポンタヴェン村に移住し、ベルナールやセリュジエらと画家コミュニティ
を作り、太く明確な輪郭線と平坦な色面構成を特徴とする「ポンタヴェン派」を生み出し、
絵画史上の新しい風となった。
ポール・ゴーギャン「ブルターニュの子供」1889年

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ポール・セリュジエ「水瓶を持つブルターニュの若い女性」1892年
不自然な しなった体の表現とエプロンの小花模様は、浮世絵の影響だそう。

セリュジェ水瓶を持つブルターニュの若い女性.jpg

エミール・ベルナール 版画「水瓶を持つブルターニュの若い女性」1886年

ベルナール版画.jpg
ゴーギャンの教えをセリュジエがパリに持ち帰ったことが、ボナールやドニによる
「ナヴィ派」の誕生につながり、印象派にかわる新しい表現となったので、
「ポスト印象派」ともよばれる。

自邸に礼拝堂を作るほどキリスト教信仰が深かったドニは、古くから伝わる
宗教儀式「パルドン祭」のようすを描いた。画家たちに人気の主題だったが、
ドニの絵は、視点が近く、参加者のひとりが撮った写真のようである。
モーリス・ド二「フォルグエットのパルドン祭」1930年
doniパルドン祭.jpg


時代は変わり、印象派に対抗するかのように暗い色づかいをする集団
「バンド・ノワール」が現れた。彼らはクールベの写実主義に影響を受けていた
ので、クールベの「波」(愛媛県立美術館)がそばに展示してあった。
「バンド・ノワール」の中心人物は、シャルル・コッテで、ブルターニュに
定期的に滞在し制作をした。シャヴァンヌを敬愛し、象徴主義と写実主義を
融合させた画風であった。

シャルル・コッテ「海から逃げる漁師たち」1903年頃
妖しい雲行きから嵐の到来を察知し、船を片づけ海から去る漁師たち。
画面全体に自然の驚異、人間の小ささが表現されている。小さくて見えないが
船の赤い帆がアクセントになっている。
シャルル・コッテ.jpg


明るい画面でブルターニュを写実的に描くのは、リュシアン・シモン。
パリ生まれで、アカデミー・ジュリアンで学ぶ。妻がブルターニュ出身だったことから移住。
ブルターニュの人々の暮らしを描いている。
リュシアン・シモン「じゃがいもの収穫」1907年

リュシアン・シモン_じゃがいもほり.jpg


銅板画家だったアンドレ・ドーシェは、やはり画家の姉がリュシアン・シモンと結婚
したことから、ブルターニュに通い、「バンド・ノワール」のメンバーと交流した。
背丈の高い松の木と白い雲。実際に見るとはっきりとした輪郭線で描かれ、版画の
雰囲気。浮世絵ふうなのは、ジャポニズムに影響を受けた版画家アンリ・リヴィエール
の作品にも関心を持っていたからだろう。
アンドレ・ドーシェ「ラニュロンの松の木」1917年

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最後は、ピカソのような明るい絵。
自ら生み出した点ならぬ格子線で表現する方法で描いているが、あまりに制作に
時間がかかるので、この技法は、その後、使われなかった。
ピエール・ド・ブレ「ブルターニュの女性」1940年

ブレ_ブルターニュの女性.jpg


この展覧会は巡回する。次の福島県立美術館のチラシはこれだった。
ギユの「さらば」より、こちらのほうが、ブルターニュのイメージなのだろう。
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yk2

荒々しいブルターニュの海が描かれた作品たちに、随分昔に見た『灯台守の恋』と云うフランス映画を思い出しました。その映画の舞台は確かにブルターニュのどこかだったとは記憶していたのですが、詳しくは何も知らなかったので、今回地図に探してみたところ、カンペールよりも更に北、ブレストの西の海上のウェサン島でした。映画の中でも海が荒れに荒れて、当地の灯台守がいかに過酷だったか、気候の厳しい海だったかの印象しか無くて、アルフレッド・ギユの父と子の別れのシーンがよりドラマティックに重なります。ただこの作品、説明を受けないままに眺めると、若い息子の姿が女性とも思えてしまい、つい映画のタイタニック的な刷り込み(笑)で、力尽きる男女が最後に口づけを交わすシーンだと勘違いしてしまう可能性も大な気がします(^^;。

デュルメルはオルセー所蔵の『メダルを持つ女性』の横顔が好きだなぁ~。好きな作品と、そうでもない作品の差が僕の中では激しい画家かも(^^ゞ
by yk2 (2023-05-14 13:30) 

うりくま

国立西洋美術館でも損保ジャパンでもブルターニュを取り上げていて
展示期間も似たような感じなので、どちらか一方であれば「さらば」
「海から逃げる漁師たち」を観られる損保ジャパンの方に行きたい
と思っていました。詳細なご紹介、ありがとうございます!!
by うりくま (2023-05-14 22:35) 

coco030705

こんばんは。
Eテレ?の「日曜美術館」で今晩紹介していました。
アルフレッド・ギユ「さらば」は、主題といい構図といい、一度見たら忘れられない絵ですね。
とても厳しい自然のある土地なんでしょうか。行ってみたいような気になりました。


by coco030705 (2023-05-15 00:33) 

おと

「さらば」、すごい作品ですね~、見てみたいです。
イギリスと海を挟んで向い合せで、コーンウォールのあたりと近いですよね。荒々しい波の雰囲気が、似ているなぁと思います。小さな船での漁、命がけですね。ベル・イル島、パンマール、地図で確認しました^^
次は福島なんですね。ポスターの牛さん、のどかな雰囲気、「さらば」とはずいぶん違って面白いです。

by おと (2023-05-16 22:44) 

TaekoLovesParis

うりくまさん、お返事遅くてすみません。
損保が1600円、西洋美術館が2100円。その違いは作品数。鑑賞時間も損保は、さくっと終わり、西洋美術館は、ついでに常設もとなったら、時間がかかります。西洋美術館は、その時代にブルターニュに留学した日本人画家たちの作品も取り上げ、守備範囲が広いので見ごたえがあります。どちらか一方だったら、見る機会が少ない良い絵が多い損保がおすすめです。西洋美術館のほうを次回の
by TaekoLovesParis (2023-05-20 16:07) 

TaekoLovesParis

おとさん、「さらば」は、大きい作品なだけに迫ってきます。コーンウォールと海を挟んでるのがブルターニュだから、おとさんの記事で紹介されていたコーンウォールの最南端リザードポイントの断崖絶壁、あの海が荒れているとき、「さらば」のような海難事故がおきたのでしょう。
昔、3c~4c頃にブリテン(英国)からケルト民族が海を渡って移住して来たのがブルターニュ人。ブリトン人とよばれてたそうです。
by TaekoLovesParis (2023-05-20 23:28) 

TaekoLovesParis

cocoさん、丁度、日曜美術館で、ご覧になったとはタイムリーでしたね。
この春、パリから行こうと列車とホテルを予約してたのは、ここブルターニュなんです。3~4世紀に英国からケルト人が移住して来たので、パリの人たちとは違う民族で、違う歴史。面白そうです。
by TaekoLovesParis (2023-05-21 10:00) 

TaekoLovesParis

yk2さん、「さらば」この荒れた海なら、しかも当時、海難事故が多かったとの説明を読むと、灯台の仕事の重要さがわかりますね。『灯台守の恋』、知らない映画でした。ブレストの西の海上のウェサン島は、イギリス海峡、ビスケー湾の両方に囲まれてるんですね。海が荒いのも想像がつきます。私もポスターを遠くから見て、恋人どうし、最後の別れと思いました。前に、横浜美術館「フランス絵画の19世紀」展で見た「レフカス島のサッフォー」という断崖絶壁から身投げをしようとする絵が頭に浮かびましたが、大いなる勘違いでした。https://taekoparis.blog.ss-blog.jp/2009-08-27 

デュルメル、そうですね。作品に描かれる女性に差が大きいですね。オルセーで見たデュルメルらの展覧会のこと、そのうち、記事にします。
by TaekoLovesParis (2023-05-21 10:52) 

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